米Broadcom(ブロードコム)によるVMware買収とそれに伴うライセンス変更の影響が色濃く残る仮想化基盤市場に、新たな流れが生まれつつある。オープンソースソフトウェア(OSS)をベースとした仮想化基盤のソリューションが次々と登場しているのだ。扱うプレイヤーはディストリビューター、ハードウェアベンダー、SIerと多岐に渡り、それぞれの強みを生かして価値を発信している。白熱する仮想化基盤市場の今を探る。
(取材・文/堀 茜、藤岡 堯)
ネットワールド
関心高まる「Proxmox」商用サポート付与が奏功
ネットワールドは2024年10月、オーストリアProxmox Server Solutions(プロックスモックスサーバーソリューションズ)とリセラー契約を締結し、OSSベースのサーバー仮想化プラットフォーム「Proxmox Virtual Environment(Proxmox VE)」の販売を開始した。取り扱いを決めた背景について、ネットワールド執行役員の高田悟・マーケティング本部副本部長は、「VMwareのライセンス変更が大きな理由の一つ」と説明する。
ネットワールド
高田 悟 執行役員
ライセンス変更に伴うコストの上昇をきっかけに、中堅・中小企業ユーザーを中心にVMware製品利用の継続を断念する向きが広がった。そこでネットワールドはKVM (Kernel-based Virtual Machine)ベースの仮想化基盤を多く検証。「価格も含めて、戦略的に代替製品を取り扱う必要があった」(高田執行役員)と振り返る。その結果、Proxmox VEは操作性などが最も「vSphere」に近く、顧客にとって学習コストが低いと判断した。
ネットワールド
関 浩太郎 次長
マーケティング本部ソリューションマーケティング部の関浩太郎・SDビジネス課次長は、「Proxmox VEへの問い合わせは非常に多く、ユーザー、パートナーの双方からVMwareからの移行先候補として認識されている」と明かす。移行を検討しているのは、vSphere Standardユーザーで、商用および日本語でのサポートをネットワールドが付与することも後押しとなっている。
現状は、移行に向けてPoCなど技術検証を進めている段階。ベンダーロックインのリスクを回避したい、同じ環境でハイパーバイザーだけを換えたいというニーズが一番多いという。OSSの仮想化基盤は顧客にとって大きな選択肢になってきており、「今後1年から3年以内に移行はどんどん加速していくのではないか」(関次長)とみる。
ネットワールド
工藤真臣 部長代理
Proxmox VEは、非ミッションクリティカルな用途では必要十分な機能を備えており、価格面でも優位性が高いのがメリットの一つ。vSphereからの移行機能を標準で備え、サードパーティー製品が移行をサポートしている点も評価が高い。技術本部ソリューションアーキテクト部の工藤真臣・部長代理は「価格はVMware製品より相当安い。機能は必要十分でかつ価格が安い製品に、当社が商用サポートをアドオンして提供するのが最大の価値」と説明する。
Proxmoxの仮想化基盤は国内でのエンタープライズでの導入実績は少ない一方、海外では広く使われていることに加え、国内でも一部環境ではオープンソース版を使っている事例があり、商用サポートがつくのであれば安心して使えるという声もあるという。
ネットワールドでは、自社施設で検証環境を提供し、顧客に評価してもらうといった支援も手掛ける。関次長は「パートナーや顧客の不安を払拭できるようにしていきたい」と展望。同社では引き続きVMware製品を取り扱うほか、米Nutanix(ニュータニックス)などの仮想化ソリューションも提案しており、「Proxmoxも選択肢の一つとして、提供ポートフォリオを拡大した。顧客が最適な製品を使えるように支援を続けていく」(高田執行役員)とする。
日本ヒューレット・パッカード
パートナーの反響「予想以上」他社サーバーも今後サポート
日本ヒューレット・パッカードは25年2月、標準的な仮想化機能を価格を抑えて提供するサーバー仮想化ソリューション「HPE VM Essentials Software」の提供を開始した。ターゲットは、同社が国内で仮想化基盤を利用している顧客の約8割を占めると分析する「vSphere Standard」のユーザーの移行需要だ。
米Hewlett Packard Enterprise(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、HPE) は24年8月、仮想環境やマルチクラウドの管理ソリューションを展開する米Morpheus Data(モーフィアスデータ)を買収。KVMをハイパーバイザーとして採用し、管理システムにモーフィアスのソリューションを組み合わせたのがVM Essentials Softwareだ。
日本ヒューレット・パッカードの
北元智史執行役員(左)と山中伸吾部長
日本法人執行役員の北元智史・データサービス事業統括本部統括本部長は「KVMに不足していたユーザビリティーを補い、当社が持つエンタープライズレベルの保守運用を加えてパッケージにした。市場が求める最適な製品を最速で用意できた」とする。
