Special Feature
外資ベンダーの事例から探る コロナ後におけるオフィスのあり方
2022/12/12 09:00
週刊BCN 2022年12月12日vol.1949掲載
新型コロナ禍に伴うリモートワークの拡大により、働く場所の多様化が進んだ。コロナ禍が落ち着きを見せ、オフィス回帰の動きが表れつつある今だからこそ、経営層、労働者双方が「オフィスとは何のために存在するのか」という問いを考え直す必要がある。昨今、外資ベンダーを中心にオフィス空間を見直す動きが広がっている。各社の事例から、アフターコロナにおけるオフィスのあり方を探る。
(取材・文/藤岡 堯、岩田晃久)
コミュニケーションを実現する場に
クラウド型財務・人事アプリケーションを提供する米Workday(ワークデイ)の日本法人は7月、東京・六本木に新オフィスを構えた。コロナ禍前後の社内部門ごとのオフィス利用実績に基づき、ハイブリッドなワークスタイルで必要な座席数を設定。フリーアドレス制を採用することでワークスペースの座席数を最適化し、コミュニケーションやコラボレーションにつながるオープンスペースを増やした。滞在性を高めるキッチンやダイニングスペース、カフェテリアなども設置し、一つのオフィスの中で気分転換をしながら働ける環境を整えている。
ワークデイ日本法人の正井拓己社長(右)と荒井一広執行役員
正井拓己・エグゼクティブプレジデント日本法人社長は「コロナ後のオフィスは働く環境ではなく、従業員同士のコミュニケーション、コラボレーションを実現する場になるべきだ」とオフィスデザインの狙いを説明する。
その発想は、正井社長が社員一人一人と実施したラウンドテーブルで得られた声に基づく。社員からはリモートワークの難しさとして「雑談がなく疲れる」「新しい社員が入っても出会う機会がなく、心のつながりが持てない」などの課題感が多く寄せられたという。執行役員の荒井一広・マーケティング本部長は「働くことは自宅や別の場所でもできる。(オフィスは)社員同士が共同して、高い生産性を発揮できる場としたかった」と話す。
ワークデイのワークスペース。取材時も多くの社員が訪れ活気にあふれていた
リモートワークと生産性の関係について、正井社長は「社員がその時点で有しているスキルや経験に基づく生産性はリモート環境でも維持できるだろう。ただ、他者との関わりがシャットダウンされると、得られる知識や経験を増やしていくことが難しくなる。一人一人の経験やスキルを伸ばす観点からは、リモート環境には限界がある」との見方を示す。
オフィスを訪れ、同僚や上司との対話を通じて、新たな気づきや知識を得ることができれば、社員の成長につながる。社歴が浅い人であれば、企業文化に触れる機会にもなるだろう。成長できたという達成感や帰属意識の高まりによって、離職を抑える効果も期待できる。
ただし「素晴らしいオフィスだからといって、出社のモチベーションにつながるわけではない」(正井社長)。オフィスでのコミュニケーション、コラボレーションが、自己の成長につながる、という意識づけを社員一人一人に行い、出社することの価値を感じてもらうことが大切になる。同社では従業員が楽しめるイベントや戦略を全社員で共有する場などを設け、社員の出社を促すことで、出社の価値を経験できる機会を増やしている。
さまざまな取り組みは徐々に実を結んでいる。正井社長は「リモートの環境しかなかったころと比べれば、社員間のコラボレーションは加速されている。会社に対する帰属意識も高まってきたと感じる」と手応えを語る。
今後のオフィスのあり方に関し、正井社長は「働く環境ではなくなる」と強調した上で「社員の皆さんが、いかにコラボレーションしてお互いを高めあうことができるかが重要であり、その機会を創出できる環境を会社が提供できるかが大事になる」とした。
総務と人事の両輪で評価・改善を
SAPジャパンは9月、東京・大手町にオフィスを移転し、業務を開始した。新オフィスは▽フレキシブルな働き方をサポートする▽従業員のコラボレーションをサポートする▽新しいエコシステムをつくりだす──の3点をコンセプトとする。総務部の瓜田良介・オフィスプロジェクトプロジェクトマネージャーは「『この場所は何だ』ということを明確に示すことが重要だった」とコンセプトの意義を解説する。
SAPジャパン 瓜田良介 プロジェクトマネージャー
