「NEXT GIGA」とも呼ばれているGIGAスクール構想第2期がいよいよスタートする。2020年度から本格化したGIGAスクール構想第1期に整備された「児童生徒1人1台」の端末の更新が目的で、第2期全体では約1000万台の端末の整備が想定されている。だが、新たな課題が生まれるとともに、教育市場におけるPCメーカーの勢力図にも変化が起きそうだ。GIGAスクール構想第2期の前夜を追った。
(取材・文/大河原克行 編集/日高 彰)
ベンダーへの要求範囲は拡大
GIGAスクール構想第2期では、耐用年数を迎えた端末を今後5年程度をかけて計画的に更新することになる。政府による補助金額は、第1期よりも端末1台あたり1万円増額して5万5000円とし、本体とともに、ペンなどの周辺機器、端末管理システム(MDM)なども導入することになる。児童生徒数の15%以内の予備機も補助対象となった。
すでに発表されている第2期向けの端末を見ると、第1期での反省を生かした改良が進められていることがわかる。例えばNECでは、GIGAスクール端末の修理件数を分析した結果、全体の6割以上が落下による破損だったことに着目。第2期向けとして発表した「Chromebook Y4」では、TPU(熱可塑性ポリウレタン)素材を端末外周に一体成形し、弾力性と強さを実現した。また、ゴム足が取れてしまったという問い合わせが多かったことから、ゴム足の交換を可能にするといった工夫も施した。販売店によるバッテリー交換も可能だ。机の上に置いた鉛筆の芯がUSBポートに刺さらないように、端子の高さを調整するなど、想定外の不具合を防ぐ細かい工夫もある。
NECが10月に発表した「Chromebook Y4」。
鉛筆の芯が刺さらない高さに端子を配置した(写真右)
同社スマートデバイス統括部の加藤賢一郎・上席プロフェッショナルは、「第2期は、すでに環境が整っている中で学びを止めないスムーズな入れ替えが求められ、既設端末のリユースや処分の問題にも対応する必要がある」とし、ベンダー側に必要な対応が第1期とは異なることを指摘する。第2期では、端末の買い取りや処分、データの消去、予備機の保管、キッティングサービスの拡充、物損への対応を含んだサポートなどが、新たに求められる要素になるという。
第2期では、政府負担で都道府県に基金を創設し、補助金を交付する方式を採用する。第1期の市区町村単位での調達からの大きな変化で、スケールメリットを生かした調達コストの削減や、教員同士の活用ノウハウの共有を促進できることなどが期待されている。
だが、案件が大型化・広域化することで、前回の調達を支えた地域販社が入札に参加しにくい状況も生まれている。現場の販社からは、「都道府県単位での共同調達によって、大量の端末の供給力をもつことや、集中する出荷時期に合わせたキッティングへの対応力が必要になるほか、与信の観点でも課題が生まれる。共同調達に対応できるのは、大規模な全国系販社や通信事業者に限定される可能性がある」との声が挙がる。
調査会社のMM総研は8月、GIGAスクール構想第1期で端末を納品した事業者43社に聞き取り調査を実施した。それによると、「第2期の共同調達に応札する」と明言したのはわずか4社にとどまったという。
さらに事態をややこしくさせているのが、Windows 10の延長サポートが25年10月に終了するため、GIGAスクール第2期とPCの買い替え需要がピークを迎える時期が重なるという点だ。
MM総研は、7~8月に全国1741の全ての市区町村への電話調査を実施。1279の市区町村から有効回答を得た。その結果、第2期での端末調達を25年度に行う市区町村が全体の68%に上ることがわかったという。文部科学省の計画でも、25年度までに全体の約7割を整備することとなっており、特需期とピークが重なる。PCの調達や流通がさらに混乱する可能性があるというわけだ。
調達予定の端末単価は、政府補助金の範囲内である5万5000円以内とする市区町村が71%を占めた。5万6000円以上は15%で、そのなかでは6万円台が多く、最大では8万円台を想定している自治体もあったという。
学校の“Windows離れ”が進む可能性
第2期ではOSやメーカーの勢力図にも変化が起きそうだ。文部科学省が発表している第1期のOS別シェアを見ると、ChromeOSのシェアが42%となり、Windowsの29%、iPadOSの29%を上回った。国内PC市場全体(タブレットを除く)では9割以上をWindowsが占めているのに比べると、まったく異なる市場構成比となっている。
しかも第2期では、ChromeOSのシェアがさらに拡大する可能性が高い。MM総研の調査によると、第2期の調達方針を決めている市区町村のうち、57%がChromeOSを選択していることがわかった。iPadOSは28%とほぼ横ばいだが、Windowsは15%にまで縮小。まさに、WindowsのシェアをChromeOSが浸食する格好だ。
