SIer獲得が命題
──ところで、まだ売り上げに占める割合が低いですが、スキャナ事業について今後の展開をお聞かせください。
松浦 印刷所関連などが「出」です。これとともに「入」として、ハードコピーした媒体を入力する「入口」の部分としてスキャナ製品を出しています。元々コダックは、社内で「プロダクション」と呼んでいますが、一か所でまとめてスキャン処理する領域に強くて、そこそこ高価な製品を出してきました。
ただ、世の中の流れが集中型だけでなく分散型で処理する傾向も強まっています。分散処理する領域として、新たなプロダクトラインを用意してきました。
──国内のスキャナ市場は、PFUやキヤノンなどライバルが存在します。
松浦 両方(集中型と分散型)を扱えることが競合他社と違うところですし、くちゃくちゃになった領収書でもきちんとスキャンできる技術に長けているのが当社製品の特長です。この作業で紙がジャムっちゃうと、作業効率が落ちる。ハイスピードからローエンドまで揃うというのが、当社製スキャナの売りです。
──用途に応じて幅広く機器を揃えていることをユーザーに訴求するというわけですね。
松浦 「プロダクション」のハイボリューム・ゾーンは、そこそこのシェアを保ち、引き続き好調に推移している。一方、分散型のほうには、当社としても、ここ数年で力を入れていますので、そこが大きな伸びしろになるでしょうね。
──ここ1~2年ほどで市場シェアを伸ばしている印象がありますが、製品の評判はどうでしょうか。
松浦 ネットワークに相性のよい製品ですので、この分野での評価は高い。特に、金融機関や政府・官公庁などで実績があがっています。ですので、スキャナ製品の領域は、集中型はこのまま安定して、今度は分散型を伸ばすことを、いまの基本戦略に据えています。企業規模によっても異なりますが、分散型の場合、一度に1000台規模の大量の台数が一社の企業の各部門にばら撒かれるケースもあります。
──スキャナ市場を成長させるには、スキャナのビジネス上の用途を知らしめることが重要だと思うのですが。
松浦 そうですね、ビジネスとしてどれほど伸ばせるかを決める用途は、エンドユーザーのコンプライアンス(法令順守)対応などですでに発生しているとみています。その際にエンドユーザーはどこへ相談するかというと、SIerなどシステムを供給してくれるベンダーです。SIerが提案するシステムのパートの一つとして、当社とSIerが一緒に企業のドキュメント環境へスキャナを紹介することが基本スタンスです。
──そのSIer経由の販売戦略は、どの程度進捗しているのですか。
松浦 ここ1~2年でスキャナの販売網の整備を行い、昨年度中(09年12月期)に流通チャネル経由のものは確立できました。いま当社がやるべきことは、SIerにうちの製品のメリットや(販売の)サクセスストーリーを提供することです。流通チャネルを通さず、SIerとダイレクトにコミュニケートして販売を後押しする政策を始めました。
──具体的には、どんな販売プログラムになりますか。
松浦 パートナーに製品のメリットを直接伝えられ、またパートナーから数多くの質問を受けられる関係づくりをするために、ワールドワイドで展開しているパートナー販売体制「KAIR(Kodak Authorized Imaging Reseller)プログラム」を日本用にアレンジして開始しました。流通チャネルの2次店となるリセラーに加え、特定業界に強い大手、地場のSIerとの連携を密にするため、営業と技術の両面でサポートをしっかりやっていきます。いかにSIerの信頼を得るかが成功のカギですね。
このほか、ドキュメント関連のバックオフィスを担う「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」を推進しています。ここにもスキャナを提供していく。金融関係を中心にコンプライアンスが重視されていますので、需要は旺盛だと見ています。競合他社に比べ、ハイボリュームのところは当社のほうが強いと自負しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「コダック」といえば、銀塩カメラのフィルムメーカーとして知らない人はいないだろう。最近は、カメラのデジタル化が進み、フィルムの出番が減った。そんななか、急テンポで業態を変革し、現在はフィルム技術を利用した大型印刷機のトップメーカーとして君臨している。
一方で、ここ1~2年、世界的に強化しているプロダクトがスキャナだ。日本法人では、この方針に即して競合が激しい日本市場で製品を投入。一昨年には同社初の個人向けスキャナを投入し、先行するPFUやキヤノンを追撃すべく策を講じている。
「童顔で若く見える」と言えば、54歳の松浦規之社長に叱られるかもしれないが、とにかく人懐っこい印象。初対面でもすぐに打ち解けて、話が弾む。松浦社長の当面の役目は、大手SIer経由で大型機から個人ユースまでのスキャナを特定業種へ販売するルートを築くことだが、持ち前のキャラクターが生きそうだ。(吾)
プロフィール
松浦 規之
(まつうら のりゆき)1955年生まれ、54歳。早稲田大学情報変換工学修士号を取得。印刷インキ製造会社を経て、99年4月、コダックポリクロームグラフィックス設立とともに入社。プレートマーケティング部門の責任者に就任。その後、生産部門を経てコダックのグラフィックコミュニケーションズグループ(GCG)の設立に際して米本社(イーストマン・コダック)のデジタル事業に参画。帰国後はGCG事業の統合に取り組み、07年5月にGCGジャパンマネージングディレクターおよびコダックグラフィックコミュニケーションズ、コダックIPS(現在はコダックと合併)の両社の代表取締役社長に就任。同年9月から現職。
会社紹介
親会社は、銀塩カメラ用のフィルム製造・販売で知られる米イーストマン・コダック。日本法人は1981年10月に設立。89年1月には日本コダックへ商号変更し、98年5月に再度、社名をコダックへ戻した。09年1月にはコダックIPSと合併している。グループ会社には、コダック情報システムズ、コダックグラフィックコミュニケーションズを抱えている。