昨年7月2日、旧米ベリタスソフトウェアと合併し新たなスタートを切った米シマンテック。その日本法人トップに10月17日就任した木村裕之社長は、「06年は本格的に統合効果を示す年」と位置づける。ジャンルが異なる大手ソフトメーカーの大型合併によるメリットを日本市場でどう実証するのか。木村社長が描く新生シマンテックジャパンの姿を探った。
全方位のセキュリティを実現、1社で安全運用のニーズ満たす
──昨年10月の社長就任発表には驚きました。ベリタス側から、新生シマンテックの日本法人トップが誕生するというのは、意表を突いた人事でしたね。
木村 シマンテックとベリタスの合併もビックリしましたが、社長就任の話を聞いた時は、それ以上に驚きました。正直、「これは大変なことになるな」と思いましたね(笑)。なにしろ、「企業合併は大変だ」とさんざん聞かされてきましたから。
ただ、IT産業の歴史からすれば、両社の合併は自然な流れでもあるんです。責任は非常に重いし、大変であることは確かですが、この大きな流れの中心で重要なポストを任された面白さを感じていますよ。
──合併が自然な流れとは。
木村 IT産業は90年代、急スピードで成長しました。新技術がどんどん登場して、オープンなシステムも一気に増えた。情報システムも飛躍的に大きくなり、技術革新により、ユーザーの利便性も格段に向上しました。
ただし一方では、マルチベンダー、マルチプラットフォーム化が、情報システムの肥大化、複雑化という弊害も招き寄せました。その結果、システムが“バラバラ”になり、全体を最適化しデータを管理することが非常に困難になってしまった。今やIT投資は初期投資よりも運用コストのほうが圧倒的に高いじゃないですか。
さらに、技術の進化はサイバー犯罪のテクニックも高度化させてしまった。結果、情報セキュリティだけでも、複合的な対策が必要になっています。
──この状況で、両社のテクノロジーを組み合わせることは、顧客のニーズに沿った自然な流れだと。
木村 そうです。ベリタスは、ストレージ管理、バックアップのソリューションでは大きな強みがあります。情報システムのなかにあるデータを守るための製品・サービスの実績は非常に高い。ただ、情報システムの出入口でデータの信頼性確保や、情報流出の防止などはできていなかった。情報システムの出入口でデータのセキュリティを確保できるソリューションがなかったんです。ところが、今回のシマンテックとの合併で、この弱点を解消することができたわけです。企業のITシステム全体を最適化しながら、データを安全な環境で管理することが、1社のテクノロジーで可能になったんです。
ITベンダーは、今後、システムの安全な運用とデータ管理に、真剣に取り組まざるをえないでしょう。新生シマンテックは、そのニーズを全方位で満たせるソリューションを持ったのです。その観点からすると、この時期にシマンテックとベリタスが合併したことは、非常に深い意味があると思いませんか。IT産業の歴史のなかで、1つの大きな出来事だと感じています。この大きな流れのなかで、シマンテックのトップを任せられることは、非常にやりがいがあります。
日本法人も2月末までに統合、コンサル能力強化を重要課題に
──米本社同士の合併から半年になります。今年は日本法人としても、合併効果と新生シマンテックの強みをはっきりと求められる年になりますね。
木村 米本社は、合併のフェーズを3段階に分けています。それに基づいて日本法人も動いているんです。具体的には、昨年末までを第1フェーズと位置づけ、今年6月末までが第2フェーズ、7月から年末までが第3フェーズとしています。
第1フェーズを終わった現時点では、予想以上の成果を出せたと感じています。組織体制の構築、パートナーとの関係づくり、新ソリューションの提供など、さまざまな面で予定通りに進めることができました。
特に、両社の技術を融合させた新ソリューションの提供では、昨年11月にEメールのセキュリティとバックアップを組み合わせたソリューションを発表できました。新生シマンテックの新たな注力ポイントは、Eメール、ビジネスの継続性確保、そしてコンプライアンス強化の3つに絞っています。その1つを予定通りにリリースできたことは大きな成果でした。
──しかし、第1フェーズの段階では物足りなさを感じているパートナーもいますね。第2、第3フェーズでの具体的な取り組みは。
木村 第2フェーズに位置づけている今年1─6月が、本格的な統合段階になります。ですから、パートナーにも合併効果を肌で感じてもらえると思います。まず、製品面では、ユーザーインターフェイスを一体化させます。これで両社の製品統合が進んだことを実感してもらえるでしょう。日本法人同士も、2月末までには統合してひとつになります。組織もこれまで以上に機敏に動けるようになります。
