長期政権となった前社長体制を1年前に引き継いだ橋本孝之社長。この1年間、世界のIBMが打ち出した「Smarter Planet(賢い地球)」の立ち上げを急ぐなかで、クラウド体制の整備に奔走した。2010年は、「徹底的にクラウドをリードする」(橋本社長)と、世界で展開中のクラウドの先鞭例を日本に展開することも含め、国内で“リード・オフ・マン”の役割を果たそうとしている。
短期成果型戦略、ずばり正解
──2009年は「Smarter Planet(賢い地球)」を提唱するなど、次世代に向けた取り組みを本格化しました。その初期段階の手応えはどうでしたか。
橋本 09年は「次代への礎」を築くことを掲げてスタートしました。そのなかでは、三つのイニシアティブとして「自由闊達な企業文化の醸成」「顧客への価値創造をリード」「新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化」を実行してきました。それぞれの項目で、それなりに手応えがありましたね。なかでも「顧客への価値創造」に関する展開を2010年も強化し続け、「価値創造」で業界をリードしたいと考えています。
──具体的に、09年中ではどんな「礎」を築けたのですか。
橋本 経済環境が厳しいなか、当社の第1四半期(1~3月)に発表したのがユーザー企業の経費やコストの削減を支援する「短期成果型オファリング」です。これは、コンサルティングを中心としたビジネスですが、これが非常にヒットし、成約件数が200件に達しました。このビジネスモデルが面白いのは、これまではユーザーがIT投資してリターンが2~3年後に得られる形であったのに対し、「短期成果型」で6か月程度でリターンがみえること。これは受けました。
──あの手この手で「投資マインド」をたぐり寄せているんですね。
橋本 このビジネスの09年の前半は、ITシステムの運用費を下げるなど直接的にコストを下げたいというニーズが大半でした。ところが7月以降の後半になると、売上拡大など前向きな要望を表明するユーザー企業が増えています。いま現在の案件のうち、4割が「売上拡大型」で、残り6割が「コスト削減型」の支援をしている状況です。前半に関しては、100%がコスト削減支援への要望でしたから、明らかにユーザー企業の「投資マインド」が変わりました。
──2010年は、クラウド/SaaSの潮流を受け、サービスを中心にしたビジネスが勝敗のカギを握りますね。
橋本 そうですね。短期成果型オファリングにも関連しますが、経済環境が厳しいなかで、2010年も「アウトソーシング」に関する事業は継続的に強化します。大手企業向け「アウトソーシング」では、09年中に大手メガバンクなどの契約更改(更新)が順調に進み、大きな案件として6件で再度アウトソーシングの契約をすることができました。それだけではなく、新規に5件も受注できた。これは今後のサービスビジネスの拡大に大きく寄与します。具体的には、工学院大学、JVC・ケンウッド・ホールディングス、日本郵船、中国銀行、TOTOから受注しています。
大きな意味で、長期的にコストを引き下げ、ITそのもので競争力を高めるためのアウトソーシングを拡大できたし、コスト削減といった短期的に成果をもたらすところもできた。プラス、09年は「Smarter Planet」が立ち上がりました。すでに、年間30件程度の「リファレンス(参照)・モデル」をつくれるようになっています。
──「Smarter Planet」は今後、具体的にどう展開していきますか。
橋本 アウトソーシングや「短期成果型オファリング」は継続しますが、いよいよ「Smarter Planet」の世界に軸足を置き、具体化策を立てます。とくに、「Smarter Planet」実現のために当社で掲げている都市をITでスマートにする「Smart Cities(スマートな都市)」に関する取り組みを積極化する。「都市」の機能としては、「行政サービス」「教育」「医療」「公共安全」「交通」「エネルギーとユーティリティ」の六つを対象にしていますが、最近、「通信」を加えた七つの都市機能にフォーカスして展開していこうとしています。
──なぜ、この七つの機能にフォーカスしているのですか。
橋本 この7分野には、無駄が多い。ITで解決できるソリューションがあり、国や行政機関がフォーカスしている領域ということです。これら「Smarter Planet」を支えるものとして、ビジネス分析やビジネス最適化の支援を専門とする「BAO(Business Analytics and Optimization)」と呼ぶ新サービスとクラウドに徹底的にフォーカスする。
09年7月には、BAOを推進する組織を150人体制で発足させました。10年はこの人員を倍増したい。BAOでは業種別のソリューションをつくるため、30のソリューションに組み込みました。つまり、ようやく「シナリオ」とデモ環境ができたということです。
企業の要望は、コスト削減から売上拡大など前向きなものに変わってきた。
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