ストレージ機器メーカーの日本ネットワーク・アプライアンスが事業領域の拡大に意欲を見せている。今年1月にマネジメント体制を刷新、ミッションクリティカル分野に参入するなど事業領域の拡大を推し進める。大手ネットワーク機器メーカーからの転身で社長に就任した大家万明氏は、「ネットワークの時代が過ぎ去り、ストレージの時代が到来した」とみる。同社を国内屈指のストレージ機器メーカーに成長させようと試みる大家社長に今後の方向性を聞いた。
「個人力」から「組織力」マネジメント体制を刷新
──今年1月の社長就任から6か月が経過しましたが、社内の状況をどのように捉えていますか。目下の課題は?
大家 「組織力」の最大化です。当社には、能力のある社員が多くいます。個々の能力を会社全体の能力として高めることが重要と考えています。当社に移ってきてからすぐ、すべての社員と面談しました。それで分かったのは、社員一人ひとりは非常に優秀だけれども磨かれていない、ということ。つまり、マネジメントされていないと感じたのです。実際、社員の話を総合すると、「面倒を見てもらっていません」ということでした。マネジメントされなければ優秀な社員が100人いても烏合の衆と成り果てるだけです。今後は、個人の力を教育訓練で磨くマネジメントを社内に取り入れようと考えています。
というのも、今後ビジネスを拡大させるには従来のファイルサーバー領域だけでなく、ミッションクリティカルな分野まで広げる必要があるからです。販売代理店やユーザー企業などから、これまで以上に高いレベルのスキルや、サポート体制を求められる。これまでは、会社が小規模だったことやビジネス領域が限られていたことからも、社員一人ひとりがセールスを行うかたわら、顧客からのクレームを聞いたりしながら、お金の勘定もしなければならなかった。一人で何でもこなしていたわけです。しかし、それでは社員の能力は生かせないし、会社自体がビジネス領域を広げることもできません。SEだったらSE、セールスだったらセールス、パートナー支援だったらパートナー支援など専門化して徹底的に社員の能力を磨く。精鋭が揃っていますから、きちんとマネジメントを行えば必ず成功すると確信しています。
──ストレージ市場の状況をどのようにみていますか。
大家 社員の能力を高めていくのも、今まさにストレージ時代到来の風が吹き始めているからです。これまでの10年間はネットワークの時代でした。それがネットワークインフラが整い、情報活用の時代になった。蓄積したデータをどう生かしていくのかをユーザー企業は考えるようになったのです。
例えていうなら、あぜ道が高速道路になったようにネットワークでも同じことが起きています。しかしながら高速で大容量のデータを流せる道路を引いても、「ガラガラ」では仕方がない。道路は整備されたものの、使いこなされていないのがネットワークの現状です。しかも、荷物を運んだはいいが、ためておく倉庫が整備されていない。情報も同じなんです。整備されたネットワークを使って四六時中データを送り続けたとします。今まではためるところがなく、仕方なく捨てていた。だから、余計な情報は流さないという状況だった。しかし、ディスクドライブのバイト単価は低下傾向にあります。1テラの製品が手頃な価格で買えるようになった。近い将来、エクサバイトという単位のデータ容量をためることが可能なストレージ製品だって登場するかもしれません。すると、今まで捨てていたデータをためて置けるようになる。
バイト単価の安さを強みに、3年後に2倍の売上規模へ
──ストレージ市場が拡大するということですが、市場が拡大すれば新規参入も多くなる。競合のストレージメーカーも同じように業績拡大に向けた策を講じると思います。他社と比べた強みは何ですか。
大家 製品が「安い」ということです。バイト単価は他社と比べて2分の1から3分の1と低い。大量のデータをためておく時代が到来するのですから、コストダウンが図れる当社の製品はユーザー企業にとって大きなメリットといえます。
企業がシステム投資に使えるお金は、10年間で10倍に増えることはありません。一方でためたいデータは、10年間で100倍に膨れ上がる。すると、ユーザー企業はストレージ機器を増設することになるのですが、いくらお金をかけてもデータが増えるばかりで一向に悩みが解消できない。当社の大容量データの蓄積が可能なストレージ機器を導入すれば、コスト削減や業務効率などの課題が解決できます。ストレージ需要が増えれば、当然、ほかのメーカーも製品価格を下げてくる。ハイエンドモデルのラインアップを増やし、そのモデルのなかで低価格な製品を出すといったメーカーも出てくるでしょう。しかし、当社ではやみくもに価格を下げるのではなく、モデルですべてのユーザーニーズに応えます。ユーザーの蓄積したいデータ量を聞き、アプライアンスとして提供する。ローエンドモデルもハイエンドモデルも搭載しているソフトウェアは同じですから高機能や低機能といった問題はない。これが他社には、まねのできないところだと自負しています。
