Special Feature
テレワークやオンライン授業で通信量が急増 アフターコロナのネットワーク環境を考える
2020/05/21 09:00
週刊BCN 2020年05月18日vol.1825掲載
コラボレーションツールの成長
インフラ整備も進む活発化
新型コロナの感染拡大は、クラウドに対しても大きな変化も及ぼしている。特に顕著なのが、コラボレーションツールの活用の進展だ。
Zoomは、自社が提供するWeb会議ツールを利用した1日あたりの会議参加者数はすでに3億人を突破したと発表。2019年12月の約1000万人に比べると、利用者数は約30倍に増加した計算だ。同社ではこれまで、サービスの基盤として、自社のデータセンターに加えて、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureを利用してきたが、このほど新たにOracle Cloud Infrastructure(OCI)を活用することを発表。Zoomのエリック・ユアンCEOは、「最近生じた急激な成長により、サービス提供能力の拡大が必要になった」と、OCIを採用した理由を説明。数百万人の同時参加に対応する能力が増強されたという(5面に詳報)。
また、米マイクロソフトでは、「Microsoft Teams」の3月における全世界の利用者数が1日あたり4400万人を超えたと発表。3月31日には、Teams でのミーティング時間が1日27億分となり、Teams のビデオ通話の総数は、3月だけで前月比1000%以上も増加したと明らかにした。
「Webex」を提供する米シスコシステムズも、海外メディアの報道によれば、3月の利用者数が全世界で3億2400万人に達した模様だ。足並みを揃えるように、日本における利用者数も急増。シスコシステムズ日本法人のデイヴ・ウェスト社長は、「2月には、1日67万回だった日本におけるWebexでの会議は、3月には150万回になり、4月は20日までで200万回を突破した。また、国内の一日あたりの会議の参加者は、2月は120万ユーザーであったものが、3月には、480万ユーザーに増加。4月は20日までで810万ユーザーになった」と説明。国内でもWebexの利用が急速な勢いで拡大していることを示した。
米グーグル・クラウドが提供する「Google Meet」は、全世界で1日30億分以上使用されており、1日の会議参加者数は1億人を突破。そして、毎日300万人の新規ユーザーが増加している。Google Meetの1日の利用者数は、今年1月以降、30倍以上に増加しており、利用率は過去に例がないほど急拡大しているという(5面に詳報)。
このようにコラボレーションツールの利用が、世界的に急増している状況にも耐え得る環境を、ハイパースケーラー各社が支えているというわけだ。
新型コロナ感染拡大の影響下において急激に高まった遠隔会議のニーズに対しても、安定したネットワーク環境を実現する上で、クラウドやデータセンターが果たした役割は大きい。こうした中、大手データセンター事業者の米エクイニクスは、東京2カ所、大阪1カ所に、新たなデータセンターを開設すると発表した。同データセンターは、AWSやAzure、Google Cloud、IBM Cloud、OCIといったハイパースケーラー向けの専用データセンターである点が特徴だ。
新たなデータセンターは「xScale(エックススケール)データセンター」と呼び、これまでのエンタープライズ企業や通信事業者にも提供してきた「International Business eXchange(IBX)データセンター」とは基本設計が異なることを示す。
エクイニクスのジェレミー・ドイチュ アジア・パシフィック地域プレジデントの氏は、「ハイバースケール向けデータセンターにおいては、ネットワーク事業者との接続性や、顧客同士の相互接続だけでなく、どれくらいの電力を供給できるかが重視される。ハイパースケーラーの要件を満たした専用データセンターがxScaleデータセンター」と説明する。
東京に設置する「TY12x」は、最終フェーズでは45MWの電力容量を提供し、大阪の「OS2x」も38MWを提供する予定だ。いすれも、これまで国内最大規模だったIBXデータセンターのTY11の13.5MWを大きく上回ることになる。国内における大規模データセンターの設置の動きも、ネットワーク環境の安定化に貢献することになる。
コロナ後の社会に合った
ネットワーク環境が必要に
一方で、今後のネットワーク環境整備において最大の懸念材料となってくるのが、クライアントデバイスと接続するネットワーク環境の整備だろう。それぞれの住宅におけるネットワーク環境には大きな差が生まれているからだ。
実際に、契約するプロバイダーやサービスによって通信速度に差があったり、集合住宅では一本の光回線を共用しているため、利用者が増えると通信速度が遅くなるという事態に陥ったりしている家庭も少なくない。また、多くのプロバイダーがNTT東西のフレッツ網を利用しており、フレッツの網終端装置にアクセスが集中することでインターネットが輻輳(ふくそう)し、トラフィックが抑制されるという問題が発生している。
