Special Feature
商機取り込みへ加速するITベンダー 自治体DX支援ビジネスが本格化
2022/02/07 09:00
週刊BCN 2022年02月07日vol.1910掲載

自治体向けデジタルトランスフォーメーション(DX)支援ビジネスが本格化してきた。2021年10月には、DXの基盤となる「ガバメント・クラウド」の対象が決まり、モデルケースとして先行事業に取り組む市町村も発表された。国の自治体DX推進計画では、22年度には行政手続きのオンライン化、25年度には情報システムの標準化・共通化の実現を掲げている。一方、市町村レベルの基礎自治体を中心にDXへの動きは鈍く、目標達成への見通しは明るいとは言えない。ただ、その遅れはITベンダーにとっては大きなチャンスだ。各社は支援専業の子会社を立ち上げたり、ソリューションのパッケージ化を図ったりするなど、商機とにらみ取り組みを加速している。
(取材・文/藤岡 尭)
総務省が20年12月に発表した自治体DX推進計画は、自治体DXの実現に向け、手続きのオンライン化やシステムの標準化・共通化、AI・RPAの利用促進、テレワークの推進など六つの重点取組事項が盛り込まれている。オンライン化やシステムの標準・共通化に関しては、国が策定する仕様に沿う形となるが、各自治体の業務実態に即した形でのシステム移行が必要となり、全庁的に業務や既存システムの変更を行うなど負担も少なくない。AI・RPAの利用、テレワーク推進についても、総務省はガイドブックや手引きによって、導入の進め方を示しているものの、ノウハウが乏しい自治体が単独で推進するには限界がある。
民間研究機関のデジタルトランスフォーメーション研究所が21年末に公表した調査結果によると、回答した全国280の自治体のうち、8割がDXに未着手の状況で、特に基礎自治体はその傾向が強く出ているという。同研究所では先行する自治体と遅れている自治体の差は、トップのコミットメントにあると指摘。加えて「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」の融合によるDX推進、国や他の自治体と共同で構築可能な施策を指す「非競争領域」における標準化・共通化などは、先進自治体でも広がっておらず、自治体単独ではなく、民間企業などからの支援が必要な可能性があるともまとめている。
NEC
官公庁向けメニューを体系化
自治体DX市場の立ち上がりを前に、ITベンダーは積極的に手を打ち始めた。NECは1月19日、行政のデジタル化支援に向け、クラウド環境への移行に関するソリューションメニューを「官公庁向けDXソリューション」として体系化し、提供を開始した。四つのソリューション群と連携するセキュリティソリューションで構成され、自治体の目的やセキュリティ要件などに合わせ、短期間でのクラウド移行・運用、アプリケーション開発などを支援する。これまでの行政におけるクラウド構築事例や運用ノウハウなどを、オファリング化して提供する方針だ。
第1弾として、既存システムをクラウド環境へ移行するための「クラウドインテグレーションソリューション」、ネットワークやプラットフォームを提供する「プラットフォームソリューション」、クラウド移行を支援する「セキュリティソリューション」を提供。今後、アジャイル開発やシステム開発の内製化を支援する「アプリケーション開発ソリューション」や、職員の新しいワークスタイルの実現に向けた「業務改革・ビジネス変革ソリューション」のメニューを順次追加していく。
自社提案で活用するだけでなく、他のSIerにも外販する。説明会でNECの中俣力執行役員常務は「イチから(システムを)つくるのではなく、すでにあるものをうまく使って試していただきたい。そういうビジネスのボリュームを増やしたい」と説明した。
オファリングメニュー以外にも、業務標準化に対応したクラウドサービスやハイブリッドクラウドを実現するための基盤、ハイブリッドクラウド上でのデータ連携を円滑化させるAPI連携用のプラットフォームなども投入していくとした。またNECのグループ会社であるKMD(デンマーク)が現地でのサービス展開で得た知見を日本国内で活用していく姿勢も強調した。デンマークでは官民で共通的に利用する基礎データとの連携の仕組みが整備されており、KMDは連携機能を担うプラットフォームを構築した実績がある。
25年度の売上目標では2000億円を掲げる。現時点での行政向けデジタルサービスと同規模だが、徐々にハードウェア領域の減少が見込まれており、サービス面の伸長で相殺していく。さらに行政に隣接する医療や教育などの分野の拡大も追い風としたい考えだ。
