SIerとの協業も視野に
──ウェブサイト構築・運用に加えて提供する付加価値を教えてください。
廣田 企業は、これまでテレビや新聞・雑誌などに代表されるマスメディアに多額のマーケティング費用を投じていました。けれども、不況の影響でマスメディアに向ける予算を大幅に削りました。その一方で、自社サイトの増強やウェブ広告、ソーシャルメディアに対する投資額は落ちていない。むしろ伸びていると感じています。マスメディアへの予算がゼロになることはないにしても、企業がマーケティング予算をマスメディアからデジタル(ウェブ)にシフトする流れはしばらく続くでしょう。当社には追い風です。
では、当社はこの環境でいかにして顧客を掴むか。先ほどお話したように、企業のウェブマーケティング担当者はかなり勉強しています。われわれもかなりのスピードでスキルを身につけなければ、先生と生徒の関係になれないほどです。とくに、ウェブマーケティングに投じた費用が、どれだけ商売に結び付いたか、つまりROIをとても気にしていて、ここがわれわれに求められている一つの大きなポイントです。
ウェブに対するマーケティング施策を分析し、そのうえでROIを最適化するプランを提案する。構築から運用、投資対効果の分析、そしてROIの最適化計画の立案・遂行といったPDCAサイクルを、スピーディに回す力が競争力の源泉になります。つくるだけのビジネスは、供給が需要を上回っていて価格競争に陥っていますが、コンサルティングサービスは、その需給のバランスが逆転している状況です。だから、顧客単価の高いビジネスができる。IMJにはこうしたサービスを提供できるコンサルタントが相当数いますが、今後もこの分野には人材投資を惜しまないつもりです。
──企業のなかでウェブサイトを運営する部門と、基幹システムを運営する部門は分かれているのが一般的ですよね。ただ、今後は連携または統合する必要性があるように思います。そうした時、IMJとして企業の業務システムの構築・運用にまで手をのばすことは中期的に考えられないのでしょうか?
廣田 私見ですが、情報システム部門とウェブマーケティング部門が連携する必然性は十分にあるはずです。2000年に入ってから現在まで、企業はCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)の時代だと思うんです。基幹系の業務システムなどを構築・運用する情報システム部門に多額の予算を集中させて、自社の業務効率化やコストダウンを進めている。それによって、競争力を高めようとしているわけです。ただ、今後はCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の時代に入るはずです。マーケティングの観点から情報システムのあり方を考え、構築・運用する動きが出てくると私はみています。
──では、情報システムのシステムインテグレーションを手がける可能性もあるというわけですか?
廣田 いや、それはない。情報系、基幹系を問わず、企業の情報システム運用はSIerのビジネス領域で、われわれがそこを手がけるつもりはありません。餅は餅屋ですからね。ただ、SIerと協業する可能性は十分にあると思います。ウェブマーケティングに関連するシステム構築・運用はIMJが、バックオフィス系のシステム開発はSIerが手がけるといったコラボレーションは今後出てくるかもしれませんね。
──中期的な事業計画としてもう一つ聞かせてください。海外市場への進出は?
廣田 ユーザーからの相談は増えていますよ。例えば、「中国に進出しようと思っていて、向こうでEC(電子商取引)をやりたいんだけど、手伝ってくれないか」とか。中国に関する相談が結構多いんですが、中国でECをやるのっていろいろな制約があって結構難しいんですよね。加えて、貨幣価値が違いますから、日本の人材を活用して中国のビジネスを手がけるのも困難。悩みどころです。ただ、東アジアと東南アジアのネット環境が急速によくなることは間違いありませんので、当社がネットサービスのプロバイダとなって、各地のユーザー向けに何らかのネットサービスを提供することを検討している段階です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
廣田社長は物腰がとても柔らかく、気さくな雰囲気をもつ人物だ。大幅な組織再編とグループ会社の整理を断行したとはとても思えないと、記者はインタビューして最初に感じた。
学生時代から経営者を目指し、その素地が形成できると考えてリクルートに入社。毎日が激務で「目の前の仕事に追われて、夢を見る暇さえなかった」と笑いながら振り返るが、前社長に誘われてIMJグループに移籍を決めた。39歳で初めて社長を経験。IMJ子会社のトップに就き、それ以降、経営者の道を歩み続けている。
前社長からバトンを渡された時の経営環境は、決して良好とはいえなかった。世界同時不況の最中で、ユーザーのニーズも高度化。そんな急激な変化のなかで、廣田社長は大きく舵を切った。
「ユーザーは賢くなっている」。柔らかい雰囲気とは裏腹に、後半にそう何度か語った表情は、危機感を募らせる経営者の顔だった。(鈎)
プロフィール
廣田 武仁
(ひろた たけひと)1964年10月16日生まれ。1987年4月、リクルート入社。01年、管理本部長。03年、ウェブ制作などのユナイティアの代表取締役社長に就任。04年、アイ・エム・ジェイ(IMJ)取締役。05年、IMJモバイル代表取締役。05年、エム・フィールド取締役(現任)。09年4月、アイ・エム・ジェイ(IMJ)代表取締役社長に就任。09年6月、TCエンタテインメント取締役(現任)。
会社紹介
1996年7月にデジタルハリウッドから独立して設立された。大規模なウェブサイト構築が得意で、楽天の「楽天市場」やソニーのECサイト「Sony Style」を手がけた実績がある。資本金は43億1046万円(2010年6月時点)で連結従業員数は約820人。昨年度(2010年3月期)の連結業績は売上高が156億1500万円、経常利益が1億3400万円。