NTTデータシステムズは親会社であるNTTデータの中堅市場に向けた新戦略「Biz∫(ビズインテグラル)」の下で新たな旅立ちを始める。主力の中堅ERP(統合基幹業務システム)である「SCAW(スコー)」は、「自前主義」からグループの総合力を生かすことに利用される。これに伴って、グループ内の製品を組み合わせた「トータルソリューション」を展開するベンダーへの変貌を目指す。
谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文 ミワタダシ●写真
イントラマートでSOA 「財務会計」を売りにして
──主力製品の中堅ERP(統合基幹業務システム)「SCAW(スコー)」の市場は、競合が多くて厳しい環境にありますね。
堀越 NTTデータシステムズに移って1年5か月が経ちました。以前はNTTデータで官公庁を相手にするビジネスをしていました。この両社の財務諸表を比較してみても単位が違う。最初は戸惑いました。でも、主力製品のERP「SCAW」は輝いている。ERP製品であり、企業ユーザーのフロントからバックヤードの事務処理までを賄う。この分野は官公庁向けと異なり、数で勝負する世界で厳しい。「SCAW」のなかでは「財務会計」が手離れがよくて適合率が高く、カスタマイズをする必要がないので売りやすい。だから販売が伸びています。そのため、「財務会計」を中心に、付随する業務を「トータルソリューション」として展開を強化します。
──ERPは必要なモジュールも多く、人手もかかります。どのようにして競合他社に対抗しますか。
堀越 これまで親会社(NTTデータ)のほうで戦略を見直してきました。(今回のような)インタビューを避けていたわけではないのですが、ようやく(NTTデータの)戦略が固まってきたので、ここで当社の方針も話せます。「SCAW」単独の提案から、基幹業務の周辺ソリューションやパッケージ群とWebシステム構築基盤「intra─mart(イントラマート、開発元・NTTデータイントラマート)」と組み合わせたトータルな提案やサービスを提供します。まだ決定したわけではありませんが、当社のソリューションはNTTデータの中堅企業向けソリューションである統一ブランド「Biz∫(ビズインテグラル)」の名を借りて「Biz∫ SCAW」という名前に変わるかもしれませんね。
──NTTデータグループの「Biz∫」の仕組みと「SCAW」の関連性はどうなりますか。
堀越 イントラマートを中心にした概念「Biz∫」のなかに、NTTデータグループ子会社が持っている製品を組み込むほか、新たな製品も作り出す。場合によっては、他社の優れた製品を巻き込んでグループ全体で総合的に取り組んでいく。元々、その構想には年商500─2000億円の中堅企業市場をどう攻めるかという命題がある。ユーザー企業にはまず、ワンパッケージで「Biz∫」を入れていただき、「SCAW」の「財務会計」を導入して、その後、順次別の業務システムを追加しながらも完全に繋がることを訴え、販売を増やすということです。ユーザー企業は、一度にすべてを導入しなくても、戦略に応じてシステム構築できます。NTTデータグループのソリューションをSOA(サービス指向アーキテクチャ)技術で繋いで提供します。
──この市場は成熟しており、本当に需要があるのか疑問な点もありますが。
堀越 別段、NTTデータグループの製品にかかわらず、統一インタフェースはありますから、これを中心にデータ連携できれば他社の良い製品も使えるし、ユーザー企業の既存システムで良いモノがあれば、それも取り込んでやっていくこともできます。富士通でもどこでも、この年商規模領域を攻めようと騒いでいると思います。われわれもそこにもっと大きな市場があると考えているのです。
──元々「SCAW」自体は、すでに「Biz∫」の概念と似た機能を持っていて、ミニマムスタートで順次機能を追加しやすい製品と理解していました。しかも、「Biz∫」のターゲット市場より下のレンジですが、どう整合性をとっていきますか。
堀越 その辺りは難しい。「Biz∫」という概念はできあがっていますが、実際に何か形があるわけではありません。ユーザー企業の要望次第では「SCAW」単体を販売することもあります。「Biz∫」は「SCAW」より少し上のレンジですが、不都合はありません。
──そうしますと、「SCAW」のビジネスは非常に難しい時期でもあり、転換期でもあるということですね。
堀越 そうなんですよ。少なくとも当面は「SCAW」は「SCAW」で売り、「Biz∫」の形が見えた段階で、いろいろ周辺システムを接続する。そういう仕組みなので、それに乗っていこうとしています。
首都圏の中心ベンダーへ「第三の創業」が命題に
──NTTデータシステムズの歴史を振り返ると、グループの総合力を生かした「製品・販売展開の実現」は念願だったと思うのですが。
堀越 逆にグループ会社の持っている製品で、「SCAW」に関連して使えるモノがあれば、当社もグループ会社のモノを組み込む。NTTデータ本体としてはグループ会社の総合力を生かす流れになります。基本的にはソリューションを用意して売っていくので、ユーザーが官公庁だろうが、銀行だろうがグループ会社のテリトリーは関係なく展開していくことになります。
