半導体、EMS(電子機器の生産受託サービス)ビジネスが好調な独立系エレクトロニクス総合商社の加賀電子。創業40周年に向けた今後5年間の計画では、グループ全体の総売上高で現在の2.6倍にあたる5000億円を目指す。右肩上がりの中国、東南アジア諸国でのビジネスに加え、欧州での展開にも明るさが見えてきた。
中国の経済成長のピークは08年、それまでは右肩上がりが続く
──半導体やEMSビジネスが好調ですね。
塚本 今年度(2004年3月期)は、連結ベースで全体の40%を占める半導体の売上高が前年度比37.8%増、売上高の30%を占めるEMSビジネスが同11.4%増と急速に拡大する見込みです。半導体や生産受託は、国内需要よりも、中国や東南アジア諸国における製造工場での引き合いが大きい。売れ筋のデジタル家電やDVD、デジタルカメラなどは半導体の塊(かたまり)ですし、最近ではパソコンも持ち直し始めています。
半導体やEMSビジネスの観点からみれば、当面は根強い需要が続くと認識しています。しかし、もし当社が世界規模での調達・供給体制を築いていなければ、とても今のようなアジアでのビジネスの急伸は成し遂げられなかったと思います。エレクトロニクス市場全体としては、拡大基調にあるものの、この需要の発生は主に海外での製造需要に支えられているからです。当社のビジネス戦略の基本は、需要国に営業拠点を置くというもので、現在、中国や東南アジアで、より一層の体制強化に積極的に取り組んでいます。
──中期計画は、どのように立てておられますか。
塚本 今から5年後の08年度(09年3月期)グループ全体の総売上高は5000億円、経常利益は200―250億円を目標においています。半導体や生産受託、情報機器、一般電子部品など各事業部門の責任者から、新規事業や既存事業の5年後の計画を取りまとめると、今年度(04年3月期)の連結売上予想1900億円の約2.6倍にあたる5000億円という数字が導き出されました。08年は、ちょうど中国の北京オリンピックの年です。私の予測では、中国の今の経済成長はピークが08年に訪れると思います。それまでは今の調子で右肩上がりの成長を続けるでしょう。当社にとっても、08年は創業40周年を迎え、1つの区切りとなります。その後、2010年の上海万博の時期は調整期に入ると考えています。
中国におけるEMSビジネスおよび半導体の販売は、今年度が約250億円、来年度は今年度比約40%増の約350億円に伸びると見込んでいます。5年後の08年度は500―600億円程度まで拡大する見通しです。この中国での成長を見越して、現在、中国沿海部の上海、福建省の廈門(アモイ)、広東省の深セン(シンセン)、および内陸部の四川省の成都にある各拠点に加えて、今年度内をめどに、新しく中国東北地区の大連や天津にも拠点を開設する予定です。
──中国での主な顧客は、中国へ進出した日本メーカーですか。
塚本 中国では、日本企業の需要だけでなく中国の国産メーカーとの取り引きも急拡大しています。すでに中国の5大家電メーカーとの取り引きが始まっています。当社が日本などの大手メーカーとのビジネスで得た最先端製造ノウハウや半導体を中国メーカーに供給することにより、中国地場の企業の生産性向上に貢献しています。一方、日本国内の大手スーパーや量販店は、オリジナルの商材開発に力を入れています。こうした小売店独自のプライベートブランド(PB)を獲得する手段として、中国メーカーと国内の小売店との橋渡し役を当社に担って欲しいという引き合いも増えています。家電製品の場合、同じような機能の商品であるならば、安くて利幅が大きい商材を好む小売店の需要があるからです。
──中国への比重が高まっていますね。
塚本 ただ、中国だけが一本調子で拡大しているというわけではありません。今年春先から本格的に流行った重症急性呼吸器症候群のSARS の影響で、EMSビジネスや半導体の需要が他のアジア諸国に移ったことも重要な要素です。メーカーがリスクを分散するため、中国だけに投資をするのではなく、タイやマレーシアなど東南アジア諸国に投資先を振り分ける傾向が続いているからです。昨年4月に設立したタイの拠点では、EMSビジネスを中心に今年度(04年3月期)約40億円の売上高に達する見込みです。来年度は70―80億円の売り上げを期待しています。3年後、100億円の売上高も見え始めています。また、マレーシアでは、今年度30億円の売上予想に対し、3年後はタイと同様に100億円を見込んでいます。