夜間になるとネットワークの速度が落ちたり、つながりにくくなったりする経験をしたことがある人も多いだろうが、それは、回線共用や輻輳といった問題が背景にある。
こうしてみると、ISPやクラウドのネットワークが安定して利用できる環境が整備されているのに対して、クライアントデバイスにつながる環境において通信速度を確保できない、安定した通信環境が実現できないといった状況のほうが、これからは大きな課題になるのは確かだろう。
新型コロナの感染拡大以降、YouTubeやNetflixが再生する動画の画質を、引き下げる措置を取ったのも、ISPに対する負荷削減とともに、利用者が自宅からの動画再生において、利用しやすいように配慮した点が見逃せない。
先に触れたように、今後、オンライン教育が増加したり、自宅からテレワークを行ったりすることが増えると、ISPやクラウドのネットワークよりも、クライアントデバイスを接続する家庭でのネットワーク環境を整備することが重要になる。そして、これまで比較的安定していた昼間帯でも、つながりにくいという状況が発生することも、今後は視野に入れる必要があるだろう。
誤解を恐れずにいえば、夜間帯のピークトラフィック時の利用は、どちらかというと趣味の領域での利用が多いと想定され、つながりにくい状況になっても、極端な話、許されるものだといえる。だが、昼間帯に想定されるピークトラフィック時は、企業での利用や教育での利用が想定され、つながりにくい状況は夜間帯以上に避けたいという利用者が多いだろう。夜間帯の接続環境よりも、安定してつながるネットワーク環境を、自宅でも構築する必要があるというわけだ。
だが、集合住宅のネットワーク環境を改善したり、回線状況がいい環境に引っ越したりといったことは現実的には難しく、フレッツの網終端装置の課題をユーザー自身が解決したりといったこともできない。
さらに、帯域予約や優先制御といった技術が、現状のインターネット技術では導入が難しく、この仕組みを採用することも現実的な回答にはならない。
その点で注目したい技術の一つが、新たなモバイルネットワークである「5G」だ。共用や輻輳といった課題が生まれている固定回線とは異なるネットワークとして、高速、低遅延というネットワーク環境は、在宅勤務やオンライン教育にも最適だ。しかし、ここにも、料金体系や基地局の整備という課題のほか、電波が届く距離が短いという5Gならではの接続性の課題もある。料金設定が高く、データ量に制限がある5G回線を使って学生がオンライン授業を受けることも実際問題としては難しいだろう。
総務省は今年4月、教育機関での休校措置にあわせて、学習に必要な通信環境の確保に向けて柔軟に対応するように、通信事業者などに要請。大手携帯電話3社が、現行サービスにおいて、25歳以下の利用者を対象に、50GBまでの利用を無料で追加できる措置を講じた。このように、安定した環境でのオンライン授業を現実する上では、5Gを活用した同様の措置を講じるというのも一つの手になるのかもしれない。テレワーク時のVPN運用が課題に
企業が一斉にテレワークを開始した際に、大きな課題なったのがVPN(Virtual Private Network)だ。
VPNは、自宅や外出先などから、インターネットを経由して社内のサーバーなどに接続しても、安全にアクセスできる技術であり、認証や暗号化を用いてネットワークを保護することで第三者が侵入できず、データの盗聴や改ざんなどを防止することができる。
だが、緊急事態宣言の発令により、多くの企業において、突然、全社一斉でのテレワークが始まったため、そこまでの規模での利用を想定していないVPN環境がボトルネックとなり、社内にアクセスできない状況に陥った大手企業が相次いだ。
そうした中、リコーでは、東京五輪開催時のテレワークの実施に向けて準備をしてきたことが功を奏したという。
同社では、今年夏に開催が予定されていた東京五輪に合わせて、7月24日から8月9日まで本社オフィスをクローズし、約2000人の社員が一斉テレワークを実施する予定だった。それに向けて、2019年9月6日と10月25日に一斉テレワークをそれぞれ実施。さらに、11月15日には、本社をクローズして、テレワークの検証も行なっていた。
だが、同社では最大でも5000人規模のテレワークは想定していたものの、国内グループ従業員5万人が一斉に在宅勤務の対象になることは想定していなかった。
そこで、二つのデータセンターに配置していた2台ずつのVPN機器に加えて、4台の予備機を全て増設。さらに、VPNにつなぎっぱなしにならないようにアプリで制御したり、不要セッションを開放するように、社員向けに依頼文書を発信したり、各VPN機器に上限セッションを設定して、接続できないユーザーはセッションが空くまで待つという仕組みによりダウンしないようにするといった対策をとった。
