【フィンランド・ヘルシンキ発】セキュリティー製品ベンダーのWithSecure（ウィズセキュア）は、グローバルの年次イベント「SPHERE24」を、本社を置くフィンランド・ヘルシンキで5月28、29の両日（現地時間）開催した。システムのぜい弱性の有無を継続的にスキャンし、攻撃を未然に防ぐための新サービス「Exposure Management（エクスポージャー・マネジメント）」を発表。イベントに先立ち、生成AIツール「Luminen（ルミネン）」も発表しており、セキュリティー管理の自動化に注力する姿勢を鮮明にした。アンティ・コスケラ暫定CEOは、人員が不足しセキュリティー対策に不安を抱える中堅・中小企業へパートナーを通じて販売を拡大する考えを示した。
（取材・文／堀 茜）
 

攻撃対象は拡大の一途

　イベントのオープニングに登場したコスケラ暫定CEOは、「サイバーセキュリティーにおいて、依然として中堅・中小企業が取り残されている状況が続いている」と警鐘を鳴らした。「これまでサイバーセキュリティーのプレイブック（対策手順）が大手企業向けに作られてきた中、犯罪者はランサムウェア攻撃の組織化などをしており、今や誰もがサイバー犯罪を行えるような状況だ」と話し、企業の規模にかかわらず高いレベルのセキュリティー対策が求められていると指摘した。
 
　犯罪者が先進的なテクノロジーを利用して攻撃手法を巧妙化させることはもちろん、デジタル化が進展したことでアタックサーフェス（攻撃対象）が拡大し、子会社や取引先などサプライチェーン上でぜい弱な部分を突かれるなど、セキュリティー課題は拡大している。サプライチェーンに連なる中堅・中小企業をセキュアにすることが求められており「攻撃者がどのように攻撃したいのかを理解し、自社のアタックサーフェスを理解する必要がある」（コスケラ暫定CEO）。これに対応するため、同社はEPP（エンドポイント保護製品）やEDR（Endpoint Detection and Response）を軸としたセキュリティープラットフォーム「WithSecure Elements Cloud」に、エクスポージャー・マネジメントを追加すると発表した。
   

侵入経路の判定や、支援ツールなどにAI活用

　エクスポージャー・マネジメントは、アタックサーフェスマネジメントを含む包括的なセキュリティー可視化ソリューション。パブリッククラウドの設定ミスなどを発見するアイデンティティーセキュリティー管理にも対応する。また、特徴的な機能として、マルウェアなどにどの経路から侵入される可能性が高いかをAIが判定し、可能性がより高い経路での対処を推奨する「アタックパスマッピング」を搭載する。

　中堅・中小企業およびパートナーであるセキュリティーサービスプロバイダー向けに設計されており、セキュリティー担当者が少人数でリソースが足りない企業は、チャットによって対応方法のガイダンスを受けることもできる。ユーザーまたはサービスプロバイダーが管理するWithSecure Elements Cloud上で利用可能。新サービスは、2024年後半からの提供を予定している。

　また、同社はイベントに先立ち、生成AIベースのツールであるルミネンを発表した。生成AIアシスタントとして動作するフクロウのキャラクターがUIで、セキュリティーイベントのサマライズやレポート作成、脅威インテリジェンスの要約などを自然言語によって行う。日本語にも対応する。大規模言語モデル（LLM）を活用し、セキュリティーインシデントの詳細な分析、アクションの自動化、状況に則したインサイトの提供を行うことで、人員に限りのあるセキュリティーチームにおける作業負荷の軽減と生産性の向上、企業のサイバーセキュリティー能力の向上に貢献するとしている。WithSecure Elements Cloudを導入していれば、追加料金なしで利用できる。

顧客との関係維持に注力

　同社がセキュリティー対応にAIを活用する方針は鮮明だ。イベントに先立ち、記者説明会を開催したコスケラ暫定CEOは、製品でのAI活用について「サイバーセキュリティーを簡単にしていく必要がある」と狙いを語った。同社がターゲットとする企業規模は、社員が200人から2000人程度。1人の担当者がすべてのセキュリティー関連業務を担っているケースも少なくないという。「1人がすべてに対応することはできない。ルミネンを起動すれば、対応を自動化できる」と意義を強調。生成AIが組み込まれたツールをモジュール形式で提供することで、サイバーセキュリティー専門部隊（SOC）を持たない中堅・中小企業でも高度なセキュリティー対応が可能になるとした。

