Special Issue

NECネッツエスアイが見据える次なる市場―AI、Zoom Phone、Zoom Contact Centerで実現する“オムニチャネル・コミュニケーションの世界”とは

2023/10/20 09:00

 ネットワーク、コミュニケーション系のシステムインテグレーションを得意とするNECネッツエスアイ。同社は2017年に、国内で初めてZoom製品の取り扱いを開始。自社でもZoomを活用し、ファーストペンギンとしてPC/モバイル端末を活用したビデオコミュニケーションという新しい領域の地ならしを行ってきた。国内随一のZoom導入ノウハウを持つNECネッツエスアイが現在取り扱いに注力している商材が、クラウド電話ソリューションの「Zoom Phone」と、コンタクトセンター向けパッケージの「Zoom Contact Center」だ。両製品およびZoomが構築する新たなコミュニケーションの世界観について、NECネッツエスアイの菊池惣 取締役執行役員常務兼CDOと、米Zoom Video Communicationsの日本法人であるZVC JAPANの下垣典弘 代表取締役会長兼社長に聞いた。

自社事業を脅かすテクノロジーを主力事業に成長させた慧眼と英断

 NECネッツエスアイは、NEC製の電話交換機(PBX)や音声インフラの長年の導入実績を有し、グループ全体でみると国内PBX導入市場で過半数以上という圧倒的なシェアを持つ。他方で、07年から社内での働き方改革を実践し、17年からテレワークを、18年からDXを推進している。

 20年には東京・日本橋に「日本橋イノベーションベース」を開設し、共創を推進する場や最新の働き方を紹介するライブデモ環境を用意している。さらに2023年に東京・芝浦に新本社を移転して、自社のソリューション商材を活用しながらアフターコロナ時代の最新の働き方を実践中だ。
 
日本橋イノベーションベースでは
Zoom製品のライブデモを体験できる

 同社はそこで得た知見を基に、単なる設備やシステムの導入・構築にとどまらず、顧客の課題を認識しつつ、時代に合わせた働き方改革をICTによって支援するサービスも提供中だ。NECネッツエスアイの菊池執行役員常務は「コロナ禍が一旦落ち着いてハイブリッドワークが主流となった現在、多くの企業が悩んでいるのがコミュニケーション領域であり、そこでの課題を解決するための重要なアイテムがZoomだ」と語る。
 
NECネッツエスアイ
菊池 惣
取締役執行役員常務兼CDO

 実は、Zoom Meetingsを日本に紹介し、現在のトレンドを作った人物こそが菊池執行役員常務である。2017年1月、「当時のキャリア回線でもビデオ会議がストレスなく行えるサービスが米国のスタートアップ界隈で注目されている」という情報を同氏がキャッチ。早速社内で検証を実施したところ、今まで考えられなかった成果が得られたという。

 「映像や音声は高品質で、ユーザーインタフェースも直感的、とても優れていると感じた。これはビデオ会議市場がひっくり返る、当社の事業がディスラプトされると思い、当時の事業担当常務にZoomの取り扱いを進言したところ、『他社にやられるくらいなら自社でやろう』と背中を押してくれて、すぐにZoomの米国本社に連絡した」(菊池執行役員常務)

 同社はそれまで音声/映像ネットワークビジネスを手掛け、実際に他社のビデオ会議システムを取り扱っており、市場でも優位にビジネスを進めていた。そのためZoom Meetingsの取り扱いは自社事業を否定し、共食いすることにもなる。

 それでも、菊池執行役員常務は直前までシリコンバレーをはじめとするグローバルベンダーとの協業を推進していたことから、市場と技術の事情に明るく、その上でトップの理解と意思決定も迅速だったため、販売代理権の獲得交渉を急ぐことができた。日本の複数社が同様にアプローチを掛ける中、同氏の粘り強い交渉が実を結び、同年9月にはNECネッツエスアイが国内初の販売代理店としてZoom製品の国内での取り扱いに漕ぎつけた 。

「自社実践」による信頼で少しずつ商談を獲得

 今でこそビデオ会議ツール は国内でも定着し、「Zoom」という言葉だけでも遠隔ミーティングのことだと伝わるが、当時はコミュニケーションの主体がメールと電話だったため、顧客に説明しても「うちはまだ」という反応が多かったという。

