日本から世界へサービスを
──そもそも、石狩DCを埋められるだけのネットサービスが、この日本にあるのでしょうか。
田中 残念ながら国内ネットサービス事業者は、世界規模でみたらまだ小さいかもしれません。ただ、たとえ一つひとつのサービスは大きくなくても、集まればそこそこの規模になります。だからこそ、当社がコスト競争力のある石狩DCを立ち上げ、ここに日本のネットサービスを集約。規模のメリットでユーザーであるネットサービス企業、当社ともに収益力を高める考えです。実際、これまで当社のDCを利用してサービスを拡大し、株式上場したネットサービス会社も何社かあります。当社のDCが揺りカゴの役割を果たし、大きく育った例です。
──グローバル展開についてはどうですか。GoogleやAmazonはグローバル展開したからこそ、今の強さがあるわけですね。
田中 その通りだと思います。まず第一に、料金が安ければ海外ユーザーも集まってきてくれます。オンラインでいつでも利用できますからね。石狩DCは、既存DCの設計や運営方法を抜本的に見直すことで、コストを従来比で半減させますので、世界的にみても割安になる。
もう一つプラス要素があります。実は、日米のネットワーク回線は、米国から日本へのデータ転送量が慢性的に多い状態が続いているんですね。YouTubeを例にあげるまでもなく、米国のネットサービスが充実しているからなのですが、逆に日本から米国への帯域は比較的空いている。つまり、例えば米国のネットベンチャーが石狩DCを活用すれば、帯域に余裕がある日本→米国の回線の恩恵を受けられる。日米のデータ転送量が均衡すればするほど効率がよくなるデジタル光回線の特性を考えると、米国ユーザーの取り込みも期待できます。
──空調を使わないDCは、ヤフーグループのファーストサーバ元社長で、現日本ラッド執行役員の岡田良介氏が業界に先駆けて今年10月、商用サービスを始めます。
田中 岡田さんは、扇風機のみでサーバーの温度を下げるDCを、本当につくってしまいました。ライバル会社ではありますが、同じ業界ですからよく知っています。実は先日、その空調レスDCを少し見学させてもらいました。日本のITベンダーの技術力は高いですから、世界のDCをリードする取り組みを“できない”のではなく“やらない”だけだというのが、改めてよく分かりましたよ。
──中期的な経営計画はどうですか。
田中 2010年3月期の売上高が78億円でしたので、12年3月期には年商100億円をイメージしています。石狩DCの竣工が11年秋。より大きく成長するには、石狩DCを活用したパブリッククラウドの成功が必要です。DCのスペースやラックという“箱”を売るのではなく、ITリソースという“サービス”を売る時代が本格的に到来しています。業界有志が先進的な取り組みを始めているなか、当社もリーディングカンパニーの1社として、既存DCの概念を打ち破る新しいサービスを次々と始めることで、ビジネスを伸ばしていく方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
データセンター(DC)とネットサービスは、ニワトリとタマゴの関係に似る。安くて使い勝手のいいDCがあれば、非常に安いコストでネットサービスを展開することができ、爆発的な成長機会を得られる。ところが、これまでの日本のITベンダーは、金融機関の基幹システムで使うような付加価値の高いDCに偏重する傾向があった。新興のネットサービス会社は、規模の小さいDCを手弁当でつくるケースが散見された。
田中邦裕社長には、「これでは、世界のネットサービスに勝てない」という持論がある。従来比でコストを半減させた石狩DC建設を決めたのも、「誰もやらないのなら、うちがやる」との強い意志を具現化したものだ。
「米国の先進的DCに勝つというより、これだけやってやっとスタートラインに立てる」と、常に最先端の技術を採り入れることで、世界での競争に勝つ準備を着々と進める。(寶)
プロフィール
田中 邦裕
(たなか くにひろ)1978年、大阪府生まれ。98年、国立舞鶴工業高等専門学校卒業。舞鶴高専在学中にさくらインターネットを創業。当時、国内ではまだ珍しかった共有ホスティングサービスをスタート。卒業後に事業継承会社の設立などを経て、99年、さくらインターネットを設立。現在に至る。
会社紹介
さくらインターネットの昨年度(2010年3月期)の売上高は、前年度比9.9%増の78億円、経常利益は同107%増の7億2300万円。リーマン・ショック以降、IT市場が冷え込むなかでも増収増益を達成した。自前でIT機器を運用するよりも、DCにアウトソーシングしたほうが効率がいいと判断するユーザーが増えたことが背景にある。今期(11年3月期)売上高は11.4%増の87億円、経常利益は同21.6%増の8億8000万円の見込み。