2020年冬から、新型コロナウイルスの猛威が再拡大している。先行き不透明な状況が続く中で迎えた21年の法人向けIT市場はどのように動くのか。『週刊BCN』編集部では、新春恒例企画として、SIerやディストリビューター、基幹業務ソフトベンダーなどのIT企業各社に、IT市場動向に関するアンケート調査を実施し、48社から回答を得た。調査結果を基に、21年のIT市場の展望、および新型コロナによるビジネスの影響や働き方の変化を見ていこう。
(構成/前田幸慧)
回答企業 (五十音順)
アイティフォー、内田洋行、SRAホールディングス、SCSK、SB C&S、NECソリューションイノベータ、NECネクサソリューションズ、NSD、NTTコムウェア、NTTデータ、NTTテクノクロス、エプソン販売、応研、OSK、オービックビジネスコンサルタント、OKIデータ、CAC Holdings、JBCCホールディングス、シネックスジャパン、セゾン情報システムズ、ソフトクリエイトホールディングス、ダイワボウ情報システム、TIS、DTS、電算システム、電通国際情報サービス、東京エレクトロン デバイス、東芝ITサービス、東芝デジタルソリューションズ、日興通信、日商エレクトロニクス、日鉄ソリューションズ、日本システムウエア、日本事務器、日本情報通信、日本電子計算、ネットワールド、野村総合研究所、PE-BANK、ピー・シー・エー、富士ソフト、富士通エフサス、ブラザー販売、豆蔵ホールディングス、ミロク情報サービス、弥生、ユーザックシステム、ユニアデックス(計48社)
(調査期間:2020年11月~12月中旬)
2020年の法人向けIT市場動向と自社業績
2020年業績は明暗分かれる 活発だった産業は「公共」や「金融」
昨年(2020年)1年間の自社業績の成長率は、「0~4%」が33%、「5~9%」が11%、「10%以上」が8%で、計52%の企業がプラス成長を見込む一方、「▲5~▲1%」が29%、「▲10~▲6%」が19%と、計48%の企業がマイナス成長となり、回答企業でほぼ半々に明暗が分かれる結果となった。前年調査(回答50社)では、9割超の企業が20年のプラス成長を見込んだが、コロナの影響でその当初予想から大きく外れる結果となった。
特に今年前半は、緊急事態宣言発令や不要不急の外出自粛により、経済活動が一時大きく停滞した。SIerにおいても予定していたプロジェクトの遅延や、経済的打撃を受けた業種を中心としたIT投資を控える動きなどが影響して、業績に影を落とした企業が多い。
一方で、緊急事態宣言によって会社に出社したり顧客に直接訪問したりせずに仕事を進められる環境の整備が急務になったことで、多くの企業でリモートワーク関連のIT投資が活発化。加えて教育市場においては、オンライン授業向けの環境を整えるため、政府が「GIGAスクール構想」の実現を前倒し、補正予算を計上して1人1台端末の配備や、在宅・オンライン学習に必要なネットワーク環境の整備を急いだ。こうした需要を獲得したIT企業は、コロナによる影響のマイナス幅を抑制、あるいはマイナスを超えてプラスに転じさせることができたもようだ。
20年に、特にIT投資が活発と感じた産業については、「金融・保険業」と「公共・教育機関」がともに23%でトップに。金融・保険業では非接触・非対面での顧客対応やペーパーレス化、キャッシュレス決済向けのIT投資などが見られた。公共・教育機関でもコロナ対応の給付金・助成金関連の窓口申請業務デジタル化などに引き合いが寄せられたと回答する企業があった。
次いで多かったのが「流通・サービス業」で13%。外出自粛で拡大したネット購買需要などがIT需要を呼び込んだとする声があった。以下、「製造業」が6%、「医療・介護」が3%と続き、「その他」が23%、「わからない・回答なし」が8%となった。その他には、「情報サービス業」や「全業種」などの回答があった。
新型コロナ禍の業績への影響
