スイッチメーカーのディーリンクジャパンが成長軌道に乗った。今年前半まで苦しい時期が続いたが、日本のニーズに適した製品の投入でユーザー企業が急増。売上高は、昨年と比べ大幅に伸びた。国内ネットワーク機器市場をみると、成熟期に入って価格競争を余儀なくされ、厳しい状況が続く。そんななかでも、リプレース需要をはじめマーケットの広がりで「まだまだ拡大の余地がある」と断言する大久保融社長に、今後の方向性を聞いた。
苦戦だった今年前半 日本発の製品で挽回
──あと1か月余りで2007年が終わろうとしていますが、ディーリンクジャパンにとって、どんな年でしたか。
大久保 今年前半は設立して以来、最も苦しい時期だったといえます。06年9月に製品を日本市場に投入してから、販売代理店さんの開拓など体制を強化し、今年初めから本格的に拡販できると踏んでいたのですが、ユーザー企業に受け入れられない。日本での知名度を高めることを含め、どのように売っていくべきか悩んでいました。
──なぜ売れなかったのですか。
大久保 日本のニーズに適した製品ではなかったからです。日本向けの製品を企画しなければ売れないということです。しかも、今年前半は拡販したいという気持ちが空回りし、製品や当社の方向性が明確ではなかった。これが大きな原因でした。
──売れない状況は今も続いていますか。
大久保 いいえ、違います。日本に適した製品を発売したことと、方向性がきちんと固まったことが功を奏し、今は昨年と比べて売り上げが1ケタ違うまでに成長しています。日本市場で製品を売り出した当初、「5年で100億円の売上規模を目指す」ことを社内で公言したのですが、これまでは“オオカミ少年”だった。しかし、現段階では目標達成がみえてきています。
──日本に適した製品として、何をポイントに置いたのですか。
大久保 ネットワークインフラだけでなくデスクトップなどクライアントまでを視野に入れた統合セキュリティです。スイッチとファイアウォールを組み合わせることや、通常はコアスイッチにセキュリティ機能を集中させるのですがエッジスイッチにも機能を搭載するなど、当社の製品を導入すれば安全なネットワーク環境が実現できることを訴えました。最近では「管理が簡便なネットワークとして提供できる」と販売代理店さんからも評価を得ています。
もうひとつは、IPv6への対応です。アドレスが枯渇するといわれ続けていたIPv4が、2012年には確実に枯渇するという予測が出ました。そこで、IPv6対応の製品を拡充させていくことが重要となってきます。今はスイッチだけですが、今年末から来年の中頃にかけて、ファイアウォールやルータなど当社の製品すべてをIPv6に対応させる予定です。IPv6への取り組みは、世界のなかで日本が先行しているといえますので、今後も力を入れていきます。
──日本に適した製品はワールドワイドでも通用するのですか。
大久保 通用します。本社では、日本に浸透すれば世界に広がることを認めています。ですので、ワールドワイドのマーケティングを行ううえでも重要なポジションを占めている。当社に課せられているのは、日本のニーズをいかにつかむかということです。そのためにも、日本の市場に適した製品を投入する必要性に迫られていたわけです。
当社が最も苦しい時期は過ぎ去った。あとは、成長するのみと確信しています。
市場はまだ拡大する チャネル強化を徹底
──日本での製品販売を伸ばしていくためには、販売代理店とのパートナーシップが重要になってきます。強化策は。
大久保 年内をめどに販売代理店さんの専用サイトを立ち上げる計画です。そのサイトでは、各マーケットに適した製品の紹介や最適なソリューション提供などの情報を配信するほか、販売代理店の製品と組み合わせたソリューション開発の方法を探るなど、販売の最前線からあがってきた声をフィードバックできるような仕組みを整えます。
また、来年早々には販売代理店個々のパートナープログラムを策定します。当社の製品が販売代理店の売り上げに占める割合とか、どういったソリューション案件を獲得したかなど、販売した台数や金額で区分しない支援策を強化することが目的です。
現時点での販売代理店さんは、それぞれ個性があり、当社のスイッチを中心にネットワーク事業の拡大を図ろうとしているところが多い。代理店の数は20社を超えていますし、十分に満足しています。代理店側の期待に応えるために、当社側からも手厚く支援していかなければならない。それだけでなく、代理店ごとの特徴を生かしたアライアンスを組む必要もある。そのために、こうした強化策をまずは打ち出したわけです。
──「十分に満足している」というのは、代理店の数はもはや十分ということですか。
大久保 大幅に増やそうとは思っていません。30社を最終ゴールと考えていますので、あと数社というところまできています。