浮き沈みが激しいビジネス、情報を分析し、市場の変化に対応
──半導体やEMSビジネスは、浮き沈みが激しいのでは。
塚本 承知しています。創業以来35年間、業界も扱う商材も大変な変化を経験しました。およそ4年ごとに訪れるシリコンサイクルを学び、半導体の価格が1―2年で10分の1に下落することもいやという程経験してきました。価格が10分の1になれば、10倍以上売って、売り上げを維持してきました。当社の自社ブランド「TAXAN(タクサン)」の事業では、パソコン用のディスプレイを中心に、1980年代から急速に伸ばしました。欧州や米国市場でとても良く売れました。特に欧州では人気で、最盛期の売上高は約90億円、約3億円の利益が6―7年間続いたくらいです。当時は欧州でのビジネスが稼ぎ頭でした。ところが、ここ2―3年で、台湾や韓国のディスプレイメーカーに押され、欧州と米国の拠点を縮小し、実質、ディスプレイの販売は収束させました。
欧州でのビジネスを転換するにあたり、欧州での社員をそのまま活用しようとしましたが、彼らはTAXANの商品を売るというメーカー的な発想から抜けきれず、事業転換をうまく進められませんでした。結果として人員を入れ替え、もう1度、半導体やEMSビジネスを柱として立て直している最中です。幸い、ハンガリーやチェコなど東欧圏でのエレクトロニクス製品の生産が活性化しており、ここでの半導体や生産受託の需要が見えてきています。このように、激しい浮き沈みにいかに素早く対応できるかどうかが、勝負の分かれ目だと考えています。
──素早く対応するための施策は。
塚本 情報です。商社は特に情報が命です。当社では、およそ45社に対して直接的な投資をしているのに加え、投資会社経由で約80社ほどに間接的な投資をしています。直接、間接を合わせると125社程度になります。エレクトロニクス分野だけでなく、将来的に当社のビジネスにプラスになると考えられる他業界の会社の場合もあります。これら約125社の決算書や、投資会社のアナリストの分析、あるいは投資先の会社に直接話を聞きに行ったりして集めた情報を社内の事業戦略部門で分析し、経営幹部や各事業部門の情報武装に役立てています。当社の強みは商社として変化にいち早く対応することです。今後も特質を生かし、市場の変化に適応していくつもりです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
1980年代初めに立ち上げた自社ブランド「TAXAN」の海外展開の成功に続き、現在では半導体やEMSビジネスの成功が業績伸長の原動力に。TAXANブランドは、欧州や米国市場での売上増に貢献したが、今の半導体やEMSビジネスの主戦場は中国やタイ、マレーシアといったアジア諸国にある。「日系メーカーだけでなく、現地のメーカーとの取り引きが急増した。彼らアジアの新興メーカーの経営スピードは早い。1000億円、2000億円の巨額投資案件をわずか1週間で決断することもある」と驚く。「どんな需要にも素早く応えられる柔軟性が、商社としての成長のカギ。需要国に積極的に乗り出して、新しいビジネスを獲得する」と攻めの姿勢を貫く。(寶)
プロフィール
塚本 勲
(つかもと いさお)1943年9月1日、石川県金沢市生まれ。60年、金沢市立金沢工業高校を中退。同年、ヴァイオレット電機入社。67年、サンコー電機入社。68年2月、同社を退社し独立。同年9月、加賀電子を設立し、取締役社長に就任。現在に至る。出身地の縁で社名を加賀電子とする。97年9月、モルディブ共和国名誉総領事に就任。
会社紹介
半導体およびEMSの好調を受けて、今年度(2004年3月期)の連結売上高は前年度比16.4%増の1900億円、経常利益は同12.9%増の62億円を見込む。08年度(09年3月期)までの5年間で、グループ全体の総売上高5000億円、同経常利益200-250億円を目指す。08年度は、加賀電子創業40周年にあたり、折しも中国では北京オリンピックが開催される。中国での半導体や受託生産ビジネスの需要が急拡大しており、塚本勲社長は、「北京オリンピックまでは、今のままの成長が続く」と予測する。中国での同事業の売上高は、今年度見込みの約250億円に対し、5年後は500-600億円程度まで成長する見通し。中国と同様、東南アジアの製造現場も、巨大な需要発生源へと急成長している。