エコシステム構築が命題
──日本で成長していくうえで、何が重要と考えておられますか。
河村 私がいままで在籍していた会社や他の外資系IT企業にもいえることですが、「セリング」ができていない。プロダクトアウト型の営業やパートナーに任せきりのセリングだったんですね。課題に即した解決策、優位性を提案するような「ソリューションセリング」が実現できている企業は極めて少ない。そこを強化することが一つ重要なポイントです。
もう一つは、本社やAPAC(アジア太平洋地域)の組織に対して隷属的なところがあって、「ジャパン」としてのクリエイティビティが非常に乏しかった。多くの外資系IT企業が本社の号令で直販にシフトしています。前提として、グローバルで統一したビジョンを推進していかなければならないという路線はあるのですが、ただ単にそのとおりに実行しようとするのはダメ。日本でもっと効果的に売るためには何が必要なのか。頭を使って戦略にアイデアを生かすことがカギになります。
──より効率的な営業活動を実現することが重要とのことですが、今年度に注力する施策は?
河村 戦略面では、「エコシステム」を築くことができるかどうかが非常に重要です。チャネルパートナーだけでなく、当社の製品を補完する製品を作るパートナーや、コンサルティングパートナーのようにわれわれの製品を効果的に提案したり、デリバリしたりする、いろいろなパートナーがいるわけです。そういったパートナーとエコシステムを構築していくことが非常に大きな命題です。
重点的な施策を四つ考えています。当社のビジネスのうち7~8割はディストリビューションモデルですが、もう成熟しているとみている。そこで、一番目としてパートナープログラムを強化し、今まできちんとできていなかったリセラーのサポートを開始し、SMB向けのビジネスを強化します。
二つ目は、日立製作所、富士通、NECなど日本を代表するコンピュータメーカーの製品に当社製品をOEM供給し、各社のハードウェアに組み込み、アプライアンスとして販売してもらうモデルです。その一例として、富士通のIAサーバー「PRIMERGY」とストレージシステム「ETERNUS」に、当社のスケールアウト型NAS制御ソフトウェア「FileStore」を搭載したアプライアンスの提供を開始したケースがあります。
三つ目として、売上高1000億円以上の大企業を「Big Enterprise」と呼んでいますが、このレイヤーに対する営業を強化します。実は前々からハイタッチの部隊は存在していましたが、方針がころころ変わって、うまくアプローチできていませんでした。昨年12月に就任した新しいエンタープライズ営業の責任者を中心に、金融、製造、通信、公共、流通・サービスの産業別に、かなり強力な営業組織を構築しました。プロダクトアウト型の営業を続けていたのではまず大きな商談は出てこない。もっと大きな視点でとらえて、例えばユーザー企業のストレージ管理戦略の立案段階から一緒にかかわっていくことが重要です。セキュリティをとってみても、新しい脅威がどんどん増えていますから、一度対策を行えばそれでいいというわけではありません。だから、セキュリティソリューションを扱っていれば、生涯のパートナーになれるわけです。
四つ目は、クラウドサービスプロバイダ(CSP)に対して製品をアプローチしていきます。日本のITベンダーはほとんどがクラウドサービスを手がけておられますし、ぜひ当社の製品を積極的にご採用いただきたいですね。今年6月には、通信事業者やCSP向けの専門営業組織を発足させて、今ユーザー企業を回っているところで、四つの施策についてもそれぞれ、確実に効果が出そうです。
──四つの施策について効果がみえてきているとのことですが、ざっくりとした目標をお聞かせください。また今後シマンテックはパートナーや顧客にとってどんな存在でありたいですか。
河村 業績の数字は、早い段階で今の倍にはしたいと考えています。そのためにはユーザー企業にとっては“トラステッドパートナー”として、一生つき合っていけるような関係になりたい。パートナーに対しては、当社の製品を嬉々として売っていただけるような関係づくりをビジョンとしています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「これまでは左脳を鍛えることによる、論理的な発想、考え方が一般的に重要視されてきたが、これからは右脳を大事にして芸術性や人の感情に訴えるとか、人の心の機微にふれるような感動が重要になる。だから、右脳を鍛えないといけない」と、河村社長。
氏が「MyBookShelf」に挙げた「DRiVE」には、衣食住に対する欲望や金銭的なアメとムチではなく、これからは本人の自立心や上達したい、達成したいといった向上心、目的意識が非常に大きな要素となる、と書かれている。
「何を達成すべきかは僕が決めないといけないけれど、それをどうやってやるか、何を使ってやるかというのは社員みんなで考えましょう、ということでやっています。自分で考えて実行したほうが楽しいじゃないですか」。河村体制のもと新しいシマンテックの挑戦が始まっている。(環)
プロフィール
河村 浩明
(かわむら ひろあき)東京大学工学部物理工学科卒業後、79年、日製産業(現日立ハイテクノロジーズ)入社。96年10月にEMCジャパン入社。執行役員営業統括本部長、執行役員フィールド営業統括本部長を歴任。07年12月、日本オラクル常務執行役員ジャパンライセンス事業システムテクノロジー営業統括などを経て、09年4月にサン・マイクロシステムズ代表取締役社長に就任。10年5月、シマンテック代表取締役社長に就任、現在に至る。
会社紹介
シマンテックは、1982年に米国で創業。セキュリティ、ストレージ関連ソリューションの大手ベンダー。セキュリティソフトで世界ナンバー1のシェアを誇る。昨年度(2010年3月期)の売上高は非GAAPベースで60億1000万ドル、営業利益率は28.6%。近年はM&A戦略を加速し、2010年には暗号化製品メーカーPGPとGuardianEdge、べリサインのセキュリティ事業の買収を発表した。日本法人は1994年設立。