Special Feature
日本社会の課題を解決する海外スタートアップに目を向けよ 世界のテクノロジーと国内企業を結ぶJETROの取り組み
2021/12/02 09:00
週刊BCN 2021年11月29日vol.1901掲載

今年10月19日から開催された「CEATEC 2021 ONLINE」で、日本貿易振興機構(JETRO)が出展した「JETRO Global Connection」が国内外から注目を集めた。日本の社会課題に対するソリューションを提案する18の国と地域から、45社のスタートアップ企業が出展。これらの企業はJETROが実施したコンテストを通過した企業であり、質の高い技術やソリューションの提案をもとに、国内企業との協業が進められている。コロナ禍における新たなマッチングの仕組みとしても、その成果が期待されている。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
海外スタートアップと国内企業の協業事例が増加
JETROが、CEATECに出展するのは今年で3回目だ。2019年、スタートアップ企業や海外企業が出展する「Co-Creation PARK」内に、JETRO Global Connectionを初めて設置。15の国と地域から36社のスタートアップ企業が出展した。また20年は、コロナ禍でCEATECが初のオンライン開催となる中でも出展を継続。17の国と地域から45社が出展した。
JETROイノベーション・知的財産部イノベーション促進課の吉田悠吾・課長は、「JETROでは19年4月、オープンイノベーションの専門部署として、イノベーション促進課を設立し、海外の有望スタートアップなどとの協業、連携の支援を進めてきた。CEATECには課題意識を持った企業や自治体が出展、来場しており、JETROのイノベーション促進の活動と狙いが合致している」と語る。
CEATECがスタートアップ企業の出展を本格化させたのは、14年からだ。主催者特別企画展示としてベンチャーエリアを設置し、25社のスタートアップ企業が出展。さらに16年以降は海外企業の出展にも力を注ぎ、米、英、仏の各パビリオンなどを通じて、海外企業の出展が増加してきた。インドのIT業界団体であるNASSCOMとの連携で、インドのスタートアップ企業が出展するといった動きも定番化している。
また、同じく16年からは「脱家電見本市」を打ち出し、Society 5.0の総合展に転換。共創をテーマに掲げ、IT・エレクトロニクス産業以外からの出展も相次いでいる。18年には、国内外の設立9年以下のスタートアップ企業や大学、研究機関を対象にしたCo-Creation PARKがスタート。21年は、国内外から130社のスタートアップ企業や大学、研究機関がCo-Creation PARKに出展した。
JETRO Global Connectionでは、過去にもいくつかの協業成果が生まれている。AIを活用したハンドトラッキング技術を持つカナダのMotion Gesturesと、豆蔵K2TOPホールディングス傘下で画像処理技術に強みを持つセンスシングスジャパン(大阪)が協業。指を動かすだけで操作可能な非接触型デバイスを共同開発した。
また、AIによるメディカルデバイスの開発を行っているコロンビアのHuman Bionicsと、樹木の特殊伐採を行うマルイチ(新潟)による協業では、伐採に使用するクライミング装置を共同開発。さらに、マルイチは新会社のマルイチエアリアルエンジニアを設立して、Human Bionicsの人材を役員に迎え入れることで、同社の技術を活用した新たな事業展開を検討しているという。
ソーラーパネル清掃ロボットを開発・製造するインドのJetsons Roboticsは、同じくソーラーパネル清掃ロボットを手がける未来機械(香川)と協業。同業者でありながらも、市場ターゲットが重ならず、開発ノウハウや目的意識の共有などが可能になると判断し、インド市場向けの試作機の共同開発に乗り出している。
従来の大手企業を巻き込んだ協業とは異なり、国内外のスタートアップ企業同士の連携や、地方の企業との協業事例が生まれているのが特徴だ。
日本が抱える課題に特化したコンテストを初開催
今年のJETRO Global Connectionでは、これまでの取り組みを大きく進化させた。それが、JETROが初めて実施した海外スタートアップコンテスト「Japan Challenge for Society 5.0」との連動だ。正確に言えば、連動というよりも、CEATECへの出展内容の質的向上を図る狙いから開催したコンテストといっていいだろう。Japan Challenge for Society 5.0は、CEATECの主催者である電子情報技術産業協会(JEITA)と共催したコンテストで、日本が抱える社会課題への解決策を、全世界のスタートアップ企業を対象に募集し、その中から採択された45社が、CEATECに用意されたJETRO Global Connectionに出展できる仕組みとした。
募集テーマは、「環境配慮型社会への転換」「労働力減少への対応・生産性向上」「都市・地域のバランスのとれた成長」の3点(図参照)。カーボンニュートラルやフードテック、アグリテック、デジタルトランスフォーメーション、労働力不足、スマートシティ、輸送効率化など、多岐に渡るテーマが盛り込まれている。