──販売代理店を増やすなど、チャネル戦略で強化する点はありますか。
大家 2つあります。1つは今まで照準を当ててきた大企業をユーザー対象とした販売代理店網の構築です。ユーザー企業になっている大企業は約150社です。今後、おつき合いしたい数でいうと600社です。4倍のポテンシャルがあるということです。これまでは、販売代理店の数が足りず、攻め切れていなかった。大企業の新規ユーザー開拓に向けて、できるだけ販売代理店を増やしたいと考えています。2つ目は、SMB(中堅・中小企業)の分野です。現段階では、当社の製品に対する関心が高いとはいえませんが、近い将来には十分にニーズが高まるとみています。そこで、SMBに強いSIerなどを今のうちから確保します。ネットワークソリューションを手がけるインテグレータや各地域で知名度の高い大手の地場ベンダーなどに製品を扱ってもらいたいと考えています。
──ハードメーカーやソフトメーカーなどとのアライアンスについては、どのように考えていますか。
大家 重要です。ソフトメーカーではオラクルやマイクロソフト、ヴイエムウェア、ハードメーカーではサーバーメーカー、ネットワーク機器メーカーと積極的に協業強化を図っていきます。システムは、コンポーネントの組み合わせです。そのなかで、サーバー、ネットワーク、ストレージがなければプラットフォームは動きません。アライアンスは、ソフトメーカーと組むことがメインといえますが、インフラの互換性などを考えればハードメーカーとのアライアンスは重要視しています。なかでも、シスコシステムズ、ブロケードコミュニケーションズシステムズ、リバーベッドテクノロジーなどネットワーク機器メーカーとのパートナーシップがサーバーメーカーと比べると浅かったといえます。しかし、例えばリバーベッドのWAN高速化製品が回線スピードを速くするため、当社製品との組み合わせでSMB向けにソリューションを提供できるなど新しい展開も図れるのではないかと考えています。
──中期的な目標は。
大家 3年後には現在の売上規模を2倍に拡大します。ストレージに追い風が吹いていますから確実に達成、いや、それ以上に伸びる可能性はあります。実は、社内的には対外的に公表している事業計画よりも、かなり強気な目標を掲げています。毎年、平均25%増をクリアすれば、3年後に2倍は達成できますよね。ですので、この成長軌道に必ず乗せなければならない。そして、何年先になるかはまだ見えていませんが、現在の売上規模を10倍に引き上げることで、次のステップに進みたいと考えています。
My favorite 万年筆。現在、愛用しているのはパイロット製で「5年ほど前に知人からもらい、再び万年筆で字を書くようになった」そうだ。学生時代は常に万年筆を愛用していたとか。いつの間にかボールペンに変わってしまったが、「軽いタッチの書き心地の良さ」を知人が呼び覚ましてくれたことになる
眼光紙背 ~取材を終えて~
写真撮影時のこと。大家社長がポケットをあさると、携帯電話やサイフ、ハンカチ、手帳、扇子・・・など大量にモノがでてきた。笑顔を見せながら、「なんか、マジシャンみたいでしょ」と楽しそうに話してくれた。
ネットワーク・アプライアンスに移ったことを、大家社長はしきりに「良いタイミングで入れてもらった」と口にしていた。ストレージに追い風が吹き始めているなか、社員一人ひとりが「個人主義」で業務に従事する従来のビジネススタイルでは大きな商談も逃しかねない。大家社長指揮の下で新しいマネジメント体制を構築、同社はさらなる市場開拓に向けたスタートラインに立った。
「3年後に売り上げ2倍」と断言する大家社長。これでも控えめな予想だという。「数年後には10倍にしたい」とも。いつ達成するのか。“大家マジック”が試される。(環)
プロフィール
大家 万明
(おおや かずあき)1954年3月19日、千葉県生まれ。79年3月、電気通信大学大学院電気通信研究科修了後、日立製作所に入社。同社で、情報通信グループネットワークシステム本部長や、パートナービジネス営業統括本部主管などを経て、04年にNECとの合弁会社であるアラクサラネットワークスに出向。執行役員営業本部長に就任する。07年1月、日本ネットワーク・アプライアンスの代表取締役社長に就任。
会社紹介
ストレージ関連製品メーカーである米ネットワーク・アプライアンスの日本法人として1998年に設立した。ワールドワイドでは、昨年度(07年4月期)の売上高は、前年度比36%増の28億ドル(約3450億円)に達した。
製品の特徴は、500TB(テラバイト)という大容量のデータを蓄積でき、1バイトあたりのコストパフォーマンスが競合他社と比べて低価格であることだ。最近は、企業内データが増加傾向にあることから、大容量のデータを蓄積できるストレージ機器のニーズが高まりつつある。このため、同社製品を購入するユーザー企業のすそ野が広がっている。国内市場でのシェアは現段階で低いものの、上位グループにランクインする可能性を十分に秘めている。