日本ネットワークアソシエイツは、統合ソリューションを軸に、セキュリティビジネスの拡大を図る。ウイルス対策では、各顧客企業のニーズに沿った製品を提案。ネットワーク管理では、セキュリティをも含んだソリューションを提供する。
セキュリティの関心が高まり10-12月期売上高は6割増に
――2001年は日本ネットワークアソシエイツにとって、どのような年だったのでしょうか。
加藤 昨年のセキュリティ市場は、ニムダをはじめ新種のウイルスが猛威を振るいました。これまではメールの添付ファイルを開かなければ感染しませんでしたが、ニムダでは、送られてきただけでセキュリティホールを突き、多くの企業がかなりの被害を受けたようです。こういった意味でも、セキュリティへの関心が急速に高まった年でした。また、なんといっても9月11日に米国で発生した同時多発テロの影響が大きい。あの事件により、サイバーセキュリティに関して注目が集まったといえます。このような要因から、昨年10-12月はとくにウイルス対策関連の売上高が前年同期比で60%増となりました。
――急激な増加ですね。そこにはどのような戦略があったのですか。
加藤 昨年1月に、米本社の会長兼CEOにジョージ・サムヌークが就任したことが大きいでしょう。サムヌークを中心とした新経営体制となり、セキュリティにおける統合ベンダーとしての体制をしっかり固めて踏み出しました。そこで掲げたのは、日本をはじめ、アジアや欧州でのビジネスを拡大することです。サムヌークは、インターナショナルビジネスを良く理解しています。日本法人にとっては、本社の理解が一層深まりました。
効果が如実に表れているのが株価です。昨年1月に4ドルだった株価が年末には30ドル近くに上がりましたからね。昨年1年間でグローバルカンパニーとしての基盤が整ったといえます。
――今年度、日本ネットワークアソシエイツとしては、セキュリティ市場でどのような展開を図るのですか。
加藤 ウイルス対策に関しては、ほとんどの企業がウイルス対策用ソフトウェアを自社システムに導入しています。当社としては、次のステップとして、「マネージド・ウイルス・プロテクション」を提供しています。これは、管理者の負荷軽減とコストパフォーマンスを追求しながら、常に最新の防御機能を備えたウイルス対策への更新を一元的に管理、徹底することにより、ウイルス感染の脅威から顧客企業を守るというものです。情報処理振興事業協会(IPA)の調べによると、00年のウイルス被害届け出件数1万1109件に対し、昨年は2万4261件と2倍以上に増えています。いくらウイルス対策ソフトをシステムに導入しても、新種のウイルスが出てきたら、新しいワクチンファイルをアップデートしなければ感染してしまいます。また、全体のネットワークを管理していなければ、ソフトを入れてもその効果は半減してしまいます。
こうした問題を解決するツールとして、全ローカルマシンのセキュリティを「自社で対応しますか」と、「アウトソーシングしますか」という2つの側面で応えられる製品を提供しています。前者は、ウイルス対策総合管理ソフトウェア「イーポリシー・オーケストレータ」です。この製品は、金融機関や人材派遣会社などが導入し、19.5%あった感染率が2%以下と約10分の1に減ったと聞いています。後者は、ASP型のオンラインウイルス対策&セキュリティチェック製品「ウイルススキャン・エーエスエーピー」です。これは、24時間365日の継続的な監視と運用管理を当社のデータセンターから自動的に行うサービスで、中小企業やSOHOを中心に提供しています。導入企業のなかには、運用コストを10分の1に削減できたという企業もあり、効果的なサービスとして高い評価を受けています。
ウイルス検知・管理能力が競争に勝ち抜くカギ
――セキュリティ市場で勝ち抜くカギは何ですか。
加藤 ウイルスの検知能力や管理能力の高さが競争力という点でカギとなってきます。 当社ではウイルス対策において、4月17日に発生した「クレズ」の新しい亜種「W32/Klez.h@MM」を、今年1月23日に発行したDAT4182以降の定義ファイルですでに対応済みとしました。顧客企業のネットワークやサーバー、パソコンが感染する前に、いかにタイムリーに対応していくかがビジネスの拡大につながると考えています。また、製品のバージョンアップに関しては、「マカフィー」と「スニファー」双方とも3か月から半年に1回の割合で行っていきます。
