Special Feature
パナソニックHDは「AIの企業」になれるか 「Panasonic Go」が導く企業変革の道
2025/02/13 09:00
週刊BCN 2025年02月10日vol.2047掲載
パナソニックホールディングス(HD)は1月8日、AIを活用したビジネスを推進する企業成長イニシアティブ(行動計画)「Panasonic Go」を発表した。2035年までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア、ソリューション事業をグループの売り上げ全体の約30%の規模に拡大する目標を掲げ、いわば、パナソニックグループが「AIの企業」になることを宣言した格好だ。その道はビジネスにおけるAI活用の促進にとどまらず、企業風土の変革にも続く。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
それだけに、今回の基調講演で、楠見グループCEOがどのような発信をするのかに注目が集まっていた。そこで発信された内容が、Panasonic Goであった。Panasonic Goは特定の技術や製品、サービスを指すものではない。グループが培ってきた知見や技術、ハードウェアを最大限に活用しながら、AIを組み合わせることで、競争力の高いビジネスへと変革させ、さまざまな領域において、「お役立ち」を果たすという意思表示だ。楠見グループCEOは、「Panasonic Goによる変革を通じて、パナソニックグループの全てが変わる」と言い切った。
CES 2025で「Panasonic Go」について説明する
楠見雄規グループCEO
現状、AIを活用した事業の占める割合は1桁台であり、今後10年間で、これを3倍に引き上げるという計画だ。Panasonic Goを推進するため、AI開発やプラットフォーム構築への投資、ソフトウェア開発人材の育成を進めることも明らかにした。さらに、Panasonic Goの推進に向けて、米Anthropic(アンソロピック)とのグローバルな戦略的提携を発表した。アンソロピックのAIアシスタント「Claude」を活用し、グループが製品を通じて接点を持つ10億人の顧客に対して、パーソナライズしたサービスを提供する考えを示している。
構成比30%の具体的な内訳や、実現に向けた計画の詳細は何も示されていないが、これも見方を変えれば、意思の強さの裏返しとも受け取れる。もともとは、慎重すぎるほどに時間をかけ、計画を立案するパナソニックグループが、まず大きな方向性を打ち出し、一歩を踏み出す手法をとったのは異例だ。しかも、それをCESの基調講演という、世界に向けた舞台で発信してみせた。楠見グループCEOの決意の表れとも言える。
それぞれの取り組みにおいて、AIをどのように活用していくのか。
ブルーヨンダーについて楠見グループCEOは「サプライチェーン技術に関する400件以上の特許を持ち、高度なデータ分析とAIを使ったグローバルサプライチェーンを再発明している企業である」とし、小売業者や製造業者、物流サービスプロバイダーに対して、計画からフルフィルメント、輸配送、返品に至るまでのサプライチェーン全体の最適化を支援していることを示す。
CESの基調講演に登壇したブルーヨンダーのウェイン・ユージーCSO(Chief Strategy Officer)は、「現代のサプライチェーンは非常に複雑であり、多くの企業が、時代遅れのテクノロジーや、運用上のサイロに悩まされている。いまや、AIが私たちの仕事やビジネスの方法を変えることは誰もが知っている。ブルーヨンダーのプラットフォームによって、あらゆる業界のサプライチェーンが、AIによる大規模な変化の恩恵を受けられる」とアピールした。
ブルーヨンダーではこれまでにも、サプライチェーン領域において、独自の小規模言語モデルを複数用い、AIオーケストレーションを実現してきた経緯がある。予測AIと生成AIを組み合わせ、オートノマス(自律的)サプライチェーンを構築したり、複数企業を結んだマルチティアなサプライチェーンプラットフォームを構築したりといった事例だ。
具体的な取り組みの一つとして「Jointソリューション」がある。北米の20社のユーザー企業に聞き取りを行い、60件のユースケースを洗い出し、それを基に、店舗を賢く進化させる「Intelligent Store」、倉庫のデジタル化を図る「Digital Warehouse」、物流を進化させる「Connected Logistics」の三つのカテゴリーに分類し、ユースケースの実装を進めている。ここにもAIの活用が欠かせない。