一斉在宅勤務がはじまった3月2日は、アクセスピークは1万人近くになったが、無事に接続できる環境を提供。その後の増強により、安定して利用できる環境を実現しているという。
また、シオノギグループでは、もともとAWSを活用していたこともあり、AWSのマネージドVPNサービス「AWS Client VPN」を活用して、一斉在宅勤務に対応した。AWS Client VPN は、AWS上に配置されたClient VPNのエンドポイント(VPC)を経由し、オンプレミス内のシステムへ接続可能なVPNである。1エンドポイントあたり2000の同時接続が可能であり、セキュリティグループやNACLによって、通信元や通信先を制御できる。
もともとはオンプレミス環境にVPNルーターを設置していたが、原則在宅勤務へと移行したことに合わせて、短いリードタイムでサービスを展開できるVPN環境として、AWS Client VPNの利用を検討。すでにメインデータセンターとプライベート接続していた既存のAWS基盤を利用することで、実質3日間で構築から検証、ユーザー展開の準備、動作検証までを完了させた。
4月13日から順次展開を開始し、既存のVPN環境を含めて、約4倍のVPN同時接続数のキャパシティを確保し、国内のシオノギグループの在宅勤務ニーズをおおむね満たせという。
AWSでは、「AWS Client VPNはクラウド型であり、接続数を自動的にスケールアップするため、接続数が増加しても、プライベートネットワークに接続することができるようになる。在宅勤務が一斉に始まったことで、VPNルーターのキャパシティが足りず、従業員がVPNに接続できないという課題に対して、短時間に、柔軟に対応できる」とする。
今年夏に予定されていた東京五輪開催時にはテレワークを行うとしていた企業も、全社員の一斉在宅勤務までは想定していなかったケースがほとんどだ。それが、新型コロナによって想定を大きく上回る規模で在宅勤務が一斉に開始されたことで、VPN環境がテレワークを実現する上でのハードルになったしまった企業は少なくない。VPN環境に対する考え方も、これまでの想定とは違うレベルで考える必要がある。
インフラ整備も進む活発化
新型コロナの感染拡大は、クラウドに対しても大きな変化も及ぼしている。特に顕著なのが、コラボレーションツールの活用の進展だ。

Zoomは、自社が提供するWeb会議ツールを利用した1日あたりの会議参加者数はすでに3億人を突破したと発表。2019年12月の約1000万人に比べると、利用者数は約30倍に増加した計算だ。同社ではこれまで、サービスの基盤として、自社のデータセンターに加えて、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureを利用してきたが、このほど新たにOracle Cloud Infrastructure(OCI)を活用することを発表。Zoomのエリック・ユアンCEOは、「最近生じた急激な成長により、サービス提供能力の拡大が必要になった」と、OCIを採用した理由を説明。数百万人の同時参加に対応する能力が増強されたという(5面に詳報)。
また、米マイクロソフトでは、「Microsoft Teams」の3月における全世界の利用者数が1日あたり4400万人を超えたと発表。3月31日には、Teams でのミーティング時間が1日27億分となり、Teams のビデオ通話の総数は、3月だけで前月比1000%以上も増加したと明らかにした。
「Webex」を提供する米シスコシステムズも、海外メディアの報道によれば、3月の利用者数が全世界で3億2400万人に達した模様だ。足並みを揃えるように、日本における利用者数も急増。シスコシステムズ日本法人のデイヴ・ウェスト社長は、「2月には、1日67万回だった日本におけるWebexでの会議は、3月には150万回になり、4月は20日までで200万回を突破した。また、国内の一日あたりの会議の参加者は、2月は120万ユーザーであったものが、3月には、480万ユーザーに増加。4月は20日までで810万ユーザーになった」と説明。国内でもWebexの利用が急速な勢いで拡大していることを示した。
米グーグル・クラウドが提供する「Google Meet」は、全世界で1日30億分以上使用されており、1日の会議参加者数は1億人を突破。そして、毎日300万人の新規ユーザーが増加している。Google Meetの1日の利用者数は、今年1月以降、30倍以上に増加しており、利用率は過去に例がないほど急拡大しているという(5面に詳報)。
このようにコラボレーションツールの利用が、世界的に急増している状況にも耐え得る環境を、ハイパースケーラー各社が支えているというわけだ。
