Special Feature
リモートワークで注目高まるSaaS ERPの最新動向
2021/01/21 09:00
週刊BCN 2021年01月18日vol.1858掲載
日本マイクロソフト
CRMとERPで顧客とビジネスをつなげるDynamics 365
データ中心のアーキテクチャーでサイロ化を解消企業が今重視しているのは、クイックにビジネスにインパクトを出すこと。迅速に成果を得るためならば、独自開発をするのではなく、既に一般化しているものに業務を合わせていく。この企業の選択の変化が、現状のSaaSのニーズにつながっている。この動きは「コロナ禍以前からあった」と、日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部の大谷健本部長は話す。
マイクロソフトのSaaSを活用して、いち早く成果を出した事例がある。コロナ禍で海外への出張ができない中、海外工場で新たなラインを迅速に立ち上げたい。この要求にDynamics 365の「Remote Assist」(遠隔支援)とウェアラブルデバイス「HoloLens 2」の組み合わせで応えた。「TeamsでリモートからHoloLens越しに現地に指示を出し、Remote Assistを使い1カ月ほどでラインを立ち上げた」(大谷本部長)。SaaSなのでプログラミングなしで素早く対応し、費用も海外への出張費程度で済んだという。
このRemote Assistの事例は、コロナ禍を象徴するものだろう。一方でDynamics 365自体は、CRMとERPで幅広くビジネスをカバーしている。現状で好調な領域としては、コロナ禍で直接顧客を訪問できない営業を支援するために、デジタルでセールス、マーケティングを融合させる機能がある。またカスタマーサービスの機能も好調で、電話以外の連絡手段を含めたオムニチャネルを実現したいという案件も多い。さらにコールセンターの「密」を避けるため、在宅コールセンターの構築も新たなニーズだ。ERP領域では、サプライチェーンの最適化がある。コロナ禍で従来の予測が上手くいかず、サプライチェーンの見直しに取り組んでいる。
さまざまな領域で利用されるDynamics 365は、「データ中心アーキテクチャー」によりデータとプロセスが一気通貫に流れ、データのサイロ化を解消できる点が評価されている。さらにAzure基盤で動くので、世界65リージョンですぐに展開可能だ。充実したクラウドインフラにより、SaaSから生まれる「際限のないビッグデータの活用を支えられる」と大谷本部長は自信を見せる。
また多くの企業が採用するAzure Active Directoryも利用でき、データにも各種アプリケーションにも同じID管理基盤でアクセス制御できる。その上で、使い慣れたOffice製品をインターフェースに使える点も特徴だ。「普段使っているOutlookから出ずに、Dynamicsの機能が使える。これは当たり前すぎて、もはやマイクロソフトでは優位性と意識していないほど」と大谷本部長は語る。
個別要件にはPowerAppsで対応
Dynamics 365は、従来のERPのように足りないところをカスタマイズのつぎはぎで作る必要がないのが特徴という。「ちょっとしたカスタマイズはノーコード、ローコードででき、さらにPower Appsと組み合わせればローコードでかゆいところにも手が届く機能を追加できる」と大谷本部長。Dynamics 365はPower Platform基盤で提供されており、ここにはアプリケーション開発実行基盤のPowerApps、ワークフローの自動化を実現するPower Automate、データ活用のPower BIがあり、これらをDynamics 365と組み合わせて利用できる。さらにマイクロソフトにはIaaS、PaaS、SaaSのフルスタックサービスがあり、SaaSで足りないプロセスはIaaS、PaaSで柔軟に追加できる。Azure上のAI機能などとのインテグレーションも容易で、実績ある各種クラウドサービスと連携して使えることは、Dynamics 365の最大の魅力と言える。

日本企業は多くのカスタマイズ前提でERPを導入してきた。それに「慣れている」ことがDynamicsのビジネスをさらに拡大する上で大きな壁となっている。パートナービジネスもカスタマイズありきの中にあり、業務アプリケーションを一貫してSaaSで展開できることの理解がまだ進んでいない。むしろ顧客もパートナーもSaaSのメリットについてこられず、今までの高コストで時間のかかるやり方に合わせて欲しいとの要望すら出てくる。
顧客、パートナーの古いマインドを新しいDevOps的なSaaS活用のマインドに変革することを「日本のアウトソース型ビジネスモデルの中でどう実現するかが課題であり、それはまたチャンスでもある」と大谷本部長。そのための施策の一つとして、ベストプラクティスやツール、リソースおよび専門家のアドバイスを提供し、顧客の成功を支援する「FastTrack for Dynamics 365」も展開している。
また「SaaSの受注、導入を成果とするのではなく、SaaSを活用しDXで成功してもらうことを成果とする」と説明するのは、日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部の野村圭太氏だ。マイクロソフト内にはカスタマーサクセス部門があるが、同じような組織をパートナーにも作ってもらう。パートナーと一緒にカスタマーサクセスに取り組むことが、Dynamics 365のビジネスを成功させることにつながると考えているのだ。そのためには、どれだけ顧客に売れたかではなく、顧客がどれくらいSaaSを使っているかも、パートナービジネスにおける評価基準とする。
Dynamics 365はSaaS ERPとしての完成度も上がっており、オンプレミスのSAP ERPを刷新するような案件も増えている。とはいえそのような案件獲得に注力するよりは、データのサイロ化を解消し、顧客のDXニーズに合わせ他のクラウドサービスも活用しながら柔軟にアプローチする。それができることこそが、Dynamics 365の強みだと野村氏は強調する。
ネットスイート
中堅・中小企業のデジタル化を支援する
これまでも好調だったネットスイートのビジネスは、コロナ禍以降さらに問い合わせや引き合いが増えているという。「リモートワークが普及する中、SaaSの仕組みが注目を集めている。それを実感している」と話すのは、日本オラクル NetSuite事業統括の北村守本部長だ。コロナ禍ではなるべく社員が出社しないようになり、それでもビジネスが止まらないようバックオフィス業務のクラウド化に積極的に取り組む企業が増えている。「これまでERPはコストの削減が目的だったが、プロセスのデジタル化を目的に導入するようになっている」と言う。
ネットスイートは1998年に創業し、日本法人ができたのは2006年。16年にOracleに買収され、日本オラクル傘下でビジネスを展開している。SaaSの代表でもあるセールスフォース・ドットコムが対象とするCRMやマーケティング領域は、ERPに比べればミッションクリティカル性がそれほど高くなくSaaS化がしやすい。対してERPの基幹業務は、企業がクラウド化を躊躇してきた領域でもある。クラウド上でも安心してERPが利用できること、コストも安く運用管理の手間もかからないことを同社が日本市場に説明してきたことで、最近は、それが徐々に受け入れられ、SaaS ERPのビジネスは近年増加傾向にあった。

