主要な複合機メーカーは、プリント需要の中長期的な減少を見越して、ビジネスの主軸をITソリューションに広げる動きを加速させている。とりわけ一般オフィスでの需要の伸び悩みが危惧されており、オフィス領域に強いリコーとキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)、富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)は、複合機で培った顧客基盤や販売・保守網を駆使したビジネスの拡大を急ぐ。複合機とITソリューションを連動させたり、かねてから力を入れてきたドキュメント領域を発展させたりするなど、独自の成長戦略を描いている。
(取材・文/安藤章司)
リコー
デジタルサービス比率を6割余りへ
リコーは2023年度(24年3月期)から新しい3カ年中期経営戦略をスタートさせ、「OAメーカーからデジタルサービス会社に変わる」(大山晃社長)方針を継続する。複合機やプリンタ、PFUのドキュメントスキャナなどハードウェア製品を、業務システムの端末「エッジデバイス」と位置づけ、その上にドキュメントやワークフロー、業種向けアプリ、サービスを構築する独自のアーキテクチャー「RICOH Smart Integration(RSI)」を軸にデジタルサービスを展開する考えだ(図参照)。
RSIの接続対象となるエッジデバイス群も、デジタルサービスの一部と見なしている。22年度の売上高全体に占めるデジタルサービスの比率が44%だったのに対して、中期経営戦略の最終年度となる25年度には6割余りに引き上げる。売り上げ目標は、25年度の全社目標の2兆3500億円のうち、デジタルサービスは1兆4800億円を見込んでいる。
RSI上で稼働するアプリは、中堅・中小企業向けの業種・業務パッケージ「スクラムシリーズ」や、サイボウズと協業して開発した「RICOH kintone plus」、ドキュメント管理の「DocuWare」などが推進エンジン役を担う。22年度を振り返ると、とりわけスクラムシリーズが好調に推移し、シリーズ全体の売上高は前年度比34%増の1071億円となり、初の1000億円超を達成した。
スクラムシリーズは、リコーグループ内外の優れた業務アプリやサービスを体系化しており、中小企業向けにはカスタマイズなしですぐに使える「スクラムパッケージ」を提供。中堅企業向けにはカスタマイズが可能な「スクラムアセット」として販売している。
スクラムパッケージの22年度の売上高は、前年度比2%増の494億円と微増にとどまった一方で、販売本数は前年度比7.5%増の8万2177本と過去最高を更新。スクラムアセットの販売金額は、同84%増の577億円と大きく伸びるとともに、年度末の追い込みに相当する第4四半期(1~3月)は106%増と売り上げを倍増させている。
22年10月に投入したRICOH kintone plusは、営業担当者の育成プログラムの効果もあり、契約数が堅調に伸びている。すでに北米市場に投入済みで、欧州市場にも順次展開していくことから欧米主要市場での売り上げも見込む。
大山社長は「デジタルサービス分野で一流になるには、海外でも国内同様にデジタルサービスを展開する必要がある」と述べ、海外のベストプラクティスを積極的に取り込み、世界の主要市場で実績を積んでいく方針を示す。ドイツ発祥のDocuWareをはじめ、ドキュメント関連やビデオ会議などの映像関連の事業を手がける欧米企業のM&Aも積極的に取り組んでおり、これらの商材もRSIプラットフォームに乗せて、世界市場への横展開を進める。
一方、伸び悩みが懸念される複合機やトナーなどの販売ついては、他社との協業やOEM提供先の拡大など、生産体制の強化や構造改革を進めることで市場縮小の影響を極力打ち消していく。その一環として、東芝テックと複合機の共通エンジン部分を共同開発する合弁会社を本年度第1四半期(4~6月)中に立ち上げることを発表。共通エンジン開発には数年かかる見込みで、効果は次期中計で顕在化する見通し。
キヤノンMJ
“攻めのIT”の領域に進出