24年4月には、SaaSビジネスユニットを発足し、SaaSプロダクトに関する新たな事業開発にも取り組んでいる。クラウドエンジニアリングセンターや技術研究開発本部とも連携し「Technology Product Line」を構成。これらの組織では、研究開発プロジェクト数を3分の1にまで減らす一方で、最大のフォーカスエリアをSCMとし、ブルーヨンダーによる自律性があるクラウドソリューションの構築を目指している。具体的には、データをセンシングし、現場の状況を理解し、デジタルツインの中で、AIによって解釈、分析、シミュレーションした結果から、現場でロボットを動かすというループを回すことを目指す。
さらに、刻々と変化する現場では、AIが学習を完了し、実装する時点では、すでに使いにくいものになってしまう点に着目。予測と計画、評価分析のサイクルを迅速に回すことで、AIを最適に活用できる環境を提案することにも注力し始めた。
ブルーヨンダーのユージーCSOは、「Panasonic Goによって、グローバルなサプライチェーンのために、よりスマートで、より安全で、より持続可能なソリューションをつくり続け、より多くのAI主導によるイノベーションの創出に期待ができる」と自信をのぞかせた。
もう一つの取り組みとなる「Umi」は、25年から米国で提供しているデジタルファミリーウェルネスサービスである。最新のAIエージェント技術と、ウェルネスデータを、それぞれの家族に合わせた具体的な行動計画に落とし込み、健康的な習慣づくりを支援するとともに、家族全員が同じ目標に向かって取り組めるようにするという。提携を発表したアンソロピックのClaudeを利用するコンシューマー向けサービスとなる。
「Umi」を発表する
松岡陽子執行役員
パナソニックHD執行役員の松岡陽子・Panasonic Well本部長は、「Umiは、AIを活用することで、ファミリーウェルネスコーチとしての役割を果たし、家族のケア、調整、つながりをサポートすることができる。利用者は、Umiに話しかけるだけで、離れた場所に住む家族の様子を確認できたり、家族との週末のスケジュールを調整したり、食事のデリバリーを頼んだりといったことを任せることができる。AIによって、人々がより健康で、より幸せな生活を送り、それを助けることが可能になる」という。
Umiは人や家族に寄り添ったサービスをAIで実現する。これは、これまでのモノによって「お役立ち」の世界を実現してきたパナソニックグループが、コトによって価値を提供する挑戦であり、AIを成長戦略の軸に据えた現在のグループを象徴する取り組みと言えるだろう。
モノづくりの領域でも、開発部門が「GitHub Copilot」をいち早く導入。米カリフォルニア大学バークレー校と共同開発したマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」(ヒピエ)や、FastLabelとの協業による「Data-centric AIプラットフォーム」により、画像情報にタグやメタデータを付与するアノテーション作業の負担を軽減。さらに、ストックマークとの協業では、1000億パラメータの規模を持つ、パナソニックグループ専用の日本語大規模言語モデル「Panasonic-LLM-100b」を開発し、グループが保有する社内情報を追加事前学習させ、これをHIPIEと統合し、各事業会社におけるAIを活用した開発を加速することになる。
楠見グループCEOは、「単純作業は生成AIで効率化し、自らは、お客様に対する価値を生む仕事に集中するかたちへと働き方の転換が進んでいる」とし、「あらゆる企業がAIを手に入れ、ビジネスを変革しようとしている。それを前提として、われわれもAIを活用して事業を推進していかなくてはならない。それをいち早くできた組織や集団が、1歩も2歩も抜きんでることになる」と語る。
パナソニックグループは長い間、「重くて、遅い」と言われ続けてきた。楠見グループCEOは「パナソニックグループは30年間成長していない。そのベースにあるのは上位下達の文化。現場の社員は言われたことを実行することが仕事だと思っていた。この文化は今でも残っている」とし、「AIは『重くて、遅い』パナソニックグループを、『軽くて、速い』会社に変えることができる」と期待する。パナソニックグループが真に「AIの企業」となるには、ビジネスにおける活用のみならず、企業文化そのものの変革が求められるのだろう。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)

「グループの全てが変わる」