設計に際してはSAPジャパンもワークデイと同様に社員の意見を基に、社員同士のコミュニケーション、コラボレーションを重視したという。目を引くのは、小さな島で構成される各スペースが壁面に対して「斜め」の角度で配置されたレイアウトだ。移動時に目に入る情報量が増え、コミュニケーション機会の増加が期待できるという。デスクはすべてフリーアドレスだ。
SAPジャパンのオフィスの一部。
スペースが斜めに配置されている点が特徴だ(SAPジャパン提供)
独創的なレイアウトについて、瓜田プロジェクトマネージャーは「AIやロボットが出てくる中で、人間が働く価値は何かと言えば、知的生産性を上げるしかないだろう。そのために、昔のような碁盤目状のオフィスレイアウトでの働き方では生産性が上がらないと考えた」と振り返る。
ただし、このレイアウトが効果を発揮するには、組織が成熟していなければならない。指示待ちの従業員が多かったり、上司が常にチームメンバーと接していなければ評価ができなかったりとなれば、自由な働き方は実現しないだろう。瓜田プロジェクトマネージャーは「(同社では)人事評価の面などが(従来型の組織から)変わってきている。このベースがなければ、オフィスをいくら綺麗に、格好良くしてもうまく回らない」と話す。
これを踏まえれば、一般的にオフィスの設計・運営は総務部門の範疇と考えられているが、今後は人事領域とも深く関わってくると言えるだろう。瓜田プロジェクトマネージャーは「働きがいというキーワードからすれば、総務と人事の両輪を回していかなければならない」と話す。
加えて、これからはオフィスがもたらす効果を把握することが必要だと瓜田プロジェクトマネージャーは考える。「オフィスの三つのコンセプトが本当に実現できているのかということに対して、何を指標とし、その指標を基にどう改善まで持っていくかを次のステップとして取り組まなければならない」。つまり、従来の総務部門の業務にはあまり馴染みのない定量的な評価・改善の仕組みを構築することが求められる。総務がより人的資源(Human Resouces、HR)の領域に踏み込むことになり、その観点からも総務と人事がともに考えなくては「オフィスがよくならない」(瓜田プロジェクトマネージャー)。ハイブリッドワークの浸透がもたらした大きな変化は、実はオフィスのスタイルだけではなく「総務と人事の関係性、概念の変化にあるように思う」と瓜田プロジェクトマネージャーは推察する。必要なときに必要な分だけ
Okta Japanは10月、東京・渋谷に新オフィスを開設した。米国本社では「社員にとって最も合理的な場所で働く選択肢や働く時間の柔軟性を維持しながら、社員同士のコラボレーションやコミュニティ形成の機会を最大化する働き方」とする「Dynamic Work」をグローバルで推進しており、日本のオフィスもその考え方に基づいて設計されている。特に効果的なコラボレーションの実現に注力しており、最新のハードウェアを導入するなどして環境を構築した。
米国本社は、各国に進出する際、最初の2年間はコワーキングスペース「WeWork」を活用。その後、現地のオフィスを設ける仕組みを取っていることから、2020年9月設立のOkta Japanにとっては、今回が初の自社オフィスとなった。
オフィスの役割についてOkta Japanは「従業員が同僚やパートナー、お客様とコラボレーションできる物理的なスペースであり、必要なときに必要な分だけ利用できる場であるべきだと考えている」という。
そのため、すべての会議室に「Zoom Rooms」を設置。さらにコラボレーションシステムの「Neat Board」や、リアルタイムでホワイトボードに書いた情報を共有できる「Kaptivo」を導入するなどした。
オフィスの内と外をつなぐ「Zoom Rooms」。
すべての会議室に置かれている(Okta Japan提供)
加えて、個人のPCとは別に二つのモニターを標準装備。個室スペースとしてフォンブースを設置するなどして、社員の業務効率化を支援している。
新オフィスの開設後は、「世界中のオフィスの中で、社員の出社率が最も高いのが日本だ」という。社員からは、「社員同士のコラボレーションとコミュニケーションがしやすくなった」「効率よく仕事ができる」など好評を得ているとした。
オフィス内の各所にセンサーを設置、オフィススペースの利用状況を測定しており、そのデータを活用してオフィススペースを見直していく予定だ。
米国本社では、すべてのオフィスで、ウェルネスを考慮したオフィスを評価する「WELL Silver」認証と、オフィスのサステナブルを評価する「LEED Silver」認証の取得を進めており、日本オフィスでも取得を目指す。
