新型コロナ禍におけるITベンダー自身の働き方
9割超が現在もリモートワークを継続 生産性は約7割が「変化なし」
新型コロナの感染拡大初期には緊急事態宣言が発令され、外出自粛が広がった。企業においても、出社を制限しリモートワークに移行する動きが拡大。これを機に、自社の働き方を見直す企業も増えている。今回のアンケートでは、こうしたコロナ禍における自社の働き方に関するIT企業各社の取り組みについても調査した。
まずは、リモートワークの実施について聞いた。4~5月にかけての緊急事態宣言期間には、今回の調査に回答した全48社がリモートワークを導入。そのうち、「原則リモートワークとし、出社する従業員は最低限とした」企業は全体の90%に及んだ。「リモートワーク可能な一部の従業員に導入した」企業は8%、全員が出社しない「完全リモートワークとした」企業は2%だった。
秋頃には、感染拡大の状況も落ち着きを見せ、次第に出社を再開させる企業も増加した。11月に入って徐々に感染が拡大し「第3波」が到来。本調査に回答した時点でのリモートワーク実施率についても聞いたところ、75%が「半数以上の従業員がリモートワークで業務を行っている」と回答した。「半数未満の従業員がリモートワークで業務を行っている」が17%で、全体では92%がリモートワークを継続している。一方、「原則出社に戻した」企業は6%。「完全リモートワークを継続している」と回答した企業はなかった。
コロナ収束後にもリモートワークを実施する意向があるかとの問いには、8割超が「リモートワークを継続する予定」とした。一方で、「完全出社に戻す予定」(2%)とする企業も。「現時点ではわからない」は11%だった。
リモートワークを継続するかどうかは、それによって自社の生産性がどう変わったかに影響される面が大きい。
実際に、リモートワーク導入による生産性の変化について聞いた問いで、「生産性が低下した」と回答したのは17%だが、そのほとんどがコロナ後にリモートワークを継続するか「現時点ではわからない」としている。リモートワークのデメリットとしては、「新規営業がしづらい」「対面に比べて、コミュニケーションが取りづらい」「勤務状況がわからない」などの意見がよく聞かれる。
一方で、「通勤がない」「働く場所にとらわれない」といったメリットもあり、「生産性がやや向上」(6%)、「生産性が大きく向上」(2%)した企業もある。全体では69%が「以前と変わらない」と回答しているが、その中でも多くの企業がリモートワークの定着を図ろうとしていることがうかがえた。
なお、コロナの影響による従業員数の変化については、88%が「以前と変わらない」とし、10%の企業が「以前より増えた」と回答。「わからない・回答なし」が2%で、「以前より減った」と回答した企業はなかった。
働き方を見なおし
新たな仕組みを導入
すでに述べた通り、リモートワークはほとんどの企業が実施している。コロナ前から積極的に実施していた企業も一部あるが、多くはもともと実施していない、もしくは子育てや介護をしている人などを対象としていて利用者が限られている企業だった。そうした企業がコロナを機にリモートワークを導入。実施率は企業によって差があるが、各企業が今後もリモートワークを継続することを決定・検討している。
20年に新たに取り入れたそのほかの働き方関連施策については、自由回答で47社から回答があった。回答をまとめると、「通勤定期券の廃止・都度清算化」(23社)した企業が最も多かった。次に、時差出勤やスーパーフレックス制度の導入など「勤務時間の柔軟化」(18社)を挙げる企業が多く、以降、「ペーパーレス化」「押印の一部または全部廃止」「電子契約の推進」(合わせて16社)、「在宅勤務手当(一時金・月次)」「リモートワーク環境整備費用の補助」(合わせて15社)、「サテライトオフィスの設置・増設」(6社)と続いた。
そのほか、少数回答だが、「オフィスの集約・リニューアル」や「勤務地限定制度の見なおし」「オンライン飲み会の費用補助」「役割等級制度の導入」、変わりダネでは「Apple Watchの全社員配布(セキュリティドア開錠、複合機印刷)」といった回答があった。
コロナ禍をきっかけに働き方を見なおし、多様な働き方の実現に向けて仕組みを整えようと、各企業が前向きに動いているようだ。
2021年の法人向けIT市場と自社業績