――今年に入ってから、ネットワーク不正侵入検出やセキュリティ検査ソリューションを提供するインターネット・セキュリティ・システムズ社と提携しましたね。
加藤 今回の提携は、統合セキュリティ製品やサービスを提供するための戦略的なものです。インターネット・セキュリティ・システムズ社の不正侵入検出テクノロジーや「リアルセキュア」と、「スニファー」のネットワーク異常特定・パフォーマンス管理テクノロジーとを統合することが可能になります。今後も、最適なソリューションを提供するために、一番強力なパートナー企業とのアライアンスを積極的に行っていきます。
――日本のセキュリティ事情をどう捉えていますか。
加藤 米国では、昨年のセキュリティ関連予算が約30億ドルで、今年が60億ドルだといいます。一方、日本の場合は約400億円です。また、セキュリティビジネスは、米国が40-50億ドル規模で、日本が500-600億円と10分の1以下です。日本経済の規模が米国の約40%ということを合わせて考えても、遅れているといえるでしょう。米国では、米本社の150人の研究員で構成する「NAIラボ」と政府が共同でセキュリティの研究を続けています。日本でも民間企業と政府が共同でそのような研究ができる環境があると、さらに質が高いセキュリティ環境が実現できるのではないでしょうか。
――業績の目標は。
加藤 今年度(02年12月期)は、売上高で前年度比60%増を見込んでいます。また、来年度はワールドワイドにおける日本法人の売上構成比率を、マカフィーで10%、スニファーで15%まで引き上げることを目指します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本語で「徹底せよ 現場主義」という言葉が書かれた貼り紙をオフィス内の至る場所で見かける。これは加藤社長の発案。「とにかく現場に行かなければ始まらないということを社員に意識させるため」という。加藤社長自身、「しばしば顧客企業へ向かう平社員に同行する。なかには、『なぜ、直々に社長が来たんだろう』と不思議そうな顔をする顧客企業もいる」と笑う。「実際に顧客企業の声を聞くことが、ニーズに応えるうえで重要なこと」また、「是々非々」を社内で徹底。「良い・悪いを指摘することで会社全体が良い方向に進む」こうした社員の志気を上げる取り組みが売上増につながったといえる。(佐)
プロフィール
(かとう たかひろ)1950年、大分県生まれ。73年、芝浦工業大学工学部通信工学科卒業。伊藤忠データシステムズ(現伊藤忠テクノサイエンス)に入社。85年日本レーカル・リダック社長、96年に日本ディジタルイクイップメント・取締役パーソナルコンピュータ事業本部長兼WindowsNT事業統括、97年に同パートナー営業本部長兼WindowsNTビジネスセンター長を経て、99年にネットワークアソシエイツ(現日本ネットワークアソシエイツ)の社長に就任。01年には、米本社シニアヴァイスプレジデントに就任。
会社紹介
日本ネットワークアソシエイツは、1991年7月、コンピュータウイルス対策ソフトを中心とするネットワーク関連ソフトの製造・販売を目的に、「ジェード」として設立された。97年2月に、米マカフィー・アソシエイツ(現米ネットワーク・アソシエイツ)の100%子会社となり、同年3月に「マカフィー・ジェード」、同年7月に「マカフィー」、98年1月に「ネットワークアソシエイツ」と商号を変更した。現在の「日本ネットワークアソシエイツ」に商号変更したのは、00年1月。ネットワークセキュリティのベンダーとして、ウイルス対策セキュリティ「マカフィー」、ネットワーク管理の「スニファー」を中心に統合型ソリューションを提供。昨年度(01年12月期)は、第4四半期(10-12月期)にウイルス対策ビジネスで前年同期比60%増を達成。今年度の売上高でも、前年度比60%増を見込んでいる。来年度は、ワールドワイドにおける日本法人の売上構成比を、マカフィーで10%、スニファーで15%まで引き上げる。