岸田内閣が看板政策の一つとしている「デジタル田園都市国家構想」が、具体化に向けて動き始めた。デジタル技術を活用して地方が抱える課題を解決し、地方が自らボトムアップの形で活性化を図ることで、国全体の成長と、持続可能な経済社会の実現につなげる。2022年度までに5兆7000億円という巨大な予算はどのように投じられ、IT市場にいかなる影響を与えるのか。
(取材・文/日高 彰、安藤章司)

 「『デジタル田園都市国家構想』を実現するため、地方における官民のデジタル投資を大胆に増加させる“デジタル投資倍増”に取り組む」

 1月4日、岸田文雄首相は年頭の記者会見でこのように述べ、今年は「官民のデジタル投資を倍増」すると宣言した。首相は昨年12月6日の所信表明演説で「『新しい資本主義』の主役は地方。デジタルによる地域活性化を進め、さらには地方から国全体へ、ボトムアップの成長を実現していく」としたほか、今年1月17日の施政方針演説でも同内容を繰り返し、国と地方のデジタル化を成長戦略の中心に据える方針を強調。その具体的な施策となるのが、デジタル田園都市国家構想だ。
 
岸田文雄 首相

 この構想は降って湧いたものではなく、20年、自民党でIT関連の政策提言を行うデジタル社会推進特別委員会(当時の事務局長は牧島かれん衆議院議員)が、「デジタル・ニッポン2020」としてまとめたリポートの中で登場した。名称の下敷きとなったのは、1970年代に大平正芳元首相が提唱した「田園都市国家構想」。大都市集中型ではなく、都市と農村が融合した「田園都市」(現在で言う中核市の規模を想定)を全国津々浦々に生み、それらが自立しながら連携することで国を形成しようという国家観である。

 大平内閣では実現しなかったこのビジョンを、デジタル技術の力をもって作りあげようとするのが、岸田首相のデジタル田園都市国家構想だ。地方の活性化や、都市部と地方の格差解消といった課題は、何十年にもわたって政治の場で議論されてきたテーマの一つだったが、なぜ今のタイミングでこれが特に主要な政策として取りざたされるのか。言うまでもなく、背景にあるのはここ2年の新型コロナ禍である。

 保健所がコロナ対応の事務手続きで忙殺されるなど、自治体業務の効率化の遅れが浮き彫りとなり、民間においても紙ベースで構築された業務プロセスのせいで、バックオフィス部門が「ハンコ出社」を強いられるといったように、日本におけるデジタル技術の活用は官民ともに遅れが指摘されている。

 その一方で、オフィスへの出社が禁忌される状況に強制的に置かれたことで、テレワークは一気に普及した。場所を選ばないワークスタイルが広がった影響で、東京都への転入者は20年、21年と過去最低水準を更新しており、人々の意識はこれまでの東京一極集中から徐々に変わり始めている。コロナ禍で社会の構造が大きく変わった今、日本社会全体の課題となっているデジタル技術の普及を促進することで、高齢化や過疎化といった地方の課題を解決し、同時に岸田内閣が掲げる経済政策である「成長と分配」を実現していこうというねらいがこの構想にはある。