第3フェーズでは、まだ詳細は言えませんが、旧両社のコアテクノロジーが一体になることで、セキュリティとアベイラビリティ(可用性)が連携するような製品・サービスが生まれてきます。例えば、ストレージにデータを格納するとき、何らかのセキュリティチェックを施したうえで格納するような新製品も出てくるでしょう。
──製品統合、新ソリューションの開発とともに日本法人として重要なのが、パートナーへの支援、つまりパートナープログラムの統合だと思います。
木村 両社ともに、パートナー企業を通じた間接販売をメインにしてきましたから、パートナーへの支援体制を融合させることは、第2フェーズの大きなテーマです。これはすでに計画しており、今年2月をメドにパートナープログラムを新たに作成し、発表します。
──具体的な内容は。
木村 ベリタスのパートナーはどちらかというとハイエンドの顧客に強く、一方、シマンテックのパートナーはミッドレンジの顧客に強い傾向がありました。この特性をうまく生かしながら、ハイエンド向けはベリタスのパートナーが中心になって、そしてミッドレンジはシマンテックのパートナーが中心になって、それぞれ旧両社の製品をどちらも販売しやすいプログラムをつくります。新パートナープログラムを推進するための組織体制は、合併を発表した7月から準備は進んでいます。
──セキュリティ分野は、法律的知識やセキュリティポリシー作成スキルなども必要になり、技術だけでない幅広い知識が必要です。製品・サービスを導入するためのコンサルティングスキルは今後さらに求められてくると思います。
木村 ご指摘のとおり、コンサルタントの育成は今年の最重要課題と考えています。昨年は一昨年に比べ、コンサルタントを約2倍に増やしましたし、今年も拡充・育成に力を入れていきます。自社のコンサルタントの育成だけでなく、パートナーへの教育にも当然注力します。あまり知られてはいないかもしれませんが、シマンテックのコンサルティング部隊のスキルは非常に高いんですよ。
日本は欧米に比べ、CSOを設ける企業が少ない。ポリシー作成から製品導入・運用管理のコンサルティングサービスを求める声は欧米以上だと思いますので、このニーズをパートナーとともに開拓していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
昨年10月の突然の社長交代劇。その決断を下した米シマンテックのアジア担当役員に話を聞けば、木村氏に日本法人社長を任せることを決めたのは、社長交代が発表されたわずか2週間前だったという。誠実さと真面目さ、そして人を惹きつける力をその理由に挙げていた。
具体的な統合効果を発揮しなければならない今年。木村社長は、06年のキーワードとして「実証」を挙げた。
「05年を土台にもう1段上のステージに上がり、IT業界をリードしていく存在にならなければならない。今年は統合した効果を実証する年。合併したことでのメリットを示し、認めてもらわなければならない」
責任の重さをひしひしと感じていると話すものの、一方でその重責を、楽しみながら挑戦しているように感じられる表情が印象的だった。(鈎)
プロフィール
木村 裕之
(きむら ひろゆき)1954年生まれ、東京都出身。78年3月、電気通信大学電気通信学部卒業。同年4月、ミシン開発・販売などの東京重機工業(現JUKI)入社。89年2月、サン・マイクロシステムズ入社。99年7月、営業開発統括本部統括本部長。00年7月、取締役エンタープライズ営業統括本部長。02年7月、常務取締役インダストリー営業担当。03年1月、ベリタスソフトウェア入社、代表取締役社長。05年10月17日、シマンテック代表取締役社長に兼務で就任。米シマンテックコーポレーション副社長も務める。
会社紹介
米シマンテックは2005年7月2日、旧米シマンテックと旧米ベリタスソフトウェアの2社が合併し、シマンテックを存続会社として新たなスタートを切った。世界第4位のソフトウェアメーカーとなり企業規模が大幅に拡大した。扱い製品・サービスは、情報セキュリティからストレージ管理、バックアップまでを網羅する。
個人向けセキュリティソフトなどコンシューマ向けビジネスも手がけるが、米シマンテックのジョン・トンプソン会長兼CEOは、ワールドワイドで法人向けビジネスを売上高の75%まで拡大させる考えを示しており、日本法人も法人向けビジネスの強化に力を注いでいる。
旧両社の日本法人はまだ統合しておらず、今年2月に統合が完了する予定。