Dynamic Workにおいて「オフィスは柔軟な働き方を推進するためのオプションの一つ」と位置付けており、安全に働ける環境を構築するのが何より重要だとしている。リモートワークをする従業員に対しては、社員専用のオンラインストアから無償でモニターや机、椅子などを購入できるようにしたり、インターネット利用料を会社が負担するといったサポートを行っている。
今後についてOkta Japanは、新型コロナ禍以前にように、従業員にオフィスへの復帰を求めることはせず、リモートファーストを推進していくという。その中で、オフィスは、「社員がコラボレーションして関係構築する機会を提供する場となる」としている。取材後記
3社の取り組みをみると、これからのオフィスは、作業するための場所から、コミュニケーションやコラボレーションのための空間へと変化していくことになりそうだ。リモートワークが悪かと言えば、もちろんそうではない。リモートによって時間にゆとりが生まれ、家族とより長く過ごせたり、自己研鑽を積めたりするなど、メリットは大きい。この双方の「いいとこどり」をしてこそ、初めて「ハイブリッド」と言えるだろう。
オフィスは経営層が従業員にどのように働いてほしいかというメッセージを具現化する方法でもある。単に設備を整えるだけではなく、自社にとって、どのような働き方が望ましいかを真剣に考えることが、コロナ後のオフィスのあり方を見つける近道なのかもしれない。
(取材・文/藤岡 堯、岩田晃久)

コミュニケーションを実現する場に
ワークデイ日本法人
クラウド型財務・人事アプリケーションを提供する米Workday(ワークデイ)の日本法人は7月、東京・六本木に新オフィスを構えた。コロナ禍前後の社内部門ごとのオフィス利用実績に基づき、ハイブリッドなワークスタイルで必要な座席数を設定。フリーアドレス制を採用することでワークスペースの座席数を最適化し、コミュニケーションやコラボレーションにつながるオープンスペースを増やした。滞在性を高めるキッチンやダイニングスペース、カフェテリアなども設置し、一つのオフィスの中で気分転換をしながら働ける環境を整えている。
正井拓己・エグゼクティブプレジデント日本法人社長は「コロナ後のオフィスは働く環境ではなく、従業員同士のコミュニケーション、コラボレーションを実現する場になるべきだ」とオフィスデザインの狙いを説明する。
その発想は、正井社長が社員一人一人と実施したラウンドテーブルで得られた声に基づく。社員からはリモートワークの難しさとして「雑談がなく疲れる」「新しい社員が入っても出会う機会がなく、心のつながりが持てない」などの課題感が多く寄せられたという。執行役員の荒井一広・マーケティング本部長は「働くことは自宅や別の場所でもできる。(オフィスは)社員同士が共同して、高い生産性を発揮できる場としたかった」と話す。
リモートワークと生産性の関係について、正井社長は「社員がその時点で有しているスキルや経験に基づく生産性はリモート環境でも維持できるだろう。ただ、他者との関わりがシャットダウンされると、得られる知識や経験を増やしていくことが難しくなる。一人一人の経験やスキルを伸ばす観点からは、リモート環境には限界がある」との見方を示す。
オフィスを訪れ、同僚や上司との対話を通じて、新たな気づきや知識を得ることができれば、社員の成長につながる。社歴が浅い人であれば、企業文化に触れる機会にもなるだろう。成長できたという達成感や帰属意識の高まりによって、離職を抑える効果も期待できる。
ただし「素晴らしいオフィスだからといって、出社のモチベーションにつながるわけではない」(正井社長)。オフィスでのコミュニケーション、コラボレーションが、自己の成長につながる、という意識づけを社員一人一人に行い、出社することの価値を感じてもらうことが大切になる。同社では従業員が楽しめるイベントや戦略を全社員で共有する場などを設け、社員の出社を促すことで、出社の価値を経験できる機会を増やしている。
さまざまな取り組みは徐々に実を結んでいる。正井社長は「リモートの環境しかなかったころと比べれば、社員間のコラボレーションは加速されている。会社に対する帰属意識も高まってきたと感じる」と手応えを語る。
今後のオフィスのあり方に関し、正井社長は「働く環境ではなくなる」と強調した上で「社員の皆さんが、いかにコラボレーションしてお互いを高めあうことができるかが重要であり、その機会を創出できる環境を会社が提供できるかが大事になる」とした。
総務と人事の両輪で評価・改善を