米ラスベガスで開催された「CES 2025」の開幕基調講演にパナソニックHDの楠見雄規・社長グループCEOが登壇した。同社のCEOがCESの基調講演に立つのは、13年の津賀一宏氏(現会長)以来、12年ぶりだ。このとき津賀氏は、パナソニックがBtoBの企業であることを世界に向けて発信。テレビメーカーや家電メーカーのイメージを払拭し、大きな話題を集めた。それだけに、今回の基調講演で、楠見グループCEOがどのような発信をするのかに注目が集まっていた。そこで発信された内容が、Panasonic Goであった。Panasonic Goは特定の技術や製品、サービスを指すものではない。グループが培ってきた知見や技術、ハードウェアを最大限に活用しながら、AIを組み合わせることで、競争力の高いビジネスへと変革させ、さまざまな領域において、「お役立ち」を果たすという意思表示だ。楠見グループCEOは、「Panasonic Goによる変革を通じて、パナソニックグループの全てが変わる」と言い切った。
楠見雄規グループCEO
現状、AIを活用した事業の占める割合は1桁台であり、今後10年間で、これを3倍に引き上げるという計画だ。Panasonic Goを推進するため、AI開発やプラットフォーム構築への投資、ソフトウェア開発人材の育成を進めることも明らかにした。さらに、Panasonic Goの推進に向けて、米Anthropic(アンソロピック)とのグローバルな戦略的提携を発表した。アンソロピックのAIアシスタント「Claude」を活用し、グループが製品を通じて接点を持つ10億人の顧客に対して、パーソナライズしたサービスを提供する考えを示している。
構成比30%の具体的な内訳や、実現に向けた計画の詳細は何も示されていないが、これも見方を変えれば、意思の強さの裏返しとも受け取れる。もともとは、慎重すぎるほどに時間をかけ、計画を立案するパナソニックグループが、まず大きな方向性を打ち出し、一歩を踏み出す手法をとったのは異例だ。しかも、それをCESの基調講演という、世界に向けた舞台で発信してみせた。楠見グループCEOの決意の表れとも言える。
二つの成長領域で活用
現時点で、AIを活用したビジネスの成長領域として二つの事業を明示している。パナソニックコネクト傘下でサプライチェーンマネジメントソリューションを展開する米Blue Yonder(ブルーヨンダー)でのビジネスと、国内ではパナソニックHD内に本部が置かれ、米国では合同会社として活動するPanasonic Wellが新たに開始するデジタルファミリーウェルネスサービス「Umi」である。それぞれの取り組みにおいて、AIをどのように活用していくのか。
ブルーヨンダーについて楠見グループCEOは「サプライチェーン技術に関する400件以上の特許を持ち、高度なデータ分析とAIを使ったグローバルサプライチェーンを再発明している企業である」とし、小売業者や製造業者、物流サービスプロバイダーに対して、計画からフルフィルメント、輸配送、返品に至るまでのサプライチェーン全体の最適化を支援していることを示す。
CESの基調講演に登壇したブルーヨンダーのウェイン・ユージーCSO(Chief Strategy Officer)は、「現代のサプライチェーンは非常に複雑であり、多くの企業が、時代遅れのテクノロジーや、運用上のサイロに悩まされている。いまや、AIが私たちの仕事やビジネスの方法を変えることは誰もが知っている。ブルーヨンダーのプラットフォームによって、あらゆる業界のサプライチェーンが、AIによる大規模な変化の恩恵を受けられる」とアピールした。
ブルーヨンダーではこれまでにも、サプライチェーン領域において、独自の小規模言語モデルを複数用い、AIオーケストレーションを実現してきた経緯がある。予測AIと生成AIを組み合わせ、オートノマス(自律的)サプライチェーンを構築したり、複数企業を結んだマルチティアなサプライチェーンプラットフォームを構築したりといった事例だ。
具体的な取り組みの一つとして「Jointソリューション」がある。北米の20社のユーザー企業に聞き取りを行い、60件のユースケースを洗い出し、それを基に、店舗を賢く進化させる「Intelligent Store」、倉庫のデジタル化を図る「Digital Warehouse」、物流を進化させる「Connected Logistics」の三つのカテゴリーに分類し、ユースケースの実装を進めている。ここにもAIの活用が欠かせない。
24年4月には、SaaSビジネスユニットを発足し、SaaSプロダクトに関する新たな事業開発にも取り組んでいる。クラウドエンジニアリングセンターや技術研究開発本部とも連携し「Technology Product Line」を構成。これらの組織では、研究開発プロジェクト数を3分の1にまで減らす一方で、最大のフォーカスエリアをSCMとし、ブルーヨンダーによる自律性があるクラウドソリューションの構築を目指している。具体的には、データをセンシングし、現場の状況を理解し、デジタルツインの中で、AIによって解釈、分析、シミュレーションした結果から、現場でロボットを動かすというループを回すことを目指す。
