未曾有の業績悪化からの回復は、黒川博昭社長の双肩に託された。昨年4月、富士通社長の交代会見で「私はブルドーザーになる」と豪語。既成概念の「破壊」を開始した。就任当初から約8か月間、全国の顧客約2000人に会い、「富士通らしさ」の探求行脚を実施。今年1月、それらを集約して「4つのチャレンジ」として行動指針を提唱した。目標は3年後の営業利益3000億円。果たして、他の大手ITメーカーが成し得た「V字回復」はあるのか。
全国の富士通ユーザーを訪問、「スピードが早まった」との声も
──黒川社長は就任当初から、「信頼と創造」の徹底に力を注いでいますね。
黒川 昨年6月24日に社長に就任してから、これまでに全国の企業の富士通ユーザー約2000人以上に直接出向き、当社の信頼度を聞いてきました。30年以上、富士通のSE(システムエンジニア)として勤務していましたので、SE時代の私の行動習性を知るユーザーが、クレームも含め気軽に声をかけてくれます。このように現場の声を知ることが、信頼回復を探る手立てにもつながると思っています。
──富士通全体が、そういう現場主義に徹するべき段階にあるということでしょうか。
黒川 当社の幹部社員には、「もっと前に出ろ」と口酸っぱく言っています。後ろで号令をかける幹部ばかりでは、会社の成長はないと思います。過去、当社は成長する過程で、組織が肥大化してきました。それと同時に内部が細分化され、「部分最適」という名目で、幹部社員が狭い領域でしか行動しなくなっていました。
──細分化した方が、黒川社長の言う「経営のスピードアップ」につながるのでは。
黒川 ITを構成するネットワークやプラットフォーム、ソフトウェア、アプリケーションなど、非常に広い分野を理解し行動する必要があるのです。当社の企業ユーザーは全国15万社ほどありますが、これをカバーする営業やSE、技術者など戦力は3万人で、どう見ても不足しがちになります。組織を細分化してしまうと、大きな案件などに際して人員を結集することが難しいのです。
──現場を回って、やはり富士通に対するユーザーからの信頼低下はあったと感じていますか。
黒川 企業ユーザーは当社に対し、結構不満をもっていることを改めて肌で感じました。それでも、「富士通が好きで信頼している」という声とともに、「だから、しっかりしてくれ」という応援と不満が入り乱れた回答も寄せられました。ユーザーが不満を持っているのは間違いないようですが、「スピードが早まった」という声も最近増えています。
──黒川社長が企業のユーザー先に出向くという行動は、今後も続くのですか。
黒川 変わらないでしょうね。性格上、ウラで号令するタイプではないのです。現場で仕事をするスタイルは、私の体に染み付いていますから。最近は「ユビキタス社会」が本格化して、現場に行かなくても仕事が成り立つ時代ですが、尚のこと、現場を大事にしないといけないと思います。
──ユーザーの信頼感を取り戻すことに関して、数字上、何か目に見えてきた部分は。
黒川 受注に関しては回復傾向にあります。今年度(2004年3月期)の業績で、受注増に対して営業利益が伸びているかを注視しています。ただ、弱音を吐くわけではありませんが、低価格競争が激しく、営業利益の急激な伸びは難しいでしょう。ですが、現場重視の「富士通らしい行動」に徹し、ユーザーの信頼を得ることが、数字(営業利益の増加)に結びつく──という仮説でこれまで進めてきましたので、それが実現することを望んでいます。
──富士通も低価格競争の市場に放り込まれているので、影響される部分はありますね。
黒川 私の現状認識では、経営の原点を無視していたと思います。経営の原点とは、「お客様起点」、「高品質」、「スピード」、「低価格」──などへ他社以上に力を傾けたかということです。少なくとも「ソフト・サービス事業」では、ユーザーが自社の事業にIT投資がどう役立っているかをシビアに判断しています。こうしたユーザーの認識は今後も続くでしょう。では今、何をすべきかというと、今までの当社のやり方を内部的に“ぶっ壊す”ことだと思います。
ユビキタスとソフト・サービスの結合、ITの新たなジャンルを創造
──では、具体的に社内で何を破壊し、何を構築すべきなのでしょうか。
黒川 今年1月から、半導体工場やパソコン生産工場などで、課長クラス全員を逐次集め朝1時間程度話をしています。そのなかで、私の考えをこう伝えています。03年度(04年3月期)までは、「健康で元気な会社」を目指す方向で経営を進めてきました。しかし、04年度(05年3月期)以降は、それに「強い会社」をプラスしたいと言っています。強い会社とは、「ユーザーに、もっと強い価値を提供でき、ライバル企業に恐れられる会社」になることです。
