業務に踏み込み、改善を提案
──顧客の要望どおりにシステムを開発する受託型ビジネスが多い日本のSIerにも参考になる取り組みですね。
程 いやいや、日本のSIerはいいライバルです。当社としてもさらに差別化していくために、例えばITシステムの運用アウトソーシングを受注した後からでも、どんどん改善の提案をしていきます。システム的なことだけでなく、顧客の業務に踏み込んだ改善提案も多い。“月末になると特定のこの商品の在庫がいつも増えるので、このように改善しましょう”という具合です。顧客によっては“大きなお世話”と言われることもあるけれど、しつこく提案しています。業務を改善し、組織を市場の変化に合わせていく取り組みは、経営コンサルでも、SIでも同じです。それが顧客のビジネスの成功につながりますし、ひいては当社の収益力を高めることになります。
──NTTデータや野村総合研究所(NRI)など日本の大手SIerはグローバル進出を着々と進めています。ただ、実際に海外に出てみてアクセンチュアやIBMの実力を知り、「彼我の差を痛感する」場面もあるようです。
程 先ほど社内ワールドカップの話をしましたが、社内で競い合う一方で、教育体制や業務の標準化も徹底しています。顧客からみれば、世界中、どこへいっても一定した品質のサービスが受けられるメリットがある。アクセンチュア自身にとっても、業務を標準化することで必要な国や地域に、必要な組織を迅速につくることができる利点があります。例えば、世界のソフト開発拠点になっているインドではおよそ4万人、フィリピンは1万人、あとは東欧でも組織を拡充しつつあるんですが、こうしたことができるのは教育や業務の標準化ができているからなんですね。
新規に海外へ出ようとすると、そこそこの規模の会社をM&Aするという手もありますが、アクセンチュアの場合はM&Aを主軸にするというよりは、現地の人材をベースに自前の組織をつくっていくケースが多い。とはいえ、ただ標準化するだけではライバルと差別化できないので、当社の主力事業の一つであるコンサルティングサービスによって、それぞれの市場や顧客の需要にマッチするよう味付けするわけです。
──日本のユーザー企業の多くは、基幹系システムで使うような重要かつ大規模なソフトを海外でつくりたがらない傾向が見られますが…。
程 もちろん、顧客の要望は最大限尊重しますよ。ただ、「うちは海外での売り上げが7割を占めるので、ソフト開発はグローバル企業の多くが活用しているインドでいい」とか、「割安なパッケージソフトで十分」という国内ユーザー企業が増えているのも事実。当社の強みを生かす意味でも、グローバルデリバリーネットワーク、分かりやすく言えば“世界のソフトウェア工場”みたいなものを生かすサービスメニューも提案します。
ちなみに当社の登記上の本社はバミューダ諸島、CEOはボストン、CFOはニューヨーク、経営コンサルティング本部は英国、SI部門の最高責任者はドイツなどと、幹部は世界に散らばっています。“本拠地”という概念がアクセンチュアにはなくて、市場の変化に自分たちの組織体を合わせていくことを得意としています。ビジネスチャンスがあるのなら、“月”にだって行きますよ(笑)。恐らく日本の有力企業の多くも、こうした企業体のあり方に、徐々に違和感を感じなくなっていくと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
程近智社長が普段から気をつけていることは、「顧客と会う時間を業務時間の50%以上にすること」。プロパーでアクセンチュアに入社。以来、昇進するたびにどうしても顧客との接点が減る傾向にあった。ましてや社長ともなれば……。そこで、数値目標を自らに課し、顧客回りに努めるわけだ。
顧客と会って話を聞いている時が、「いちばんインスピレーションが湧く」という。帰社するやいなや、トップ自ら、アイデアを裏づける調査や具体的な行動指示を一斉に出す。社員にとっては、業務改革や業界再編のアイデアに触発された社長が最も怖いのだとか。
時間単位で顧問サービスを提供する会計事務所がアクセンチュアのルーツということもあり、時間の使い方にはことさら敏感。業務に使う時間を可視化し、その割当量で顧客接点を測るのは、いかにも同社らしい手法だ。(寶)
プロフィール
程 近智
(ほど ちかとも)1960年、神奈川県生まれ。82年、米スタンフォード大学工学部卒業。同年、アクセンチュア入社。91年、米コロンビア大学経営大学院(MBA)卒業。同年、シニア・マネージャー。95年、パートナー。00年、戦略グループ統括パートナー。01年、戦略グループ統括パートナー兼通信・ハイテク本部通信業統括パートナー。03年、通信・ハイテク本部統括本部長。05年、代表取締役。06年、代表取締役社長兼通信ハイテク本部統括本部長。08年、代表取締役社長。
会社紹介
アクセンチュアは、経営コンサルティングとSI、アウトソーシングの三つの事業を柱とするITコンサルティング系のSIer世界大手。昨年度(2008年8月期)グローバルの連結売上高は前年度比18%増の253億ドル(約2兆4200億円)、営業利益は同20%増の30億ドル(約2800億円)。2000年以降、ほぼ一貫して売り上げを伸ばしてきた。地域別の売上高構成比は米国が42%、欧州・中東・アフリカ地区が49%、アジア太平洋地区が9%。業態別構成比は経営コンサルティングとSIが約6割、アウトソーシングが約4割を占める。