コニカミノルタとチェンジ 専業の合弁会社を設立
コニカミノルタの完全子会社であるコニカミノルタパブリテックは、AIサービスの提供やIT人材育成などを展開するチェンジと、自治体DX支援を手掛ける新会社「ガバメイツ」を4月1日に設立する。両社が持つ自治体の業務データや業務改革の知見、AI技術などを生かし、新たなプラットフォームを通じて、ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)やシステムの標準化・共通化、教育などを総合的に支援する。
社名は「Government」(行政)と「Mates」(仲間たち)を組み合わせた造語。自治体に寄り添い、共に課題を解決していく真のパートナーとしてありたいとの思いを込めた。デジタル活用に積極的に取り組む愛媛県松山市に本社を置き、地方から自治体DXを広げる姿勢を打ち出した。出資比率はチェンジが60%、コニカミノルタパブリテックが40%。
コニカミノルタパブリテックは、累計120自治体の職員約20万人分、190万件に及ぶ業務データを保有し、分析・可視化による自治体でのBPRや業務の整流化・標準化を手掛けている。チェンジは、官公庁向けAI開発やデジタル活用支援、デジタル人材育成を展開したほか、ふるさと納税のプラットフォームを提供する子会社を通じ、1600以上の自治体との取引実績やプラットフォーム運営のノウハウを有している。コニカミノルタ本体とチェンジは業務標準化支援AIを共同で開発しており、協業をさらに発展・加速させるため、新会社の設立に踏み切った。
事業の核となるのは、プラットフォーム「Govmates」だ。Govmatesには業務の可視化、分析、最適化、システム標準化の4サービスが用意される。ヒアリング調査などを通じて業務データを構造化し、そのデータを基に課題を抽出して解決策を検討した上で、それに適したソリューションを提供する。標準化については、両社が有する自治体ネットワークを通じて、システムの共同利用を実現するためのモデル構築を手助けする。

サービスを支えるクラウドツール「Govmates Pit」も合わせて提供する。自治体職員がクラウドにアクセスし、庁内の業務フローや手順書の一元管理、先進自治体の改善事例との比較が可能となる。両社が共同開発した業務標準化支援AIによる他自治体の改善事例の検索・閲覧にも対応し、業務の見直しに役立ててもらう。
販売は直販、パートナー経由どちらも積極的に展開する。ソリューション提供についても、全国規模の総合ベンダーからSaaSベンダーなど幅広く協業を進める。コニカミノルタパブリテックの別府幹雄社長は1月26日の記者会見で「(地方自治体に)システムを入れるには、地元のベンダーやパートナーと一緒に取り組むのが一番いい。(地方ベンダーと)競合するとは思っていない。ぜひお声がけをしていただきたい」と話した。チェンジの福留大士社長は「(自治体DXが)激しい競争環境の市場であることは間違いないが、競争よりも協調していきたい。われわれの持つデータを開放し、あらゆるベンダーと提携しながらビジネスを進めていく」と訴えた。現時点では、初年度に200~300自治体でのサービス導入を目標とする。
NTT東日本も子会社新設 コンサルから実装まで伴走
NTT東日本は1月31日、自治体や中小企業などのDXをコンサルティングから実装まで支援する完全子会社「NTT DXパートナー」を設立した。DX戦略の策定、プラットフォームやシステムのデザイン・構築・運用などを共創・伴走型で支える。NTT東日本グループが有する人材や技術、施設、ノウハウなどもシェアできる。25年度に売上高100億円以上を目指す。自治体向けの売り上げは全体の3~4割程度を想定する。社長はNTT東日本の矢野信二副社長が兼任する。
パートナーとの関係については、NTTグループをはじめ、SaaS企業、AIやデジタルプラットフォーマーと呼ばれるスタートアップ企業などとの連携を見込む。また、地域企業や自治体のニーズに応えることを前提として事業を運営するとし、NTTグループ内に限らず、パートナー企業の事業内容などを踏まえながら、最適なパートナーと協力する方針だ。
近年、行政に求められる役割は高度化・複雑化の一途をたどる。一方、新型コロナ禍でも浮き彫りになった通り、行政組織のマンパワーは充足しているとは言えない状況だ。限られた職員数で多様な住民ニーズに対応していくためには、生産性の改善は避けて通れない。自治体DXの実現は行政組織の未来を占う上で大きな意味を持つだろう。当面の伸長が期待される自治体DX市場にITベンダーはいかに向き合い、自治体の悩みにどう対応していけるか。ベンダーへの期待は大きく膨らんでいる。

