NEC
自社のデジタル技術とServiceNowを融合
7月13日にNECは「New Normal時代の新しい働き方をDXで実現するデジタルオフィスのプロジェクト」を開始した。これには新型コロナウイルスの影響を踏まえ、ニューノーマル時代にデジタルの力でオフィスのあり方を見直すことも含まれている。
この取り組みでは、顔認証用カメラやサーマルカメラを活用した2種類の入退管理ソリューション(自社開発)を導入。マスク着用の有無などの管理、体表面温度の自動測定などの感染症対策を実施する。映像解析技術を活用し、指定した社員の作業場所をスマートフォンなどからフロアマップ上でリアルタイムに把握したり、フロア全体の混雑状況を可視化したりもできる。さらに、食堂やエレベーターホールなどの混雑状況を映像解析技術で可視化し、自席のPCなどからリアルタイムで確認し、密状態の回避も実現する。
綿引征子氏
これまで日本企業の多くは、オフィスに出社することを前提としてプロセスや組織、管理体制などを設計してきた。その前提が大きく変化した今、在宅業務を可能にするだけでなく「オフィスのあり方、従業員の働き方そのものの本質的な変革が必要」と指摘するのは、NECの経営システム本部 CIOオフィスの綿引征子氏だ。この変革は新型コロナウイルスへの対策だけが目的ではなく、生産性を向上し、企業のイノベーションにつなげるものだ。綿引氏は「(仕事の基盤を)イノベーションのための『Workplace as a Service』として提供し、継続的に価値を提供するのが今回のプロジェクト」と話す。
Workplace as a Serviceは、生体認証によるデジタルIDを軸に、オフィスから店舗・工場等の現場、リモートワーク環境まで、働く場所すべてのデジタル化を推進する大きな構想だ。NECではそのうち、リアルとオンラインの融合や、業務プロセスの自動化といった、ニューノーマルの働き方に直結する領域を「Digital Workplace」と呼んでおり、ここで従業員の安全・安心を守るため、サービスナウ(ServiceNow)のアプリケーション「Safe Workplace」を採用した。この領域では、NECの技術と外部の技術を融合させ、いかに価値を提供できるかが鍵となっており、ServiceNowとはいち早く連携ソリューションの実証実験に至っている。
Safe Workplaceは、従業員の健康管理機能を提供している。これをNECのデジタル技術と組み合わせることで、密を避けた安全・安心な職場環境を実現する。具体的には、オフィスに入室する際にマスクをしているかどうかの顔認証カメラの情報、サーモカメラによる体温の情報などをSafe Workplaceに渡し、リアルタイムに従業員の状況を把握し必要なアラートなどを発信する。出社していない社員に対しても、定期的に健康チェックのメッセージを送り、簡単な操作で健康状態の情報をSafe Workplaceに送信してもらう。これらでリアルタイムな従業員の行動管理や健康管理が実現できる。
関 徳昭氏
経営システム本部 DXグループの関徳昭氏は「体温が高い人、マスクをしていない人がどこにいるか瞬時に分かる。万一体調が悪い人がいても、管理者がすぐに適切な行動を指示できる」とねらいを説明。たとえば体調が悪い人に対し、PCR検査や関係各所への連絡など必要な行動を指示し、その進捗状況をSafe Workplaceで管理できる。また、長期間リモートワークを続けていると、孤独感や不安感が募り、新型コロナウイルスとは別の要因で健康を害することもあるとされる。そういった従業員の状況をいち早く見つけ、迅速に対処するのにもSafe Workplaceの健康管理機能を活用する。
日本企業におけるデジタルオフィス実現の阻害要因として「紙によるプロセスが多い点が挙げられる」と関氏。出社時の検温一つをとっても、紙ベースの管理ではせっかく収集したデータを活用することは難しいが、「ServiceNowのワークフロー機能を使えば、紙のプロセスを容易にデジタル化できることも、採用に至った理由の一つ」(関氏)と強調。そのうえで、ServiceNowはクラウドのプラットフォームであり「ゼロから作らず、迅速に融合して市場に出せることも選んだ理由」と綿引氏も言う。
今回の社内実証で、利用者からはおおむね好意的な声が寄せられているという。ServiceNowがモバイル端末で容易に利用できる点は、特に好評とのこと。NECでは今回の社内実証の結果を踏まえ、なるべく早い時期にサービス化し、外部に提供できるようにする予定だ。
