Special Feature
データ活用が可能性を広げる アフターコロナの人材戦略
2020/10/29 09:00
週刊BCN 2020年10月26日vol.1847掲載
ワークデイ
グローバル企業に評価されるクラウド型HCM
独立系のベンダーとしてグローバルで評価が高いのが、SaaS型HCM製品「Workday HCM」を提供するワークデイである。人事・給与から人材マネジメントまでの人事領域を入り口としたエンタープライズのビジネスクラウド製品として、財務・人事・プランニングのアプリケーションを1プラットフォームで提供している。
世界的にグローバル企業の導入が多く、国内ではジョブ型雇用体系への移行を表明した日立製作所がユーザーの1社であり、このコロナ禍で「事例を見た大手企業の採用が増えている」とワークデイの荒井一広・業務執行役員マーケティング本部長はいう。
ワークデイの製品は、一部の優秀な才能だけを管理するのではなく、「個を生かす組織を作る」コンセプトという。個を生かすため、人材が入社してからの育成、配置、社内での転職、報酬や教育といった「従業員一人ひとりのサイクルを管理し、経営者、管理者、当人を含めてデータドリブンでいかに活躍できるようサポートするかが根本的な考え方になる」(荒井業務執行役員)。
今回のコロナ禍のようなアクシデントに組織が対応していくためには、まずは従業員の心身の健康を守り、従業員がエンゲージメントを感じて高い生産性で仕事ができる環境を担保し、その上で有事における適切な対応を行う必要があるとするが、そのためにはデータドリブンの仕組みに加えアジャイルな組織である必要があるという。
アジャイルな組織とは、経営計画の見直しと更新ができる「応答性」、社内でその計画を遂行できる「順応性」、それを実行する適材適所の人材配置と育成が可能な「スキル」があり、中間管理職がデータを基に意思決定できる「エンパワーメント(権限移譲)」、それが適切に行えているかを経営者が「統制」できる仕組みを持つ組織を指す。戦略的人材マネジメントを推進していく上で、まずはその環境を目指すべきであるという。
その上で今後は、各企業の経営計画の中で個々の従業員をしっかりケアして大切に育て、適材適所に配置してビジネスの成長につなげることがトレンドになると荒井業務執行役員はいう。また、現状では「仮想的な環境の中で、いかに従業員のエンゲージメントを確保していくかが重要になる。そのためには見合った報酬、評価制度、管理できるマネージャーなど多岐に渡る要素がある。大局的に考える必要があり、それをサポートできるツールを提供している」としている。
カオナビ
個にフォーカスした日本型タレントマネジメント
日本の雇用環境に、必ずしも世界の常識がそのまま通ずるとは限らない。さらに労働人口が減少していく中で、国内企業における人材戦略においては、人材の底上げや効果的な配置といった、人を理解するための取り組みがより必要となってくる。そのような日本におけるタレントマネジメント製品のパイオニア的存在が、カオナビが提供するクラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」である。社員の情報を顔写真に紐づけて管理するクラウド型のサービスというアプローチと、人事部門向けのプロダクトではなく、経営者・管理者向けにオープンに情報を提供するというコンセプトでサービスを開発したことで、成長過程のベンチャー企業を中心に評価を得た。働き方改革を支援するHRテックツールとしての認知も併せ、今では国内有数の大手企業まで幅広く利用されている。
この数年のユーザーの人材環境に変化について、カオナビの佐藤寛之取締役副社長COOは、採用時に選り好みできず、入社後も優秀層の流出が顕著になっていると指摘する。大企業であっても真正面から影響を受けるようになっているという。
「働き方が多様化する中で、個人と企業の関係で、優秀な人ほど個人側がパワーを持つようになっている。労働人口が減少し、個人のモチベーションファクターも変化しているため、企業側が自分の会社で働くための理由をちゃんと考えないと人材を集められない」と語る。
その状況下で、コロナショックを契機に人材管理を高度化させる必要性に対する認識が一気に高まっているとのこと。特にエンゲージメント系機能の要望が高く、離職予兆を察知する「パルスサーベイ」オプションを入り口とした新規ユーザーも増加。そういったユーザー同士がコミュニティを形成し、コロナ禍でのノウハウや知の共有が活発に行われているという。