──富士通の「復活」に向けた具体的な方策は。
黒川 「4つのチャレンジ」を掲げました。1番目のチャレンジは富士通の“既存”をもっと破壊することです。今年度は営業利益1500億円の計上を目標にしています。しかし、売上高に占める営業利益率はわずか3%に過ぎません。そこで、商品原価率を毎年1ポイント下げる戦いをしようと呼びかけています。これが実現すれば、売上高は前年度並みでも、営業利益を毎年500億円を生み出せるのです。2番目のチャレンジは、グローバル展開です。現在、当社の全販売台数でUNIXサーバー「プライムパワー」の4割、パソコンの6割が海外に輸出されていますが、もっと出るようにすべきです。
また、このハードウェア製品と関連して、当社では90ナノプロセス製品に取り組むなど半導体技術に自信を持っています。従来は、台湾工場などで水平分業してきました。だが、設計と製造の両面で高度な技術力をもっと密接に結びつけ、「ユビキタス社会」と「ソフト・サービス事業」を結合させたITの新たなジャンルを生み出したいのです。3つ目のチャレンジは、フォーメーションの改革です。これまでは、営業とSEが別々の部門で展開してきました。しかし、企画から開発、運用、見直しに至るまで長い付き合いをユーザーは求めています。従来、営業が受注してSEがシステムを組み上げる形で売り上げを立てていましたが、ユーザーの視点からすれば営業もSEも同じ富士通です。よって、同一組織にして全体のマネジメントが行える組織へと変更作業を進めています。最後のチャレンジは、人材育成などに関するマネジメントシステムの根本的な見直しを行うことです。
──フォーメーションに関しては、全国40社余りのSE子会社を再編する案もあるようですが。
黒川 SE子会社は受託システム開発と地域サポートを目的として、全国に配置してきました。現在議論しているのは、各地域にあるSE子会社間で強い連係を取るべきだ、ということです。各社それぞれの強みを生かすため、SE子会社だけでなく、本社管轄の営業を含めた再編も検討しています。
──「4つのチャレンジ」の具体的な数値目標はありますか。
黒川 3年後の06年度(07年3月期)には、営業利益で3000億円を稼ぐ企業にしたいと、1月から社内で言っています。来年度(05年3月期)は、そのための具体的なガイドラインと個々の戦術を組み立てたいと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「私は後ろで指揮をする人間ではない」──。前任の秋草社長とは正反対のイメージを思い描く。SE(システムエンジニア)出身で、現場の叩き上げ。語る口調は柔らかいが、「富士通の既存を“ぶっ壊す”」など、平然と言ってのける。就任以来の全国行脚では、「やはり、富士通の信頼は落ちていた」と隠さず話す。現場巡りは、取締役だった自分の責任を実感する瞬間でもあったようだ。山登りを好む。社長就任で機会は減ったが、「百名山制覇」も目前という。たまに登ると傷をつくって帰ってきて、秘書をハラハラさせることもある。何とも無邪気──。ユーザーにもSEの目線で接する。社長の威厳や風格を出すのは、眼中にないようだ。(吾)
プロフィール
黒川 博昭
黒川博昭(くろかわ ひろあき)1943年4月9日生まれ、埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。67年3月、東京大学法学部卒業。同年4月、富士通信機製造(現富士通)に入社。以後30年間、ソフト・サービス関連のSE(システムエンジニア)に従事。97年4月、ソフト・サービス事業推進本部長代理。99年6月、取締役。01年4月、常務取締役。02年6月、常務執行役。03年4月、経営執行役常務。同年6月、秋草直之社長(現会長)の後任として社長に就任。
会社紹介
富士通の2003年度(04年3月期)連結決算は、営業利益で1500億円を確保する見通しだ。しかも、03年度は最終損益が四半期ベースで、第2四半期から3期連続の黒字化を果たせそうで、「回復基調にある」(黒川社長)と断言する。06年度(07年3月期)は、営業利益で現在の倍の3000億円を目指す方針だ。黒川社長は就任当初、経営上のキーワードとして「お客様起点」、「スピード」、「シンプル」を掲げていた。社長自身が現場に足を運び、利益を阻害する問題・課題などの発見に努めるなど「徹底した現場主義」を続けてきた。それらを基に黒川社長は今年1月、今後の行動指針として「4つのチャレンジ」を社内向けにアナウンス。(1)富士通の既存の破壊、(2)グローバル展開と新ITジャンルの創出、(3)フォーメーションの改革、(4)人材マネジメントの見直し──の4つを軸に、利益を上げる体質にしていくための新たな1歩を踏み出した。