ChromeOSが勢いを維持すると見込まれる理由の一つを、MM総研では次のように指摘する。
「本体と周辺機器や端末管理ソフトを補助金額である5万5000円以内に収めることを念頭に置くと、クラウドと処理を分散することで端末価格を比較的安価に抑えやすいChromebook(ChromeOS搭載端末)を選択しやすいと考えられる」
予算という観点で、性能を重視すると単価が高くなるWindows PCや、キーボードなどの追加投資が必要になるiPadよりも導入しやすいと考えているのだ。
また、第1期でWindowsを導入した学校では、「PCの起動に時間がかかる」「OS更新に時間や手間がかかる」といった指摘があり、これが学びを止める事態につながっていたことが報告されている。
5月に東京都内で開催された教育分野向け専門展示会「第15回EDIX(教育総合展)東京」の特別公演に登壇した、日本マイクロソフト執行役員常務の佐藤亮太・パブリックセクター事業本部長は、「Windowsは端末の管理が大変だという声を、現場から数多くもらっている。OSのアップデートなどにより、Windowsが原因となって学びを止めていたという指摘があり、GIGAスクール構想を支える企業の1社として本当に申し訳なく思っている。ご迷惑をおかけして申し訳ない」と、聴講していた教育関係者を前に深々と頭を下げた。
同社の公共事業のトップが公の場で陳謝する異例の事態からも、Windowsの運用が、教育現場において大きな問題となっていることが示される。
日本マイクロソフトでは、OSの更新プログラムのダウンロードサイズを最大4割削減しているほか、授業を中断しないように、適切なタイミングでアップデートが行えるようにしていること、推奨設定の告知を徹底することで起動が遅いという課題を解決できることなどを説明。佐藤執行役員常務は、「GIGA端末をもっと使いやすくするという観点から改良を加えている。第2期に向けても大きな改善をしている」と強調した。
MM総研の調査では、第2期で「OSを切り替える」とした市区町村は12%、「検討中もしくは未定」は24%となっており、「OSを切り替えない」が64%となっている。だが、Windowsを採用していた393市区町村では、「OSを切り替える」との回答が21%に達しており、全体よりも9ポイント高い。ここからもWindows離れの状況が浮き彫りになる。日本マイクロソフトは、運用面において改善を進めていることを、しっかりと伝えることが重要になる。
教育向け施策を強化するグーグル
ChromeOSがシェア拡大にさらに弾みをつけると考えられるもう一つの要素が、米Google(グーグル)日本法人が教育分野に向けて、積極的な施策を開始している点にある。
具体的には、現状の環境を確認して更新を行う「継続導入サポート」、Chromebookを使用したことがない学校を対象に、端末貸出や実証を支援する「トライアルサポート」、グーグルのクラウドサービスの初期設定やアカウントの作成、移行支援を行う「新規導入サポート」、第1期端末の無償回収や処分を行い、更新を行いやすくする「リサイクルサポート」などを用意している。
また、第10世代「iPad」の価格は5月に1万円下がり、5万8800円に改定された。同じタイミングで価格を改定した機種よりも値下げ幅が大きいことから、第2期を視野に捉えた施策であることがわかる。5万5000円の予算内には入らないが、第1期で導入したiPadを下取りすることで予算内に収める提案が可能であり、あとは第10世代のiPadを、需要に則して供給できるかがかぎになる。
一方のWindows陣営は、動きに停滞感がみられる。日本マイクロソフトでは、公共事業を担当しているパブリックセクター事業本部において、GIGAスクールを担当していた文教営業統括本部を解消し、横並びの位置にあった地方自治体などを担当する公共・社会基盤統括本部に統合した。予算内で調達できる端末のハード性能や運用面について、教育委員会からも課題が指摘されているWindows陣営にとっては、対策を明確にして伝えることや、サポート体制の強化が必要だが、それらを推進するには、同社の体制に不安が残るのは明らかだ。
ChromeOSへのシフトは、メーカーの戦略からも明らかになっている。例えばNECは、第1期にはWindowsとChromebookの合計で約160万台のPCを出荷したが、第2期においてはChromebookを先行して発表。これだけで28年度までに200万台の出荷を目指す計画を明らかにし、第2期ではChromebookを主力としてシェア拡大に挑む姿勢を明らかにした格好だ。
共通仕様書に基づいた共同調達の仕組みも、都道府県単位でOSを統一する動きにつながり、これがChromeOSを採用する動きを加速することになりそうだ。日本の教育市場においてはChromeOSが標準OSになるという世界が、GIGAスクール構想第2期によって確立されるのだろうか。