多くの日本企業が新年度をスタートさせた。情報サービス産業にとって、世界的な経済危機をどう乗り越えるのか、試練の年度になる。日本の大手SIerはグローバル市場へ果敢に進出し、再び訪れる好況期に向けた勝負をかける。そこに立ちふさがるのがグローバル大手のアクセンチュアだ。00年初めのITバブル以降、ほぼ一貫して売り上げを伸ばし、経済危機が顕在化した昨年9~11月期もビジネスを伸ばした。グローバルビジネスで勝つにはどうしたらいいのか。アクセンチュアの程近智社長に聞いた。
安藤章司●取材/文 大星直輝●写真
忙しい年度になりそうだ
──2009年度はどんな年になるとお考えですか。情報サービス産業にとっては、厳しい年度になりそうです。
程 確かに全産業でみれば厳しい状態です。ただ、情報サービス産業でいえば、急ブレーキを踏めないような大型プロジェクトもありますし、不況下だからこそ投資しなければならない案件も決して少なくありません。当社では、不況対応型のサービスメニューもニーズに合わせて増やしていて、引き合いが多いメニューがここ半年で全体の3割くらい入れ替わりました。中長期的な成長を見越した3~5年のプロジェクトへの引き合いというよりは、どちらかといえば数か月で目に見える効果が出てくる短期集中タイプのメニューが人気です。
──底はいつだとお考えですか。
程 米国の金融が落ち着きを取り戻し、アジア新興国の経済が回復基調に向かえば、状況はかなり改善します。株式市況は依然として厳しいですが、他方で製造業における在庫調整は徐々に進み始めており、今が底ではないかと見ています。09年度が終わる1年後には明るい兆しが見えてくると期待していますよ。
──経済危機が顕在化した時期における御社の第1四半期(08年9~11月期)のグローバルでの連結売上高は、前年同期比6%増、営業利益は同12.2%増と伸びていますね。世界的にみればIT投資は縮んでいるはずなのに…。
程 うちのシェアが、他社のシェアを食っているということです。さすがに、好景気のときのようにガンガンとSI(システム構築)が入るというわけにはいきませんが、業務改革をベースとしたアウトソーシングは逆に引き合いが増えている。経済的な逆風のなかで、顧客はコアコンピタンスに経営資源を集中し、ITの運用などはノンコアとして当社に任せるといった動きが活発化していますね。
不況前と不況後が同じというわけにはいきませんので、必然的に人の再配置や事業再編、場合によってはこの時期に業界再編に踏み切らなければならない。売り上げや利益が思うようにあがらないなか、やることだけはたくさんある。忙しい年度になりそうです。われわれは、経営コンサルティング、SI、アウトソーシングの3本の事業をフルに稼働させ、顧客の経営改革を支援。このことがビジネス拡大につながるわけです。
──日本法人はどうなんですか。
程 日本単体での業績は公表していませんが、昨年度(08年8月期)3期連続して日本法人の売上高の伸び率がグローバルの伸び率を上回りました。アクセンチュアグループでは、毎日がワールドカップのようで、各国の法人が自分たちの業績を競い合う風土があるんですね。日本法人とすれば、日本の顧客の支持を勝ち取れば勝ち取るだけ“社内ワールドカップ”で有利になるわけで、そりゃあ、必死ですよ。
──御社の場合、顧客とのコミットメントに基づき、ITを活用することで顧客のビジネスが成功すれば、それだけ多くの報酬が得られる契約を結ぶケースが多いと聞きます。
程 そうですね。例えば5年とか、7年のスパンで、このシステムを入れて、これだけのビジネスの指標を達成すれば、達成した分のゲイン(利益)をシェアする。逆に達成しなければペナルティを顧客に支払う。こうした成功報酬型のモデルを当社は多く実践しています。難しい仕事であればあるほど、リスク管理を徹底しないと利益が吹き飛ぶ。逆に難易度やリスクが高い仕事は競合が少なく、成功すれば大きな利益が得られます。「これこれこういうものをつくってくれ」という普通のSIがないわけではありませんが、基本的に当社のSIは業務改革を伴います。そうでないと、なかなか顧客のビジネスを成功させるというところまで行き着きませんから。
難しい仕事であればあるほど、競合が減っていく。リスク管理を徹底し、顧客のビジネスを成功に導けばそれだけ大きな利益が得られる。
[次のページ]