SAPジャパン
SAPジャパンは9月、東京・大手町にオフィスを移転し、業務を開始した。新オフィスは▽フレキシブルな働き方をサポートする▽従業員のコラボレーションをサポートする▽新しいエコシステムをつくりだす──の3点をコンセプトとする。総務部の瓜田良介・オフィスプロジェクトプロジェクトマネージャーは「『この場所は何だ』ということを明確に示すことが重要だった」とコンセプトの意義を解説する。
設計に際してはSAPジャパンもワークデイと同様に社員の意見を基に、社員同士のコミュニケーション、コラボレーションを重視したという。目を引くのは、小さな島で構成される各スペースが壁面に対して「斜め」の角度で配置されたレイアウトだ。移動時に目に入る情報量が増え、コミュニケーション機会の増加が期待できるという。デスクはすべてフリーアドレスだ。
スペースが斜めに配置されている点が特徴だ(SAPジャパン提供)
独創的なレイアウトについて、瓜田プロジェクトマネージャーは「AIやロボットが出てくる中で、人間が働く価値は何かと言えば、知的生産性を上げるしかないだろう。そのために、昔のような碁盤目状のオフィスレイアウトでの働き方では生産性が上がらないと考えた」と振り返る。
ただし、このレイアウトが効果を発揮するには、組織が成熟していなければならない。指示待ちの従業員が多かったり、上司が常にチームメンバーと接していなければ評価ができなかったりとなれば、自由な働き方は実現しないだろう。瓜田プロジェクトマネージャーは「(同社では)人事評価の面などが(従来型の組織から)変わってきている。このベースがなければ、オフィスをいくら綺麗に、格好良くしてもうまく回らない」と話す。
これを踏まえれば、一般的にオフィスの設計・運営は総務部門の範疇と考えられているが、今後は人事領域とも深く関わってくると言えるだろう。瓜田プロジェクトマネージャーは「働きがいというキーワードからすれば、総務と人事の両輪を回していかなければならない」と話す。
加えて、これからはオフィスがもたらす効果を把握することが必要だと瓜田プロジェクトマネージャーは考える。「オフィスの三つのコンセプトが本当に実現できているのかということに対して、何を指標とし、その指標を基にどう改善まで持っていくかを次のステップとして取り組まなければならない」。つまり、従来の総務部門の業務にはあまり馴染みのない定量的な評価・改善の仕組みを構築することが求められる。総務がより人的資源(Human Resouces、HR)の領域に踏み込むことになり、その観点からも総務と人事がともに考えなくては「オフィスがよくならない」(瓜田プロジェクトマネージャー)。ハイブリッドワークの浸透がもたらした大きな変化は、実はオフィスのスタイルだけではなく「総務と人事の関係性、概念の変化にあるように思う」と瓜田プロジェクトマネージャーは推察する。
必要なときに必要な分だけ
Okta Japan
Okta Japanは10月、東京・渋谷に新オフィスを開設した。米国本社では「社員にとって最も合理的な場所で働く選択肢や働く時間の柔軟性を維持しながら、社員同士のコラボレーションやコミュニティ形成の機会を最大化する働き方」とする「Dynamic Work」をグローバルで推進しており、日本のオフィスもその考え方に基づいて設計されている。特に効果的なコラボレーションの実現に注力しており、最新のハードウェアを導入するなどして環境を構築した。米国本社は、各国に進出する際、最初の2年間はコワーキングスペース「WeWork」を活用。その後、現地のオフィスを設ける仕組みを取っていることから、2020年9月設立のOkta Japanにとっては、今回が初の自社オフィスとなった。
オフィスの役割についてOkta Japanは「従業員が同僚やパートナー、お客様とコラボレーションできる物理的なスペースであり、必要なときに必要な分だけ利用できる場であるべきだと考えている」という。
そのため、すべての会議室に「Zoom Rooms」を設置。さらにコラボレーションシステムの「Neat Board」や、リアルタイムでホワイトボードに書いた情報を共有できる「Kaptivo」を導入するなどした。
すべての会議室に置かれている(Okta Japan提供)
加えて、個人のPCとは別に二つのモニターを標準装備。個室スペースとしてフォンブースを設置するなどして、社員の業務効率化を支援している。
