コロナ禍が収束しても、SIerの8割近くは在宅勤務や分散ワークを定着させる方向で検討していることが週刊BCNの取材で明らかになった。コロナ禍以前は、リモートワークの制度があっても、子育てや介護など特別な事情がある人しか利用しない傾向にあったが、コロナ禍中でほぼ全ての社員がリモートワークを経験。ダイバーシティや健康経営の推進、生産性の向上などの観点で有益であることが実体験として認知され、状況は大きく変わりつつある。
(取材・文/安藤章司)
8割近くがリモート定着を検討
週刊BCN編集部では、コロナ禍が終わった後の働き方について、主要SIer50社に8月から9月上旬にかけてアンケートを行い、30社から有効回答を得た(次頁図参照)。
国内でコロナ禍の影響が顕著に出始めてから半年余り。今年4月から5月にかけて緊急事態宣言が出されたこともあり、ほとんどのSIerが在宅勤務や分散ワークといったリモートワークに取り組んだ。アンケートの設問一つめでは、コロナ禍が収束した後、今のリモートワークを定着させるか、元に戻すかを聞いたところ、全体の77%が「コロナ後も将来にわたって在宅勤務や分散ワークの定着化を検討」していると回答した。
従来、ダイバーシティや健康経営の推進、生産性の向上を目的として、在宅勤務や分散ワークなどの制度そのものはあったが、実際には子育てや親の介護をしている人などに利用者が限られているケースが圧倒的に多かった。「みんなが出社しているから、特別な理由がない限り朝9時から夕方5時まで会社で仕事をして、必要なならばそのまま残業する」というスタイルを変えることは、なんとなくサボっているようで心苦しい心理的な側面があったことは否めない。コロナ禍でリモートワークが全社的に行われたことをきっかけに、SIerが管理職も含めてより幅広い層に働き方を変えてもらうべく、リモートワークの定着を図ろうとしていることがうかがえる。
常駐のリモートは見方が分かれる
一方で、見方が大きく分かれたのは、多くのSIerにとって重要な収益源となっている客先常駐のビジネスだ。大規模なスクラッチ開発を発注してくれる大口の優良顧客のオフィスを間借りしてSEを常駐させたり、客先から徒歩数分の雑居ビルの一室に“分室”を設けたりすることから、「大部屋方式」や「分室ビジネス」とも呼ばれる。顧客目線で見ると、開発を担ってくれるSEが目の届くところにいつもいてくれることから、開発の進捗状況が把握しやすかったり、仕様変更の相談も気軽にでき、すり合わせしやすいメリットがある。情報セキュリティ面でも安心できるとする意見が根強い。
設問の二つめでは、客先常駐/分室のリモート化についての対応を聞いた。「コロナ後も将来にわたって客先常駐/分室のリモート化の定着を検討」すると回答したのは全体の44%と半数を割り、最も回答割合が多かった「その他」が53%を占めた。客先常駐は顧客が常駐を要望して成り立っているビジネスであることから、リモートワークを定着させるかどうかは「顧客の方針」次第で、自社だけでは決められないことが大きな要因だ。
「その他」と回答した中には、自社のSEの多くが客先に常駐してしまうとスキルが分散してしまったり、会社組織としてまとまりがなくなる、利益率が限られるといった理由から、コロナ禍に関係なく「経営方針として積極的に常駐ビジネスはしていない」と回答したSIerもあった。
8割近くが“ゼロトラスト化”検討
この半年余りで、多くの企業が全社的なリモートワークを前提としたIT基盤を整備できていないという課題も浮き彫りになった。昔ながらのVPN(仮想私設ネットワーク)で社内のネットワークに接続し、オンプレミス型の業務アプリケーションを使う方式では、VPNの同時接続の許容量がボトルネックとなりがち。コロナ禍のリモートワークにあっては、「VPNが遅くて仕事にならない」という声が、IT業界のみならずさまざまな業種・業態のユーザー企業からも聞こえてきた。
従来であれば、VPNを使うのは出張者や外回りの営業、客先常駐を含む外勤者、子育て・介護世帯の一部の在宅勤務者に限られていたため、さほど問題にならなかった。だが、コロナ禍でリモートワークが全社員に広がると、途端にVPN接続の許容量を超えてしまい、急いで機材を増設するといった対応も見られた。
アンケートの三つめの設問では、こうしたIT基盤の課題について聞いた。その結果、「昔ながらの『VPN+オンプレミス型の業務アプリ』を変更する予定はない」と回答したのは全体の3%に過ぎず、「ゼロトラスト・ネットワーク/クラウドネイティブ業務アプリに積極的に移行を検討」するとの回答が77%に上り、圧倒的に多かった。「その他」も20%あり、内訳としては「クラウドネイティブ方式とVPN、VDI(仮想デスクトップ)、リモートデスクトップなどを費用対効果を見ながら併用する」や、「すでにゼロトラスト環境に移行済み」とするSIerも見られた。
設問1の「コロナ後も将来にわたって在宅勤務や分散ワークの定着化を検討」と回答したSIerは、設問3の「ゼロトラスト/クラウドネイティブ業務アプリに積極的に移行を検討」するとしたSIerとほぼ重なっている。IT基盤のアップデートに課題を感じており、リモートワークとIT基盤の刷新を同時に進めていく必要があると認識している様子がうかがえた。
ゼロトラスト/クラウドネイティブ業務アプリへの移行については、期限を区切って移行を促進するSIerも少なくない。「2025年までに社内のネットワーク、アプリケーションの80%の移行を目指す」(NECソリューションイノベータ)、「移行に向けて今年度中に実証実験などを経て計画をまとめる予定」(SRA)、「基幹システムの刷新と歩調を合わせて向こう2~3年で主要部分を移行を検討」(テクノスジャパン)、「2022年度中に80%移行を検討」(日本ユニシス)、「向こう2年以内に100%移行の予定」(日本事務器)と、ここ数年内で移行を検討するという声が多く聞かれた。
ジョブ型の取り入れに慎重意見も
また、大手SIerへの個別の取材では、リモートワークの拡大によって人事労務の評価制度の一部を見直す必要があると感じているとの意見もあった。具体的には、いわゆる9時から17時の8時間勤務をベースとする方式に加えて、職務記述書に基づいて成果を評価する「ジョブ型」と呼ばれる方式も一部で取り入れるべきだという意見である。日立製作所や富士通など大手総合ITベンダーがジョブ型雇用を取り入れる動きに合わせて、SIerでも同様の議論が活発化している。
一方で、SIerの仕事の大部分については、勤務時間や提供した役務によって評価する従来の「メンバーシップ型」が適しているとする意見も多い。「受託開発や保守サポートなどルーチンワークにはジョブ型はそぐわない」(大手SIer幹部)からだ。やる気のある若手社員に対して、経験不足でまだスキルが十分に伴っていない状態にもかかわらず成果を過大に重視すると、無理な働き方を誘発してしまう危険もある。健康経営を掲げるSIerにとっては本末転倒になりかねない。
とはいえ、ジョブ型の一部導入で、より多くの優秀な人材が確保しやすくなるとの見方もある。過去20年を振り返ると、SIerは「顧客の成功にコミットする」ことを標榜して、成果コミット型の比率を増やしてきた。人事評価もSIerの成果コミット型ビジネスの比率拡大に合わせて変えていく動きが、今後、より勢いを増す可能性がある。
次ページからは主要SIerの個別の取り組みについてレポートする。
[次のページ]リモートワークを契機に改革を推進 多様な観点から議論が活発化