サイボウズ創立メンバーの1人である青野慶久氏が4月22日、トップに就いた。これまでのサイボウズにはなかった戦略を掲げて、「急成長のカーブを描く」ことを目指し、ポータルサイト事業の立ち上げを決断した。ソフト開発でも、自社技術にこだわり続けながら、M&A(企業の合併・買収)にも力を入れていく。グループウェア市場を開拓してきたサイボウズが、青野新体制でさらに飛躍を期す。
ビジネス情報を提供する「サイボウズNET」 組織再編で社内リソースの有効活用へ
──4月22日付で社長に就任。新体制ではどのようなビジョンを描いていきますか。
青野 ビジョンは確立しており、進むべき道も明確です。2つの事業を柱に立て、サイボウズを成長させます。1つは従来通りのグループウェアを中心としたビジネスソフト開発・販売事業。そして新たな事業の柱がポータルサイトの運営です。サイボウズはこの2本柱で事業拡大を図ります。
サイボウズは、減収減益を1回経験しましたが、そのほかは一貫して増収増益を続けています。しかし、急成長のカーブを描ききれていない。そこで、私の最大のミッションはサイボウズを急速に成長させることです。そのために事業の柱を2つ持ち、ビジネスを進めていくことが最良と判断しました。
──ポータルサイトの運営は、これまでのサイボウズのビジネスとはかけ離れているように見えます。
青野 関係が全くないように映るかもしれませんが、そうではありません。グループウェア開発のなかで、すでにポータルサイトを運営するためのノウハウを蓄積しています。
当社のグループウェアのなかには、ニュースや検索機能、ビジネス情報などを編集して1画面に集約した「ビジネス情報」という機能があります。ビジネスに特化していますが、ポータルサイトとしての役割を立派に果たしており、この機能の開発・運営で十分経験を積んできました。現在、1日に12万人までアクセス数は増えています。これらのユーザーに価値の高いサービスを提供すればビジネスになると考えて事業化を決断しました。
事業化にともない、名称を「ビジネス情報」から「サイボウズNET」と変えました。容易にアクセスできるように、グループウェアを立ち上げなくても、ブラウザにURLを入力するだけでアクセスできるようにもしました。ユーザー数を増やすことが大前提ですので、まずは1日のアクセス数を100万に高めます。そのうえで具体的な目標を詰めていきます。
──具体的にポータルサイト事業をどのように運営していきますか。
青野 軸になるのは広告事業です。媒体価値を高め、アクセス数を武器に広告主を集めます。
さらに、「サイボウズNET」上でビジネスに必要なツールをASP(アプリケーションの期間貸し)サービスで提供します。第1弾として、「セミナーストリート」というASPサービスをすでに開始しています。「セミナーストリート」は、企業がセミナーを効率的に開催するためのツールです。集客から終了後のアンケート収集まで、セミナー開催に必要な項目をブラウザ上で設定・管理できます。「サイボウズNET」にアクセスすれば、「ビジネスに必要な情報だけでなくツールも見つかる」と思ってもらえるように、ASPサービスのメニューを一気に増やす計画です。
──ビジネスソフト事業では組織を見直し、これまでの製品ごとの事業部を改めました。
青野 従来の製品別組織から職能別へと変更しました。これまでは、製品別に組織を組み、独立採算制としてきました。各製品ごとに事業部を設け、その事業部内に開発、営業、プロモーション、サポートを置いていたわけです。しかし、この体制では他部門との連携がなく、ばらばらで一体感がありませんでした。
新組織では、営業、開発、サポートなどを担当するソリューション、マーケティングコミュニケーションの4部門を立て、プロダクト別の組織を撤廃しました。これにより、営業は複数の製品を売り込むようになり、開発でも経験やスキルを共有できるようになりました。
今夏を目途にパートナープログラム作成、M&Aにも積極姿勢
──販売体制を変更したことで、パートナー施策も変わってきますね。
青野 その通りです。これまで間接販売は「ガルーン」が中心でした。今後は「ガルーン」以外に、中堅・中小企業(SMB)向けグループウェア「サイボウズオフィス」や、ウェブ型情報共有ソフト「サイボウズデヂエ」なども扱ってもらえるようにします。そのため、複数の製品を数多く販売してくれるパートナーには手厚く支援するパートナープログラムを今夏をメドに作成します。サイボウズとしては、パートナー向け勉強会や販促物の充実など、すべての製品に関する知識を学べる場を用意するつもりです。
──グループウェアの新規顧客獲得が伸び悩んでいるようです。
