デジタル庁の発足に向けた
これまでの動き
デジタル庁の創設に向けては、平井デジタル相が室長を務める「デジタル改革関連法案準備室」が設置され、年末には基本方針を決定することになる。
21年1月の通常国会では、00年の成立後から初となるIT基本法の抜本改正案のほか、デジタル庁の設置法案、番号法、個人情報保護法など、10前後の法案を提出することになる。これらの法案が可決されれば、デジタル改革関連法案準備室は「デジタル庁準備室」に名称が変わり、デジタル庁発足に向けた活動が本格化する。
発足は21年9月と見られており、約500人の規模を想定。首相直轄の恒久的な組織としながらも、一定の期間ごとに役割や権限を変更することも盛り込まれる。デジタル改革関連法案準備室では、「Government as a Startup」という標語を平井デジタル相が掲げ、これをGaaSと略しているが、まさにスタートアップ企業の感覚で組織や仕組みを立ち上げる考えだ。
「将来的に目標にしているのは、『Government as a Service』であり、国民を幸せにするサービスを提供することである」としながら、「いまはスタートアップの気持ちで取り組まなければならない。いままでの役所の常識にとらわれていたら、時間も守れない、組織も作れない。まずはマインドセットを変えるところからスタートしている」と語る。
そして、「デジタル庁は人が大事」であるとし、民間からも約100人規模のIT人材を採用することを視野に入れている。「過去の延長線上の話ではないため、いままでのシステムの作り方を根本的に変えるということに賛同して一緒にやってくれる人たちを探し、そういう人たちが中心にならなくては、このプロジェクトはうまくいかない。人材をどう確保するかという点で、いまは、いろいろな人とコミュニケーションを取っているところだ」とする。
平井デジタル相は、10月に日本経済新聞社が主催した「AI/SUM&TRAN/SUM 2020 with CEATEC 2020」での講演を皮切りに、NECやヴイエムウェア(VMware)、アルバ(Aruba)、ボックス(Box)など、IT各社が開催するプライベートイベントにビデオで相次ぎ参加。それらの講演の中で、「政府だけでは、健全なデジタル社会をつくることができない。民間の方々の力を貸してもらいたい。新たなチャレンジに協力してほしい」と語り、IT業界に向けた呼びかけを必ず行っている。
デジタル改革関連法案準備室の室長に平井デジタル相自らが就いているのも、自ら声を聞き、優秀な人材を獲得するのが理由だ。すでにデジタル改革関連法案準備室にも、民間から12人を採用している。
「どこかのビルに職員全員が入るということにはならない。エンジニアの多くが、リモートで働けるようにし、Tシャツ、ジーンズがOKの職場になる。フレックスタイムも採用する。いままでの霞ヶ関の常識とはまったく違う、デジタルワーキングスタイルで働く省庁にしたい」という。
IT業界の人材を登用したり、IT業界のプレーヤーと連携したりすることが、デジタル庁の成功には不可欠という考え方が、これまでのIT政策とは大きく異なる。
国民目線で
使いやすいシステムを整備
デジタル庁では、政府情報システムの見直しという大きな役割を担うことになる。これまでの政府情報システムは、各府省が縦割りで整備、運用を行い、予算や調達も細分化されている。また、専門的な人材を十分に有していないことや、相互のシステム連携が不十分という問題もある。
こうした課題を解決するために、デジタル庁では政府全体のITガバナンスの司令塔として政府情報システムの基本的な方向性を提示し、各府省の情報システムについて統一的視点から総合調整を行うとともに、重要なものについては自ら整備を行う役割を担う。
具体的には、各府省が共通で利用するシステムなどをデジタル庁が一括して整備・運用し、その担当者は各府省からデジタル庁に異動する。デジタル庁と各府省の共同プロジェクト型システムでは、デジタル庁が技術的知見などを生かして整備したシステムを各府省が運用。また、これ以外の各府省のシステム整備においても、デジタル庁の統括および監理のもとで整備、運用することになる。各省庁に対応の遅れが発生した場合には、是正勧告を出せる権限を持つことになりそうだ。22年度以降は、全ての経費をデジタル庁によって一括計上する方向で検討しており、これに伴い運用経費の削減も実現することになる。
