保守領域に特化した付加価値サービスを拡充する――。NECフィールディングは8期連続増収増益と好調な業績で、今年度(2004年3月期)も増収増益を目指す。今年6月に常務から昇格した富田克一社長は、成長を続けるための施策として、これまで以上に付加価値サービスの拡充に努める方針を打ち出す。
徹底して顧客満足度を重視、NECグループとは協業関係
――業績絶好調のNECフィールディングの社長になられた気分は。 富田 ひとことで言えば、大変なプレッシャーを感じています。業績もそうですが、NECグループ内での評価も高い。NECから半期に1回、業績表彰があるのですが、NECフィールディングは43回も連続で表彰されているのです。20年以上もですよ。私の使命は、この輝かしい業績をいかに継続できるか、ということです。
社長交代には2種類あって、業績低迷など経営危機を回避しなければならないという「課題解決型」と、いかに成長を持続させるかという「目標達成型」があります。私は典型的な後者です。NECフィールディングの成長基盤は、歴代の社長が手堅く築いて来られました。
したがって、私は成長を継続させるという明確な目標に向かって励みます。ただ、いくつかのメッセージは発しています。1つは徹底した顧客満足度(CS)重視の経営をすること、そして上場企業として顧客、株主、従業員、社会の4つのステークホルダー(利害関係者)に対する責任を全うすること、最後に自由闊達で、社員が誇りと思える会社であり続けること、などです。
NECフィールディングは、昨年9月に東証一部に上場しました。これまで極端な話、「NECの保守会社」と呼ばれていれば済んだところもありましたが、これからはそれだけではダメです。上場会社として「NECフィールディング」というブランド価値を、大いに高めていく必要があります。上場会社としてのキーワードは、自律経営です。"自立"経営と言い換えても結構です。環境問題、企業倫理、社会貢献など、これまではNECの傘の下で収まっていた部分を、一人前の企業としてNECフィールディングの名前で、責任をもって正面から取り組まなければなりません。
――NECグループ以外からの仕事を意識的に増やしていくということも重要では。 富田 昨年度は、売上高の約75%をNECグループに依存しています。残り約25%がグループ外からの仕事です。この比率を積極的に変えるというつもりはありません。しかし、NECグループの下請ではなく、しっかりとした地位を確立していく必要があります。もちろん、グループ外からの仕事を減らすということではありません。
NECグループ内でのNECフィールディングの役割は、非常に明確です。NEC本体やNECネクサソリューションズなどのシステムインテグレータの仕事を「前工程」とすれば、NECフィールディングの仕事は「後工程」です。当社は、NECグループの後工程のほぼすべてを担当しています。株式上場前は、これを「分業」と呼んでいましたが、株式上場後はNECグループとの「協業」という位置づけで捉えています。
――競合会社は富士通サポート&サービス(Fsas)ですか。 富田 競合会社とは言えないのではないかと思います。当社は、あくまでも後工程に集中しており、コンサルティングやシステム構築など前工程の分野に出て行くつもりはありません。NECやNECネクサソリューションズ、あるいはそれに類するシステムインテグレータが活躍する領域に出て行っても、当社にとって利点はないからです。
システムインテグレーションは、あまりにも競争が激しく、今から営業担当者を抱えて挑戦するには、リスクが大き過ぎるということもあります。ビジネス的な側面から見ても、今われわれが手掛けている保守サービスで、十分に利益を確保できています。この保守領域で、さらに深堀し、付加価値を高めるべきだという考え方です。
――ハードウェアの価格が下がることで、保守料金も下がっているという指摘があります。 富田 保守の売り上げが5%下がれば、5%の原価低減を図れば問題ありません。これと同時に売上拡大に向けて、保守サービスの付加価値化を推し進めます。たとえば、24時間保守や、システムの稼働時間を99.999%と小数点以下の9の数を増やすなど、保守単価を上げる要因は、たくさん考えられます。顧客企業が10人のオペレータを雇って昼夜問わず保守作業をやっていたとすれば、当社がリモート保守で大幅なコストダウンを実現できます。