仮に代理店が100社だからといって売り上げが30社の3倍になるとは限らないと判断しているからです。優良な販売代理店さんを確保して一緒に深掘りしていく。拡販していくうえでは、そのことが重要なんです。ただ、現在はSIerさんとのパートナーシップが多い。そこで、今後はリセラーを抱えているディストリビュータさんを販売代理店として確保することを視野に入れています。
──国内マーケットについては、どのように考えていますか。
大久保 L2/L3のネットワーク機器はコモディティ(日用品)化しているため、成熟期に入っているとの見方が強いのですが、全然そんなことはない。市場は、まだまだ拡大するとみています。スイッチが普及したのであれば、リプレースを促していけばいいんです。例えば、当社が今後は製品すべてをIPv6に対応するのは、IPv4のアドレス枯渇にともなってユーザー企業がIPv6対応製品を導入しなければならないからです。そのため今後、数年間はリプレースが進むでしょう。
また、「ウェブ2.0」をはじめとしてネットワークに関連した話題は絶えませんので、マーケットの広がりは無限にある。ネットワークの世界に産業革命が訪れているようなものです。そういった点では、ネットワーク機器も今後は進化しなければならない。スイッチひとつをみても、以前はつなぐだけだったのが、現在では多くの機能が搭載されている。スイッチの進化系がルータというのは最も良い例といえます。時代の流れとともにネットワーク機器が進化し、それがマーケットを拡大させていく。メーカーとすれば、市場の広がりに合わせた製品を提供していけば、成長することは間違いないと考えています。
──マーケットの広がりとともに参入メーカーも増え、競争が一段と激化しますね。
大久保 今でも、ものすごく激しいですよ。ただ、今後はさらに激しくなるというわけではありませんので、競争に勝つ準備は整いました。ディーリンクがワールドワイドで小さいながらも大手企業にM&Aで吸収されずに生き残っているのは、変化に対応したビジネスを手がけてきたからです。
──生き残る一番のポイントは。
大久保 機能面はもちろんですが、価格競争に適応できるコスト削減力が重要なポイントです。当社は、競合他社が驚くほどの価格帯で製品を提供しています。他社からみれば機能面を含めて採算が合わない水準でしょう。実際、同程度の機能を搭載した製品を比較すると5倍ぐらいの価格差があります。他社なら、定価の8割引きで売らなければならない。当社が勝てる要素がここにあります。
最近は、低価格品メーカーが当社の価格帯をかなり意識している。大手メーカーの製品と比べて低価格、低価格品メーカーの製品よりも機能が充実。これが生き残れる要因です。
My favorite 台湾ディーリンクの経営陣と面談し、入社を決めた際に購入した腕時計。日本法人のトップを任されたことに、「願をかけた」のだとか。慎重なうえにも慎重な検討を重ねて入社を決断したのだから、それがうまくいくようにとの思いからだ。「引き受けるからには必ず成長させる」。時を刻む腕時計を見ながら、戦略を考えているのだろう
眼光紙背 ~取材を終えて~
100億円の売上達成に向け、社内体制として描いているのは「150人の人員」。現時点では社員が約30人、5倍に膨れあがることになる。
だからといって、「無理には増やさない」。さらには、「150人に達したら、それ以上はよほどでない限り増員しない」ことを念頭に置いている。大きな規模になればなるほど、方針や商習慣を乱す社員が出てくることを危ぶんでいるのだろうか。
「(自分が描く)夢を共有してくれる人物」。そういった人材を採用している。モチベーションを高めるため、「今はけっして高給だとはいえないけれど、売上高100億円を達成した暁には年収を大幅にアップする」ことも社員に約束している。
「社員とともに一丸となって成長したい」というのが大久保社長の基本姿勢。“チームワーク”を武器に、業界でどのような存在位置を獲得するのか。気になるところだ。(郁)
プロフィール
大久保 融
(おおくぼ とおる)アライドテレシスでテクニカルマーケティングディレクターなどに従事し、ディーリンクジャパン社長に就任。台湾ディーリンクからトップを任され、高い壁を乗り越えて日本法人の成長を引っ張っている。
会社紹介
ディーリンクジャパンは2005年、スイッチメーカーである台湾ディーリンクの日本法人として設立された。
昨年9月から製品販売を開始。当初は、スイッチのみの販売だったが、現在ではネットワークセキュリティやワイヤレス、メディアコンバータ、ネットワークカメラなどIPにつながる製品まで幅を広げて展開している。このほど発売した「DGS-3200-10」は、セキュリティ機能搭載のほかIPv6に対応しており、価格を4万9800円と低く設定。教育機関や官公庁などで導入が進んでいる。SMB(中堅・中小企業)でも新規顧客が開拓できそうだ。
社内体制の強化については、今年2月には関西営業所を設置、11月1日付で九州営業所を開設した。関東圏以外での事業拡大にも力を注いでいる。