 そこでNECネッツエスアイが取った戦略が“自社実践”である。まずZoomのライセンスを全社員に配り、営業担当が顧客先で会議する際にSEをスマートフォンで参加させることで、それまで手間を要していた会議の調整業務を効率化。これが顧客に対しても業務効率化のアピールとなってZoomの便利さが伝わり、少しずつ商談につながっていった。

 さらに、当初20年に開催予定だった東京五輪に合わせ政府がテレワークを推奨、首都圏の大企業を中心に環境整備の必要性が迫られた。NECネッツエスアイでもZoomのプラットフォームをベースにさまざまなクラウドサービスを活用し、リモートワーク環境を整備していった。

 そして20年には新型コロナウイルス感染の蔓延により、需要が急増。その中でZVC JAPANが提供する音声システム構築やセキュリティ対策、さらに同社が自社実践した働き方のノウハウを組み合わせ、コロナ禍 の日本企業を支えてきた。現在では、2万7000社以上にZoomライセンスを導入するに至っている。

ハイブリッドワークで表面化したオフィスの電話問題

 コロナ渦の落ち着きに伴い、現在は多くの企業がオフィスとリモートでのハイブリッドワークに移行している。新しい働き方としてZoomをはじめとするビデオ会議ツールの活用が定着しつつあるが、それに伴って企業内では新たな問題が生じていると菊池執行役員常務は指摘する。

 「デジタル活用によって人々の働き方はアップデートされたが、オフィスの中身は以前と変わっていない。現在私たちはハイブリッドワークの実践に向けて、コミュニケーションインフラとオフィスデザインの見直しという課題に直面している」(菊池執行役員常務)

 またコロナ禍を経たことで、社内のみならず社外とのコミュニケーションも変化し、新たな環境の整備が求められているという。新型コロナウイルス蔓延前は、社内用には社員間のコミュニケーションを効率的に行うためのコラボレーションツールを採用し、社外とはメール・音声を使うために公衆網を活用したPBXを経由、という形で別々にインフラを整備していた。その中で、特にコロナ渦前後で大きな変化が見られたのが電話である。

 「リモートワークでオフィスに誰もいなくなった中で、PBXがなくても仕事ができてしまうことが明らかになった。当社では、そもそも以前からオフィスのデスクに固定電話はなくなり、電話の際には配布されたスマートフォンを使っていた。顧客やパートナーとのやり取りではまだ電話は必要だが、社内のコミュニケーションではほぼ使われていないのが実情だ」(菊池執行役員常務)

 そこでNECネッツエスアイでは今後のPBXはどうあるべきかの議論がなされ、辿り着いたのが、クラウドPBXの「Zoom Phone」であったという。同社としては従来のPBX事業とぶつかる形となるが、「ミッションクリティカル領域とZoom Phoneをつなげてハイブリッドでの利用を提案していく」と菊池執行役員常務は説明する。

 この判断を受けて同社では、2022年6月から全社でのZoom Phoneの内線利用を開始。Zoom Phoneの社内運用ノウハウや、新たなコミュニケーションのナレッジを集めている。

 「Zoom Phoneを使うと社内のコミュニケーションが簡単になる。番号を知らなくてもZoom内で検索でき、通常時はメールやチャット、今すぐ話したいときは電話、資料の共有や複数人で会議したいときにはWeb会議と、状況に応じて使い分けられる」(菊池執行役員常務)

 このように複数の通信手段を統合するシステムは一般的にユニファイドコミュニケーション(UC)と呼ばれるが、Zoomプラットフォーム上はUCにとどまらない、一歩先の高度な活用が可能だ。

 「話している内容を生成AIが認識して翻訳したり、それまでの会話を要約してテキスト化し遅れてきた参加者に内容を教えてくれたりする。今までとコミュニケーションの幅が大きく変わっていて、業務の効率性や事業のスピードを向上させていく、働き方を変えていく上で大きな進歩といえる」(菊池執行役員常務)

AIプラス人で最適な対応を実現するZoom Contact Center

 これらのメリットをパッケージとして展開したのが、今年7月にZVC JAPANが国内での取り扱いを開始した「Zoom Contact Center」だ。現在のコールセンター・コンタクトセンター業界は、主にコスト負荷と消費者側の行動変容の変化という二つの面で課題を抱えているという。

 まずコスト面では、コロナ禍でのEC需要によって人的面、システム面での整備が急がれている。人材を確保しなければならないだけでなく、セールステックなどの新たなデジタルツールの導入が求められている。また、もともとECを提供していなかった事業者も新たに環境を導入しなくてはならず、新たな投資の必要性が生じている。

