業種を問わず、多くの企業がデジタルテクノロジーを活用した新規事業や既存事業のアップデートに取り組み始めている。ただし、エンジニアの確保やデジタル活用のノウハウの蓄積など、そのための準備は一朝一夕に整うものではない。ならば、ITベンダーが非ITの実業に進出して、新しいデジタルビジネスのリファレンスをつくりあげるという考え方も有効ではないか。そんな動きが、第一次産業で加速しつつある。
(取材・文/石田仁志  編集/藤岡 堯)

待ちの姿勢からショーケースモデルへ

 デジタルトランスフォーメーション(DX)がブームとなり、各企業の経営計画の中には、軒並みデジタルを活用した新規事業という文言が登場している。ITベンダーにとって、この状況は商機であろう。しかし、従来の受託開発ビジネスのように「技術はあります」と言って待ちの姿勢でいては、チャンスを逃す可能性が高い。デジタル活用ブームの中、ユーザー企業は知見を得るために今まで外部任せだったシステム開発の内製化を進める方向にある。これはSI会社やソフト開発会社との関係が変化しつつある兆候とも言える。

 今までと同じことをしていては、SI会社やソフト開発会社のビジネスは先細っていく一方だ。ユーザー企業のDXやビジネスの成長を本質的に支援して十分な対価を得る工夫が必要になる。その文脈で差別化できる強みを得るための究極の方法とも言えそうなのが、ITベンダー自身が非ITの実業に乗り出し、デジタルビジネスの範を示すことだ。自らの実践をショーケースとして、成果が実証された業種ソリューションを売り込める上、ITベンダーの域を超え、ゲームチェンジャーとなって新たな市場を獲得できるかもしれない。もちろん、そこには共創やオープンイノベーションも必要になるだろうが、ユーザー企業とITベンダーの新たな付き合い方も見えてくる。

農林水産業のDXをITベンダーが実践

 そうした動きが顕著になっている代表的な産業領域が第一次産業(農林水産業)だ。第一次産業は就労人口の減少、高齢化、食糧自給率の下げ止まり、耕作放棄地の増加など課題が山積みであり、その解決策としてデジタル技術を活用できる余地は大きい。さらに、明確な生産物があり、利用できる土地が広いなどの物理的な要因から、ドローンやIoT、AIといった最新技術の活用もイメージしやすい。

 IT業界からの注目も大きく、スマート農業やアグリテックとしてソリューションも用意されてきたが、ITベンダーが単に技術をアピールするだけでは、本当に顧客に価値をもたらすことができるのか、疑問視される部分もあったと言える。ITソリューションを第一次産業の現場に届けるには、それが事業の成功に結び付くものであることをユーザーに理解してもらわねばならない。さらに言えば、生産性が高まって“儲かる”ことを実証する必要がある。こうした背景があり、情報通信企業が自らの事業として第一次産業を手がけ、DXを先導する事例が出てきているのだ。本特集では「デジタル一次産業」の専業会社を立ち上げ実業に挑戦する大手2社の動きを紹介する。