このようにSFDC、マイクロソフトのPower Platform、ServiceNowは、いずれもクラウドのプラットフォームで実現されている。その上でローコード、ノーコードでカスタマイズ可能で、今後の変化にも柔軟に対応できる。この迅速性と柔軟性の高さは、今回のようなパンデミックへの急な対処には重要となる。
IBM
Watsonを使い職場復帰とビジネス効率化をトータル支援
IBMは、職場復帰の課題をさまざまな側面から支援する製品群の「Watson Works」を提供しており、これにはAIプラットフォームや各種の職場復帰アプリケーションが含まれる。それらの製品を活用すると同時に、コンサルティングやシステム構築のサービスも併せて提供し、職場復帰やその後のさらなるビジネス環境の効率化まで支援する、IBMのトータルなサービスとなる。
徳島 洋 ソリューションエンジニア
Watson Worksは、職場復帰を支援する五つの機能(図参照)で構成されている。たとえばその一つの「Watson Assistant」を使えば、顧客や従業員などからの新型コロナウイルス対応に関する質問に対し、必要な情報を自動で提供できる。「Return to Workplace Advisor」は、従業員の安全を考慮しながら、職場にどういったタイミングで復帰させるかの判断を支援する。「主に従業員が安全に働ける企業の仕組み作りを支援するものになる」と言うのは、日本IBMのクラウド&コグニティブ ソフトウェア AI Applicationsの徳島洋・ソリューションエンジニアだ。
これらはSaaSで提供され、必要なものを適宜組み合わせて使うことができる。これらのアプリケーションは、新しく構築したものと既存のものをカスタマイズしたものもある。「ソーシャルディスタンスや従業員の体調管理は、以前から機能としてあったものだ。また、AI機能を活用するために、新たに米国疾病予防管理センター(CDC)のガイダンス情報を学習させている」と徳島氏。
これらのアプリケーションだけを使ってもさまざまな支援ができるが、IBMの場合もカメラやビーコンなどのIoT機器と連携して情報を収集し、これらのアプリケーションと組み合わせて利用することになる。得られるデータをどう活用できるかのアドバイスは、「TRIRIGA」や「Maximo Worker Insights」などでも行える。
従業員の職場復帰は、人事管理の領域に大きく影響を及ぼす。今回の新型コロナウイルスへの対応で忙しくなっているのは、リモートワークのインフラ整備を行うIT部門に加え、新しい働き方に対処しなければならない人事部門だという話はよく耳にする。そこでIBMでは、8月に人材情報管理アプリケーションベンダーのワークデイとの間で、Watson Worksを統合して利用できるようにする旨を発表している。ワークデイ製品には従業員のさまざまな情報が管理されており、Watson Worksと融合させることで、新しい働き方の中で人事的な判断を迅速に行うことを目指す。「人材情報の管理にワークデイ製品を利用している企業は増えている。二つを融合することで、Workday上の情報を基軸にWatson Worksを活用できるメリットがある」と言うのは、日本IBMのグローバル・ビジネス・サービス事業本部クラウド・アプリケーション・サービスの鹿内一郎シニア・パートナーだ。
鹿内一郎 シニア・パートナー
このようにIBMでは、AIを取り入れた職場復帰支援に取り組んでいるのが大きな特長になっている。データを集めWatson Worksで分析すれば、現場のリアルな状況に即した知見を得ることが期待できる。
リスク回避のための投資を
デジタル変革につなげる
新型コロナ禍で人が自由に動けない状況に直面し、企業は自動化、省人化の必要性を痛感している。かつて、自動化のためのIT投資は投資対効果を求めるものだったが、今後はビジネス継続上のリスクを回避するため、企業は自動化を進めることになる。
今回見てきたようなソリューションを用いて行う安全な職場復帰の実現は、ビジネス継続のリスクを軽減するだけでなく、本来のデジタル変革を実現することにつながり、将来的な企業の成長に寄与するはずだ。短期的な新型コロナウイルス対策ではなく、中長期なビジネス継続のリスクを取り除く新しい働き方をデジタルの力で実現し、将来的なビジネス成長も目指す。そのために自社にはどれが最適なソリューションかを、慌てず真剣に考え選ぶ必要がありそうだ。