キヤノンMJは、25年度(25年12月期)までの4カ年中期経営計画でITソリューション(ITS)事業を3000億円に伸ばす目標を掲げる。足元のITS事業の22年度売上高は2414億円で、売上高全体に占める割合は41%だが、これを25年度には5ポイント増の46%まで高める。キヤノンMJグループには年商1000億円超の準大手SIerのキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)が存在感を示しており、複合機メーカー販社ではトップクラスのSI能力を持っている。
キヤノンMJは、顧客層を中堅・大手の「エンタープライズ」と、中小企業の「エリア」の二つに大別してITSビジネスの戦略を立てる。エンタープライズ向けには複合機メーカー販社として培ってきた大規模ドキュメントの管理や、キヤノンITSが強みとする数理技術を応用した需要予測、ローコード開発ツール「WebPerformer」を活用した高速開発などのキヤノンMJグループならではの商材を前面に押し出す。
ドキュメントの管理では、電子取引管理サービスの基盤となり、電子帳簿保存法に準拠した帳票類の保管や業務システム連携、ワークフローを担う「DigitalWork Accelerator」を22年末に投入。請求書受け取りサービスや、受発注業務を自動化するEDIシステム、財務会計などのアプリと連携させるとともに、業種向けの個別アプリの開発にWebPerformerを駆使するなどしていく予定だ(図参照)。
一方、エリア向けには中小企業の業務デジタル化を支援する「HOME」や、セキュリティ対策や保守運用支援を体系化した「まかせてIT」シリーズなど、契約すればすぐに利用できるサービス群を主軸に据える。まかせてITシリーズはこれまでセキュリティや運用といった“守りのIT”がメインだったが、23年4月からは営業支援などの経営変革やそれに伴うIT研修を新しくメニューに加えて“攻めのIT”の領域に進出している。
キヤノンMJは、25年までの成長投資として2000億円を投じる予定。23年の年初に開催した中期経営計画の説明会で足立正親社長は「当社グループの特色あるITS商材やセキュリティ、新規事業の創出、さらには3棟目となる自社データセンター新棟も検討する」と語り、ITS事業の売り上げ3000億円の達成に向けてアクセルを踏み込んでいく姿勢だ。
富士フイルムBI
独自商材の拡充などで事業規模を拡大
富士フイルムBIは、ITソリューション事業に相当するビジネスソリューション事業の売上高を27年度(28年3月期)に4000億円に増やす目標を掲げる。22年度の同事業の売上高は前年度比8.5%増の2826億円と堅調に伸びており、向こう5年間のうちに中堅・中小企業向けのITソリューション独自商材の一層の拡充や、マイクロソフト製ERP「Dynamics 365」の外販事業を立ち上げることで事業規模の拡大を狙う。
富士フイルムBI 阪本雅司 専務
ITソリューションの一翼を担う商材として、建設や製造、医療、福祉サービスの重点4業種に焦点を当てたITソリューション体系「Bridge DX Library」を22年5月に投入。20種類のラインアップでスタートしたが、1年余りが経過した現在は146種類まで充実させている。
また、中堅・中小向けのIT資産の運用支援などをメニュー化した「IT Expert Services(ITエキスパートサービシーズ、旧称IT Expert Service)」を全面刷新して6月30日からサービスを始める。PCやサーバー、ネットワーク、複合機、セキュリティなどユーザー企業が必要とする運用支援サービスを選べるようにしたのが特徴で、「PC1台から利用できるように使い勝手を改善した」(ビジネスソリューション事業を指揮する阪本雅司専務)。Bridge DX Libraryと組み合わせて、直販ならびにビジネスパートナー経由で販売し、23年度中に国内ユーザー約1万社の利用を見込む。
IT Expert Servicesの前身となるサービスは、グループ傘下でオーストラリアに本社を置くCodeBlue(コードブルー)が開発したサービスで、今回は中小企業がより使いやすいよう改良した。阪本専務は「全面刷新したIT Expert Servicesは国内の販売だけにとどまらず、年内をめどにASEANなどアジア主要市場に横展開していく」と意欲を示す。