JETROとJEITAでは、今年春からJapan Challenge for Society 5.0の実施について検討を開始した。JEITAの会員企業や、JETROとつながりがある海外スタートアップ企業と連携している国内企業など、1000人を対象に実施したアンケート結果をもとに、日本が抱える社会課題や、日本が足りないと思われる技術領域などを浮き彫りにし、募集する課題やテーマに選定。7月31日の締め切りまでに、世界53の国と地域から292件の応募があったという。
JETROでは、応募された提案内容を、大学教授をはじめとする有識者などにより審査。9月には、三つのテーマごとに15社ずつを選んだ。これらの企業が、今年のCEATECのJETRO Global Connectionに出展した。
「採択の際には、その企業が優れた技術やソリューションを持っているというだけでなく、日本の社会課題にマッチしているか、日本の企業が必要とする内容か、日本の企業と協業できる水準にあるのか、すでに実績があるのかといった点を、かなり厳しく審査した。日本の企業が高い課題意識を持っている項目については加点する一方で、日本の企業が技術を持っているような提案内容は、あえて取り上げないといったことも行った」(吉田課長)という。
昨年までは、モビリティ、ヘルステック、スマートホームといった領域ごとに出展企業を募ったが、ヘルステックひとつをとっても日本と世界の状況が異なる部分があり、日本の課題解決につながりにくいものもあった。そのため今年は、コンテストを通じて出展者の質的向上を図ったともいえる。
選定された企業は、インド、韓国、シンガポール、台湾、中国、カナダ、米国、英国、エストニア、オランダ、スイス、スウェーデン、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、イスラエル、トルコの18の国と地域に広がっており、スウェーデンおよびハンガリーのスタートアップ企業による出展は初めてとなった。
CEATEC来場者の多くがスタートアップの提案に関心
Japan Challenge for Society 5.0では、海外企業による以下のようなソリューションが採択された。「環境配慮型社会への転換」では、洋上太陽光発電を開発するスタートアップ企業や、オフィスや工場のエネルギーの見える化、最適化を図る企業のほか、フードテックやアグリテック関連企業が出展。飼料としても利用できる昆虫食の提案もあった。「労働力減少への対応・生産性向上」では、ハンコ型端末を利用したデジタル認証や、ロボット技術などを活用して建設業界における省力化や人手不足、環境対応を図るソリューションなど、デジタル化による課題解決を提案するケースが目立っている。また、「都市・地域のバランスのとれた成長」では、輸送車両やレンタカー、バスなどを効率的に運用、管理するソリューションや、地域コミュニティを活性化するための地域特化型SNSなどが含まれている。
短期間にこれだけの提案が集まったのは、課題先進国としてさまざまなことに挑戦している日本に対する関心が高まっていること、そして、JETROのこれまでの活動成果が評価されていることが背景にあるといえる。
テーマが協業案件だけに時間がかかり、まだ今年の成果を推し量ることはできないが、「今年のCEATEC 2021 ONLINEでも商談会が順調に進んでおり、エコ素材や建設業界向けサービスでは、協業や技術導入に向けた話し合いが継続している」(吉田課長)という。
会期中には、JETRO Global Connectionに出展したスタートアップ企業のブースを約1万6000人が訪問。CEATEC全体への来場者数が6万人超であったことと比較すると、多くの来場者が関心を持っていたことがわかる。また、CEATECではベンチャーキャピタルのPlug and Play Japanもピッチコンテストを開催したが、そこではJETRO Global Connectionに出展した3社が入賞し、提案のレベルの高さを示した。
採択された海外スタートアップには、CEATECへの出展機会だけでなく、専門家によるメンタリングを提供している。日本の状況を捉えた形で、ソリューションの進化や提案方法のブラッシュアップを行っているほか、全国47都道府県に設置しているJETROの事務所を通じたマッチングも行う。
また、11月30日までのCEATEC 2021 ONLINEのアフターイベント期間中には、アーカイブによって、JETRO Global Connectionに出展した各社のブース見学を可能としたほか、JETROがオンライン商談や面談の場などを設ける支援を継続している。CEATEC2021 ONLINEで協業の可能性が生まれた企業をはじめ、有望なスタートアップ企業を15社程度選定し、22年3月までに日本への招聘を予定。国内企業とのリアルな場での商談会やエコシステムツアーを実施するという。
今後も、JETRO Global Connectionに出展した海外スタートアップ企業と、課題解決を目指す国内の企業、自治体との交流、商談やマッチングに向けた支援を積極的に行っていく考えだ。
