オリジナルソフトにこだわって事業を展開してきたメガソフトが、新しい動きを始めている。9月1日にはライフボートへ出資、10月1日には夢工房へ出資と、これまで行ってこなかった提携戦略を活発化。前坂昇社長は、「従来の店頭でのパッケージソフト販売に加え、法人販売ルートを通じた販売を行っていく計画。その分野で実績ある2社と提携した」と狙いを説明する。同時に、オンライン販売も強化し、チャネルの1つとして確立していく方針だ。
店頭以外の販売ルートも開拓、多様な販売チャネル構築へ
──ライフボート、夢工房に相次ぎ資本参加するなど、新しい事業戦略がスタートしました。
前坂 おそらく2-3年前なら、お話を頂いても、「うちは結構です」とお断りしていたかもしれません。ところが、現在の店頭市場を見ていると、以前ほど活気がない。その原因も、今の状況がいわゆる踊り場に差し掛かったという一時的なものではなく、これまでとはステージが変わる、市場の大きな変化が起こっているように感じます。これまでメガソフトは、店頭向けにパッケージを開発し、販売してきました。しかし、これからはそれ以外のルートでの販売も積極的に行っていく必要があります。
ライフボートは、当社が得意ではない法人向け販売チャネルを経験したことのあるスタッフが多い企業です。当社と資本提携することで、ライフボート製品をメガソフトルートで店頭販売することができますし、逆に、メガソフト製品の一部を法人向けルートで販売することができます。例えば、イントラネット型のFAXサーバーシステム「WebSTARFAX(ウェブスターファクス)」という商品があります。これまで店頭で販売してきましたが、反応はあまり良くなかった。これを法人ルートで販売することで、より売り上げ増が期待できると思っています。
──夢工房の場合も、資本参加は販売チャネル拡大が狙いなのですか。
前坂 夢工房の製品は、「わが家のなんでも情報」、「わが家の家計簿&料理」のように、当社のスタッフと夢工房のスタッフが共同で開発し、店頭で販売してきた製品もありますが、基本的には学校や栄養士さん向けに直接販売することがメインです。ところが、スタッフの数が少ないだけに、店頭での販売を強化することが難しかった。逆に、メガソフトの場合は、店頭販売に慣れたスタッフがいますが、学校のようなルートについては成功することができずにいました。今回資本提携したことで、夢工房の製品の一部は店頭で販売することになりますし、当社製品の一部を学校ルートで販売するといった、新しいチャレンジができます。
──新しいチャレンジは、店頭でのソフト販売を取り巻く環境が変わってきているということなのですか。
前坂 それもありますし、口幅った言い方ですが、日本のソフトは、アイデアは素晴らしいのにマーケティング力や販売力がネックになって伸び悩んでいる商品が少なくありません。当社が培ってきたマーケティング力、販売力が加わることで、日本のソフト市場に少しでもプラスになればとも考えました。
──ということは、今回資本参加した2社以外にも、新たに資本参加する企業が出てくる可能性もあるということですか。
前坂 今すぐにということはありません。しかし、メガソフトだけではできないことを実現するために、どこかと提携するといったことは将来的に起こる可能性はあります。
店頭販売はなくならない、オンラインと共存の時代へ
──メガソフトだけではできないこととは、具体的にどんなことですか。
前坂 メガソフトには厳しい掟がありまして(笑)。会社を作る時に決めたことなんですが、「世の中にないものを作る」、「一番になれないものは作らない」、「1つの商品にしがみつかない」、「自由に開発ができる立場を貫くために、他社からの出資を受けたり、株式の公開は行わない」など、そういう縛りをかけました。おかげで、企画はされたものの、メガソフトの掟(笑)と合わず、完成せずに終わったソフトも結構多かったりするんです。ただ、今後も全く同じでいいのかという点については、考え直す部分が出てきたかもしれません。
──そこで、他社への資本参加という戦略も実施したということですか。
前坂 そうですね。パソコンの利用技術の開拓という基本については、一貫していたいと思いますが、市場の変化に合わせて少々変化すべき部分もあるかもしれません。販売チャネルとしても、オンライン販売を強化していきます。インターネットを使った顧客サービスをメインにしてきた部署を9月1日付で「ネット直販部」から「ネット営業部」へと改称し、オンライン販売の営業部門としました。10月下旬から「ACCUSYNC(アキュシンク)」という名称で、パソコン間のデータ同期をするユーティリティソフトを発売しますが、この製品は、オンラインで最初に市場に提供し、その後パッケージを発売します。これは当社では初めての試みです。