パートナー・アライアンス営業統括本部ストレージ営業部の山中伸吾・部長は、市場環境について、VMware製品がスイートでの展開になり、vSphere Standardのユーザーにとって耐えられないレベルの価格高騰を招いていると指摘。「当社のビジネスは、サーバーもストレージも、仮想化基盤なしでは成立しない。顧客が求める仮想化ソリューションの提供によって問題を解決したい」と背景を解説する。「必要な機能を適正な価格で」をコンセプトに、サーバー1台あたり1ソケット年間12万円からとし、価格面でも大きな優位性があると強調する。
強みの一つが、メーカーならではのサポート体制だ。24時間365日で対応し、オープンソースのテクノロジーに対し、ハードウェアも含めて一気通貫でサポートを受けられる安心感は大きいと分析する。VM Essentialsを利用するサーバーやストレージは、現状HPE製品のみで構成する場合にサポートするが、「顧客のニーズはベンダーロックインからの解放にある」(山中部長)として、今後、他社製品についてもサポートを拡大していく予定だ。
パートナーからは「想像以上の反響をいただいている」(山中部長)とし、動きの速いパートナーでは実際に動き始めている案件もあり、手応えを感じているという。
日本独自のプログラムとして「HPE VM Essentials共同検証パートナープログラム」もスタートさせている。VM Essentialsを国内のユーザーがスムーズに導入・利用できる環境を整えるために、国内のパートナーと協力し、技術検証や導入支援サービスの準備を行うプログラムだ。エンジニアのコミュニティー「Partner Technical Family」にはすでに23社が参加し、意見交換が行われているという。
北元執行役員は、「今現在、仮想化基盤で困っている顧客への選択肢になるが、本当の価値は、マルチハイパーバイザー、マルチベンダー、マルチクラウドで全部を管理できる状態が実現できることだ」と説明。「全方位にできるだけ早く届けられるよう、パートナーとの連携を強めていきたい」と意気込む。
NTTデータグループ
「ソブリン」売りに顧客を開拓 7月に運用管理サービスを投入
NTTデータグループは25年7月、KVMを活用した仮想化基盤の運用管理サブスクリプションサービス「Prossione Virtualization」をローンチする。金融などですでに実績のあるKVMのスキル、ノウハウを生かしたソリューションで、同社は「仮想化基盤におけるシステム主権の確保と長期的な安定運用」につながる点を強調。OSSの透明性の高さや、運用の安定性に基づくシステムの主権=「ソブリン」を売りに市場の開拓を進める。
新サービスは、仮想化基盤の管理・運用が簡易に行える「Prossione Virtualization Manager」と運用サポートで構成。ユーザーはGUIで複数のホストサーバー、ストレージ、ネットワークの管理や仮想マシン(VM)の移動などの操作、高可用構成の構築などを実行でき、セキュリティーアップデート、新機能なども継続的に提供される。オプションとしてシステム開発やトレーニングのメニューもそろえるほか、既存の仮想化環境からの移行支援ツールも検討しているという。
NTTデータ
冨安 寛 常務
新サービスのスペックについて、NTTデータの冨安寛・取締役常務執行役員テクノロジーコンサルティング&ソリューション分野担当は「従来のVMware製品に肉薄するところまで同じ機能が使えるようになる」と語る。26年3月に予定するバージョン1.2の段階で、ユーザーが必要とする機能の80%以上は実現できるとみる。支援面では「日本のお客様のニーズに応じた長期のサポートを提供」(NTTデータグループ技術革新統括本部の濱野賢一朗・プリンシパル・エンジニアリングマネージャ)する方針だ。
NTTデータグループ
濱野賢一朗 プリンシパル・エンジニアリングマネージャ
新サービスで同社が重きを置くのは、透明性と運用の安定性の確保だ。基盤上のVMで動くデータベースやWeb・アプリケーションサーバーではOSSが浸透しているものの、仮想化基盤はベンダー側に主権が握られ、そのベンダーの動向にユーザーが左右されている状況は、VMwareをめぐる一連の状況が裏付ける。
冨安常務は「どうやって主権を取り戻すかが、日本のお客様、SIerが気に掛けているポイントだ」とし、仮想化基盤における主権確保は企業ITの課題であると指摘。OSSで透明性を担保しつつ、ユーザー側による運用性を高め、課題の解消につなげる狙いだ。
とはいえ、SIer自身が仮想化基盤を提供することに、継続性の観点から不安視する向きもあるだろう。これに対して、冨安専常務は、NTTデータグループが長年、KVMの研究開発に注力し、自社の統合開発クラウドや、共同利用型勘定系システム向けに開発を進める「統合バンキングクラウド」などでの実績もあることを踏まえ、「このサービスに限定せずとも、(KVMを)やっていく覚悟がある。KVMに対するケーパビリティーの確保をお客様に約束している状況だ」と訴える。
価格帯は現段階では非公表だが「今、(顧客が)課題に感じられているソフトウェアに比べれば、手軽な価格」(冨安常務)となる見通し。直近のニーズはVMware環境からの強行的な移行ではなく、更改タイミングを迎えたユーザーが中心になるとにらむ。
販売方法に関して冨安常務は「われわれが直接相対しているお客様以外からの引き合いも当然あり、適切なインテグレーションパートナー、再販パートナーは必要だと考えている」と間接販売にも意欲を示している。