Special Feature
コロナ禍でどうなる 地方ITベンダーの現状と戦略
2020/06/25 09:00
週刊BCN 2020年06月22日vol.1830掲載
動き出す地方ITベンダー
コロナ禍でビジネスは大きく変わる
地方のITベンダーのビジネスには、機器調達や開発案件に遅延が出るなど、総じて同じような影響が出ている。さらに、テレワークが急速に拡大したことで、人材の奪い合いが激化するとの指摘もある。マイナス面が目立つ一方、地方のITベンダー各社は、生き残りに向けて動き出している。「コロナ禍でITビジネスは大きく変わる」というのが共通認識だ。<SAPPORO>デジック
惰性で動く大きな船
北海道内の約75社が加盟する北海道情報システム産業協会の会長で、ニアショア開発などを手掛けるデジック(札幌市)の中村真規社長は、現在の状況について「エンジンが止まった大きな船が惰性で動いている感じ。いつエンジンが動き出すかを、みんなが固唾をのんで見守っている」と話す。
中村社長によると、北海道では、首都圏向けの開発を請け負う企業が多いといい、「われわれとしてはどうしようもない。エンドユーザーがどうなるかにかかっており、早く正常化することを祈るしかない」と語る。
同社では、感染拡大を受けて開発をテレワークにシフトした。中村社長は「生産性はほぼ落ちず、十分にやっていけることが分かった」と手応えを感じつつ、「テレワークが次の時代の働き方になるかもしれない。テレワークをうまく使いこなした会社が生き延びるのではないか」との見解を示す。
地方のITベンダーにもテレワークが広がる中、新たな悩みの種も生まれている。中村社長は「テレワークであれば、場所を選ばずに仕事ができるため、給与水準の高い首都圏の大手ITベンダーが、北海道の優秀な人材を引き抜き、テレワークで働いてもらうこともできる。ある意味、パンドラの箱を開けたのかもしれない」とみる。
北海道では、外国人観光客が激減し、宿泊業やサービス業の経営に打撃を与えている。中村社長によると、こうした業種を相手にビジネスを展開している企業は、案件の縮小や保守料の滞納といった影響が出ているという。
中村社長は「今後の状況がどうなるか予想するのは難しいが、働き方や仕事の進め方は大きく変わっていくだろう」とし、「企業や行政のIT投資は増えていくと思っている。今は厳しい状況かもしれないが、デジタル化に向けた波が来れば、IT業界は大きく動き出すはずだ」と期待している。
<SAPPORO>HDC
マイナスインパクトを覚悟
自治体や企業向けのSIを主力とするHDC(札幌市)の藤本斉・経営企画部長は、商談の中止や商談規模の縮小などの影響が出ているとし、「数字はまだ見えていないが、マイナスのインパクトは覚悟しないといけない」と語る。
同社の顧客は「道内が圧倒的に多い」(藤本部長)という。道内での感染が早い段階で広がったことで、「感染拡大以前から仕掛かっていた案件が進まず、新規で目論んでいた企業との商談にも支障が出た」と振り返る。
緊急事態宣言が解除となり、徐々に顧客との接点が戻ってきた。藤本部長は「状況は改善の方向に向かっている」とし、「ITをさらに浸透させないといけないということが社会全体で認識できた。ITベンダーとしては、今までの業務を効率化するための提案がしやすくなる」と話す。
一方、企業の間でテレワークの導入が進んだことで「今までに接点のなかった企業から(引き合いの)メールが入ってくるようになった」と説明する。
その上で「出張をしなくても、企業同士のやりとりができるようになっている。現在は北海道を中心にビジネスを展開しているが、今後はマーケットの規模が大きい東京も視野に取り組みを進めていく」と意気込む。
<NAGOYA>中電シーティーアイ
人員の確保に苦労
中部電力(中電)グループの中電シーティーアイ(名古屋市)は、主に中電や中電関連会社向けにアプリケーション開発やインフラセキュリティサービスなどを提供している。新型コロナウイルスの感染拡大で、機器の調達や人員の確保に影響が出たが、おおむね当初の計画通りにビジネスは進んでいるという。
同社の野村武常務は「根本的な影響はなかったが、サーバーや通信機器の納入に遅れが生じ、計画通りの生産体制が崩れた」とし、人員面での影響は「委託先が出社制限をしたことなどで、人繰りに苦労したが、弊社の社員が対応して何とかつなぐことができた」と説明する。
さらに「中電グループ以外では、メーカーの顧客が多く、開発プロジェクトの延期や発注計画を減らしていくという話が出ている」とし、「緊急事態宣言期間中は、展示会の活動が中止状態となり、新規の顧客を獲得するための営業もできていなかった」と説明する。
野村常務によると、新型コロナウイルスの感染拡大により、中電の大口顧客である企業が生産計画を縮小した。中電グループの収支に影響が出て、IT投資に見直しが入る可能性が高いという。
とはいえ、「新たな生活スタイルやワークスタイルを考えると、テレワークを含めてIT需要は出てくる」と予想。「減る分と増える分の割合は分からないが、ピンチがチャンスになる部分があるので、しっかりと世の中のニーズを見ながら対応していく」と話す。
<OSAKA>ネクストウェア
中堅・中小の投資増に期待
ネクストウェア(大阪市)の豊田崇克社長は「顔認証システム用のハードウェアの調達などに影響が出た」と説明する。一方で「今後、中堅・中小企業のIT投資は確実に増えていく」とみており、「エンジニアのスキルがより重要になる」と話す。
