NECで副社長を務めた藤江一正氏が7月1日、独立行政法人である情報処理推進機構(IPA)の理事長に就任した。「事業仕分け」で独立行政法人の存在意義が問われるなか、藤江理事長は「IPAの事業はどれも重要」と断言。「推進している中期計画を完遂することが自らの仕事」と言い切った。突然の就任ながら、藤江理事長に迷いや戸惑いはない。
2週間前に打診、急遽就任
──NECの特別顧問から一転して独立行政法人の理事長に就任されました。まずはその経緯を聞かせてください。
藤江 経済産業省から依頼され、その後、前任の理事長だった西垣(浩司)さんから「よろしく頼む」とお願いされました。
西垣さんがNECの社長の時代、私は専務として経営に携わらせていただいた。NECの大先輩から要請されたお話ですし、任期を全うできないことを西垣さんは無念に思っておられると感じましたから、引き受けようと決めました。NEC出身の理事長の後任は、やはりNEC出身者であるべき、という気持ちもありましたしね。
──どのタイミングで打診されたのでしょうか?
藤江 実は話をもらったのは6月15日。理事長に就任した日のわずか2週間ほど前でした。NECの特別顧問の立場を満喫していましたし(笑)、まさかこんな話が来るなんて思いもよらなかったので、本当にびっくりしましたよ。あまりに急な話だったので、西垣さんとはお会いできず、今回の話も電話でのやり取りでした。しっかりと引き継ぎができなかったので、今は勉強しながら進めている状況です。
──今の段階で藤江さんの方針を聞くのはまだ早かった、ですか?
藤江 いや、短期間でも理解はだいぶ深まりましたよ。というのも、情報処理推進機構(IPA)は職員数が200人弱で、現場を感じられる規模。NECでは、ビックプロジェクト以外は現場の会議に参加することはどうしても難しかったですが、今は定例会議などにも私が積極的に参加できています。日々頑張っている職員の声を聞くチャンスが多いのです。ですから、把握するのにかかる時間も短縮でき、ある程度IPAを知ることはできていると思います。そうじゃなきゃ、就任直後のこのタイミングで、取材なんて受けられませんよ(笑)。
──では、藤江理事長は、IPAをどう分析しましたか。
藤江 IPAの印象は、手前味噌になりますが、専門知識をもつ優秀なスペシャリストが揃っている集団だと感じました。加えて、少し意外だったのが、組織の壁がないこと。部門間の風通しが非常によい。別の部門の人の話にも耳を傾け、活発に意見を交わしています。 専門性の高い技術者集団というのは、結構セクショナリズムといいますか、部門間の壁が厚いケースが多いので、理事長に就任する前は、多少そのような部分があるのかなと思っていましたが、まったくそんなことはありませんでした。
──一方で、課題は何と感じましたか?
藤江 IPAが手がけている事業を、国民やIT業界人にもっと分かりやすく伝えなければならない。その施策が少し弱く、伝え方に工夫が必要かな、と思っています。
──IPAのやっていることが理解されていない部分がある、と。
藤江 改めて申し上げると、IPAには三つのミッションがあります。「ITの安全性・信頼性の確保」「国際競争力の強化」「高度IT人材の育成」がそれです。そのうえで、重点事業を「情報セキュリティ対策」「ソフトウェアエンジニアリング」「IT人材の発掘・育成」「オープンソースソフトウェア(OSS)の利用促進」を四本柱として定めています。
ウイルスや不正プログラムの動向、あるいはIT基盤を守るための暗号技術を日々調査・研究し、国家のIT基盤を守っているのはIPAです。「情報処理技術者試験」の運営や「ITスキル標準(ITSS)」で、IT人材のスキルの底上げを進めているのもわれわれ。一方で、ソフト開発力強化に向けた各種標準や指針を定め、日本のソフト開発会社のスキルアップにも貢献しています。
IPAがアウトプットしたり推進したりする制度は、かなり効果的なものであるという自信があります。世界に通用するIT人材を育てて国際競争力を高め、信頼性の高いIT基盤を築くためには、どれも非常に重要な仕事です。ただ、いずれも専門性が高いだけに、一般の方に理解してもらうのがむずかしい……。そこをしっかりと分かりやすく、国民の利益になっていることを伝えなければならないと思っています。もっと国民目線で情報を発信する力が必要ということです。
IPAは高度なスペシャリスト集団。手がける事業はどれも重要。
国を支える重要組織と自負している。ただ、IPAを知ってもらう努力は必要。
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