ウェブ化を強力推進新体制のカギは4つ
──西垣社長は、これからは「C&C」ではなくて、「CinC」だと言われていますが、この意図は。
西垣 C&Cを取り下げるわけではないのですよ(笑)。ただ、コンピュータとコミュニケーションというように、別々に意識するのではなくて、両者がもっと融合した関係になってくるということです。
──例えば、IBMではe-ビジネスという言葉で表現していますが。
西垣 それならば、NECの1つの回答は「ウェブコンピューティング」ですね。この言葉は3年前からいっていますし、2000年代の早い時期にすべてのコンピューティング環境はウェブ化すると明言しています。すでに、NECが取り扱うシステムのうち2000システムがウェブ化してきていますし、売り上げ構成でいえば10-20%にもなります。むしろ、このコンセプトをいち早く表現したのが、私の会社だと思います。
──西垣新体制におけるキーワードは何ですか。
西垣 4つあります。1つは、ソリューションプロバイダへの転換です。コンピュータ事業においてはソリューションプロバイダを目指すというのは、よく使われている言葉ですが、通信、半導体ではあまり使われませんし、そういう意識もなかった。
しかし、顧客満足度を追求するうえでは、半導体も、通信も、ソリューションプロバイダを目指せと。例えば半導体においても、ソリューションを生み出す立場に変わるべきだと話しています。石(=半導体)そのものを売っているのではなく、お客と一緒になって設計し、商品を売らなくてはならない。
2つめは、プロアクティブな経営です。これはおっちょこちょいという意味もあるそうなんですが(笑)、もっと積極的にやっていこうと。世の中の流れがこれだけ早いのですから、もっと積極的にやらないと遅れてしまう。
3つめは収益性の問題です。これまでは技術オリエンテッドという側面が強かったが、収益の追求を図っていく。
そして最後に「バイネーム」。顔のない集団ではなく、あの人に仕事を頼みたいとか、ある人がいるから安心だ、といった個人の顔が見える集団を目指したい。今後、グローバル化をしていくうえで、顔の見えない集団では世界に太刀打ちできなくなる。
人に言い聞かせるまでには25回はいわなくてはだめだといわれますから(笑)、このキーワードは、社内に向けて何度も言っていますよ。
──今は何回目くらいですか。
西垣 まだ、5回目くらいかな(笑)。
──収益の面では、98年度は極めて厳しい決算となりますね。
西垣 99年度は、2年連続の赤字というわけにはいかない。なりふり構わず黒字化を目指す。社内では、何が何でも黒字だと絶叫しているんです(笑)。今年1年が大切だと思っています。来年4月には企業の登記のあり方の変更も考えていますから、この仕組みについても半年で結論を出さなくてはいけない。2001年までには、それを土台にした新しい文化が定着すると思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
回答が歯切れいい。歯切れが良すぎるからこそ、それが「剛腕」と呼ばれる評価につながっているのかもしれない。「頭が悪いんですよ。だから、単純な言葉で話そうと努力しているんですよ」と西垣社長はジョークを飛ばす。「頭のいい人の話は、難しいんですよね。ああいう言葉は、私には理解できない」と笑う。
NECは大きな転換期を迎えていることは誰もが認めるところ。転換期であるがゆえに、簡単な言葉で社内にメッセージが伝わることが重要である。その意味で、西垣社長の「単純な言葉」は、今のNECにとって極めて重要な意味をもつ。とはいえ、単純な言葉では伝え切れないものがあるのも事実。受け手側もそれなりの体制が必要である。新聞風にいえば、「行間を読む力が求められる」ということになるのか。(君)
プロフィール
西垣 浩司
(にしがき・こうじ) 昭和13年6月2日、東京都出身。昭和36年3月東京大学経済学部卒後、同年4月日本電気入社、昭和58年情報処理金融システム事業部長、63年理事、平成元年支配人、2年取締役支配人、4年常務取締役、6年専務取締役、11年3月代表取締役社長就任。
会社紹介
西垣社長が言うように、NECにとって今年1年が正念場である。防衛庁不祥事によって、社会的信頼を失い、さらに赤字決算を余儀なくされた98年度。失地回復には、今年1年の取り組みがカギになる。半導体、通信、コンピュータ事業が、それぞれに寄り合い所帯的に、相手の事業損失を補完していた過去の流れを断ち切りたいと、西垣社長。それを具現化するのが来年度にも予定されている分社化である。今年度、あくまでも黒字化にこだわっているのも、こうした次のステップへ向けた助走といえる。創業100周年の記念すべき年を迎えて、NECがどんな取り組みを見せるのか。西垣社長の手腕に注目が集まる。