カオナビは、組織の都合で社員を配置していくのではなく、個にフォーカスして、個性や才能に注目することによって企業の可能性を広げていこうという理念で開発されている。「コロナ以降、働く個人にフォーカスしないと従業員のエンゲージメントが得られない、パフォーマンスの向上につながらないという企業の悩みが増えている。その状況では、一人一人しっかり顔と名前を一致させ、個性を認めながらマネジメントできるツールは効果を発揮するはず」と佐藤副社長は語る。
プラスアルファ・コンサルティング
データに基づいた科学的人事を実現
人事にマーケティング思考を取り入れ、データに基づいた「科学的人事」を実現するという独自のアプローチで注目を集めているのが、クラウド型タレントマネジメントシステム「タレントパレット」を提供するプラスアルファ・コンサルティングである。同社の鈴村賢治取締役副社長は、「ほとんどの企業が顧客の見える化には取り組んでいるのに、社員の見える化はできていない。人事戦略にもマーケティング思考を取り入れるべき」と説く。
タレントパレットは、「マーケティング発想で作られた人事領域のCRMシステム」(鈴村副社長)である。社内に散在する人事データの統合と活用に向けたマイニング、分析の仕組みを提供。社員が応募段階から入社して配置、育成、活躍の様子まで全てのデータが統合されて蓄積され、社員IDに紐づいて関連する人材データを全て管理できる。
機能も豊富であり、リリース後4年間に40回のバージョンアップを実施。人材データベースから分析、評価、配置計画、キャリアプラン策定などの基本的な人材管理機能のほかに、研修システム、パルスサーベイや無料の適性検査などを備える。このプラットフォームを活用し、ITとデータを活用した非属人的な戦略的人事を行うのが科学的人事であり、それによって経営戦略の中核である人事戦略において、意思決定の高度化を支援するとしている。
鈴村副社長は、「コロナ禍になり、人材難や経営において人材活用のウエイトは一層高まっている」と話す。そして、アフターコロナで四つのニーズが顕在化しているという。
一つめはテレワークに対応した、社員のパフォーマンスを上げるための仕組み作り。それにはエンゲージメント測定と育成の環境を整えることで対応する。二つめは人材育成。業務のシフトチェンジのためにデジタル化が必要になってくるので、社員全体に新しいスキルを身につけるための人材育成が必須になるという。
三つめは、配置転換。多くの企業が生き残るために配置転換をしなければならなくなるが、大きな配置転換はエビデンスがないとできない。その際に、スキルなどの情報を伝えながらジョブディスクリプションの作成、候補の選定をデータドリブンで行うべきとする。四つめは組織診断。硬直しているか、コロナ禍でもパフォーマンスを出せる組織かを見極める必要があるとする。
タレントパレットが示すのは、人材マネジメントの効率化ではなく高度化である。「それが本来のタレントマネジメント。レベルを上げなければ今後企業は勝ち残っていけない」(鈴村副社長)と警鐘を鳴らす。
カケアイ
部下との意思疎通を支援するピープルマネジメント基盤
リモートワークが急速に普及した中で、上司・マネージャーが部下やチームメンバーとどうコミュニケーションを取っていくかが課題とされ、人材マネジメントの視点でも看過できない状況になっている。そのような困りごとを解決するツールが、KAKEAIが提供する現場マネージャーとメンバー支援のためのピープルサクセスプラットフォーム「カケアイ」だ。現在、朝日新聞社やオムロンなど、大企業を中心に採用が広がっている。カケアイは、部下一人一人の特性を脳科学などを活用して可視化し、その特性に基づいて各個人に対する関わり方を画面でアドバイスし、1対1のオンライン面談のシーンで上司が部下に対し適切な対応ができるようにサポートするシステムである。
面談前に、部下が上司に対してテーマとともに、「具体的なアドバイスが欲しい」「一緒に考えて欲しい」「話を聞いて欲しい」「意見を聞きたい」「報告したい」の項目から、どの対応を求めているのか伝えておく。上司はそれを把握しておくことで、適切な対応を取ることができる。
面談時には、上司自身の得手不得手に関するアドバイスや、KAKEAIを使う世界中のマネージャーの対応例から、参考になりそうな情報も提示。これにより、主観的・属人的な対応を回避できる。面談後には部下が評価を行い、その際上司には伝わらないが1カ月後に総合評価が表示されるため、そこで上司は自らの対応を振り返り改善していくことができる。