　エクスポージャー・マネジメントについては、反応型の製品から予防型の製品に移行する必要があると解説。ぜい弱性を発見し、優先順位をつけて対応することがあらゆる企業に求められているとした。コスケラ暫定CEOは「中堅・中小企業は良好なセキュリティー製品を必要としている。ミッドマーケットのサイバーセキュリティーの水準をあるべきレベルに高めていく」と展望。パートナーを通じて製品を販売し、管理運用をウィズセキュアがまかなうことで、協業によりビジネスを拡大していくとした。

　経営面については、SaaSベンダーとして、製品の売上継続率が重要な指標となり、サービスの解約率を下げることに重きを置いているとした。同社の継続率は101％だと説明し「顧客と継続的に良い関係を築いている」。22年にコンシューマー向け部門と分社化して以降も経営は順調だと説明した。

　日本市場については、昨年と同程度の売り上げを確保しているとして、「当社は日本においても良いパートナーを持っている」。新サービスの発表で、日本でもさらなる拡販を期待していると話した。

日本でのパートナー販売を拡大

　イベントには、日本法人の藤岡健社長も参加。日本から16社の販売パートナーを招き、本社役員らとの人脈づくりや製品への理解を深める場として交流した。日本法人は、グローバルで展開するパートナープログラムを国内でも導入し、地方企業への販売を強化する方針を示している。イベントに参加したパートナーの中には新しくパートナーになった企業もあり、新たに発表したサービスも含めて同社の製品に触れた。国内では訴求が手薄になっている大都市圏以外での拡販も含め、間接販売を強化していく。
 
　新サービスの販売戦略についてイベント中に週刊BCNの取材に応じた藤岡社長は「エクスポージャー・マネジメントは、競合ベンダーのEPPやEDRなどの製品を導入している企業にも、ぜい弱性を可視化する管理ツールとして活用してもらえる点を訴求していきたい」と展望した。エクスポージャー・マネジメントによってぜい弱性を継続的に監視することで、優先的に対処すべきインシデントを発見できる。そこで、ネットワークを総合的に分析したり、システムを改修したりといったフェーズで、パートナーが請け負えるビジネスが拡大する点も、パートナーが新サービスを取り扱うメリットとして挙げた。

　販売先の企業規模は、本社があるフィンランドと比較し、人口が多く経済規模も大きい日本市場においては、エンタープライズから優先してアプローチした上で、中堅・中小まで幅広くターゲットとしたいとし、製造業、流通業などサプライチェーンを広くもつ業種に拡販したい考えを示した。「2次、3次請けの企業がサイバー攻撃を受けて被害が大きくなるリスクが高い業界向けに（新サービスを）提案していきたい」（藤岡社長）。

　パートナープログラムは24年10月にエントリーを開始し、25年1月から運用を予定する。マネージドサービスプロバイダーやディストリビューター向けのプログラムを用意する方向で、製品トレーニングやマーケティング支援などを提供する。資料やツールなどを公開するパートナー向けポータルの日本語化も進める。

犯罪集団がブランド化、攻撃にAI活用の動きも　主席研究員がサイバー攻撃の現状を解説

　イベント開催に合わせ、同社のミッコ・ヒッポネン・主席研究員がメディア向けセッションを開き、サイバー攻撃の最新状況について解説した。
 
　最近のサイバー犯罪組織の傾向として、ブランディングに注力している点を指摘。「恐ろしげなブランドを構築することで、標的となる企業や個人を威嚇し、より容易に犯罪を成功させる狙いがある。ランサムウェア集団のLockBitも、ブランディングしている組織の一例だ」と解説した。ランサムウェア集団は、身代金さえ払えばデータが戻り、二度と狙われることはない、といった評判を構築しようとしていると説明。「そのため、彼らはテクニカルサポートを運営しており、ファイルが戻るようサポートもしてくれる。良い評判がなければ誰も身代金を払わなくなるためだ」

　セキュリティーの専門家として、「身代金を払わないように」とアドバイスをするものの、重要なインフラが標的になったケースではやむを得ず身代金を払うケースも数多く存在するという。「石油パイプラインや医療関連、さらには警察が身代金を払ったケースも複数回ある」と実情を明かした。

　サイバー犯罪集団の特徴として、ドルやユーロといった通貨ではなく、仮想通貨のビットコインを使っている点も指摘。「現金だと金の流れが突き止められるが、ビットコインであれば誰にも知られることなく送金できる。ビットコインの価値は何倍にも膨れ上がっており、犯罪者は税金も払わないため、その分、資金も潤沢だ」と実態を指摘した。

　また「AI技術が犯罪にも悪用され始めており、AIを活用したマルウェアやディープフェイクが登場している」と懸念を示した。生成AIを含め新しいテクノロジーの進化スピードは目を見張るものがあるとしつつ「技術革新にはメリットだけでなく、デメリットもある。発明を取り消すことはできないのだから、その両面を受け止め、対策していかなくてはならない」と述べた。