ブレークスルーで“果実”を手に
――商品ラインアップを一気に増やすわけですね。それらを売るためには、人材の育成が欠かせないと思いますが……。
西田 「JSCAST」は中国で有力な販売パートナーをすでに獲得していますので、あとはこの延長線上でいける感じですが、「AToMsQube」と「TastyQube」は、まずは日本の本社からトップセラーやトップエンジニアを中国に送り込んで、より詳細なマーケティングや製品・サービスの売り方を確立し、さらに必要に応じて手直しをしている段階です。現地での人材採用にも取り組んでいますが、現時点では上海にある現地法人のスタッフのうち、半数近くを日本からの出向者で占めている状態。これだと、コスト高で現地法人の赤字化は免れないですけれどね。
――つまり、「JSCAST」の販売好調や日系企業向けITサポートで単年度黒字まで達成したにもかかわらず、今期は思い切って先行投資をされた、と。
西田 そうです。製品知識や売るためのノウハウは、突き詰めれば人の頭の中にあるわけで、新しい商材を軌道に乗せるためには、まずは当社の財産である人を送り込み、現地法人の社員にスキルを移植していく必要があります。人が育ってくれば、中国なら中国の顧客ニーズやビジネススタイルを追求していくことが優先されますので、日本からの出向者は早々に引き上げる。来年度(2013年3月期)には再び単年度黒字化に戻し、早期の累積損一掃を目指す考えです。
中国経済は急成長しているので、現地の製造業やサービス業の顧客企業は、勝ち残るための方策を、それこそ必死に考えておられます。人件費も高騰し、エンドユーザーのニーズも多様化している。これまでの人手に頼った生産手法や、通りいっぺんのサービスでは、コスト面や差異化面で対応できない。まさに日本のユーザー企業と同じ課題を抱えており、製造やサービス、流通の業界に強い当社の商材を受け入れていただける余地は、ますます大きくなってきています。こうした状況が、私が冒頭に申し上げた海外売上高比率25%、いや、10%の根拠になっているというところでしょうか。
――海外ビジネスを成功させるには、さらにもう一段上のステップに上がる必要があると思うのですが、どうでしょう。
西田 あなたの言いたいことは分かります。従来の延長線上ではなく、何か一つブレークスルーしなければダメでしょう。例えば、「TastyQube」を中国の外食産業のデファクトスタンダード的なシステムにするくらいのインパクトがないとね。
すでに、いくつか考えていることはあります。まずは「AToMsQube」「TastyQube」ともに、完全クラウド対応の業務アプリケーションであり、実際、中国ではSaaS型での提供を実践しています。ITHDグループのTISは、天津に大型データセンターを開設しており、早い段階でここをITHDグループの一大SaaS拠点にする構想が進んでいます。グループ全体では50種類を超えるSaaS対応型業務アプリケーションを擁しており、顧客企業には必要なSaaSアプリを好きなだけ選んでいただけるようにする“SaaSのデパート”となる拠点を中国やASEANを含むアジア全域で展開していくという構想です。このようにITHDグループの総力を結集すれば、ブレークスルーが現実となる日がぐっと近づくと思います。
・こだわりの鞄 お気に入りの鞄は、カジュアル風の「FOSSIL(フォッシル)」。茨城県の自宅近くのアウトレット店で購入したとのこと。アウトドア派の西田社長は、普段から「カジュアルっぽい装いが好み」といい、シャツもボタンダウンカラーを愛用することが多いという。軽快な服装でアクティブに仕事をこなしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「うちのボスは、常に高い目標を定めて社員にブレークスルーを求めるから」。西田光志社長の側近の一人は、こう話した。
ITホールディングス(ITHD)グループは、今、一丸となってグローバルビジネスを加速している。クオリカはその先頭を走る1社だが、海外ビジネスを劇的に拡大させるには、「これまでの延長線上ではない“何か”が求められる」(西田社長)。そこで、ITHDグループで定めた10%の海外売上高比率の目標を大幅に上回る“社内目標”を敢えて掲げる。
製造や流通サービスの業界に強いクオリカが単独で世界のニッチトップを目指すのもいい。しかし、横をみればITHDグループのTISやインテックなどの兄弟会社がクオリカと同様、積極的な海外展開を推進している。「自らの強みを発揮しつつ、クロスセルなどのシナジーを最大限生かす」ことで、より早く、より大きな成果を上げていく方針だ。(寶)
プロフィール
(にしだ みつし)1951年、大阪府生まれ。77年、東北大学理学部物理学科卒業。同年、東洋情報システム(現TIS)入社。95年、医療・データベース第1部長。99年、産業事業統括本部産業第1事業部データベースシステム営業部長。00年、企画本部企画部長兼社長室主幹。01年、取締役企画本部企画部長。04年、取締役金融・カード第1事業部長。05年、取締役カード第2事業部長。08年4月、クオリカ代表取締役社長就任。
会社紹介
クオリカの2011年3月期の売上高は前年度比8.4%減の126億9200万円、営業利益は同81.9%増の6億3500万円の減収増益だった。今期(2012年3月期)は中国事業への先行投資がかさむものの、足下の受注が堅調であることから増収増益を目指す。出資比率はITホールディングスが80%、コマツが20%の構成。製造業や流通サービス業に強みをもつ。