また、NTTデータ本体がアカウント営業体制を敷くので、ある一定規模以上の顧客には当社もアカウント営業をする必要がある。そこには、当社にあるシンクライアント関連などのソリューションを売る。NTTデータの法人分野は大企業中心に事業を拡大しています。中堅企業については、ほとんど対応できてない。当社は首都圏のこういう市場に対応する中心的な会社だと考えています。
──NTTデータグループの中で埋没してしまうような感じがしますが。
堀越 その点については、なんとも答えられません。この4月からは縦割りの事業部制を廃止し、営業本部とシステム開発部門に大きく二つに分けた。営業本部は「SCAW」の営業だけでなく、いろんな製品を扱って可能性を探る体制に再編した。これらの策は、グループのなかでの存在感を高める役割を果たすはずです。
子会社はそれぞれ、最低一つは自信のある自社製品を持ち、メンテナンスも行って、グループ子会社が「販社」として動けというのが親会社の意向のようです。各子会社が有力製品を出し、自分自身でこれらを組み合わせ利用するということです。
──NTTデータから見るとグループ子会社は「1次販社」で、子会社のパートナーは「2次販社」になるという感覚ですか。
堀越 そういう関係になるかもしれませんし、そういうことを狙っていると思います。あくまで想像ですが。
──NTTデータとの関係性はさらに深まると思いますが、NTTデータシステムズ自体の中期的な展望をどう描いていますか。
堀越 これだけの財産を築いたので、再度「財務会計」に力を入れます。「SCAW」がユーザー企業に導入されたら、それで顧客のIT化の状況が分かります。そこからさらに何が提案できるかを今年4月に新設したコンサルティング部門で検討します。サーバーベースドコンピューティングを実現するミドルウェア「Go─Global」を利用した、ネットワーク環境とシンクライアントを融合したサーバー基盤ソリューションやセキュリティソリューションなどを展開するつもりです。
──プライベートイベントも内容を一新したそうですが。
堀越 これまでは「SCAW EXPO」という名称で「SCAW」だけを取り上げてきました。11月18日に東京で開催するイベントからは「NTTDSYS EXPO」と銘打ち、自社の全製品を対象としたイベントにします。シンクライアントや経理の業務改善などを既存ユーザーへ提案するのです。これを当社にとっての「第三の創業」と位置づけたい。「SCAW」に限らず、製品・ソリューション展開を強化することを訴えます。
My favorite 高校生時代から40年以上も「お守り代わり」と愛用している櫛とS.T.デュポン製の万年筆。両方とも常に持ち歩く。手に入れた頃は「東京オリンピック」。髪型が今と同じならば、相当のオシャレだったに違いない。万年筆はアイデアを練る際や決裁のサインなどに使う
眼光紙背 ~取材を終えて~
長く公共や官公庁向けなど大規模システム提供に携わっていたため、どちらかというと中堅企業向けビジネスに苦手意識を持っていたようだ。昨年6月、社長に就任直後、本欄のインタビューを依頼したものの丁重に断られた。この間に「苦手意識」払拭に専念していたのかと思っていた。しかし実際には、この時期はNTTデータの新戦略路線の構築時に差し掛かっていたため、公の場を避けていたようだ。
「自前主義」で突き進んできたNTTデータシステムズは大きな転換期にあり、この大事な舵取りを任された。「グループ間の相乗効果であらゆる可能性を生む」と、機動力を生かせる組織体制を構築し、グループ内で埋没しない戦略を打ち出していくという。
堀越社長が掲げるテーマは「第三の創業」。今までの動きに加え、大規模のアカウント営業も行う必要がある。主力ERP「SCAW」をグループ力で市場拡大する道筋を描けるか、これからが本番だ。(吾)
プロフィール
堀越 政美
(ほりこし まさよし)1947年1月、埼玉県さいたま市岩槻区(旧岩槻市)生まれ、61歳。71年3月、日本大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年4月、日本電信電話公社に入社。97年6月、NTTデータ取締役、公共システム事業本部第二公共システム事業部長に就任。04年4月には、NTTデータシステムサービスの代表取締役社長。07年6月からNTTデータシステムズの代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータシステムズは1985年、日本電信電話公社(NTT)の100%出資子会社、「NTT東京ソフトサプライ」として設立。91年には、出資比率をNTT25%、NTTデータ通信(現NTTデータ)75%に変え、NTTデータの子会社として「東京NTTデータ通信システムズ」に社名変更。02年10月より現社名。
主力製品の中堅企業向けERP「SCAW」は、93年にNTTデータが国産ERPとして販売を開始。02年にNTTデータから「SCAW」事業の譲渡を受けて現社名に変更し、主力事業として拡販している。累計導入数は1000システムを超えている。昨年度(08年3月期)の売上高は、前年度比6億円減の138億円。「SCAW」以外では、シンクライアント事業やネットワーク事業、SI事業などを手がけている。従業員は昨年度末現在で約526人。