半数以上がコロナでマイナス影響を受ける 21年以降は回復に向かうか
コロナ禍の自社業績への影響を各社がどのように見積もっているかも調査した。
2020年の自社ビジネス(売り上げ)へのコロナ禍の影響は、「▲10~▲1%」が50%と最多となった。「▲10%以上」の4%と合わせると、半数を超える54%の企業が、コロナの影響で自社ビジネスはマイナスとなったと回答した。
一方で「0~10%」は全体の42%で、コロナが自社ビジネスに結果として好影響を与えたとする企業も比較的多いといえる。「10%以上」と回答した企業も2%あり、コロナによって新たに生まれた需要を取り込み、ビジネスの伸長につなげた企業もあることがうかがえた。
とはいえ、日本の経済全体でみると、コロナによるマイナス影響は大きい。08年のリーマン・ショックは「全治3年」とも言われたが、今回のコロナ・ショックからの回復には、どの程度かかると見ているのか。
この質問に対しては、61%が「全治2年」と回答し、全体の過半数を占めた。「全治3年以上」は23%となり、長引く影響を予測する向きもあるが、「全治1年」は10%で、全治2年と合わせて全体の7割を超える企業が、リーマン・ショックほど影響が長引くとは考えていないことがわかる。
自由回答で聞いた「21年にコロナ禍の影響がどの程度あると見ているか」の問いでも、「20年ほどの影響はないと思う」とする回答が目立った。「21年の下半期以降から回復し始めるのではないか」とする企業もあった。コロナの感染拡大状況にもよるが、「ワクチンの開発状況にも左右される」とする回答のように、国内での状況がどう収束するかが経済回復の一つのカギになりそうだ。
また、「新しい生活様式が定着して、新しい需要が生まれる」「ニューノーマルに伴って、企業が投資するIT分野には変化が出る」など、コロナによって従来のニーズに変化が生じると予想する企業も複数あった。より具体的に、「IT基盤の再構築案件が増加」「クラウド移行の需要が一段と拡大」「中央省庁や自治体、文教のデジタル化に弾みがつく」との回答もあった。
一方で、回答の中には「来年(21年)にインパクトが出ると見られる」など、21年はさらにマイナス影響が大きくなるとする声もある。特に「コロナ禍で収益に打撃を受ける企業はコスト削減が最優先となり、その影響が21年も続くと思う」と、顧客企業のIT投資の抑制を懸念する企業が複数あり、21年のIT需要は楽観視できない状況だ。また、プリンタメーカーからは「オフィスでのプリント需要減少」を予想し、「新しい市場の開拓が急務」とする声があった。
リモートワーク需要は
多くの企業が獲得
このコロナ禍による市場の変化によって特に売れるようになった商材についても自由回答で聞いた。
この質問には45社が回答。特に多かったのが、リモートワーク関連やクラウド関連の商材だ。リモートワーク関連ではPCや周辺機器(Webカメラ、ヘッドセット、キーボードなど)をはじめ、「Zoom」などのWeb会議ツール/ビデオ会議ツール、勤怠管理ツールや、こうした商材を複数セットにして独自に提供する「働き方改革ソリューション」、セキュアに企業ネットワークにアクセスするためのVPN製品、膨大なアクセスに耐えられるためのネットワークインフラの増強などが挙げられた。業務ソフトベンダーにおいては、各社が提供するクラウド製品が売れたようだ。
その他、リモートワークのセキュリティ強化に向けて、セキュリティ商材を挙げる企業も複数あった。具体的には、エンドポイントセキュリティや、CASBなどのクラウドセキュリティ、多要素認証、VDIなどの回答があった。
プリンタメーカーからは、オフィス向けのプリンタ需要が落ち込んだ一方で、飲食店など向けのラベルプリンタや在宅勤務用途のインクジェットプリンタの需要が大きく増えたとの回答があった。
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