シンプルな低価格モデルを投入
──四つの強化施策のうち、興味深いのが製品拡充です。先ほどコンシューマ向けプロダクトについて言及されましたが、企業向けではどんな製品を出していきますか。
ラピン 今年度はとくにSMB(中堅・中小企業)向けプロダクトを大量投入します。5月から順次投入し、3か月後には15製品をラインアップするつもりです。
──ラピン社長が考えるSMBに適したPCとは?
ラピン ノートブックPC「Think Pad」とデスクトップの「Think Centre」、ワークステーションの「Think Station」は、神奈川県大和市にある大和研究所で設計・開発した製品で、非常に技術力が高い。PCの効率的な運用・管理をサポートする「Think Vantageテクノロジー(TVT)」と称する技術やソリューション、ツール群は優位性が高いです。「Thinkシリーズ」は、自動車でいえば「ロールスロイス」のような存在だと思っているんですね。
ただ、SMBのユーザーは、必ずしもロールスロイスを求めているわけではありません。お客さんによっては使わない機能もあるでしょうし、デザインも大企業とは違うものを求めるケースもある。PCの運用・管理面でいえば、多くのPC台数を抱えて効率的な運用・管理を求める大企業と、それほどPC台数がないSMBでは、当然ながら求める仕様は異なります。だから、「TVT」のような高度技術やそれを使った機能はあえて搭載せずに、その代わりこれまで以上にアグレッシブな価格で提供するのが適していると考えています。シンプルな機能で低価格。これは、ユーザーはもちろん、販売パートナーからの要望も強い。ニーズはすでにあるので、あとはそれに応えるプロダクトを用意するだけです。
──四施策には入っていませんが、いまのラピン社長のお話にあったパートナーの件。レノボ・ジャパンの最大のウィークポイントは、間接販売網の構築にあるのではないでしょうか。それが重点四施策に入っていないのが気になります。
ラピン 当然、重要視しています。ビジネスパートナーとの関係再構築は、今年度の重点施策です。4月下旬には、インセンティブ(販売奨励金)の見直しなどを含んだ新たなパートナープログラムを販社の皆さんに公表しました。改良したプログラムで既存パートーナーの満足度を向上させます。それだけでなく、今年度は新規パートナーの開拓にもフォーカスしていきます。他メーカーにはない価値をパートナーに提供することによって、レノボ製品を幅広く流通させていきたいと思っています。
──サーバーでのパートナー施策は?PCと異なり、レノボと関係が深いIBMもサーバーを持つ。市場攻略には緻密な戦略が必要になると思われます。
ラピン IBMとレノボとの製品は、棲み分けができているという認識です。サーバーはPC以上にパートナー経由での販売が中心になりますから、他社にはないメリットをパートナーに対していかに訴求できるかがカギを握ります。ただ、製品には自信があるのですが、サーバーについては投入したばかりで、シェアを伸ばすには時間がかかるとみています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
強気な発言とポジティブな姿勢が目立つ。若き指揮官らしいバイタリティに溢れた、勢いのある人物だ。
「KeyPerson」では、「影響を受けた書籍を紹介して欲しい」と事前にお願いし、「My Bookshelf」というコラム欄で紹介している。多くの経営書を読むラピン社長は、何を選ぶか悩んだ様子だが、「変わるか、それとも死ぬか」という大胆なタイトルの本を選択してきた。厳しい環境下で成長するには、今を改めなければダメという強い思いが感じられる。
ラピン社長は、デル在籍時代を含めて海外経験が豊富。とくにアジア太平洋地域でセールスやマーケティング業務に従事した期間が長い。専任として日本法人のトップに就くのは今回が初めてだが、“ローカルジャイアント”が存在する日本固有の市場環境は熟知しているはず。他の国にはない厳しい環境で、どれだけシェアを引き上げるか。通年で舵を取る今年度が見ものだ。(鈎)
プロフィール
ロードリック・ラピン
(ロードリック・ラピン)1996年、米デルに入社。アジア太平洋地区や日本、オーストラリアでグローバル・セールスやリレーションシップ・セールス、教育・官公庁向け事業を担当。07年2月にレノボに移籍。レノボ・シンガポールで、日本を含むアジア太平洋地区の直販とマーケティング担当の副社長を務める。08年10月1日、レノボ・ジャパンの代表取締役社長に就任。
会社紹介
レノボ・ジャパンは、米IBMがレノボ本社にPC事業を売却したことから日本市場での販売・サポート拠点として2005年4月に設立された。主力製品のPC「ThinkPad」ほか、ワークステーションやサーバーなどもラインアップする。昨年12月には、「Think」ブランドを活用しないネットブック「IdeaPad」を投入してコンシューマ市場に参入した。資本金は3億円で従業員数は約600人。東京本社ほか、仙台市と名古屋市、大阪市、福岡市の5拠点を構える。神奈川県大和市に研究・開発拠点を設置している。