インテリジェントウェイブ(IWI)が、セキュリティソフトベンダーへと変貌を遂げようとしている。内部情報漏えい対策ソフト「CWAT(シーワット)」を軸に、セキュリティビジネスをメイン事業に据えた計画を立てる。日本だけでなく、海外市場も視野に入れ、2007年度(07年6月期)には売上高の70%を占めるビジネスに成長させる。今年2月23日、トップに就いた山本祥之社長は、IWIを世界に通用するセキュリティソフトべンダーに成長させる戦略を打ち出す。
「CWAT」、品質向上で販売急伸 販売面では導入支援サービスを用意
──「CWAT(シーワット)」を中心としたセキュリティ事業を一気に拡大させる方針です。「CWAT」は2004年2月の販売開始から順調に伸びてきましたが、昨年度(04年6月期)と今年度(05年6月期)の中間期では計画値を下回りました。
山本 「CWAT」は、機能を急速に増やしたり、「ウィンドウズXP」の「サービスパック2」が配布されたことによる動作検証など、システムを安定稼動させるための確認作業に手間取りました。この確認に時間がかかり、本格的に販売できる品質になったのは昨年12月ぐらいからです。
また、ユーザーの情報システムはさまざまで、事前検証レベルでは問題がなくても、運用開始後にトラブルが発生するケースもありました。当初は3か月ぐらいで運用できると思った案件が、半年もかかってしまうこともありました。一般企業の顧客数は見込み数値とほぼ同じだったのですが、顧客は「まずは限定した一部門に導入して、それから全社導入」という傾向が強いですから、全社導入するまでのスピードが遅く、顧客単価が上がらなかったことが計画に達しなかった要因です。
地方自治体への普及も思うように進みませんでした。地方自治体は、「CWAT」のようにサーバーから各パソコンを管理するネットワーク管理型ではなく、各パソコンの中だけで動くスタンドアローン型のセキュリティソフトを好む傾向が見られました。
しかし、今年に入り、品質が向上したことで販売は順調に伸びています。導入企業数は昨年12月末の段階では約60社どまりでしたが、今年1─3月の間だけで80社ほど増えており、急速に伸びています。クライアント数も20万を超えました。地方自治体からも、ネットワーク管理型のシステムを求める声が徐々に増えていますので、今後は期待できます。今年度通期では目標数値をクリアできると思います。
──07年度(07年6月期)を最終年度とする中期経営計画では、「CWAT」を中心としたセキュリティ事業で、07年度に売上高70億円の突破を掲げています。昨年度の実績約9億円に対し大幅な拡大を計画していますが、開発、販売の両面での強化施策は。
山本 開発面では、まず品質管理を手がける人員を増強します。安定してきたとはいえ、今後新機能を追加していきますから、同じようなトラブルを避けるためには、品質向上は絶対条件です。ただ、この部分は従来と同様に日本人の技術者で品質管理業務を行うのではなく、海外企業へのアウトソーシングを考えています。品質管理は、開発よりも工程が複雑でなく、海外の技術者に任せてもトラブルはない。コストを考えて、安価な海外技術者にテストを任せる体制を作ろうと思っています。地域としては、中国やインド、べトナムが考えられますが、特にインドを検討しています。現地法人を設立するか、それともインドのソフト開発会社にアウトソーシングするかなど、詳細を詰めている段階です。
──販売面では。
山本 まず販売パートナーの整備を進めます。順調に販売パートナーを集め、現在36社の1次代理店がいますが、増やし過ぎたと思っています。たくさん売ってくれる企業とそうでない企業が明確になってきたので、1次代理店の数を絞り込み、36社から半分程度に減らします。今秋までに新たなパートナー制度を作成し、1次代理店のスリム化を図ります。
また、パートナーへの支援施策として、導入支援サービスを新たに始めます。「CWAT」のようなセキュリティソフトを導入する場合は、システムエンジニアリング技術だけでなく、ネットワークに関する知識と経験が必要になります。パートナーのなかには、そのような技術や経験に精通するスタッフを自社で用意するのは難しいという声があがっていますので、当社のスタッフが同行し、スムーズな導入を支援するサービスをパートナー向けに始めます。この導入支援サービスでパートナーが容易にシステム構築できるよう支援することで、販売強化を図ります。来年度中に導入支援スタッフを現在の15人から30人へと倍に増やします。
米ニューヨークに現地法人設立、海外市場での販売に着手
──「CWAT」を導入しているのは大企業が中心ですね。中小企業へのアプローチは。
山本 確かに「個人情報保護法」の完全施行の影響などで、中小企業からも引き合いが増えています。個人情報を5000件持っていない企業も関心を持っています。ただ、自社でシステムを構築してもらう形は、システム管理者も不十分でIT投資も乏しい中小企業には向いていないでしょう。そこで、ASP(アプリケーションの期間貸し)でのサービスビジネスが考えられます。ASPサービスは当社から直接エンドユーザーに提供するのではなく、データセンターを持っているパートナーがたくさんいますので、そのパートナーの独自サービスとして提供する形をとります。中小企業向けASPサービスは、中期経営計画の70億円のうち、15─16億円規模には成長するとみています。