つまり、導入の増加は必ずしもコロナ禍が原因ではない。ERPを新たに導入するか更新時期を迎えた企業が、オンプレミスではなくクラウドを前提とするようになった。この変化の中では「もともとクラウドネイティブなSaaS ERPを提供する当社に優位性がある」(北村本部長)という。「ネットスイートはピュアクラウドのサービスで、SaaS ERPとして一日の長がある。特にデータの一元化を実現しているところは大きな特徴だ」(同)。
もう一つの特徴が、ERP導入ソリューションの「SuiteSuccess」だ。これは実績あるSaaS ERP導入メソドロジー(方法論)で、「インプリ(構築)というよりアクティベーションするイメージ」という。およそ100日という短期間でフルパッケージのERPを導入でき、導入初日から利用を始められると自信を見せる。
Fusion ERPとはすみ分け連携
短期間でフルパッケージのERPを導入できることで、米国などではスタートアップ企業が最初に選ぶERPとして評価されてきた。スタートアップ企業がビジネスに成功し会社規模が拡大しても、ネットスイートならERPを刷新する必要なく拡張して使い続けられる。ビジネスが拡大し多角化やグローバル展開する場合にも必要なプロセスが揃っており、別のパッケージに乗り換えたり追加したりせずに一つのネットスイートの中で完結できるのがメリットだ。
他にも、本社ERPにはオラクルの「Fusion Cloud ERP」などを導入し、海外拠点にネットスイートを導入する「2層型」での採用が増えている。進出したばかりで海外拠点の人数が少なくても、拠点で利用するビジネスアプリケーションにはフルスタック機能が必要だ。その上で各国の法規制やビジネスルール、言語、通貨などにも対応している必要がある。ネットスイートはもともとグローバルでの利用を前提に開発されており、利用人数などにも縛りはない。
また日本では中堅、中小企業において、予算管理をリアルタイムに実現したいとの要求が増えている。これまでは、それに対応できる仕組みは導入に手間がかかり、コストも高いものが多かった。ネットスイートではERPにリアルタイムな予算管理機能も一体化している。そのことが日本の中堅、中小企業にも理解され評価を高めている。
Fusion Cloud ERPとネットスイートは、機能的に重なるところもあるが、企業規模ですみ分けしており、日本オラクルのビジネスとして二つが競合することはないとしている。むしろ前述のような2層型の組み合わせも増えている。「社内で案件情報も共有しており、二つのサービスは上手くコラボレーションできている」と北村本部長は話す。
再販パートナー通じカバーを拡大
日本オラクル傘下に入ったことで、ネットスイートにはさまざまなメリットが生まれた。上場企業としてネームバリューが高まり「企業、サービスの信頼性は確実に上がっている」(北村本部長)。むしろ中小企業からは「日本オラクルのサービスなんて我々にはまだまだ手が出ないと思っていた」と言われることもあるほど、認知のされ方が変わったとのこと。
パートナーとの協業面でも、メリットがある。ネットスイート単独でビジネスをしていた時代から、SI企業を中心に協業体制はあった。それに加え、リセールに特化したパートナーが増えているのだ。これにより、よりきめ細かい市場カバレッジが可能となっている。「ネットスイートは顧客にリーチさえできれば、多くの場合選択してもらえる。そのための中小企業のカバー拡大を、パートナーの力を借りて実現する」と北村本部長。仮にパートナーのERP構築の経験が浅くても、SuiteSuccessを使い要件定義をすることで、開発負担なしでネットスイートなら導入できる。そのメリットをソフトウェアのリセールに強いパートナーに享受してもらい、中小規模の顧客にも提供していく。
さらに、帳票など日本独自の要件があることも理解しており、その部分はパートナーのソリューションをネットスイートに乗せてもらう。パートナーの仕組みとのインテグレーションも、アダプタなどを開発し対処する。こういったところにも注力することになる。日本では、昨年まで直販ビジネスが大きく伸びた。その成長は維持しつつ、今後はチャネルビジネスに一層力を入れると北村本部長。そして日本市場でERPのクラウド化が活性化すること自体が、同社にとっては大きな追い風になると強調する。

リモートワークの導入で生産性が落ちたという企業がある一方、むしろ生産性は上がったという企業もある。リモートワークの成功を支える一つの要因と考えられるのが、どこからでもアクセスできるクラウドの活用であり、基幹業務のデジタル化にはSaaS型のERPが有効だ。昨年国内でも導入が大きく伸びたというSaaS ERP大手3社に、最新の市場動向と戦略を聞いた。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
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