製造業の中でも、流体や粉体などを原材料として、一連の工程の中で製品を生産する業態は「プロセス製造業」と呼ばれる。国産ERPベンダー各社が、このプロセス製造業向けのビジネス拡大に取り組んでいる。プロセス製造業に固有の業務課題に対応した製品の提供に加え、経営層の意思決定の迅速化だけではなく、生産現場の管理者や作業員の生産性の向上につながる機能をERPに搭載することで、業界のDXを後押ししようとしている。
(取材・文/大畑直悠)
インフォコム
既存ユーザーのグループ会社へ導入を拡大
複数の企業からなるコンソーシアムでERP製品を開発・提供するGRANDIT事業を展開するインフォコムは、中堅企業以上向けのオンプレミス版と、中堅・中小企業向けのクラウド版のERP製品を提供している。コアとなる販売や会計といった機能に加え、プロセス製造業向けに、オンプレミス版では業界に特化したテンプレートを用意する。クラウド版では生産管理の部分は外部ソリューションとの連携で一貫して管理可能にしている。
エンタープライズサービス事業本部GRANDIT事業部門ソリューション営業部フィールドセールスグループの嶋田康治・課長はプロセス製造業に特有の課題として、「例えば鉄鋼業であれば、切り出しや加工のあとに端材が出るが、その端材を溶解して再利用する。化学製造業であれば、生成物と副産物をそれぞれ管理しなければならない、といった事情がある」という。このほかにも、グラムか個数かなど、仕入れ品と完成品で管理する単位が変化するといった特徴があることも紹介。同社のERPは、こうしたプロセス製造に固有の課題に対応可能とアピールする。将来的には、クラウド版でも生産管理の機能を開発するロードマップがあるという。
インフォコム
嶋田康治 課長
商談の際には、経営層の意思決定の支援だけではなく、現場からの業務効率化の要求も強いとする。嶋田課長は「これまで紙やホワイトボードで指示していた業務プロセスをシステム化することで生産性を高めたいといった要望や、作業員の退職によるノウハウの喪失を防止したいという声は強い」と話し、「(ERPは)単に実績値を投入するだけのマシーンでは意味がない。部署間の連携を円滑にし、複数のシステムに入力する手間を省くなど、現場が喜ぶシステムであることが重要だ」と強調する。
ビジネスの近況としては、国内で多く採用されている独SAP(エスエーピー)のERP製品のうち、「ECC6.0」が2027年末に標準保守期限を迎えることから、リプレースの受け皿として同社のオンプレミス版ERP製品の受注が増えている。嶋田課長は「国産ERPとして、国内の商慣習に標準的に対応している点が評価され、採用が増加している」と話す。
注力する販売戦略としては、既存ユーザーのグループ会社への導入を目指している。すでに現在の約1500社の導入企業のうち、65%ほどがグループで同社の製品を利用しているといい、親会社ではオンプレミス版、子会社ではクラウド版を使うといった提案を推進する。両製品間で同じデータベースの仕組みを利用できることから、販売実績などをグループ横串で管理可能になる。パートナーによる販売も拡大する方針で、新規のパートナーを募集する。
インフォコムは4月1日に、子会社のGRANDITを吸収合併し、事業を承継した。嶋田課長は「インフォコムの中でもGRANDIT事業は成長事業と位置付けられている。これまでは必要に応じてインフォコムから人員を連れてこなければならないなど、足回りの悪さがあった。合併によりこれまでよりもスピーディーに製品の価値を届けられるようになった」と説明する。
内田洋行
原価高騰への対応で試算機能に需要
内田洋行は、中小企業向けERP「スーパーカクテルCoreシリーズ」にプロセス製造業向けの製品を用意し、食品加工業や化学工業を中心に業務効率化を支援している。同シリーズ全体の導入数6000本のうち、食品加工業向けが約45%、化学工業が約10%だという。情報ソリューション事業部プロダクト営業部の小幡征範・部長は「プロセス製造業の中でも、業種に応じたノウハウを保有していることや、個別の要望に応えられるカスタマイズ性の高さが強みだ」とアピールする。
内田洋行の小幡征範・部長(左)と西川直人・部長
ビジネスの近況としては、人手不足といった問題から生産性を上げたいという顧客は多いとし、小幡部長は「ただ経営指標を可視化するだけではなく、ERPの導入に合わせてRPAなどさまざまなツールを活用して業務を効率化したいという顧客が増えている」と話す。
特徴的な機能としては「原価シミュレーション機能」を搭載しており、原価高騰の影響もあり需要が高まっている。新製品開発時の売上単価や原価、販売数量目標に加え、原料価格変動時の単価見直し、製造ライン変更時のコストの試算ができる。
