ITで世界のトップを狙う中国では、中央政府が打ち出した方針に沿って地方政府や企業が追従する場合が多い。各省や都市は、ビッグデータやスマート産業を成長のエンジンにするべく企業や人材の誘致を進めており、ITを軸にした競争が激化している。ITは新たな産業として成長の起爆剤になっているのか。各地の「今」を紹介する。(取材・文/齋藤秀平)
巨大ビル群の建設進む
空港から車に乗り、山あいの道を抜けると、真新しい近代的な巨大ビル群が視界に飛び込んできた。高層マンションや商業ビルの壁面には、中国の大手企業のロゴがずらりと並ぶ。
上海市から直線距離で約1500キロ。東京―沖縄間とほぼ同じ距離にある貴州省の省都・貴陽市。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、省内の常住人口は3600万人。都市化率は47.52%で、中国全体の59.58%を下回る。
山間部に位置する貴州省は、これまで中国で「最も貧しい省の一つ」(在重慶日本国領事館のHP)といわれてきたが、最近は急速に成長している。
貴州省政府がまとめた2018年の域内総生産(GDP)は、前年比9.1%増の1兆4806億4500万元(約23兆6900億円)で、中国全体の伸び率を2.5ポイント上回った。
脱貧困の象徴ともいえる貴陽市内のビル群は、現在も建設が進んでいる。企業のロゴとともに掲げられているのは、中国語でビッグデータを示す「大据数」の文字。貴州省にとって、ビッグデータは成長の原動力になっている。
人民日報は5月28日に掲載した記事で「貴州省のデジタル経済の成長率は14年以降、全国平均を上回り続けている。昨年の全省のソフト・情報技術サービス業の収入は、前年比31.8%増となった。情報サービス・ソフト事業の収入は23.4%増で、全国平均を5.3ポイント上回った」などとした上で、「ビッグデータ関連産業はすでに、貴州省の経済成長を支える重要な要素になっている」と論じた。
相次ぐ企業の進出
貴州省のビッグデータ産業は、中央政府の後押しも受けている。政府は16年、貴州省に「国家ビッグデータ総合試験区」の建設を許可した。貴陽市内では関連施設が相次いで建設されており、現在、10カ所の産業パークがあるという。ビッグデータ関連の企業数は8900社以上といわれており、産業の規模は1100億元を超えるとされている。
進出企業の中には、頭文字をとって「BAT」と呼ばれる百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊控股(テンセント)のほか、華為技術(ファーウェイ)など中国の大手企業が進出。外資企業では、米アップルが10億米ドルを投じてデータセンターを建設しているほか、米マイクロソフトやクアルコムなどが拠点を置いている。
同試験区によると、貴州省は現在17カ所のデータセンターで、中国国内の有名企業を中心に40社が約12万台のサーバーを稼働させている。企業にとっては、地価や電気代が安いほか、1年を通じて気候が安定していることが進出する際の魅力になっているという。
企業が進出先に貴州省を選ぶ背景には、こうした理由だけでなく、政府の支援があることも大きい。
年齢などを推定する小iロボットの顔認識ソリューション
01年に創業し、音声認識や画像認識などのソリューションを提供している上海市のAI企業小iロボットは、16年に貴陽市政府と共同で人工知能ビッグデータクラウドサービスプラットフォームを開発した。
同社は、米ガートナーの会話型AIの代表的な企業に選ばれたことがあり、世界各国で800万以上のユーザーを抱えている。貴陽市の拠点で取材に応じた担当者は「大手企業も貴陽市に進出しており、ビッグデータの研究開発を進めるには、やりやすい環境が整っている」とした上で、「地元政府のサポートがしっかりしていることも、ここで仕事をする理由の一つだ」と話した。
高層ビルの建設が進む貴陽市内
今回は米国抜き
ビッグデータを経済発展の原動力にする貴陽市では毎年、国家イベント「中国国際ビッグデータ産業博覧会」が開催されている。5回目となった今年の博覧会は5月26日~29日に開催された。
今回、大きく変わったのは、米国企業のトップが参加しなかったことだ。一部では米中貿易の影響といわれている。それでも、期間中の来場者数は、昨年より3万5000人多い12万人となり、博覧会の規模は過去最高となった。
博覧会では、貴州省の政府幹部ほか中央政府からも来賓が訪れた。昨年に引き続き、習近平国家主席の祝辞が披露され、依然として貴州省のビッグデータ産業が重要視されていることがうかがえた。
貴州省共産党委員会の孫志鋼書記は、初日の開幕式のあいさつで「貴州省は中国初のビッグデータの大企業だ」と呼びかけ、「貴州省のビッグデータ企業の多くは急速に発展し、貧困を脱却するための効果的な後押しをした」と強調した。
NTTデータグループのブース
日系企業からは、NTTデータグループが参加し、貴陽市と協力して進めているスマート交通ソリューションなどを展示エリアで紹介した。スマート交通ソリューションについて、担当者は「政府と協力することで、技術を実証する場が得られるのはありがたい」と語った。
中国国際ビッグデータ産業博覧会の会場
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