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全システム領域をオラクルで ビジネス規模は現在の7倍に拡大
日本オラクル 代表取締役社長兼最高経営責任者 新宅正明
取材・文/谷畑良胤 撮影/大星直輝
2007/01/08 18:05
週刊BCN 2007年01月08日vol.1169掲載
ビジネスアプリの買収で新しい飛躍への準備整う
──社長に就任して7年目に入りました。この間、何を実現できたのでしょうか。新宅 ひと言で語るのは難しいですね。とはいえ、この6年半のレンジをレビューすると、「日本オラクル」という会社の形が整ってきたと思います。就任当時は、日本法人設立から日が浅く、ユーザー企業やパートナーの期待に“勢い”で応えていたところがあった。テクノロジーや信頼できるサポートが、まだ不足していたからです。しかし、年を追うごとにさまざまな経験が社内に蓄えられ、社員個人や組織全体が見違えるほどの「充実と成長」を遂げてきたと思います。

──逆に、思い通りに実現できなかったことは。
新宅 できなかったこと?それは、ありますね。グローバルの一員であることを踏まえて、国内でも「オラクルらしさ」というウイングを広げたかったのですが、残念ながら100%は成し遂げられなかった。
いま、オラクル全体では、データベース主眼の会社から、ERP(統合基幹業務システム)など「ビジネス・アプリケーション」やサービスにシフトし始めています。アプリケーションのボリュームが膨らんだことで、「オラクル・コーポレーション」では非常に重要なプロダクトになっている。そのボリュームの拡大に合わせた事業展開を、「日本オラクル」でもできたかというと、そこまでは到達できなかった。 ──それは、ピープルソフトなどの新たな「ビジネス・アプリケーション」でなく、大規模企業向けERP「Oracle E─Business Suite(EBS)」などを指しているのですか。
新宅 そうですね。いろいろな要因はありますが、EBSのビジネスが、ボリューム的に立ち上がっている状況にはない。期待したレベルまでは到達できていないので、やり方によって、まだチャンスはあったのではないかと感じています。
──新たな「ビジネス・アプリケーション」が加わり、この状況は一変しましたか。
新宅 その通りです。1年半前から、いよいよチャンスが広がってきた。EBSなど既存のERPだけでなく、「次のシナリオ」というか「新しい飛躍」をするための準備ができた。「日本オラクル」にとっては、千載一遇のチャンス。本来あるべき可能性に向けて羽ばたくチャンスが訪れたと思っています。
──米オラクルの買収速度に比べ、日本での販売体制の整備は、遅れがちだったようにみえます。
新宅 日本のマーケットを預かっているのは私ですが、みんなと相談しながら体制を整えてきた。組織体制の再編が時期的に早いか遅いかは関係ない。ピープルソフトやJDエドワーズ、シーベルなどから買収した製品を本質的に生かす時期を考慮すると、再編の時期はいいタイミングだったはずです。
──今年度(2007年5月期)は、売上高が1000億円に達する見通しとか。
新宅 今期の目標は非常に高い。しかし、買収した「ビジネス・アプリケーション」の売り上げが、経営に大きく貢献するには、まだ2─3年かかる。それまでは、相対的にミドルウェアやデータベースなど、テクノロジー関連の売り上げで業績を伸ばしていきます。まずは、「ビジネス・アプリケーション」の販売を軌道に乗せることが重要です。
2010年までにはブランド含めNo 1に
──当面は、買収した旧ピープルソフトなどのリプレースに重点をおき、08年に出荷予定の次世代製品「Oracle Fusion Applications」の登場で、ビジネス全体を加速させるのですか。新宅 ということではなく、すでに、今期前半もピープルソフトをベースした企業への提案で、成約した例があります。リプレースを掘り起こすというよりは、新しい需要をピープルソフトやシーベルなどで獲得していく。ここ2年間で買収した小売業向けアプリケーション会社の米リテックや、銀行向けソフト開発のアイフレックス・ソリューションズ(インド)も同じことです。商機を生み出す商材やソリューションが増えたことは、当社を“Growth”させる大きな武器を得たことになります。
──昨年10月に開催した「Oracle OpenWorld 2006」では、新規性の高い事業戦略を次々に打ち出しました。
新宅 これまでの業界の事業構造は、データベースやミドルウェア、ビジネス・アプリケーションといった各領域を、オラクルを含め、BEAシステムズ、SAPなど専門のソフト会社が、それぞれのレイヤ別にカバーしてきたというのが実態です。
しかし、これからオラクルが目指すのは、トータルなスタック(データ構造)や全システム構造を、すべてオラクル製品でカバーするということなのです。しかも、そうした製品を「オープン・スタンダード」で構築し、他社製品との連動性を、きっちり確保した「標準アーキテクチャ」にする。これが、10月のイベントで提唱したナンバー1の「ビジネス・エンタープライズ・ソフト会社」になるというベースのシナリオなのです。
ナンバー1になるということは、各製品市場でシェア1位を獲得するだけでなく、ユーザー企業の満足度や信頼などに関係する「ブランド」でもナンバー1を獲得するということなのです。これが、世界のオラクルが2010年までに成し遂げるゴールになります。