ICTリサーチ&デベロップメントディビジョンビジネスソリューション開発部の西川直人・部長は「完成品ができるまでだけではなく、工程ごとに区切って細かくシミュレーションできる点が強みで、半製品の状態で保管している企業などに活用されている」と述べる。また、2024年12月にオプション機能として提供を開始した、在庫の入出庫や原材料の移動を管理する機能も好調で、倉庫業務の標準化や適切な管理を徹底したいとするニーズは強いという。
プロセス製造業では、顧客が生産する製品によって設備や業務プロセスが大きく異なるほか、食品であれば賞味期限や消費期限、医薬品などでは使用期限などに応じた管理の仕組みが必要になるなど、顧客によってニーズがさまざまだ。顧客の要望に柔軟に対応する上では、パートナーが利用できるカスタマイズのための開発環境「カクテルシェイカーズ」を提供していることが競合優位性になっているとする。
販売戦略としては、販売や会計といった個別のモジュールを活用する顧客に対して、同社製品の導入範囲の拡大を図る。パートナーによる拡販にも注力する。同社は全国の約120社のパートナーで構成する組織体「USAC会」による拡販に力を入れており、今後も新規の販売パートナーの拡充に加え、ERPの周辺業務を担うソリューションを持つパートナーとの連携を推進する方針だ。同会はセールスやサポート、ソリューションパートナーなどが会員企業で、各パートナー間で成功事例の共有を推進している。小幡部長は「パートナー間でのコミュニケーションが活発なことが特徴で、リソースが足りないパートナーの要望に応じてサポートを請け負うパートナーもいる。新規のパートナーが入りやすい環境だ」と紹介する。
大塚商会
現場がDXの恩恵を享受する機能を提供
大塚商会はプロセス製造業向けのERP「生産革新 Blendjin SMILE V 2nd Edition」を、中小企業を中心に提供している。配合表を基にした手配や製造、在庫管理に加え、ロットトレース機能などを備えている。業界に対するノウハウや知見を基に、プロセス製造業における現場の管理者や作業員がDXの恩恵を享受できる機能の開発を進めている。
生産革新 Blendjin SMILE V 2nd Editionは、大塚商会の子会社であるOSKの販売管理システム「SMILE V 2nd Edition 販売」と、大塚商会とアート・システムが開発したプロセス製造業向けの生産管理システム「生産革新Blendjin」をアドオン製品として連携させたソリューション。大塚商会とOSK、アート・システムが連携して機能強化に取り組んでいる。
大塚商会
木村 聡 課長
本部SI統括部製造SP1課の木村聡・課長は「当社はさまざまな製造業の管理のプロセスに合わせて複数の製品を提供しており、生産革新Blendjinもその一つだ。ターゲットを具体的に決めているため、顧客からは『やっている仕事とそのまま一緒だね』と評価されている」と訴える。顧客ごとの要望に合わせて個別のカスタマイズにも対応するが、「最小限で済むのが当社の強みだ」(木村課長)と強調する。
ビジネスは順調に推移しているといい、木村課長はさまざまな業種の工業会に対してアプローチする中で、「これまでは顧客から『何かいい製品はないか』というぼやっとした引き合いが多かったが、最近ではBlendjinを提案してほしいという具体的な引き合いが増えている」と話す。
大塚商会
矢沢幸展 部長代理
顧客が抱える課題について、営業本部本部SI統括部SPグループの矢沢幸展・部長代理は「顧客は年商が10億円未満から300億円ほどまで幅広い。『Excel』や手書きで処理している場合もあれば、今のシステムでは品質管理を徹底できない、AIやIoTと連携させた業務効率化ができない、などさまざまだ」と紹介。その上で、計量器や、原料のラベルを読み込んで誤投入を防止する仕組みなどと連携し、品質向上を目指す顧客が増加しているとする。
機能強化を継続的に重ねており、直近では生産計画の部分で、これまでの日単位で行っていた業務管理を時間単位でできるようにした。現場の管理者が1日の作業工程を詳細に把握したり、効率的な手順で作業したりできるようになる。
矢沢部長代理は、経営層だけではなく現場の生産性の向上を重視した製品展開を進めているとし、「ERPの提案で会社全体としてメリットが生まれるという点を説明するとともに、ハンディーターミナルと連携する仕組みなどで極力工数が増えないようにする提案に力を入れている」と強調する。
大塚商会
佐藤哲也 専任課長
今後の販売戦略としては、プロセス製造業の中でも食品や化粧品といった業種ごとに細分化した提案のテンプレートを用意する。マーケティング本部業種SIプロモーション部業種SI SPプロモーション課(製造業担当)の佐藤哲也・専任課長は「顧客はシステムの良さだけではなく、提案するSIerがどれほど業界に精通しているかも測っている」と話し、同社の製造業向けの専任部隊の知見を生かした顧客支援を推進する方針だ。