製造流通ソリューションなどを手がけるアルプスシステムインテグレーション(ALSI)は、世界戦略として新たな一手を打ち出した。中国に販売拠点とサービスセンターを設置、中国市場において日系企業や中国企業へのソリューション提供をすすめる計画だ。製造流通ソリューションをはじめ、セキュリティソリューション、ファームウェアソリューションの主要3事業の戦略を今年6月に就任した麻地社長に聞いた。
市場ニーズに先行 独自の仕掛け作り
──社長に就任以来、4か月が経ちましたが、核となる3事業を推進するうえで、重要視していることは。
麻地 「方針がぶれない」こと。少なくとも2011年に第5次中期経営計画が終わるまで3事業に特化する方針を変える気はありません。当社は製品を売った後に、顧客をフォローする「プロダクト&サービス」を提唱しています。親会社は電子部品製造業ですが、ALSIも親会社の「ものづくり」の文化を継承しています。製造業の文化は「現場主義」です。メーカーに電子部品を納めて、メーカーは製品を組み立てて、消費者に販売される。その評価が次の機能開発につながるわけです。当社はソフトウェアベンダーですので、ソフトを利用する現場の理解が第一義となります。現場の「不満」「要望」が、次のマーケットニーズを掘り起こすビジネスの種でもあります。
──現在のALSIの課題は何でしょう。
麻地 ソフトは販売する量に比例して利益率が高まる傾向がある。その一方で、他社が似たようなものをつくれば価格競争に巻き込まれるリスクをはらんでいます。そのために市場ニーズに先行して製品にしろ、サービスにしろ、まねのできない仕掛けをすることが重要です。ニーズを見いだすのはマーケティング、営業の仕事で、具現化するのは設計・開発の仕事です。「ヒト」に依存する部分が大きいのです。売る側は、顧客の要求をいち早く取り込んだ製品を世に送り出すくらいの気持ちで仕事しています。ところが開発側は基本的に保守的ですので、要求は分かっているにしろ、顧客が満足する品質や納期、コストも含めて、機能を作りこみたいとの考えを持っています。つまり部門間でジレンマがあるのです。
しかし、親会社の「ものづくり」の文化がALSIにも染みついていて、製品を新しく開発または改良しようとチャレンジする社員は必ず、ほかのメンバーが支え、支える彼らを周囲が評価します。こうした点から、競合他社よりも売り手と作り手の協力関係が築きやすい状況にあります。
──3事業の中で最も力を入れる事業は。
麻地 セキュリティ事業です。特に組織内部や、家庭内のセキュリティ対策のコンセプト「Internal Security(インターナルセキュリティ)」を軸に、現在ウェブフィルタリングソフトの「InterSafe(インターセーフ)」と、文書管理・権限管理ソフトの「Document Security(ドキュメントセキュリティ)」を主力に展開しています。Internal Securityとして注力している分野は安定的に市場が伸びていますし、当社ブランドの位置付けも明確化してきましたので、今後も技術、販売リソースを集中したい分野です。
InterSafeではトレンドマイクロと合弁で設立した子会社ネットスターの専門スタッフが収集した有害サイトのURLを目視でチェックするなど、DBの精度に相当力を入れた結果、キャリア3社に導入されました。また、昨今ネット犯罪が増えたことから自治体での講演活動にも乗り出しています。長い目でみたら、社会貢献企業としてブランドイメージはプラスとなります。
「Document Security」は7か国8言語のOSに対応し、暗号化した文書の一元管理ができます。ワンパッケージでサポートできるのは当社だけです。暗号化はファイル単位に行っていますが、社内システムのユーザー認証と連動しているため、パスワードだけでは解除不可能です。ファイルが流失した場合でも、情報が漏えいする心配がありません。特に経済産業省が発表した「経済産業分野個人情報保護ガイドライン」が改正されて、一定以上の安全対策を実施した企業は、万が一、情報が漏えいしても告知義務が免除される点でもメリットがあります。
──「本業」は製造流通ソリューションのようですが、その強みを教えてください。
麻地 設計管理や販売管理、物流管理システムなどを開発していますが、どのシステムでもエキスパートが対応しています。顧客の構想段階から関与し、「利用現場の観点」からイニシアティブをとって進めることができるのが強みとなります。アルプス電気のグループ会社をはじめ、ユニ・チャームやオラクル・ユーザーである物流関連の顧客とも取引しています。ただ外販比率が低いのが課題です。そこで、保守・運用サポートを強化しています。東京と宮城県大崎市、中国・大連市の3拠点で、プロダクトを導入後、保守・運用までつなげ、外販比率を高めたい。最終的に製造・流通事業売上高のうちグループ内で50%、外販で50%の比率を考えています。