さらに、刻々と変化する現場では、AIが学習を完了し、実装する時点では、すでに使いにくいものになってしまう点に着目。予測と計画、評価分析のサイクルを迅速に回すことで、AIを最適に活用できる環境を提案することにも注力し始めた。
ブルーヨンダーのユージーCSOは、「Panasonic Goによって、グローバルなサプライチェーンのために、よりスマートで、より安全で、より持続可能なソリューションをつくり続け、より多くのAI主導によるイノベーションの創出に期待ができる」と自信をのぞかせた。
もう一つの取り組みとなる「Umi」は、25年から米国で提供しているデジタルファミリーウェルネスサービスである。最新のAIエージェント技術と、ウェルネスデータを、それぞれの家族に合わせた具体的な行動計画に落とし込み、健康的な習慣づくりを支援するとともに、家族全員が同じ目標に向かって取り組めるようにするという。提携を発表したアンソロピックのClaudeを利用するコンシューマー向けサービスとなる。
松岡陽子執行役員
パナソニックHD執行役員の松岡陽子・Panasonic Well本部長は、「Umiは、AIを活用することで、ファミリーウェルネスコーチとしての役割を果たし、家族のケア、調整、つながりをサポートすることができる。利用者は、Umiに話しかけるだけで、離れた場所に住む家族の様子を確認できたり、家族との週末のスケジュールを調整したり、食事のデリバリーを頼んだりといったことを任せることができる。AIによって、人々がより健康で、より幸せな生活を送り、それを助けることが可能になる」という。
Umiは人や家族に寄り添ったサービスをAIで実現する。これは、これまでのモノによって「お役立ち」の世界を実現してきたパナソニックグループが、コトによって価値を提供する挑戦であり、AIを成長戦略の軸に据えた現在のグループを象徴する取り組みと言えるだろう。
「重くて、遅い」から「軽くて、速いへ」
パナソニックグループは、AIの社内活用に率先して取り組んできた企業である。パナソニックコネクトでは、23年2月に「Microsoft Azure OpenAI Service」を活用した生成AI「ConnectAI」を導入。23年4月には、「ChatGPT」を活用した「PX-AI」を国内9万人のグループ社員を対象に一斉導入しており、現在では、中国を除く全世界18万人の従業員が活用できる環境が整っている。今後は、事業部門ごとに社内データの活用やRAGの導入を進め、事業に最適化したPX-AIの利用を促進することになる。モノづくりの領域でも、開発部門が「GitHub Copilot」をいち早く導入。米カリフォルニア大学バークレー校と共同開発したマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」(ヒピエ)や、FastLabelとの協業による「Data-centric AIプラットフォーム」により、画像情報にタグやメタデータを付与するアノテーション作業の負担を軽減。さらに、ストックマークとの協業では、1000億パラメータの規模を持つ、パナソニックグループ専用の日本語大規模言語モデル「Panasonic-LLM-100b」を開発し、グループが保有する社内情報を追加事前学習させ、これをHIPIEと統合し、各事業会社におけるAIを活用した開発を加速することになる。
楠見グループCEOは、「単純作業は生成AIで効率化し、自らは、お客様に対する価値を生む仕事に集中するかたちへと働き方の転換が進んでいる」とし、「あらゆる企業がAIを手に入れ、ビジネスを変革しようとしている。それを前提として、われわれもAIを活用して事業を推進していかなくてはならない。それをいち早くできた組織や集団が、1歩も2歩も抜きんでることになる」と語る。
パナソニックグループは長い間、「重くて、遅い」と言われ続けてきた。楠見グループCEOは「パナソニックグループは30年間成長していない。そのベースにあるのは上位下達の文化。現場の社員は言われたことを実行することが仕事だと思っていた。この文化は今でも残っている」とし、「AIは『重くて、遅い』パナソニックグループを、『軽くて、速い』会社に変えることができる」と期待する。パナソニックグループが真に「AIの企業」となるには、ビジネスにおける活用のみならず、企業文化そのものの変革が求められるのだろう。