 消費者の行動変容の部分では、ECの普及によってスマートフォンやPCからのアプローチが増え、対応が求められるようになってきた。電話をしてもつながらない、Webにアクセスしても自己解決できないというケースは多く、事業者が顧客満足度を高く維持できているとは言い難い状況にある。しかしZoom Contact Centerならそれらの課題を新たなアプローチによって解決可能だ。

 従来はPBXのインフラとコールセンターで利用するアプリケーションは別物で、業界も分かれて販売されていた。しかしZoom Contact Centerなら電話もビデオもアプリケーションもPBXもワンセットになっており、投資の負担が少ない。そしてクラウドサービスなので、スモールスタートで迅速に導入可能だ。

 消費者の行動変容に関してもAIが問題を解決する。現在はさまざまなエンゲージメントがデジタル化され、コンタクトセンターの規模も市場も急速に拡大した。それを受けZoom Contact Centerでは、最初の顧客接点としてバーチャルエージェントを設置しており、AIとチャットの活用で顧客の自己解決率を高めつつ、必要な部分だけ電話やビデオ会議を活用できる“オムニチャネル”の仕組みを提供している。

 「Zoom Contact CenterならROI(投資収益率)を最適化して人的コストを抑え、問い合わせをした顧客の満足度を高めることができる」と、ZVC JAPANの下垣代表取締役は語る。
 
ZVC JAPAN
下垣典弘
代表取締役会長兼社長

自社実践を踏まえてさらなるZoomビジネスの拡大を目指す

 ZVC JAPANがZoom Contact Centerの日本展開を開始するにあたっても、NECネッツエスアイは迅速な動きを見せている。菊池執行役員常務は「単にライセンスを右から左に流すというビジネスでは当社の強みは発揮できない。コンタクトセンター領域でも、自社で実践があるだけでなく、グループ会社が専業でサービスを提供しているので、そこでの知見も加味してサービスを展開できる」と断言する。

 こうしたNECネッツエスアイの動きに対してZVC JAPANも大きな期待を寄せている。

 「Zoom Meetingsの展開時もそうだったが、当社が昨年Zoom Contact Centerをグローバルで発表したらすぐに『ぜひ使いたい』とアプローチしてくれた。さらに自社で導入検証して、具体的な機能改善を含め日本向けの要望をたくさん出してくれている。

 新製品の市場展開にあたっては利用者側のチェンジマネジメントが重要な要素となるが、PBX市場でのトップランナーであるNECネッツエスアイ様の動きには大きな影響力がある。今後は、両社でコンタクトセンターに特化したエグゼクティブ向けイベントなども開催していきたい」(下垣代表取締役)

 Zoomは単なるソリューション商材ではなく、働き方改革を進めてきた自社の中でも特別な位置付けにあると菊池執行役員常務は語る。

 「Zoomはビデオ会議、電話、ヘルプデスク・コンタクトセンター向け機能を ワンプラットフォームで提供でき、APIで他のサービスとも容易に連携できる。Zoomが私たちの働き方自体をトランスフォーメーションしてくれたように、今後もコンタクトセンターを始めお客様のトランスフォーメーションのお手伝いをしていきたい。

 導入した後も、新しい機能の使い方を定期的に発信している。今後は周辺製品やサービスの拡大、AIと連携した業務改革領域にも展開し、Zoom関連ビジネスとして、さらに大きなビジネスに成長させていくつもりだ」(菊池執行役員常務)
 


※Zoom及びZoom名称を含むサービスはZoom Video Communications, Inc.が提供するサービスです。
※記載されている会社名および製品名は、各社の商標または登録商標です。
  • 1

関連記事

ZVC JAPAN、「Zoom」のリアルイベントを初開催 クラウド電話など一体利用のメリットを紹介

Zoom活用で市民サービス向上、ZVC JAPANが秋田県横手市と包括連携協定を締結

日商エレ、「Zoom Phone」(Nativeモデル)の取扱開始

外部リンク

ZVC JAPAN=https://zoom.us/

NECネッツエスアイ=https://www.nesic.co.jp/

「Zoom Phone」=https://symphonict.nesic.co.jp/zoom/zoomphone/

「Zoom Phone WP DL(Zoom Phoneの特長が5分でわかるホワイトペーパー)」=https://symphonict.nesic.co.jp/wp/zoomphone-wp-form/

「Zoom Contact Center」=https://symphonict.nesic.co.jp/zoom/zoomcontactcenter/