──海外市場にも乗り出す方針ですね。
山本 今年度、来年度は足場を固める準備期間としていますが、07年度には海外市場で「CWAT」を5億─6億円販売したいと考えています。
ニューヨークに昨年9月、現地法人を設立し米国でのテスト販売を開始しました。韓国でもテスト販売を始めています。現在は欧州地域の販売拠点として、ロンドン郊外に現地法人を設立することで最終調整に入っています。中国では、1次代理店が持つ現地法人を経由した販売を手がけることを、パートナーと交渉している段階です。今年度、来年度で世界各国で一気に営業展開できる体制を築きます。日本企業の海外法人に販売するだけでも5億─6億円は達成できる数値だと思います。
──「CWAT」以外のセキュリティ製品も揃え始めていますね。
山本 自治体のように、ネットワーク管理型ではなく、スタンドアローン型ソフトを好むユーザーもいますから、パソコン向けのセキュリティ対策製品も用意する必要があると考えていました。そこで、今年5月にUSBフラッシュメモリのなかにセキュリティソフトを組み込み、パソコンに差し込むだけでセキュリティ対策が行える製品をリリースしました。
1つは、USBフラッシュメモリが差し込まれていない状態だと、パソコン内のデータが暗号化され、万一パソコンが紛失した場合でもデータの流出を防ぐ製品。2つ目は、ウイルス対策ソフトをUSBフラッシュメモリに組み込んだ製品です。ハードディスクドライブ(HDD)にインストールしなくても、このUSBフラッシュメモリを差し込めばウイルス対策が施せます。そして3つ目が、USBフラッシュメモリにデータをコピーすることはできても、その他のメディアにはコピーできない仕組みを持つ製品です。この3製品は、差し込むだけで使えますから、非常に分かりやすい製品です。 中長期的には「CWAT」に次ぐ、第2の柱となるセキュリティ対策ソフトの開発・販売も視野に入れています。「CWAT」だけではまだ不十分ですから。
眼光紙背 ~取材を終えて~
一気に世界に打って出る戦略を立て、来年度(06年6月期)から本格的に動き出す。かつて安達一彦前社長(現会長)にインタビューした時、海外展開への強い思いが印象的だったが、山本新社長からもその熱意がひしひしと感じ取れた。安達会長は米子会社の社長を兼務し、海外展開は2人3脚で指揮することになる。
内部情報漏えい対策ソフト「CWAT」の販売は軌道に乗り始めているが、「第2の柱となる商材をすでに思考中」とか。
「全業種向けなのか、業種を絞るのかは分からない。だが、開発コンセプトはあくまで世界で売ることができるソフト」と思い入れは強い。
「既存事業が伸びていないのは明白。新たな手を打つ」と、CWATの開発にこれまで7億5000万円を投じてきた。CWAT同様に積極投資で新製品を生み出す計画で、世界に通用するソフトベンダーの地位確立を狙う。(鈎)
プロフィール
山本 祥之
(やまもと よしゆき)1955年11月生まれ、北海道出身。78年3月、専修大学経営学部卒業。同年4月、東京コンピュータサービス入社。85年11月、インテリジェントウェイブ(IWI)入社。94年1月、営業本部理事・部長。95年3月、取締役営業本部長。99年9月、常務取締役営業本部長。02年1月、常務取締役セキュリティシステム事業部長。03年7月、常務取締役営業本部長兼コンシューマ事業部長。04年7月、取締役専務執行役員営業本部長兼営業管理部長兼コンシューマ事業部長。05年2月23日、代表取締役社長執行役員に就任。
会社紹介
インテリジェントウェイブ(IWI)は、キャッシュカードやクレジットカードシステムのインフラ構築、銀行・証券会社向けのディーリングシステム構築に強みを持つ。
2004年2月に内部情報漏えい対策ソフト「CWAT(シーワット)」を販売開始したのを機に、セキュリティ事業を本格化。セキュリティビジネスを事業の柱に据えた。「CWAT」は日本市場のほか、海外での販売にも力を入れていく計画で、04年9月には米ニューヨークに現地法人を設立し、テスト販売を開始。韓国でもテスト販売している。中期的な戦略として、昨年度(04年6月期)約9億円(売上構成比率17.1%)だったセキュリティ事業の売上高を、07年度(07年6月期)には70億円(同70%)に引き上げる計画だ。
昨年度(04年6月期)の業績は、カードシステムのインフラ構築ビジネスの不調や、「CWAT」の売り上げが計画値に対し未達に終わったため減収減益となった。今年度(05年6月期)は、利益率の高い「CWAT」の販売が大幅に伸びると見て、売上高は前年度比12.0%増の58億9000万円、営業利益が約2.5倍の9億1400万円、経常利益も同様に約2.5倍の9億円、当期純利益は約3.4倍の5億3600万円を見込んでいる。
社員数は約250人。01年6月、ジャスダック証券取引所に店頭公開した。