自治体向けデジタルトランスフォーメーション(DX)支援ビジネスが本格化してきた。2021年10月には、DXの基盤となる「ガバメント・クラウド」の対象が決まり、モデルケースとして先行事業に取り組む市町村も発表された。国の自治体DX推進計画では、22年度には行政手続きのオンライン化、25年度には情報システムの標準化・共通化の実現を掲げている。一方、市町村レベルの基礎自治体を中心にDXへの動きは鈍く、目標達成への見通しは明るいとは言えない。ただ、その遅れはITベンダーにとっては大きなチャンスだ。各社は支援専業の子会社を立ち上げたり、ソリューションのパッケージ化を図ったりするなど、商機とにらみ取り組みを加速している。
(取材・文/藤岡 尭)
総務省が20年12月に発表した自治体DX推進計画は、自治体DXの実現に向け、手続きのオンライン化やシステムの標準化・共通化、AI・RPAの利用促進、テレワークの推進など六つの重点取組事項が盛り込まれている。オンライン化やシステムの標準・共通化に関しては、国が策定する仕様に沿う形となるが、各自治体の業務実態に即した形でのシステム移行が必要となり、全庁的に業務や既存システムの変更を行うなど負担も少なくない。AI・RPAの利用、テレワーク推進についても、総務省はガイドブックや手引きによって、導入の進め方を示しているものの、ノウハウが乏しい自治体が単独で推進するには限界がある。
民間研究機関のデジタルトランスフォーメーション研究所が21年末に公表した調査結果によると、回答した全国280の自治体のうち、8割がDXに未着手の状況で、特に基礎自治体はその傾向が強く出ているという。同研究所では先行する自治体と遅れている自治体の差は、トップのコミットメントにあると指摘。加えて「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」の融合によるDX推進、国や他の自治体と共同で構築可能な施策を指す「非競争領域」における標準化・共通化などは、先進自治体でも広がっておらず、自治体単独ではなく、民間企業などからの支援が必要な可能性があるともまとめている。
NEC
官公庁向けメニューを体系化
自治体DX市場の立ち上がりを前に、ITベンダーは積極的に手を打ち始めた。NECは1月19日、行政のデジタル化支援に向け、クラウド環境への移行に関するソリューションメニューを「官公庁向けDXソリューション」として体系化し、提供を開始した。四つのソリューション群と連携するセキュリティソリューションで構成され、自治体の目的やセキュリティ要件などに合わせ、短期間でのクラウド移行・運用、アプリケーション開発などを支援する。これまでの行政におけるクラウド構築事例や運用ノウハウなどを、オファリング化して提供する方針だ。
第1弾として、既存システムをクラウド環境へ移行するための「クラウドインテグレーションソリューション」、ネットワークやプラットフォームを提供する「プラットフォームソリューション」、クラウド移行を支援する「セキュリティソリューション」を提供。今後、アジャイル開発やシステム開発の内製化を支援する「アプリケーション開発ソリューション」や、職員の新しいワークスタイルの実現に向けた「業務改革・ビジネス変革ソリューション」のメニューを順次追加していく。
自社提案で活用するだけでなく、他のSIerにも外販する。説明会でNECの中俣力執行役員常務は「イチから(システムを)つくるのではなく、すでにあるものをうまく使って試していただきたい。そういうビジネスのボリュームを増やしたい」と説明した。
オファリングメニュー以外にも、業務標準化に対応したクラウドサービスやハイブリッドクラウドを実現するための基盤、ハイブリッドクラウド上でのデータ連携を円滑化させるAPI連携用のプラットフォームなども投入していくとした。またNECのグループ会社であるKMD(デンマーク)が現地でのサービス展開で得た知見を日本国内で活用していく姿勢も強調した。デンマークでは官民で共通的に利用する基礎データとの連携の仕組みが整備されており、KMDは連携機能を担うプラットフォームを構築した実績がある。
25年度の売上目標では2000億円を掲げる。現時点での行政向けデジタルサービスと同規模だが、徐々にハードウェア領域の減少が見込まれており、サービス面の伸長で相殺していく。さらに行政に隣接する医療や教育などの分野の拡大も追い風としたい考えだ。
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