新オフィスの開設後は、「世界中のオフィスの中で、社員の出社率が最も高いのが日本だ」という。社員からは、「社員同士のコラボレーションとコミュニケーションがしやすくなった」「効率よく仕事ができる」など好評を得ているとした。
オフィス内の各所にセンサーを設置、オフィススペースの利用状況を測定しており、そのデータを活用してオフィススペースを見直していく予定だ。
米国本社では、すべてのオフィスで、ウェルネスを考慮したオフィスを評価する「WELL Silver」認証と、オフィスのサステナブルを評価する「LEED Silver」認証の取得を進めており、日本オフィスでも取得を目指す。
Dynamic Workにおいて「オフィスは柔軟な働き方を推進するためのオプションの一つ」と位置付けており、安全に働ける環境を構築するのが何より重要だとしている。リモートワークをする従業員に対しては、社員専用のオンラインストアから無償でモニターや机、椅子などを購入できるようにしたり、インターネット利用料を会社が負担するといったサポートを行っている。
今後についてOkta Japanは、新型コロナ禍以前にように、従業員にオフィスへの復帰を求めることはせず、リモートファーストを推進していくという。その中で、オフィスは、「社員がコラボレーションして関係構築する機会を提供する場となる」としている。
取材後記
出社とリモートの「いいとこどり」を
3社の取り組みをみると、これからのオフィスは、作業するための場所から、コミュニケーションやコラボレーションのための空間へと変化していくことになりそうだ。リモートワークが悪かと言えば、もちろんそうではない。リモートによって時間にゆとりが生まれ、家族とより長く過ごせたり、自己研鑽を積めたりするなど、メリットは大きい。この双方の「いいとこどり」をしてこそ、初めて「ハイブリッド」と言えるだろう。オフィスは経営層が従業員にどのように働いてほしいかというメッセージを具現化する方法でもある。単に設備を整えるだけではなく、自社にとって、どのような働き方が望ましいかを真剣に考えることが、コロナ後のオフィスのあり方を見つける近道なのかもしれない。
新型コロナ禍に伴うリモートワークの拡大により、働く場所の多様化が進んだ。コロナ禍が落ち着きを見せ、オフィス回帰の動きが表れつつある今だからこそ、経営層、労働者双方が「オフィスとは何のために存在するのか」という問いを考え直す必要がある。昨今、外資ベンダーを中心にオフィス空間を見直す動きが広がっている。各社の事例から、アフターコロナにおけるオフィスのあり方を探る。
(取材・文/藤岡 堯、岩田晃久)
コミュニケーションを実現する場に
クラウド型財務・人事アプリケーションを提供する米Workday(ワークデイ)の日本法人は7月、東京・六本木に新オフィスを構えた。コロナ禍前後の社内部門ごとのオフィス利用実績に基づき、ハイブリッドなワークスタイルで必要な座席数を設定。フリーアドレス制を採用することでワークスペースの座席数を最適化し、コミュニケーションやコラボレーションにつながるオープンスペースを増やした。滞在性を高めるキッチンやダイニングスペース、カフェテリアなども設置し、一つのオフィスの中で気分転換をしながら働ける環境を整えている。
ワークデイ日本法人の正井拓己社長(右)と荒井一広執行役員
正井拓己・エグゼクティブプレジデント日本法人社長は「コロナ後のオフィスは働く環境ではなく、従業員同士のコミュニケーション、コラボレーションを実現する場になるべきだ」とオフィスデザインの狙いを説明する。
その発想は、正井社長が社員一人一人と実施したラウンドテーブルで得られた声に基づく。社員からはリモートワークの難しさとして「雑談がなく疲れる」「新しい社員が入っても出会う機会がなく、心のつながりが持てない」などの課題感が多く寄せられたという。執行役員の荒井一広・マーケティング本部長は「働くことは自宅や別の場所でもできる。(オフィスは)社員同士が共同して、高い生産性を発揮できる場としたかった」と話す。
ワークデイのワークスペース。取材時も多くの社員が訪れ活気にあふれていた
リモートワークと生産性の関係について、正井社長は「社員がその時点で有しているスキルや経験に基づく生産性はリモート環境でも維持できるだろう。ただ、他者との関わりがシャットダウンされると、得られる知識や経験を増やしていくことが難しくなる。一人一人の経験やスキルを伸ばす観点からは、リモート環境には限界がある」との見方を示す。
