「HRテック」に対する注目の高まりを受けて、従来IT化が遅れていたとされる企業の人事・採用関連業務のIT化が進んでいる。ITを活用することで、業務の効率化だけでなく、採用活動や人材活用の手法そのものの変革にもつながる。ベンダーの取り組みからHRテックの最前線を追う。(取材・文/前田幸慧)
いつでもどこでも受けられる「AI面接サービス」
「学生時代に目標を立てたことはありますか」「苦労したことや困難な状況を乗り越えた経験はありますか」――。就職活動の面接でお決まりの質問。採用応募者の学生は、質問に対する答えとして、自分をアピールする。
このとき、学生の目の前にあるのはスマートフォン。面接官は人間ではなくAI(人工知能)だ。AIが学生に質問し、学生はAIに回答する。2014年設立のスタートアップ、タレントアンドアセスメントが開発したAI面接サービス「SHaiN(シャイン)」による採用面接だ。
SHaiNは、AIが人間の代わりに採用面接を行うサービス。同社が独自に開発した戦略採用メソッド「T&Aメソッド」を基にAIが質問する。採用応募者は、企業から送られてきたメールから専用アプリをダウンロードして受験。平均的な面接時間は40~60分ほどだが、「AIが納得する答えを得られるまで」(タレントアンドアセスメントの山崎俊明・代表取締役)質問を続けるため、長ければ1時間を超えて面接が続く場合もあるという。
タレントアンドアセスメントの山崎俊明代表取締役
面接終了後、AIが回答情報を文字に起こし、それを基にタレントアンドアセスメントの専門スタッフが評価する。評価は、質問に対する回答内容からみる「バイタリティ」「イニシアティブ」「対人影響力」「柔軟性」「感受性」「自主独立性」「計画力」と、面接中の言動や態度からみる「インパクト」「理解力」「表現力」「ストレス耐性」の計11項目に基づいて数値化して評価する。併せて「総合評価」と「特徴・傾向」、テキスト化した回答情報を含めてレポート化し、動画・音声データとともに5営業日後に企業に提供。このレポートを基に、企業は合否の判断を下すことが可能。山崎代表取締役は、「面接業務の大幅な負荷削減や募集エリアの拡大によるU・I・Jターンの促進、統一された評価基準で面接の属人化を防ぐ」ことなどができるとアピールする。
面接データを蓄積しビッグデータ分析にも活用
SHaiNは2017年10月に提供を開始。18年春ごろから本格的に導入が加速し、現在では大企業を中心に、100社を超える導入実績があるという。「人事業務の効率化や負荷軽減を図る大企業、遠方から受けやすくすることで応募増を図る地方企業や中小企業からニーズがある」(山崎代表取締役)ほか、採用や社員のパフォーマンス分析などへの活用を視野にレポートを手に入れたいという要望があるとしている。
導入企業では、エントリーシートや性格検査、1次面接の代わりなど、「選考の初期フェーズで利用されることが多い」という。実際に「全国に応募が広がり、エントリー数が倍増した」例もあるという。
また、18年7月には、SHaiNの簡易版サービス「SHaiN EX」も提供。SHaiNと比べて評価項目を絞る一方、面接時間が短く、5分~10分程度で済み、診断結果を最短で翌営業日に提供する。アルバイトなど採用向けのAI面接サービスとしての利用を想定している。
同社では今後、AI面接サービスの「共通1次プラットフォーム化」を構想しているという。「センター試験のようなもの。サイト上からSHaiNを受験し、その結果を企業に送れるようにする。企業が資質を見て判断してもらえるというのが大切だ」と山崎代表取締役は話す。また、サービスが地理的制約を受けないことを生かし、海外進出も検討しているという。
HRテックで仕組みを整えリファラル採用を活性化する
日本企業の採用手法というと求人媒体への掲載や人材紹介会社(エージェント)からの紹介が中心だったが、近年は、欧米で主流の「リファラル採用」に注目が集まっている。「リファラル(referral)」は英語で「紹介」や「推薦」を意味し、リファラル採用は文字通り、社員の紹介によって新たな人材を採用する手法のことを指す。
国内ではあらゆる業界で人手不足が続き、労働人口も減少傾向にある。そうした中でも優秀な人材を獲得するために、従来の採用手法に加えて新たに採用の間口を広げることや、社員からの紹介のためミスマッチが起こりにくいことなどにメリットを感じ、リファラル採用を導入する企業が増えているのだ。
リファラル採用を本格化する上で、必要になるのは社員の協力だ。ただし、実際に採用候補者を会社に紹介もらうためにはインセンティブなどの仕組みを整えたり、会社が求める人材像を理解してもらう必要があり、簡単にうまくいくものではない。
そこで、そうした課題の解決を支援するITツールを利用する企業も増加。MyRefer(マイリファー)は、リファラル採用を活性化するサービスを提供し、導入数を伸ばしている。
MyReferは「社員をファン化する」ことをコンセプトとしたサービスで、企業の人事担当者向けに管理画面を、社員向けにスマートフォンアプリを提供。社員はアプリから会社を紹介したい人に対し、SNSと連携して求人を紹介できる。人事担当者は管理画面で社員のMyReferを使った活動状況を可視化・分析し、オリジナルコンテンツを配信するなど、リファラル採用活性化のための施策を講じることができる。
現在までに約500社が導入。MyReferの鈴木貴史社長は「以前は情報収集を目的とする問い合わせが多かったが、最近はリファラル採用を促進したいというものが大半」だという。リファラル採用を進めるためには「社員が自社を好きになる、ファン化させることが重要」だと話し、社員が会社を人に紹介したくなるような仕組みの必要性を指摘する。
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