新型コロナ感染拡大の影響下において急激に高まった遠隔会議のニーズに対しても、安定したネットワーク環境を実現する上で、クラウドやデータセンターが果たした役割は大きい。こうした中、大手データセンター事業者の米エクイニクスは、東京2カ所、大阪1カ所に、新たなデータセンターを開設すると発表した。同データセンターは、AWSやAzure、Google Cloud、IBM Cloud、OCIといったハイパースケーラー向けの専用データセンターである点が特徴だ。
新たなデータセンターは「xScale(エックススケール)データセンター」と呼び、これまでのエンタープライズ企業や通信事業者にも提供してきた「International Business eXchange(IBX)データセンター」とは基本設計が異なることを示す。
エクイニクスのジェレミー・ドイチュ アジア・パシフィック地域プレジデントの氏は、「ハイバースケール向けデータセンターにおいては、ネットワーク事業者との接続性や、顧客同士の相互接続だけでなく、どれくらいの電力を供給できるかが重視される。ハイパースケーラーの要件を満たした専用データセンターがxScaleデータセンター」と説明する。
東京に設置する「TY12x」は、最終フェーズでは45MWの電力容量を提供し、大阪の「OS2x」も38MWを提供する予定だ。いすれも、これまで国内最大規模だったIBXデータセンターのTY11の13.5MWを大きく上回ることになる。国内における大規模データセンターの設置の動きも、ネットワーク環境の安定化に貢献することになる。
コロナ後の社会に合った
ネットワーク環境が必要に
一方で、今後のネットワーク環境整備において最大の懸念材料となってくるのが、クライアントデバイスと接続するネットワーク環境の整備だろう。それぞれの住宅におけるネットワーク環境には大きな差が生まれているからだ。
実際に、契約するプロバイダーやサービスによって通信速度に差があったり、集合住宅では一本の光回線を共用しているため、利用者が増えると通信速度が遅くなるという事態に陥ったりしている家庭も少なくない。また、多くのプロバイダーがNTT東西のフレッツ網を利用しており、フレッツの網終端装置にアクセスが集中することでインターネットが輻輳(ふくそう)し、トラフィックが抑制されるという問題が発生している。
夜間になるとネットワークの速度が落ちたり、つながりにくくなったりする経験をしたことがある人も多いだろうが、それは、回線共用や輻輳といった問題が背景にある。
こうしてみると、ISPやクラウドのネットワークが安定して利用できる環境が整備されているのに対して、クライアントデバイスにつながる環境において通信速度を確保できない、安定した通信環境が実現できないといった状況のほうが、これからは大きな課題になるのは確かだろう。
新型コロナの感染拡大以降、YouTubeやNetflixが再生する動画の画質を、引き下げる措置を取ったのも、ISPに対する負荷削減とともに、利用者が自宅からの動画再生において、利用しやすいように配慮した点が見逃せない。
先に触れたように、今後、オンライン教育が増加したり、自宅からテレワークを行ったりすることが増えると、ISPやクラウドのネットワークよりも、クライアントデバイスを接続する家庭でのネットワーク環境を整備することが重要になる。そして、これまで比較的安定していた昼間帯でも、つながりにくいという状況が発生することも、今後は視野に入れる必要があるだろう。
誤解を恐れずにいえば、夜間帯のピークトラフィック時の利用は、どちらかというと趣味の領域での利用が多いと想定され、つながりにくい状況になっても、極端な話、許されるものだといえる。だが、昼間帯に想定されるピークトラフィック時は、企業での利用や教育での利用が想定され、つながりにくい状況は夜間帯以上に避けたいという利用者が多いだろう。夜間帯の接続環境よりも、安定してつながるネットワーク環境を、自宅でも構築する必要があるというわけだ。
だが、集合住宅のネットワーク環境を改善したり、回線状況がいい環境に引っ越したりといったことは現実的には難しく、フレッツの網終端装置の課題をユーザー自身が解決したりといったこともできない。
さらに、帯域予約や優先制御といった技術が、現状のインターネット技術では導入が難しく、この仕組みを採用することも現実的な回答にはならない。
その点で注目したい技術の一つが、新たなモバイルネットワークである「5G」だ。共用や輻輳といった課題が生まれている固定回線とは異なるネットワークとして、高速、低遅延というネットワーク環境は、在宅勤務やオンライン教育にも最適だ。しかし、ここにも、料金体系や基地局の整備という課題のほか、電波が届く距離が短いという5Gならではの接続性の課題もある。料金設定が高く、データ量に制限がある5G回線を使って学生がオンライン授業を受けることも実際問題としては難しいだろう。
総務省は今年4月、教育機関での休校措置にあわせて、学習に必要な通信環境の確保に向けて柔軟に対応するように、通信事業者などに要請。大手携帯電話3社が、現行サービスにおいて、25歳以下の利用者を対象に、50GBまでの利用を無料で追加できる措置を講じた。このように、安定した環境でのオンライン授業を現実する上では、5Gを活用した同様の措置を講じるというのも一つの手になるのかもしれない。