上司が部下に発したアドバイスやメッセージも蓄積され、効果の高いものはマネージャー間で共有される。上司から部下だけでなく、周囲の同僚が気付いたメンバーに対する評価も、上司や人事に届く仕組みになっている。
KAKEAIの本田英貴社長兼CEOは、働き方が多様化し雇用関係も変わっていくこれからの時代、マネージャーの存在感は高まると話す。「企業はメンバーである従業員に対して、今この会社で時間を使ってもらっている意味や価値を、どう提供していくか考えなければならなくなる」という。その際、「企業の仕事をどう提供するか、日常的な困り事へのフォローも含めて結節点となるのが現場のマネージャー。採用もマネージャーがプロジェクト単位で外からアサインしてくるようになる。今のような『会社から使われる中間管理職』というよりは、企業と時間を使ってくれる従業員とをつなぐ重要な役割になる。そういう人たちの社会的価値を上げていきたい」と訴える。
従業員エンゲージメントが
多様化する働き方を支える
元々企業の人事戦略に「変わっていかなければならない」という認識はあったが、コロナ禍によってスピード感が伴った――人材管理ソリューション各社は共通してこう語る。ツールの活用を前提としても、着手後半年から1年の整備期間は必要になるが、これからの時代に向けて人事業務以外にも人材を可視化し、経営計画と紐づけて育成、活用、評価するための仕組みの整備は必須である。終身雇用の代わりに忠誠を誓わせるという旧来の雇用スタイルは限界にきている。物理的な出社機会が減り、働き方の多様化が加速する中では、会社の在り方や従業員とのつながり方、採用、管理の仕方も変わってくる。ただ変わらないのは、事業運営には多くの優秀な人材が必要ということだ。それを起点として事業の成長を考えた場合、これからは個を意識し、従業員のエンゲージメントを高める必要があることに、健全な企業は気付き始めているようである。

“コロナショック”を境として、わずか数カ月の間に企業の労働環境は大きく変わった。また、近年個人のワークライフバランスに対する意識が変わり、雇用の形も変化しつつある。その結果、企業では人事評価制度の変更をはじめ、人材戦略を見直す必要性に迫られている。先行きが不透明な時代を迎え、国内の労働力人口も減少していく中で、企業が生き残っていくためには、「“人材”管理」を計画的に実行していく必要がある。
(取材・文/石田仁志 編集/日高 彰)
日本型雇用の行き詰まりと
予期せぬコロナショック
これまで国内の多くの企業では、新卒一括採用と終身雇用、年功賃金がワンセットで構成される独自の雇用システムが採用されてきた。この仕組みは製造業を主要産業とする日本に高度経済成長をもたらし、国民の生活を支えてきた。しかし1990年代に金融バブルが崩壊すると機能しにくくなり、長きにわたり経済が停滞した時代の中で、足かせとしての側面が目立つようになった。日本企業の労働生産性は下がり、各種調査でも主要先進国の中で日本は、長期間、最低ランクに位置付けられている。
そこで国策として働き方改革が推進されてきたが、表向きの残業時間を減らすための施策は進んだ半面、本来の趣旨である従業員の労働生産性を高めていくために必要な対策、つまり経営レベルでの戦略的人材マネジメントは、必要との認識はあるものの、ほとんどの企業で導入されてこなかった。
このように働き方改革が道半ばといった状況の中で、突如として新型コロナウイルス感染症という危機が訪れた。多くの企業が、感染防止策としてテレワークへと移行し、働き方が変わった。対面のやりとりが難しい状況下で採用プロセスも変える必要があり、不況を乗り切る過程で事業や組織の中身を変え、雇用も調整せざるを得ないなど、企業の人事労務環境にはさまざまな問題が発生。戦略的人材マネジメントの体制整備を急ぐ企業が増えてきている。
ジョブ型雇用に注目集まるも
従来とのギャップに課題が
奇しくもコロナ禍の発生と時を同じくして現在注目されているのが、「ジョブ(職務)型雇用」という欧米型の雇用形態である。経団連が導入を推奨しているほか、7月に閣議決定された政府の方針「経済財政運営と改革の基本方針2020」にも、新しい働き方としてジョブ型雇用の推進が示され、実際に日立製作所や富士通などが導入を発表している。
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