パナソニックホールディングス(HD)は1月8日、AIを活用したビジネスを推進する企業成長イニシアティブ(行動計画)「Panasonic Go」を発表した。2035年までに、AIを活用したハードウェアやソフトウェア、ソリューション事業をグループの売り上げ全体の約30%の規模に拡大する目標を掲げ、いわば、パナソニックグループが「AIの企業」になることを宣言した格好だ。その道はビジネスにおけるAI活用の促進にとどまらず、企業風土の変革にも続く。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
それだけに、今回の基調講演で、楠見グループCEOがどのような発信をするのかに注目が集まっていた。そこで発信された内容が、Panasonic Goであった。Panasonic Goは特定の技術や製品、サービスを指すものではない。グループが培ってきた知見や技術、ハードウェアを最大限に活用しながら、AIを組み合わせることで、競争力の高いビジネスへと変革させ、さまざまな領域において、「お役立ち」を果たすという意思表示だ。楠見グループCEOは、「Panasonic Goによる変革を通じて、パナソニックグループの全てが変わる」と言い切った。
CES 2025で「Panasonic Go」について説明する
楠見雄規グループCEO
現状、AIを活用した事業の占める割合は1桁台であり、今後10年間で、これを3倍に引き上げるという計画だ。Panasonic Goを推進するため、AI開発やプラットフォーム構築への投資、ソフトウェア開発人材の育成を進めることも明らかにした。さらに、Panasonic Goの推進に向けて、米Anthropic(アンソロピック)とのグローバルな戦略的提携を発表した。アンソロピックのAIアシスタント「Claude」を活用し、グループが製品を通じて接点を持つ10億人の顧客に対して、パーソナライズしたサービスを提供する考えを示している。
構成比30%の具体的な内訳や、実現に向けた計画の詳細は何も示されていないが、これも見方を変えれば、意思の強さの裏返しとも受け取れる。もともとは、慎重すぎるほどに時間をかけ、計画を立案するパナソニックグループが、まず大きな方向性を打ち出し、一歩を踏み出す手法をとったのは異例だ。しかも、それをCESの基調講演という、世界に向けた舞台で発信してみせた。楠見グループCEOの決意の表れとも言える。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)

「グループの全てが変わる」
米ラスベガスで開催された「CES 2025」の開幕基調講演にパナソニックHDの楠見雄規・社長グループCEOが登壇した。同社のCEOがCESの基調講演に立つのは、13年の津賀一宏氏(現会長)以来、12年ぶりだ。このとき津賀氏は、パナソニックがBtoBの企業であることを世界に向けて発信。テレビメーカーや家電メーカーのイメージを払拭し、大きな話題を集めた。それだけに、今回の基調講演で、楠見グループCEOがどのような発信をするのかに注目が集まっていた。そこで発信された内容が、Panasonic Goであった。Panasonic Goは特定の技術や製品、サービスを指すものではない。グループが培ってきた知見や技術、ハードウェアを最大限に活用しながら、AIを組み合わせることで、競争力の高いビジネスへと変革させ、さまざまな領域において、「お役立ち」を果たすという意思表示だ。楠見グループCEOは、「Panasonic Goによる変革を通じて、パナソニックグループの全てが変わる」と言い切った。
楠見雄規グループCEO
現状、AIを活用した事業の占める割合は1桁台であり、今後10年間で、これを3倍に引き上げるという計画だ。Panasonic Goを推進するため、AI開発やプラットフォーム構築への投資、ソフトウェア開発人材の育成を進めることも明らかにした。さらに、Panasonic Goの推進に向けて、米Anthropic(アンソロピック)とのグローバルな戦略的提携を発表した。アンソロピックのAIアシスタント「Claude」を活用し、グループが製品を通じて接点を持つ10億人の顧客に対して、パーソナライズしたサービスを提供する考えを示している。
構成比30%の具体的な内訳や、実現に向けた計画の詳細は何も示されていないが、これも見方を変えれば、意思の強さの裏返しとも受け取れる。もともとは、慎重すぎるほどに時間をかけ、計画を立案するパナソニックグループが、まず大きな方向性を打ち出し、一歩を踏み出す手法をとったのは異例だ。しかも、それをCESの基調講演という、世界に向けた舞台で発信してみせた。楠見グループCEOの決意の表れとも言える。
この記事の続き >>
- 二つの成長領域で活用
- 「重くて、遅い」から「軽くて、速いへ」
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