JETROの吉田課長は、「課題先進国と言われる日本が直面しているさまざまな課題を解決するためには、革新的なビジネスモデルや技術、人材などを持つ海外スタートアップ企業などとの連携が不可欠である。JETRO Global Connectionは、日本企業や自治体との連携、協業を通じた新たなビジネスの創出や課題解決を図ることを目指しており、CEATECへの出展だけでなく、面談や商談、マッチングに向けた支援も重視している」とする。
来年も引き続きJapan Challenge for Society 5.0を開催するかは現時点では未定だが、今回の成果や、来年のCEATECの開催がハイブリッド開催になるのかどうかといったことも含めて実施を検討していきたいという。
日本の社会課題の解決に向けて、JETROが仕掛ける取り組みが本格化している。

今年10月19日から開催された「CEATEC 2021 ONLINE」で、日本貿易振興機構(JETRO)が出展した「JETRO Global Connection」が国内外から注目を集めた。日本の社会課題に対するソリューションを提案する18の国と地域から、45社のスタートアップ企業が出展。これらの企業はJETROが実施したコンテストを通過した企業であり、質の高い技術やソリューションの提案をもとに、国内企業との協業が進められている。コロナ禍における新たなマッチングの仕組みとしても、その成果が期待されている。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
海外スタートアップと国内企業の協業事例が増加
JETROが、CEATECに出展するのは今年で3回目だ。2019年、スタートアップ企業や海外企業が出展する「Co-Creation PARK」内に、JETRO Global Connectionを初めて設置。15の国と地域から36社のスタートアップ企業が出展した。また20年は、コロナ禍でCEATECが初のオンライン開催となる中でも出展を継続。17の国と地域から45社が出展した。
JETROイノベーション・知的財産部イノベーション促進課の吉田悠吾・課長は、「JETROでは19年4月、オープンイノベーションの専門部署として、イノベーション促進課を設立し、海外の有望スタートアップなどとの協業、連携の支援を進めてきた。CEATECには課題意識を持った企業や自治体が出展、来場しており、JETROのイノベーション促進の活動と狙いが合致している」と語る。
CEATECがスタートアップ企業の出展を本格化させたのは、14年からだ。主催者特別企画展示としてベンチャーエリアを設置し、25社のスタートアップ企業が出展。さらに16年以降は海外企業の出展にも力を注ぎ、米、英、仏の各パビリオンなどを通じて、海外企業の出展が増加してきた。インドのIT業界団体であるNASSCOMとの連携で、インドのスタートアップ企業が出展するといった動きも定番化している。
また、同じく16年からは「脱家電見本市」を打ち出し、Society 5.0の総合展に転換。共創をテーマに掲げ、IT・エレクトロニクス産業以外からの出展も相次いでいる。18年には、国内外の設立9年以下のスタートアップ企業や大学、研究機関を対象にしたCo-Creation PARKがスタート。21年は、国内外から130社のスタートアップ企業や大学、研究機関がCo-Creation PARKに出展した。
JETRO Global Connectionでは、過去にもいくつかの協業成果が生まれている。AIを活用したハンドトラッキング技術を持つカナダのMotion Gesturesと、豆蔵K2TOPホールディングス傘下で画像処理技術に強みを持つセンスシングスジャパン(大阪)が協業。指を動かすだけで操作可能な非接触型デバイスを共同開発した。
また、AIによるメディカルデバイスの開発を行っているコロンビアのHuman Bionicsと、樹木の特殊伐採を行うマルイチ(新潟)による協業では、伐採に使用するクライミング装置を共同開発。さらに、マルイチは新会社のマルイチエアリアルエンジニアを設立して、Human Bionicsの人材を役員に迎え入れることで、同社の技術を活用した新たな事業展開を検討しているという。
ソーラーパネル清掃ロボットを開発・製造するインドのJetsons Roboticsは、同じくソーラーパネル清掃ロボットを手がける未来機械(香川)と協業。同業者でありながらも、市場ターゲットが重ならず、開発ノウハウや目的意識の共有などが可能になると判断し、インド市場向けの試作機の共同開発に乗り出している。
従来の大手企業を巻き込んだ協業とは異なり、国内外のスタートアップ企業同士の連携や、地方の企業との協業事例が生まれているのが特徴だ。
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- 今年のJETRO Global Connection 日本が抱える課題に特化したコンテストを初開催
- CEATEC来場者の多くがスタートアップの提案に関心
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