総合商社兼松グループのITシステム販売会社で、ストレージやサーバーなど通信機器のインテグレーションを得意とする兼松エレクトロニクスは、2011年3月期以降の中期経営計画で、経営利益率10%の大台到達を目指している。クラウドコンピューティングを使った「事業のサービス化」「仮想化」「中国」──の三つを事業拡大の軸に掲げた取り組みを本格化している。榎本秀貴社長に、事業戦略を聞いた。
公共向け事業を拡大
──兼松エレクトロニクスの2010年度の上半期(10年4~9月期)は、前年同期に比べて売上高が2.0%、営業利益が20.2%も伸びています。IT市場環境が相変わらず厳しいなかで、増収増益とは驚きです。
榎本 10年度は、IT業界にとって全体的にはあまりいい年ではなかった。とくに、6月までは期待していたよりも厳しい状況が続きました。しかし、7月、8月あたりから、徐々に案件が増え始め、その案件の受注が当社の上半期の業績に大きく貢献したといえます。
とはいえ、9月、10月からはまた市況が逆転。当社の勢いも萎んでしまいました。IT市場の不安定な状況が今後も続いていきそうですね。
──7月、8月あたりの受注というのは、文教市場をはじめとした公共分野の案件とうかがっています。
榎本 そうです。公共分野で数件の大型受注をいただきました。10年度は、電機/半導体市場での売り上げが減り、当社のなかで売り上げ比率が最も高い製造業向け事業が1億円程度減少しました。その反面、公共向け事業で手応えを感じたのが10年度です。公共分野の売り上げは現時点ではまだ製造業分野の5分の1と少ないのですが、今後は、公共分野により力を入れて、この領域の売上比率を引き上げていきたい。
具体的な取り組みとしては、10年12月に法政大学と連携して、OSS(オープンソースソフトウェア)「Sakai」を活用し、大学市場で中核となる重要基盤の授業支援システム(CMS)日本語版の共同開発を開始しました。CMSは、大学向けに最適化した開発が必要なので、法政大学だけでなく、システムを共同開発して他の大学へ“横展開”することを検討しています。CMSをクラウドサービスで提供することも考えているところです。
──向こう3年の中期経営計画では、13年3月期までに、経営利益を10年3月期の37.3億円から46億円以上に拡大することを狙っておられます。実現に向けた施策については?
榎本 IT業界全体の時流と変わりませんが、当社は3年ほど前から「サービス指向」へシフトしています。今回の成長目標に関しても、サービス事業の強化が一つの柱になります。
──つまり、クラウドコンピューティングの取り組みを軸に展開していくということですね。
榎本 その通り。クラウド事業の第一弾として、10年8月に、既存顧客の大手企業を中心に提供するSaaS型IT資産統合管理サービスを始めました。開始してからおよそ半年ですが、引き合いが多くあって、これまで1万ライセンス弱を受注しています。売上高の面では、まだ数字は低い状況にありますが…。
今後クラウドサービスを展開するにあたって、サービスを特定業界に特化していく必要があると考えています。当社は、大手企業ではできないサービスをつくり、既存のお客様と、例えば文教市場のように、新規のお客様の両方に関して、ニッチなところを狙っていくことがカギを握ると思っています。この領域などにおいて、クラウドサービスのメニューを増やしていくと同時に、数多くのサービスを分かりやすく整理して、ユーザーが簡単に利用できるポータルのようなモノをイメージした製品を提供していきます。
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