オフィスを訪れ、同僚や上司との対話を通じて、新たな気づきや知識を得ることができれば、社員の成長につながる。社歴が浅い人であれば、企業文化に触れる機会にもなるだろう。成長できたという達成感や帰属意識の高まりによって、離職を抑える効果も期待できる。
ただし「素晴らしいオフィスだからといって、出社のモチベーションにつながるわけではない」(正井社長)。オフィスでのコミュニケーション、コラボレーションが、自己の成長につながる、という意識づけを社員一人一人に行い、出社することの価値を感じてもらうことが大切になる。同社では従業員が楽しめるイベントや戦略を全社員で共有する場などを設け、社員の出社を促すことで、出社の価値を経験できる機会を増やしている。
さまざまな取り組みは徐々に実を結んでいる。正井社長は「リモートの環境しかなかったころと比べれば、社員間のコラボレーションは加速されている。会社に対する帰属意識も高まってきたと感じる」と手応えを語る。
今後のオフィスのあり方に関し、正井社長は「働く環境ではなくなる」と強調した上で「社員の皆さんが、いかにコラボレーションしてお互いを高めあうことができるかが重要であり、その機会を創出できる環境を会社が提供できるかが大事になる」とした。
(取材・文/藤岡 堯、岩田晃久)

コミュニケーションを実現する場に
ワークデイ日本法人
クラウド型財務・人事アプリケーションを提供する米Workday(ワークデイ)の日本法人は7月、東京・六本木に新オフィスを構えた。コロナ禍前後の社内部門ごとのオフィス利用実績に基づき、ハイブリッドなワークスタイルで必要な座席数を設定。フリーアドレス制を採用することでワークスペースの座席数を最適化し、コミュニケーションやコラボレーションにつながるオープンスペースを増やした。滞在性を高めるキッチンやダイニングスペース、カフェテリアなども設置し、一つのオフィスの中で気分転換をしながら働ける環境を整えている。
正井拓己・エグゼクティブプレジデント日本法人社長は「コロナ後のオフィスは働く環境ではなく、従業員同士のコミュニケーション、コラボレーションを実現する場になるべきだ」とオフィスデザインの狙いを説明する。
その発想は、正井社長が社員一人一人と実施したラウンドテーブルで得られた声に基づく。社員からはリモートワークの難しさとして「雑談がなく疲れる」「新しい社員が入っても出会う機会がなく、心のつながりが持てない」などの課題感が多く寄せられたという。執行役員の荒井一広・マーケティング本部長は「働くことは自宅や別の場所でもできる。(オフィスは)社員同士が共同して、高い生産性を発揮できる場としたかった」と話す。
リモートワークと生産性の関係について、正井社長は「社員がその時点で有しているスキルや経験に基づく生産性はリモート環境でも維持できるだろう。ただ、他者との関わりがシャットダウンされると、得られる知識や経験を増やしていくことが難しくなる。一人一人の経験やスキルを伸ばす観点からは、リモート環境には限界がある」との見方を示す。
オフィスを訪れ、同僚や上司との対話を通じて、新たな気づきや知識を得ることができれば、社員の成長につながる。社歴が浅い人であれば、企業文化に触れる機会にもなるだろう。成長できたという達成感や帰属意識の高まりによって、離職を抑える効果も期待できる。
ただし「素晴らしいオフィスだからといって、出社のモチベーションにつながるわけではない」(正井社長)。オフィスでのコミュニケーション、コラボレーションが、自己の成長につながる、という意識づけを社員一人一人に行い、出社することの価値を感じてもらうことが大切になる。同社では従業員が楽しめるイベントや戦略を全社員で共有する場などを設け、社員の出社を促すことで、出社の価値を経験できる機会を増やしている。
さまざまな取り組みは徐々に実を結んでいる。正井社長は「リモートの環境しかなかったころと比べれば、社員間のコラボレーションは加速されている。会社に対する帰属意識も高まってきたと感じる」と手応えを語る。
今後のオフィスのあり方に関し、正井社長は「働く環境ではなくなる」と強調した上で「社員の皆さんが、いかにコラボレーションしてお互いを高めあうことができるかが重要であり、その機会を創出できる環境を会社が提供できるかが大事になる」とした。
この記事の続き >>
- 総務と人事の両輪で評価・改善を SAPジャパン
- 必要なときに必要な分だけ Okta Japan
- 取材後記 出社とリモートの「いいとこどり」を
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