平井デジタル相は「国が構築してきたシステムは、ユーザビリティや使い勝手の良さは最後の最後に考えてきた。間違いなくシステムが運用できること、間違いが起きないこと、情報が管理しやすいといったように、情報を提供する側にとって安定性があるシステムを目指していた。これからはその発想を根本的に変える必要がある。これまでにもヒューマンセントリックという言い方をしてきたが、本気度が足りなかった」とし、「国民から見たときに、必要な手続きというのは、どの省庁の管轄であるかは関係がない。民間に例えれば、別々の会社が別々のサービスを提供していた状況を、国民目線で一つのサービス形態で提供するということである。これからのシステムの作り方は、いままでの発想を180度変え、国民との接点のところからデザインをしていくという考え方にしなくてはいけない。もし、高齢者が躊躇するインターフェースや、障害者に使い勝手が悪いシステムがあったとしたら、それは開発した方が悪いという覚悟で進めなくてはならない」と語る。
そして、「デジタル庁は、とてつもない権限を持つことになる。いままでの内閣官房の総合調整のやり方という程度のものではなく、予算に対する権限や、システムを設計し、それを作っていく権限を、スタートアップであるデジタル庁が、ほかの省庁からもらうことになる。いままでは怖じ気づいてできなかったことに、デジタル庁は挑戦をしたい」とする。
マイナンバーカード
22年末に全国民への普及目指す
デジタル庁が推進するデジタル化において、重要な意味を持つのがマイナンバーカードだ。「デジタル社会が健全に運営されるかどうかは、国民にIDがあるかどうかが重要になる。その点で、マイナンバーカードは重要な役割を果たす。安心、安全の中で、あらゆるサービスやビジネスが生まれる環境を作るためにも、マイナンバーカードを活用できる。これは社会全体をワンランクあげていくことにつながると考えている」としている。
21年3月からマイナンバーカードと健康保険証との情報連携を行い、22年度中にはマイナンバーカード機能をスマホに搭載し、26年には運転免許証との連携が行われる予定。さらに、さまざまな国家資格などとの情報連携も開始することが見込まれている。また、公金振込口座の設定を含めた預貯金口座とマイナンバーのひも付けも検討材料にあげており、政府ではマイナンバーカードを活用することで、あらゆる手続きが役所に行かなくてもできる社会の実現を目指す考えだ。
「デジタル社会のパスポートとなるのがマイナンバーカード。氏名、住所、生年月日、性別の4情報だけでなく、分散しているそれぞれのデータベースに、本人の意思で情報連携ができるようになる。公的個人認証サービスを受ける際にも、マイナンバーカードがキーホルダーの役割を果たす。この仕組みを理解してもらうことがデジタル社会の実現には重要である」とし、「マイナンバーカードに搭載されているICチップを、いかにうまく活用するかが、これからの企業のビジネスを大きく左右することになる。また、個人がいろいろなことを始めたり、進めるためにも必要なものになる」としている。
今年4月1日時点で16.0%だったマイナンバーカードの普及率は、マイナポイントの還元施策もあり、11月1日には21.8%に上昇。11月17日には交付済みを含めた申請率は25.3%と、4人に1人にまで上昇した。政府では、22年度末までに全ての国民への普及を目指す。
11月下旬からは、スマホなどで申請ができるQRコード付きの申請書を送付。「これがマイナンバーカード普及の大きなチャンスになる」としている。
デジタル庁が
日本のDXの命運を担う
平井デジタル相は、「絶対に変えてはならないデジタル庁の基本原則」として、国民の方を向いたシステムを作ること、個人情報保護とセキュリティを守り、そこにデータ利活用のバランスを取ることを掲げる。その上で、「それ以外のことに関して言えば、常に変更は自由に行う。決めすぎて、自分で自分の足を縛ると、デジタル庁は立ち行かなくなる。デジタル庁は、正解が最初から分かっている取り組みではない。アジャイル・ガバナンスの考え方を用い、根本原則は変えないが、常にさまざまな方々の意見を聞き、足元を確認しながら、方針変更することに関しては躊躇しないスタイルで行こうと考えている」と話す。
意見の収集においては、インターネットを活用して上で、アイデアを投稿してもらい、デジタル社会のかたちやデジタル改革の進め方などの議論を行う仕組みとして、「デジタル改革アイデアボックス」を設置している。「意見やアイデアを持つ国民こそが、デジタル改革の大切な担い手になる」とする。
そして、「デジタル庁創設に向けてのプロセスや、デジタル化を進めるプロセスを透明化し、なぜやらなくてはならないかということを示す。どこかの誰かが、どこかでコソコソと進めるということは、デジタル庁はしない。みなさんとともにつくり上げていくのがデジタル庁である」とする。
デジタル庁は、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する役割を担うことになる。だが、課題は多く、障壁もある。同時に、国民のデジタルスキルを高めていくといった取り組みも必要だ。ただ、確かなのは、「デジタル敗戦」の日本が、10年後、20年後に、勝ち組になるための挑戦であるということだ。