8割近くが市場のプラス成長を予想 DX需要を取り込んで自社業績も伸ばす
2020年ほどのコロナの影響はないと、多くの企業が期待も含めて予想する21年。法人向けIT市場の成長率はどうなると見ているのか聞いたところ、62%が「0~4%」と回答。さらに「5~9%」が13%、「10%以上」が2%と、トータルで77%の企業がプラス成長になると予想した。コロナをきっかけに民間企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資意欲の高まりを感じている企業が多く、また9月に予定されるデジタル庁の設立によって官公庁や自治体のデジタル需要を期待する声も強い。一方、コロナの悪影響が長引くことを懸念して、「▲5~▲1%」(6%)、「▲10~▲6%」(2%)とマイナス成長を予想する企業もある。
そうした市場の動きを想定した上で、自社業績の見通しについては、54%が「0~4%」、19%が「5~9%」、10%が「10%以上」と、市場のプラス成長を見込む企業よりも6ポイント多い、83%の企業が業績を伸ばすと予想している。11%は「▲5~▲1%」と見込むが、「▲10~▲6%」と回答した企業はなかった。
21年に特にIT投資が活発になりそうな産業については、「公共・教育機関」が25%で最多となった。「不況時には公共投資が増える傾向にある」として、公共需要を積極的に取り組もうとする企業の声も聞かれる。
次いで「金融・保険業」が21%、「流通・サービス」が19%、「製造業」が6%、「医療・介護」が2%と、20年とほとんど変わらない順位となった。「その他」も「情報サービス業」や「全業種」があったが、加えて「通信」「ネットワーク」などを挙げる企業があった。
2021年注目のキーワード
「AI」が今年もトップに「5G/ローカル5G」が新登場
トレンドの移り変わりが激しいIT業界で、特に今年の市場をにぎわせるだろうキーワードは何か。毎年の恒例でもあるこの質問に、39社が回答した。
1位は「AI」(8社)。17年の調査から継続してトップを飾っている。具体的には、感情認識や画像処理、AIOps(AIによるIT運用)、AI活用によるデータ分析などの回答があり、これらの業務への活用が進展すると見ていることがうかがえる。
2位には「5G/ローカル5G」と「セキュリティ」(ともに6社)が並んだ。5G/ローカル5Gは今回初登場で上位にランクインした。日本国内において5Gは20年春に通信キャリアが商用サービスを開始。企業や自治体が個別の用途に応じて特定エリア内に5G環境を構築できるローカル5Gについても、さまざまなところで実証実験が行われるようになっている。また、セキュリティは前年の5位から3ランクアップした。後を絶たないサイバー攻撃被害や、リモートワークの普及によるセキュリティリスクの高まりなどを背景に、セキュリティへの引き合いが高まっているもようだ。なお、「ゼロトラスト」と回答した企業は2社あった。
4位は、バズワード化している「デジタルトランスフォーメーション/DX」(5社)、5位は新常態を意味する「ニューノーマル」(3社)だった。いずれもコロナ禍をきっかけに使わるようになった、あるいは頻度が増えた言葉といえるだろう。
海外ビジネスの進捗
一部地域では「回復傾向」の声 2021年に巻き返しを図る
海外ビジネスを手掛ける企業に、海外の状況を自由回答で聞いたところ、24社から回答があった。
地域別にみると、コロナの影響が深刻な北米・欧州でのビジネスで制約を受けたりマイナス影響があったとする企業の回答が複数あった。一方で、世界で最初にコロナ感染が発覚した中国では、一時は影響を受けたものの「現在は回復傾向にある」と答えた企業があった。また、ASEAN地域の中でもベトナムについても、現地でビジネスを展開するある企業は「早期に回復してきている」と述べている。
依然としてコロナの脅威は収束の気配を見せず、今冬には第3波も到来している。現状、日本からの渡航者は各国で入国制限・行動制限が課されることもあり、簡単に現地に赴くことはできない。舵取りが難しい局面といえるが、回答企業の中には現状維持とする企業だけでなく、ASEANを中心に、海外ビジネスの一層の拡大を狙う企業も多くあった。コロナで受けたマイナス影響を挽回すべく、ビジネス展開を加速させようとしている。