──3事業のうち、ファームウェア事業は後発と聞きますが。
麻地 製造業はファームウェアなしではサポートできないため、3年前に事業化しましたが、後発だけに競合他社との差別化策を推し進める必要がありました。先行企業の技術者教育は「マン・ツー・マン」です。一般的には早くても3年、遅くても6─7年かかり、脱落する比率は高いのが実情です。われわれは、採用から体系的なカリキュラムを組んで、組織的に育てています。その結果、2年間で約40人の技術者を育成できました。
ポテンシャル大きい中国市場 シナジーで100億円目指す
──今年は中国に現地法人を2つ設立されました。グローバルの戦略については。
麻地 日・中・韓が中心です。主要市場は日本ですが、人材のポテンシャルが大きい中国も重要視しています。中国市場に力を入れて3年ですが、社員数は100人を超えています。将来的には200─300名まで増やし、主力3事業でまずは中国の日系企業、そして中国国内企業へと食い込んでいく計画です。韓国はベンチャーが新しいソフト技術を開発しやすい土壌にあるため、当社のプロダクトとシナジーが見込めるベンチャー企業の製品を日本市場に投入しています。
──中長期的な業績目標、ロードマップを教えてください。
麻地 現時点で売上高70億円、営業利益3億円に到達しました。次の第5次中計が終わる2011年には単独売上高で100億円、営業利益は7億円を目指したい。内訳は、中国市場も含めてセキュリティで現在の12億円から30億円に、ファームウェアを現在の3億4000万円から10億円に、製造流通では58億円を60億円にまで伸ばす計画です。3事業の技術を組み合わせ、シナジー効果のある新事業が次の中計あたりで見えてくる。次の次の中計あたりを見越して、現実化させたいと考えています。すでにセキュリティ市場の新たなニーズは見えているので、例えばファームウェアの技術をコアエンジンにし、製品に組み込んでブラックボックス化するなど、他社にマネできない製品を作ろうと考えています。
My favorite 2001年から3年間、宮城県仙台市に駐在していた。国分町界隈の飲み屋を渡り歩いていたという。なじみの店に薦められたのが「綿屋」。切れ味がよく、新鮮な魚にぴったりでそれまではビール党だったが、すっかり綿屋のとりこになった。このお酒のおかげで顧客や友人ができたのもいい思い出とか
眼光紙背 ~取材を終えて~
中国語での自己紹介のつかみは「麻薬の『麻』に地獄の『地』で麻地です」。就任して4か月、国内、中国など各拠点を回るたびに、若手社員に「人間に生まれてきたこと、そしてソフト業界でいま働いていることは偶然の重なり。迷いはあるだろうけれど、自分の歩むべき道を自ら積極的に計画する前向きな人間と、迷い続けてループにはまる人間。いったいどっちが幸せなのだろうか」と問いかけることにしているという。
仕事に前向きになる人に対しては、語学教育、営業マインド、プログラムなど幅広い教育と、ステップアップのチャンスを与える。体系的な教育制度は効果をあげ、中国では詳細設計がこなせる技術者、またファームウェアでも開発の中核を担う技術者が育っている。「競合他社からは『お金を払ってもALSIさんの教育を受けさせたい』との要請があることから広い心で受け入れています」と笑った。(環)
プロフィール
麻地 徳男
(あさじ のりお)1954年5月15日、富山県生まれ。78年明治大学商学部商学科卒業。同年、アルプス電気入社。コンピュータ部システム2課課長、情報システム部 部長を経て、02年ALSI常勤取締役に就任。05年常務取締役、06年専務取締役を歴任後、07年6月代表取締役社長に就任。
会社紹介
アルプス電気の情報システム戦略子会社として、1990年に分社化。国内ではURLフィルタリング技術が強みである。トレンドマイクロと合弁で設立した「ネットスター」、昨年設立した教育機関向けのSI・コンテンツ制作の「チエル」の2社を子会社に抱える。3年前から中国市場にも力を入れ始め、現在は現地法人としてALSI北京、ALSI大連の2拠点を持つ。主力事業は製造流通ソリューション、セキュリティソリューション、ファームウェアソリューションの3事業。特にセキュリティに注力し、自社開発のInterSafe(インターセーフ)は富士キメラ総研などの調査で4年連続シェア1位を獲得している。昨年度(07年3月期)の売上高は67億4500万円。