昨年度の業績を振り返ると、営業利益(共通費控除前)の約70%を保守事業で稼ぎ出しています。新規に保守契約を当社と結ぶ顧客企業は、年間1万件を超えます。この保守契約顧客の客単価をどのように上げるかというノウハウが、当社のいちばんの強みです。当社は「保守は儲からない」とは決して考えていません。その逆です。
人材育成とインフラ構築に投資、OSより上の階層へも事業拡大
――今後の課題をあえて挙げるとすれば何ですか。 富田 当社は、どちらかと言えばハード保守には強いものの、ソフト保守に弱い部分があります。具体的には、ハードウェアから基本ソフト(OS)までは当社が全面的に保守を受け持っていますが、OSより上の階層であるミドルウェアやアプリケーションソフトの保守作業まで完全に対応できていないことが課題です。昨年度(03年3月期)は39億円、今年度(04年3月期)は91億円の設備投資をしますが、このなかには、より階層が高い保守サービスが提供できるよう、人材育成やインフラ構築の投資分も含まれています。
NECやNECネクサソリューションズなどの第一線のSE(システムエンジニア)は、新しい案件やシステム構築をどんどん獲得しなければなりません。しかし、実際にはアプリケーション保守に、貴重なSEの時間が費やされているという問題があります。われわれが、ミドルウェアやアプリケーション保守までを完全にマスターすれば、彼らも歓迎してくれ、われわれの収益力も高まります。
数値的な目標は、ミドルウェア・アプリケーション保守サービスで来年度(05年3月期)に30億円程度の事業規模にする考えです。さらに、この領域の技術水準を高めれば、当社で「フィールディングソリューション」と呼んでいる保守サービスを中心とした付加価値サービスの領域は、恐らく来年度は300億円程度に拡大するでしょう。当社の事業を保守事業と保守を基盤とした付加価値サービスの2つの分野に分けて考えるなら、前者で収益を確保し、後者で売り上げを伸ばすという戦略です。
――NECではパソコン事業を担当されていましたが、パソコンビジネスには、とりわけ思い入れもあるのでは。 富田 今年7月に発足したばかりのグループ会社で、NECのパソコン事業を担当する「NECパーソナルプロダクツ」とは、密接な連携を取っています。彼らは顧客満足度(CS)ナンバーワンを掲げており、われわれとしても共に事業を展開するというつもりで協力していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
業績がいい会社だけに、プレッシャーが大きい――。社長就任にあたり、控えめなコメントを述べる富田社長だが、業績拡大への手応えはしっかりつかんでいるようだ。「ハードやOSを中心とした保守サービスから、ミドルウェアやアプリケーションソフトまで保守領域を増やす。技術者の技量が高まれば、付加価値の高いサービスを増やすことができる」と当面の戦略を明かす。「保守契約を結んだ顧客の客単価を上げ、なおかつコストを下げることが当社のノウハウの本質。それでもなお余裕が出てくれば、NECグループ以外の顧客を開拓すればいい」控えめな表向きとは別に、本音部分を語る力強い蕫富田節﨟を聞くことができた。(寶)
プロフィール
富田 克一
(とみた かついち)1943年、京都府生まれ。67年、京都大学工学部数理工学科卒業。同年、日本電気(NEC)入社。90年、パーソナルコンピュータ販売推進本部長。94年、パーソナルC&Cマーケティング本部長。96年、支配人。99年、取締役支配人。00年、NECソリューションズ執行役員常務。02年4月、NECフィールディング取締役常務。03年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
昨年度(2003年3月期)の連結売上高は前年度比5.7%増の2401億円、経常利益は同44.5%増の151億円。8期連続の増収増益となった。
売上高の内訳は、約51%を保守サービス(同社ではプロアクティブ・メンテナンスと呼ぶ)が占め、約49%を付加価値サービス(同フィールディング・ソリューション)が占める。売上高の伸び率は、保守サービスが前年度比2.5%増であるのに対し、付加価値サービスは同9.2%増と高いのが特徴。
一方、営業利益(共通費控除前)では保守サービスが全体の約7割を占め、なおかつ伸び率も高い。全体でみれば、付加価値サービスで売上高を伸ばし、保守サービスで利益を伸ばしている。今年度(04年3月期)の売上高は前年度比5.4%増の2530億円、経常利益は同9.1%増の165億円を見込む。