主要SIer3社の2023年度(24年3月期)決算は、国内事業を中心に堅調に推移したことで売上高、営業利益ともに増収増益で着地した。海外売上高比率の高いNTTデータグループと野村総合研究所(NRI)は、主に北米の金利高などによるIT投資の減速で苦戦。成長市場のASEANを主な進出先としているTISは、海外の事業環境の変化の影響は限定的だった。NTTデータグループは、データセンター(DC)事業などを手がけるNTT Ltd.(NTTリミテッド)が通期で連結対象となったことで25年度までの中期経営計画を4兆円強から4兆7000億円へと上方修正。NRIは25年度までの中計売上高8100億円の目標を据え置く。TISは26年度までの新中計で売上高6200億円、うち海外売上高1000億円を目標に掲げる。
(取材・文/安藤章司)
NTTデータグループ
NTT Ltd.フル連結で大幅伸長
NTTデータグループの連結決算は、英国に本社を置くNTT Ltd.が通期で連結対象となったことから、売上高は前年度比25.1%増の4兆3673億円、営業利益は同19.5%増の3095億円と大きく伸びた。NTT Ltd.が海外でDCビジネスなどを手がけているため、海外売上高も前年度比41.2%増の2兆6545億円、EBITA(利払い・税引き・無形資産減価償却前利益)は同49.2%増の1665億円へと大幅に拡大している。
既存のSIビジネスを見ると、金利高などで事業環境が必ずしも良好でない北米の売上高が前年度比1.3%減の5867億円と振るわず、円安の為替影響で373億円のプラス効果があったものの減収となった。NTTデータグループの本間洋社長は「利益率を重視し案件を厳選した」とし、北米のEBITAは前年度比でプラス4億円の423億円を確保。事業統合費用など一過性の費用を除くと43億円の増加で着地している。
NTTデータグループ 本間 洋 社長
EMEA(欧州・中東・アフリカ)中南米地域の既存SIビジネスは、為替のプラス影響もあり売上高で前年度比19.6%増の8285億円、EBITAで同25.8%増の376億円と大きく伸びた。国内は公共、金融、法人の各事業セグメントがともに好調に推移し、売上高で前年度比6.2%増の1兆7570億円、営業利益で13.9%増の2151億円と着実な伸長を果たした。NTT Ltd.を除く既存SIビジネスは、国内とEMEA中南米の伸びが低調だった北米をカバーし、全体を押し上げたかたちになっている。
NTTデータグループは23年度、海外事業の事業統合や構造改革の費用として460億円余りを投じてITインフラの統合や不採算事業を縮小、撤退させた。24年度はさらに300億円の予算を組んでグループ全体の事業統合を推し進め、相乗効果を高めていく。NTT Ltd.のDC事業では23年度3905億円を投じて13カ所のDCを新設。足元で世界約30都市、約120棟のDCを展開するまで拡大させている。
DC事業やネットワーク構築を強みとするNTT Ltd.と既存SI事業との連携を深めた成果として、23年度は「受注ベースで1300億円を超える相乗効果を得られた」(本間社長)。NTT Ltd.と各国・地域の既存SI事業会社を連携し、北米のフォークリフトメーカー向け交通管理基盤の構築案件や、北米大手生命保険会社向けITアウトソーシング案件、南アフリカの製薬企業向けに「SAP S/4HANA」移行プロジェクトなどを、NTT Ltd.を含むグループ連携によって受注している。
NTTデータグループでは25年度までの3カ年中期経営計画で、連結売上高4兆円超を目指すとしていたが、NTT Ltd.がフル連結となったことを受けて、25年度の目標を4兆7000億円に設定し直した。M&Aや構造改革など一時的な費用を除く連結営業利益率を足元の8.5%から10%、海外EBITAを8.6%から10%へ高める目標は据え置く。
6月には国内事業会社であるNTTデータの佐々木裕社長が、持ち株会社のNTTデータグループ社長を兼務するとともに、海外事業会社NTT DATA, Inc.の社長にアビジット・ダビー・エグゼクティブ・バイス・プレジデントが就任する新体制へ移行し、中計目標達成を目指す。
野村総合研究所
国内好調で海外減収を跳ね返す
NRIの業績は連結売上高、営業利益ともに増収増益で着地したものの、海外売上高は前年度比4.6%減の1175億円と振るわなかった。国内事業が伸びたことで「海外の減収を跳ね返して増収増益となった」と、柳澤花芽社長はコメントした。
