ストックビジネスの強化を図る
──SIビジネスでは、「不況が本格的に悪影響をもたらすのは来年度」という見方が少なくありません。もしそうだとすると、前年度維持もかなりハードルが高い。
林 当社は設立から40年という歴史のなかで、PCショップから始まりIT商社、SIer、そしてソフトメーカーへとかなり思い切って業態を変化させてきました。今の売上高は、自社パッケージソフトのライセンス販売額と、自社プロダクトを活用したSIビジネスの売り上げが軸になっています。それは今後も当分同じ。プロダクトを活用したSI事業をメインにする方針は変えません。
──いくつかの自社プロダクトを持ちますが、稼ぎ頭のECサイト構築ソフト「ecbeing」は、今年度上期実績でみると前年同期に比べてマイナスです。
林 上期は確かにマイナスでしたが、第3四半期はプラスに転じました。「ecbeing」は中堅から大企業を中心に、約430のECサイトを構築してきました。シェアはトップレベルだという自負心があります。ただ、トップゆえに競合他社が当社を意識した開発・販売戦略で攻勢をかけてきたことで、少し苦戦しました。
ECサイト構築ソフトは、機能で差別化を図れる時代ではなくなりました。じゃあどうするか。差別化はそのソフトに乗る付加価値で、他のシステム・ソリューションとの連携がカギを握ります。その点を強化すれば、競争力が保てるという考えで、それを進めています。
──プロダクトベースのSIを従来通り主軸に置くのであれば、気になる点がもう一つあります。「ecbeing」の売上高に匹敵するような第二、第三のヒット商品が必要なのでは?
林 ワークフローソフトは、「ecbeing」以上に、期待を寄せているプロダクトです。かなり手応えを感じていますよ。
中小企業向けのワークフローソフトである「X─Point」は、売上高こそ「ecbeing」の5分の1程度ですが、上期の販売本数は「ecbeing」よりも多いんです。「日本版SOX法」の影響を受けて、企業は全社的に使えるワークフローソフトの導入を進めており、これが追い風になっています。そしてもう一つが、住商情報システムとの共同出資子会社で、私が社長を兼務するエイトレッドの開発製品です。SOA型の大規模版「AgileWorks」がそれで、パートナーも組織でき、まさにこれから。
ワークフローソフト市場はまだ50億円前後の小さなマーケットですが、今後堅調に伸びるとみています。競合にはOSKさんの「Advance─Flow」などがありますが、2年後ぐらいにはこの市場でトップシェアを獲るつもりで挑みます。
──セキュリティや資産管理ツールも自社プロダクトとして商品化していますが、新しいプロダクトを商品化する予定はありませんか。
林 それはありません。既存のプロダクトをどう拡販するかが先決です。
──SaaSに代表されるようなサービス事業への考えは?
林 う~ん、SaaSやクラウドのような言葉が流行してサービス化の機運が高まっていますが、当社はあくまでユーザーさんの要望次第。SaaSやクラウドが流行っているからといって、「サービス化しよう」とはいきません。ユーザーの要望でサービスのような利用形態が必要であればやるし、なければやらない。
──中長期的な事業計画、3~5年後の姿をどう描いていますか。
林 中期経営計画を作成しようと考えていたのですが、こんな経済環境になってしまったので、とりあえず様子を見ようかなと。ただ、一つ言えるのはストック型のビジネスは強化するつもりです。顧客の情報システムを預かって運用するサービスはその代表例。当社の売り上げのうち、約30%はストック型事業が稼いでいるんですよ。「ecbeing」ユーザーのシステムのうち、約90%は当社が運用していますし。こうしたストック系の事業をもっと増やすことを念頭に置いています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
過去の取材ノートをめくれば、林宗治社長に初めてインタビューしたのは、今から約5年前の2004年秋のことだった。まだ常務取締役を務めていた頃で、セキュリティ製品・サービスの事業戦略を取材した。それから、テーマは違うが4~5回インタビューしたと記憶している。
林社長は「1年ぐらい前から、だいぶ落ち着いて仕事できるようになった」と話していたが、記者に言わせると、5年前から変わらない。
常務時代から落ち着いた雰囲気の持ち主で、どんな質問にも理路整然と答え、言葉に詰まる様子はなかった。「学生時代から(社長になる)覚悟を決めていた」からこそ、同年代の人たちとは比べものにならない落ち着きを自然と身につけたのだろう。
増収増益を維持しているが、その礎は前社長の林勝会長に負うところが大きいともいえる。今回は話に出なかったが、林宗治社長が練る中期経営計画を聞いてみたい。(鈎)
プロフィール
林 宗治
(はやし むねはる)1974年、東京都生まれ。97年ソフトバンク入社。00年、ソフトクリエイト取締役就任。03年、常務取締役。05年、専務取締役。06年5月、代表取締役専務兼COO兼ネットワーク事業部長兼第一営業事業部長。同年10月、代表取締役社長兼COO。07年1月、「X-point」事業部長兼務。同年4月からは子会社エイトレッドの代表取締役社長を兼務する。
会社紹介
1969年8月設立。資本金は8億4054万円で従業員数は266人。05年4月には大阪証券取引所ヘラクレスに上場し、08年12月19日に東京証券取引所第2部へ市場変更した。子会社には住商情報システムとの共同出資会社であるエイトレッドを持つ。主な事業内容は、(1)パッケージソフト開発・販売や受託SIなどの「システムインテグレーション(SI)」(2)ハード販売などの「ITインフラ提供」(3)「特価COM」運営の「インターネット通販」の3分野。