──日本市場で、すべてを達成するには、大変な労力が伴いますね。
新宅 「日本オラクル」としては、いままで通りのことをやっていけばいい。今回の当社イベントでは、SaaS(Software as a Service)やLinux製品のサポートなど、新たなアーキテクチャやサービスへのシナリオも示しました。企業内の各事業部が共通のITサービス・インフラを使う場合、企業内であれ、その企業に関連する外の企業であれ、同じ仕組みが必要なんですよ。
日本企業のIT投資は、「新規2割」「メンテナンス8割」という配分で、この傾向がいまも続いています。しかし、グローバルに戦いを挑む日本企業のITインフラが、イノベーション(革新)を加速化できないのでは、ダメですよね。そのために、いまあるIT投資のフレームを変えていく必要があります。
国内企業のIT投資は、年間十数兆円といわれる。当社に任せて頂ければ、ハードウェアの比重が減り、ソフトとサービスの割合が上がる。同時にソフトとサービスの質が大きく改善する。オラクルがカバーできる領域は、ここが大きくなってきている。これからオラクルがカバーする領域を考えると、主眼としてきたデータベース分野に比べて、ザックリ見ても、3倍以上のマーケットになる。パートナーと一緒にこれらの仕事をこなしていくと、現在の7倍ぐらいにビジネス領域が広がります。
──データベースやミドルウェア、「ビジネス・アプリケーション」まで、ほとんどのレイヤを「垂直統合型」でカバーしたことにより、パートナーによっては自社の顧客のシステム全体を取られるという危惧を抱くこともあるのではないですか。
新宅 いまオラクルが主張しているのは、IT業界で進むスタンダードに沿った製品づくりをするということなのです。排他的になにかを除去することはない。日本のITベンダーの運用管理ソフトなども、「Oracle Fusion Middleware」とつなぐことができます。こうしたITベンダーも、当社のミドルウェアがあれば、新たな開発が必要ない。逆に、相互補完できるところが増えてきたといえます。
My favorite
明治34年(1901年)に大阪・東心斎橋で創業した鞄の老舗「馬場万鞄店」に依頼し、オーダーメードで作ってもらった牛革製の鞄。同店は、1つひとつ丹念に縫い上げる変わらぬ手法とこだわりの素材を使う。新宅正明社長と同店の3代目店主、秋山哲男氏は中学校の同級生。好みのデザイン、素材、色合いを指定し、「すべて自分好みで、飽きず、使うほど良くなる」と、特に気に入っている品だ

眼光紙背 ~取材を終えて~
日本オラクルには、日本IBM時代にも上司だった佐野力・日本オラクル前社長に恩返しするつもりで入社したと聞く。社長就任当初は、佐野氏の威光が残り比較され、内紛があったり、思うように業績も上がらず、苦労の連続だったようだ。
当時から話す口調は落ち着きがあり、時には日本企業の社長の口からは出そうもない「リップサービス」がある。IT記者のなかには、これを期待し「日本オラクル・ウォッチャー」がいるほどだ。
半面、パートナーに話題を振ると、言葉は慎重になる。「当社と組めば、パートナーさんのビジネスは何倍にもなる」──。チャネル戦略だけは、欧米にない、日本のIT流通の文化に即した地道な取り組みが必要なのだろう。08年7月以降、本社機能を現在の東京・赤坂から南青山に竣工予定の複合ビルへ移転する。それまでに、事業規模は現在の1.5-2倍に膨れ上がっていることだろう。(吾)
プロフィール
新宅 正明
(しんたく まさあき)1954年9月、大阪府生まれ、52歳。78年3月、早稲田大学政治経済学部卒業。同年4月、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)に入社し、福岡県の西部営業所で13年間にわたり、営業担当などとして活躍。91年、日本オラクルに入社、第三営業部長に就任。94年には、取締役マーケティング本部長に。その後、96年に常務取締役マーケティング本部長、97年に同製品事業本部長などを経て、00年8月、代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就任。01年1月から現職。
会社紹介
日本オラクルは1985年10月、データベース・ベンダー大手の米オラクル日本法人として設立された。日本法人は99年2月、米本社を除く世界のオラクル現地法人として唯一、現地の株式市場に上場(東証1部)した。
米オラクルは03年頃から、主力のデータベースやミドルウェアに加え、ERP(統合基幹業務システム)世界大手の「ビジネス・アプリケーション」などをもつベンダーの買収戦略を加速。04年にピープルソフト(JDエドワーズ含む)、翌年にCRM(顧客情報管理)世界大手のシーベルを買収した。
日本では昨年7月、日本オラクルと旧日本ピープルソフトで米オラクルの子会社、日本オラクルインフォメーションシステムズと、新アプリケーションを共同で拡販する戦略を発表。これを機に、日本市場で本格的にピープルソフト、JDエドワーズ、シーベルの各製品の拡販を開始している。
日本オラクルの業績は、昨年度(06年5月期)の売上高が915億円、営業利益321億円で、売り上げ、利益ともに過去最高を記録した。ビジネス・アプリケーションとミドルウェアが25-42%伸びたことが影響した。今年度(07年5月期)は、売上高1010億円を見込んでいる。
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