──オンラインで商品を提供するメリットは。
前坂 パッケージは、1万本売れないと損益分岐点にのりませんが、オンラインであれば大幅にコスト削減が実現します。3000本、いや1000本でも採算がとれることもあります。オンラインで提供されているソフトのなかには、無償のものも多いですが、サポート、ユーザビリティといった面で当社のノウハウを生かすことで、無償の製品にはない特徴を出していけるでしょう。
──パッケージでの商品販売はどうなっていくのですか。
前坂 店頭でパソコンを販売するビジネスは、決してなくならないでしょう。しかし、パッケージに適した製品とオンラインに適した製品に分岐していくのではないかと思います。オンラインのユーザーは情報感度の高い男性が中心との印象がありますが、今後、女性の利用が増えていくのではないかと思っています。というのも、メールやチャットは、女性が男性の活用度合いを凌駕しています。オンラインでソフトを活用するのも女性の比率が男性より高くなるという状況も、決して夢物語ではありません。もちろん、そのためには女性の琴線にふれるような中身、アピールの仕方を研究する必要はありますが。当社は設立から18年目になります。これまで5年ごとに商品開発のテーマが変わってきています。最初の5年間はプロ向け、次の5年間はビジネス向け、その次の5年間がホームユーザー向けでした。
現在はインターネットということで、情報化月間の貢献システム表彰の対象作である「3Dインテリアデザイナー Web3Dショールーム」というサービスが生まれたりしたわけです。しかし、そろそろ次のテーマを考えなければならない。おそらく、ユビキタスがテーマになるんだろうなあと思っています。ACCUSYNCという製品は、ユビキタス時代を意識して開発した製品で、私が欲しいと思っていたところから作ったんです。でも、女性ユーザーを視野に入れていくと、私が欲しいものを作っただけでは十分ではありません。もっと色々と勉強しなければなりませんが、新しい市場に挑戦することはやり甲斐があることだと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
新たな施策を打ち出した要因のなかで大きかったのが、「今年8月で50歳になったこと」と前坂社長は振り返る。「いつまでも、何でも自分でできると思ってはいけない…と考え込んでしまって。それからですね。新しいビジネスモデルの模索を始めたのは」
メガソフト創業時も、「誕生日前に、このままでいいのかと考えて、前にいた会社を辞めた」という。年齢が区切りとなり、新しい仕事を始めるのが前坂社長のスタイルのようだ。「考えることのうち9割が開発で、経営のことは1割」と苦笑するが、18年間会社を続けることは簡単なことではない。「経営は素人」と口にするが、ソフト業界を見据えたからこそ続いた18年。年月の重みが光る(猫)
プロフィール
前坂 昇
(まえさか のぼる)1952年、兵庫県宝塚市生まれ。84年、メガソフト設立。パソコン用ユーティリティソフトや「MIFES」「STARFAX」などのスタンダード商品を提供。96年には家の間取りや3Dイメージが簡単に作成できるパソコンソフト「3Dマイホームデザイナー」を発売。出荷30万本以上のヒットとなり、建てる人主導の新しい家づくりの流れを生む。
会社紹介
創業は1983年8月、設立は84年9月。「パソコンの利用技術の開拓」を目的に、パソコン用ソフト会社として誕生。住宅デザインソフト「3Dマイホームデザイナー」、FAXソフト「STARFAX」、スクリーンエディタ「MIFES」などの製品群をもつ。売り上げは「横這いから、やや微増」(前坂昇社長)で推移してきたが、今年度については2割増を狙う。この2割増は、「パッケージソフトの店頭販売については、ほぼ横這いと予測しており、オンライン販売による増加を狙う」という。オンライン販売は、(1)自社サイトを通じて、(2)ベクターなどの専門サイト、(3)ECサイト経由でのパッケージソフト販売――の3つを想定している。「インターネットでのソフト購入に抵抗をもたない層が増加していることから、本格的にオンライン販売市場が立ち上がる」と見ている。