NRI 柳澤花芽 社長
NRIの主な海外進出先は北米と豪州で、北米ではコロナ禍期間のIT投資増の反動減や金利高などの外部環境の変化で、比較的小規模なITプロジェクトはユーザー企業の社内で完結させる内製化傾向が強まった。北米ITソリューション事業の主要子会社のCore BTS(コアBTS)は一時的な費用を含めて30億円半ばの赤字を計上している。
コアBTSの業績不振を打開するため、NRI ITソリューションズアメリカやNRIアメリカなど北米に進出しているほかのNRIグループ会社と開発体制の一体化や、共同営業といった連携を加速させ、グループの経営資源を効率化する。グループ内の連携や業務改革で収益力を高めつつ、外部環境の本格的な回復は「24年度下期以降になる見通し」(柳澤社長)とし、豪州についても同様の傾向が見られるとしている。
国内では金融と産業の二つの主要事業セグメントにおけるIT投資が底堅く推移しており、NRIの強みであるユーザー企業トップへの提案力、コンサルティング力を生かした「顧客共創」型の伴走ビジネスを引き続き伸ばしていく。加えて技術革新が著しい生成AIを新しい成長エンジンとしてユーザー企業の業務でのAI活用を強力に推進するとともに、NRI自身のプログラム開発やテスト業務でAIを使った効率化に取り組む。24年度はAI関連サービスの開発や生産革新に約100億円の研究開発投資を行う予定だ。
生成AIが強みとするコミュニケーション能力を生かし、販売や接客といったフロントエンド領域への導入を進める同時に、必要に応じて基幹システムから在庫情報などを読み取る「フロントエンドとバックエンドの連携」(同)を推進。生成AIと基幹システムとの連携などのコンサルティング案件を中心に、既におよそ100件の案件が進行中という。NRI社内の生産革新では、大小合わせて約160件のプロジェクトにAIを活用し、プログラム生成では最大40%、テスト自動化では最大85%の生産性向上を達成したケースもあるという。
24年度の売上高は前年度比5.9%増の7800億円、営業利益は同9.6%増の1320億円を見込む。売上高増加分434億円の内訳は国内が8割、海外が2割で、営業利益増加分115億円は国内が6割、海外が4割を想定している。25年度までの3カ年中期経営計画では、売上高8100億円、うち海外1500億円、営業利益率17.9%の目標に向けて「おおむね直線的に伸びていく水準」(同)を維持していく方針を示す。
TIS
戦略ドメイン比率80%に高める
TISの連結売上高は前年度比8.0%増の5490億円、営業利益は同3.6%増の645億円と大きく伸びた。主力のSIビジネスが堅調に推移したことに加え、財務会計・税務パッケージ開発などを手がける年商約70億円の日本ICSの連結子会社化の効果などが後押しした。23年度を最終年度とする前の3カ年中期経営方針で掲げた売り上げ目標5000億円に対しては490億円の上振れ、営業利益目標580億円に対しても65億円の過達で着地している。
競争力や収益力を一段と高めるため、TISではユーザー企業の経営戦略に密着する戦略的パートナーシップ施策や、独自のITオファリング商材を拡充するなどの「戦略ドメイン」を定義し、重点的に取り組んだことで同ドメインの売上高比率は前中計期間中に51%から61%へと拡大させている。
また、24年度から始まった新しい3カ年中期経営計画では、26年度までに売上高6200億円、うち海外売上高1000億円(23年度は336億円)、営業利益率13.1%(23年度は11.8%)を目標に掲げる。新中計では資本業務提携も含むM&Aの予算を、前中計の倍余りの700億円に設定。日本ICSのような特定分野に強いベンダーや、競争力あるITオファリングを有するベンダーに投資することを想定している。社内向けには人材育成や研究開発、製品開発に300億円を投じる予定だ。
新中計発表のタイミングで32年度までの「グループビジョン2032」も公表しており、向こう3回の3カ年中計を経て「年商1兆円への成長を視野に」(岡本安史社長)入れつつ、併せて戦略ドメインの一部見直しを行っている。
TIS 岡本安史 社長
既存の戦略ドメインに加えて金融や健康などの領域における社会課題を解決する取り組みや、業際的なパートナーシップによる価値共創ビジネスなどを新設し、同ドメイン比率を32年度まで80%へ高めることで収益構造を一層強固なものにしていく。