テレワーク時のVPN運用が課題に
リコー、シオノギグループが実践した成功アプローチ
企業が一斉にテレワークを開始した際に、大きな課題なったのがVPN(Virtual Private Network)だ。VPNは、自宅や外出先などから、インターネットを経由して社内のサーバーなどに接続しても、安全にアクセスできる技術であり、認証や暗号化を用いてネットワークを保護することで第三者が侵入できず、データの盗聴や改ざんなどを防止することができる。
だが、緊急事態宣言の発令により、多くの企業において、突然、全社一斉でのテレワークが始まったため、そこまでの規模での利用を想定していないVPN環境がボトルネックとなり、社内にアクセスできない状況に陥った大手企業が相次いだ。
そうした中、リコーでは、東京五輪開催時のテレワークの実施に向けて準備をしてきたことが功を奏したという。
同社では、今年夏に開催が予定されていた東京五輪に合わせて、7月24日から8月9日まで本社オフィスをクローズし、約2000人の社員が一斉テレワークを実施する予定だった。それに向けて、2019年9月6日と10月25日に一斉テレワークをそれぞれ実施。さらに、11月15日には、本社をクローズして、テレワークの検証も行なっていた。
だが、同社では最大でも5000人規模のテレワークは想定していたものの、国内グループ従業員5万人が一斉に在宅勤務の対象になることは想定していなかった。
そこで、二つのデータセンターに配置していた2台ずつのVPN機器に加えて、4台の予備機を全て増設。さらに、VPNにつなぎっぱなしにならないようにアプリで制御したり、不要セッションを開放するように、社員向けに依頼文書を発信したり、各VPN機器に上限セッションを設定して、接続できないユーザーはセッションが空くまで待つという仕組みによりダウンしないようにするといった対策をとった。
一斉在宅勤務がはじまった3月2日は、アクセスピークは1万人近くになったが、無事に接続できる環境を提供。その後の増強により、安定して利用できる環境を実現しているという。
また、シオノギグループでは、もともとAWSを活用していたこともあり、AWSのマネージドVPNサービス「AWS Client VPN」を活用して、一斉在宅勤務に対応した。AWS Client VPN は、AWS上に配置されたClient VPNのエンドポイント(VPC)を経由し、オンプレミス内のシステムへ接続可能なVPNである。1エンドポイントあたり2000の同時接続が可能であり、セキュリティグループやNACLによって、通信元や通信先を制御できる。
もともとはオンプレミス環境にVPNルーターを設置していたが、原則在宅勤務へと移行したことに合わせて、短いリードタイムでサービスを展開できるVPN環境として、AWS Client VPNの利用を検討。すでにメインデータセンターとプライベート接続していた既存のAWS基盤を利用することで、実質3日間で構築から検証、ユーザー展開の準備、動作検証までを完了させた。
4月13日から順次展開を開始し、既存のVPN環境を含めて、約4倍のVPN同時接続数のキャパシティを確保し、国内のシオノギグループの在宅勤務ニーズをおおむね満たせという。
AWSでは、「AWS Client VPNはクラウド型であり、接続数を自動的にスケールアップするため、接続数が増加しても、プライベートネットワークに接続することができるようになる。在宅勤務が一斉に始まったことで、VPNルーターのキャパシティが足りず、従業員がVPNに接続できないという課題に対して、短時間に、柔軟に対応できる」とする。
今年夏に予定されていた東京五輪開催時にはテレワークを行うとしていた企業も、全社員の一斉在宅勤務までは想定していなかったケースがほとんどだ。それが、新型コロナによって想定を大きく上回る規模で在宅勤務が一斉に開始されたことで、VPN環境がテレワークを実現する上でのハードルになったしまった企業は少なくない。VPN環境に対する考え方も、これまでの想定とは違うレベルで考える必要がある。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令によって、外出自粛の動きやテレワークの採用が一気に広がっている。これにより、国内のインターネットトラフィックが急増。特に昼間帯での通信量の増加が顕著だ。自宅でビデオ会議などのコラボレーションツールを活用する例も増加しており、こうした動きは今後の新たな標準になる可能性もある。将来的に、オンライン教育も本格的に始まれば、ネットワークトラフィックの負荷がさらに増大するのは明らかだ。日本のネットワーク環境はアフターコロナの社会に対応することができるのだろうか。(取材・文/大河原克行 編集/前田幸慧)
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