青野 「オフィス」のターゲットであるSMB市場は伸び悩んでおり、市場も成熟しています。ただ、まだ拡大の余地はあると考えています。これまでの「オフィス」のユーザーは、中小企業でも比較的ITに対する知識が豊富な企業が多かったので、ITリテラシーが低いユーザーには、まだアプローチしきれていません。この層にアプローチするためには、販路の拡大が重要と考え、販売パートナーとして新たに富士ゼロックスとキヤノンシステムアンドサポートと契約を結びました。中小企業のIT化が遅れている市場には地域のシステムインテグレータ(SI)と組むなどさまざまな取り組みを行ってきましたが、残念ながら思うように販売が伸びなかった。最終的には、全国に販売網を築いていて営業力があるこの2社と協業することが最適と考えました。
一方、大企業向け市場ではビジネスチャンスは大きいと見ています。これまで大企業に対するアプローチは手薄で、売上比率も「オフィス」が売上高の約7割を占めており、「ガルーン」はその3分の1程度でした。大企業の顧客獲得は今年の重点テーマです。今夏に「ガルーン」のバージョンアップ版を出す予定で、これをきっかけに一気に大企業に攻めます。
──M&A(企業の合併・買収)を含めた資本提携も積極的ですね。これまで自社技術にこだわってきたサイボウズですが、提携による技術やノウハウの吸収が目的となりますね。
青野 対象となるのは大きく分けて2分野です。1つは、「サイボウズNET」を新たに事業化するので、ポータルサイトの運営ノウハウを持っている企業です。サイボウズはソフト開発会社だったので、ハードを含めた運用ノウハウは多少手薄ですから。
もう1つは、グループウェアと連携することで新たな価値を生むソフト・技術に関心があります。グループウェアを安全な環境で利用できるための技術、携帯電話などのモバイル機器からも容易にアクセスするための技術などに魅かれます。また、グループウェアとの連携でユーザーメリットが増大するような業務アプリケーションソフトも対象です。
──グローバル展開は、青野社長兼CEOが以前から力を入れている分野ですね。今年1月には、10言語対応のグループウェアを発売しました。
青野 米国、欧州、アジアなど複数国から引き合いがあり、方向性は間違っていないと思います。販売パートナーも目標100社に対し、50社集まっています。3年後に売上高8億円を突破させます。
「海外に通用するソフトを開発し、海外で売る」。これがサイボウズの中長期的なビジョンであり、私の思いでもあります。力を入れていきますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
青野社長兼CEOのブログ「3日ボウズ日記」を、今回のインタビューをきっかけに頻繁に覗いている。
ステークホルダー(利害関係者)向けに情報を発信する媒体としてブログを活用するトップは増えている。検索サイトでトップの名前を検索すると、企業よりも個人のブログが上位にランクされるケースも珍しくない。
取材では終始自然体で対応する姿勢が印象的だったが、ブログにつづられる文章もまた自然体。飾らないその言動は、ブログにも表れている。気どらない柔らかな雰囲気は、青野社長兼CEOの持ち味だろう。
「社内マネジメントでトップとして重要なのは戦略の浸透。明確なメッセージを、飾らず気持ちを込めて伝えることができれば、後は社員がどんどんアイデアを出してくれるんです」(鈎)
プロフィール
青野 慶久
(あおの よしひさ)1971年6月生まれ、香川県出身。94年3月、大阪大学工学部情報システム工学科卒業。同年4月、松下電工入社。97年8月、サイボウズの創立に参加。取締役副社長兼COOに就任。05年4月22日、代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
サイボウズは、1997年設立のグループウェア開発・販売の大手。大企業向けの「サイボウズガルーン」と、中堅・中小企業(SMB)向けの「サイボウズオフィス」の2種を用意している。
販売はウェブサイトからのダウンロードによる直販と、パートナーを経由した間接販売。導入実績は、「サイボウズガルーン」が約680社でユーザー数約27万人、「サイボウズオフィス」が約2万600社でユーザー数約163万人。日本国内のほか海外企業向けにも販売しており、今年1月から10言語に対応したグループウェア「シェア360」を販売開始した。グループウェア以外では、ウェブ型情報共有ソフト「サイボウズデヂエ」、メールソフト「メールワイズ」なども自社開発・販売する。
今年4月から、他企業との資本提携を活発化させている。4月5日には、ネットワーク構築のクロス・ヘッドの発行済み株式の13%を取得。14日には通信サービス事業のインフォニックスの発行済み株式の77.2%を取得することで基本合意した。
昨年度(05年1月期)の業績は、グループウェアの新規顧客獲得は伸び悩んだものの、「サイボウズデヂエ」などが好調に推移し、増収増益を達成。売上高は前年度比9.9%増の29億2300万円、当期純利益が同18.7%増の3億900万円となった。
社員数は約140人。00年8月、東京証券取引所マザーズに上場。02年3月、同第2部に市場変更した。