同社は、顔認証システムのほか、RPAソフトやブロックチェーンを活用したシステム開発などを展開している。豊田社長は「弊社の場合、1年間かけてPoCや開発を行い、最終的にハードとして顧客に納入する仕事が多い。利益が集中するのは3月だが、新型コロナウイルスの影響で機器の調達ができない時期があり、納品が遅れる事態があった」と語る。
グループ内で手掛ける受託開発については「顧客がテレワークにシフトしたことに合わせ、開発や運用をテレワークで対応した。顧客とミーティングを重ね、進捗を確認しながら案件を進めるやり方が定着し、徐々に数字は伸びてきている」と紹介する。
自社製品のソフトウェアの開発では「以前からのニーズが継続し、止まることはなかった。感染が広がる中で、とくにRPAを使った事務の自動化に関する需要が旺盛になり始めた。今まで動かなかった中堅企業の投資が動き始めており、コンサルティングサービスも仕事として成立するようになっている」とし、今後もニーズの取り込みに注力する考えを示す。
また「顧客のテレワークの推進が、今後の地方のテーマになると思う」とし、「地方の顧客のIT環境を見ると、セキュリティやネットワークの部分で弱さを感じた。テレワークの導入を広げていく上で、こうした部分への投資も期待できる」と分析する。
さらに「今までエンジニアのスキルはプログラミングが中心だったが、中堅・中小企業にサービスを提供していくためには、ネットワークやセキュリティも含めた幅広いスキルが必要になってくる。オンラインで会議をする場合、ドキュメント作成の能力も重要になる。エンジニアの役割は変わっていくはずだ」と持論を展開する。
<OSAKA>コンピューターマネージメント
ITビジネスは不滅
コンピューターマネージメント(大阪市)の竹中勝昭社長は、自社のビジネスへの影響は「リーマン・ショックの時に匹敵する」と予想するが、テレワークを中心に「デジタルトランスフォーメーション(DX)が本格的に動き出す」とみる。企業の変革を支えるITビジネスは「不滅だ」と力を込める。
同社がとくに影響を受けているのは、百貨店や製造業など、幅広い業種を対象にサービスを提供する事業で、竹中社長は「顧客の業績低迷で、プロジェクトの先延ばしや優先度の低下が出ており、売り上げの落ち込みもみられる」とし、「この先の状況がどうなるか分からないことが最も困る」と吐露する。
それでも、法人IT市場の活性化には期待感を示し、「テレワークは数年前から言われていたが、この短期間で、実務で使えると理解が広まった。コロナ禍を機に顧客の要求は増え、DXが本格化する時代を迎える。IT業界もそれに合わせて変わっていくのではないか」と推測する。
同社は、顧客の課題に合わせてソリューションを提供するビジネスに取り組んできた。今後の戦略について、竹中社長は「顧客や業界の変化に対応できるビジネスをつくっていく。将来的には、顧客の要望を一手に請け負うゼネラルコントラクターのような役割を担い、合言葉にしている増収増益路線の実現を目指す」と抱負を語る。
竹中社長はこれまで、ビジネスの根幹を支える人材を重要視してきた。この方針は今後も変えない考えで、「社員をただ増やすだけでは顧客は満足しない。それぞれの課題をしっかりと解決する人材を増やすために、これからも人にはどんどん投資をしていく」と話す。
<FUKUOKA>AIP
本当の影響は下期以降
IT人材育成を手掛けるNPO法人・AIP(福岡市)の柴田健二副理事長専務理事は、長年にわたって福岡のIT業界に関わってきた。新型コロナウイルス関係では、ほかの地域と同様に営業活動や機器調達への影響がみられるとし、「本当の意味での影響が見えるようになるのは7月以降の下期だろう」との見通しを示す。
柴田副理事長によると、感染拡大後、福岡でも新規案件の掘り起こしが難しくなったり、機器の調達が遅れたりしているという。しかし「支障が出ているのは前年から進めていた案件が中心。ITベンダーに話を聞いていると、納品の遅れや発注の遅れがあっても、売り上げの計上が後ろにずれている状況で、今のところ大きなインパクトはみられない」と現状を説明する。
その上で「緊急事態宣言中は、新規案件の営業活動がほぼできていない状態だった。来年度の案件がどうなるかが分かるのは下期以降になる」とし、「新型コロナウイルスで影響を受けた業種のIT投資がどうなるかはまだ分からず、プラスになるかマイナスになるかの判断は現時点では難しい」と語る。
新型コロナウイルスの感染拡大で、福岡では、今までにITを活用していなかった企業がテレワークの良さを知り、さらにIT活用を進めようとする動きがあるという。柴田副理事長は「福岡でのビジネスチャンスは増える見通しで、時代のニーズに合った開発ができる会社が顧客に選ばれる時代になるだろう」と話す。
AIPは、高度なIT人材の育成を事業の柱にしている。テレワークの導入が広がていることで、柴田副理事長は「IT業界は東京が中心だが、東京に行かなくても仕事ができる環境になった」とし、「福岡には高いレベルでITを学ぶ人が専門学校などにたくさんいる。そうした人が、地元に住みながら、活躍の幅を広げるような働き方が増えるかもしれない」と予想する。

新型コロナウイルスの感染拡大によるITビジネスへの影響が懸念されている。経済の失速が伝えられ、すでに企業のIT投資が冷え込むとの見方がある。IT業界全体の先行きに不透明感が漂う中、地方のITベンダーは、今回のコロナ禍をどのように捉えているのか。
(取材・文/齋藤秀平)
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